2012年6月3日日曜日

『学歴革命 秋田発国際教養大学の挑戦』

2004年に開学した国際教養大学の中嶋学長の著。
 ○全授業を国際公用語である英語で行う
 ○外国人留学生とともに暮らす1年間の寮生活
 ○全学生の海外留学の義務化
といった非常に斬新な取り組みをかかげ、4年目にして就職率100%を達成した秋田の国際教養大学の理念が書かれた本。

中嶋学長はリベラルアーツ(教養)を身につける過程こそが、「知的経験」のプロセスであり、そのためには教養課程は大学に必須であるとしている。
また、大学入学時に自分の専門を決めてしまわなければならないのは、学生の多様な可能性を閉じ込めてしまう「小部屋化(Compartmentalization)」につながるとして避けるべきであり、自分の将来の専門性をさまざまな知的経験を通して時間をかけて発見する Later Specializationが望ましいとしている。

そんな大学が就職100%を達成したのは、排出する学生が企業のニーズとマッチしたということなのだと思うが、中嶋学長は 企業が求める”即戦力”とは変化に対する「適応力」そして「発信力」であるとしている。
専門的な知識は必要ならば大学院で学ぶべきであり、大学時代はリベラルアーツを、という方針である。

国際教養大学には上述した3つの以外にも特色ある制度がある。
<ギャップイヤー制度>
9月入学において、入試合格から入学までの期間(4月〜8月の5ヶ月間)を有効活用し、様々な社会活動や国際貢献活動に参加し、9月からの学業に活かしてもらう制度。 2011年度からは、合格発表を前年の11月とし、有意義な社会経験を積む期間をその準備期間も含めて約10ヶ月まで延ばした。
<暫定入学制>
入試で1点の差で不合格になった受験生や、特定の教科だけはずば抜けている受験生など、一定レベル以上の受験生に対し、本人が希望すれば特別科目等履修生制度を利用して若干名に暫定的に入学を許可する制度。 合格者との間に履修上の区別は一切なく、平均点をクリアーすれば2年目に初めて入学金を払って編入する。

中嶋学長は、国際教養大学の前に東京外国語大学の学長もやっていたようで、その際には「教授会」という改革を阻む抵抗勢力があって実現しなかったことを、秋田で教授会と学校運営を切り離すことで実現にこぎつけたらしい。
現在の多数の大学が陥っている「知の鎖国」を切り拓く「知の開国」を目指して、自らの大学を「秋田の松下村塾」となぞらえて様々な取り組みを行ってるのは立派である。

スティーブ・ジョブズが「なぜアップル社は成功しているのか」との問いかけに対し 「われわれは常に、テクノロジーとリベラルアーツの交差点であろうとしたからだ。私たちは技術的に最高のものをつくりたい。でもしれは直感的でなければならない。」と答えた(“We have always tried to be at the intersection of technology and liberal arts.We want to make the best tech ,but have them be intuitive.”)ことを引き合いに出し、国際教養大学のカリキュラムも理念として非常に似ているとしている。

日本がこれからのグローバル社会で生き残るためには、一にも二にも教育が必要である点は全く同感。 我々は企業というステージで、人材を育成していくことで一隅を照らしていきたい。