2014年6月29日日曜日

『わたし、解体はじめました』

お世話になっているE社の齋藤社長から薦められた本の1冊目。
3/11の時に、「絶対に生き抜いてやる」と目覚めて解体の道の転がり込んだ著者(当時25歳の一般女性)の解体から狩猟をやるまでの道のりを綴った本。

「命をいただく」ということがどういうことなのかを改めて認識させられる。

鶏を絞めて食べるということ。それだけを見ると残酷なように映るかもしれないが、「命を奪って食べる」よりも「さっきの鶏が自分の一部になった」という感覚なのだそうだ。
この辺の感覚は、週刊少年ジャンプで人気の漫画「トリコ」で描かれている世界と共通のものがあるかもしれない。
トリコの世界でもレベルの高い食材は自らを高める(グルメ細胞を活性化する)という設定となっている。

そして著者は、もっと自分が「一動物である」ということを感じたいということで、狩猟の世界に足を踏み入れる。
狩猟免許を取得して「猟師」となる。

猟においては、「止めさし」という行為が必要となる。これは獲物にとどめを刺すこと。
手負いの獣にとどめを刺すのは実は非常に危険を伴う行為である。
罠をしかけてイノシシを獲る場合には、頭を狙って打ち、脳しんとうを起こさせてから心臓を刺す、もしくは首の頸動脈のあたりを切ることで失血させるやり方をとる。
この際に、遠慮や迷いがあると、却って獣を苦しませることになるという。

猟師になるのと同時に著者が目標としたのが、「食べる」の最初から最後までを実践するというもの。
生き物を飼って、自分で育ててから食べるということ。
著者は烏骨鶏のひなを2匹育てることにする。
愛着が湧いてしまうから名前はつけない方がいいと言われていたが、著者は2匹に名前を付けて育てる。
1匹は途中で猫にさらわれるというアクシデントがあったものの、もう1匹は無事(?)解体と相成るのだが、この過程の心理描写がすごい。
正直、個人的には共感できるレンジを上回っていて、同じことが「人」に対してでもできてしまうのではないか?などと考えてしまったが、これは体験した人にしか分からないのかも知れない。

著者は解体ワークショップを多数行っていて、参加者にヒアリングをすると、「生き物」がどのタイミングで「食べ物」と思えるのかは、人それぞれらしい。
いままでのところ、解体の様子にショックを受けて、お肉を食べられなくなってしまった人はいないとのこと。

解体のプロセスでどのタイミングで「生き物」が「食べ物」に変わるのかが人それぞれだとすると、逆に生まれてくる時にどのタイミングで「生き物」(すなわち自分の子供)になるのかも人それぞれなのかと以下の新出生前診断の記事を読んで思った。


以下 140627の日経新聞の記事引用
妊婦の血液からダウン症など胎児の染色体異常を調べる新出生前診断について、診断した病院グループは27日、昨年4月の開始からの1年間に7740人が利用し、「陽性」と判定された142人の妊婦のうち、羊水検査などで異常が確定したのは113人だったと発表した。このうち97%にあたる110人が人工妊娠中絶をしていた。
 確定診断前の中絶が2人、陽性判定を知る前に中絶した人が1人いたことも明らかになった。
 病院グループは、日本医学会の認定を受けて実施している国内37医療機関の実績を集計した。7740人が診断を受けたのは昨年4月から今年3月。受診者の平均年齢は38.3歳で、妊娠週数は13.3週だった。出産時に35歳以上が目安となる「高齢妊娠」を理由に診断を受けた人が9割以上を占めた。
 受診者の1.8%に当たる142人が陽性と判定され、このうち126人が羊水検査などの確定診断を受けた。診断結果が「異常あり」だったのは113人。内訳はダウン症が70人、心臓疾患などを伴う異常は43人だった。
 113人中、人工妊娠中絶した人は110人を占めた。このうちダウン症の異常が確定した人が69人で、その他が41人。異常が確定した後も妊娠を継続している人もいる。
 一方、新出生前診断で「陽性」と判定され、その後の確定診断を受けないまま中絶した妊婦が2人いたほか、1人は陽性との判定結果を知る前に中絶していた。受診前に遺伝カウンセリングを受けたが、診断自体を取りやめた人も複数いたという。


いずれにせよ、「命」とは、「我々が生きるとはどういうことなのか」という哲学的な問題を自然に考えてしまう良書であった。