2013年12月31日火曜日

『ユーザーイノベーション』

「イノベーションの民主化」、すなわち、製品やサービスのつくり手であるメーカーでなく、使い手であるユーザー(製品やサービスを使うことで便益を得るプレーヤー)のイノベーションを起こす能力と環境が向上している状態のこと、がテーマ。

バリバリプロダクトアウト型企業である我が社がどう変革していくべきなのかを考える上で参考になるかと思い購入した本。

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これまで多くの研究者、実務家や政策立案者が前提にしてきたイノベーションの発生・普及ルートは、イノベーションは大学やメーカー企業の研究室で生まれ、最終的に市場導入された後、一般消費者に普及するというものだった。
しかし、イノベーションは消費者が製品を使用する場所で生まれることがある。
消費者が行ったイノベーションは、時に他の消費者に伝わる。イノベーションを利用したいと思う他の消費者が、製品を無料または実費でイノベーターから譲り受けたり、消費者自身がイノベーションを複製したりし、そこから消費者イノベーションの普及が始まる。
このように従来の社会的通念だった「大学・企業のイノベーション→消費者への普及」というルートと異なる「消費者によるイノベーション→他の消費者への普及→メーカーの参入」という普及ルートが少なからずある事が分かってきた。
これは、イノベーションを促進する方法が増えることを意味している。
企業や大学のイノベーション活動を支援するだけでなく、消費者の革新活動を支援すること(あるいは阻害しないこと)でこれまで以上にイノベーションが実現され、国民の生活がより豊かになる(社会的厚生が増加する)可能性がうまれる。
そうした機会を活かすためには、これまで考察の対象とされてこなかった消費者個人、消費者間、そして消費者・企業間で起こる知識層像と普及に注目する必要がある。
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消費者をどうとらえるか。
これまで、消費者はメーカーが開発した製品を選択、購入し、消費する受け身的存在として考えられてきた。
これはイノベーション研究の父ともいえるジョセフ・シュンペーターでさえそうだと著者は言う。
それに対して、「イノベーションの民主化」における消費者はイノベーションを行う能動的な存在であり、ユーザーイノベーションを起点とするイノベーションの普及ルートの枠組みは新しいイノベーション・パラダイムであると著者は言っている。


「画期的製品を生み出す消費者の声に出会うことはほとんどない」と話す開発担当者が多い一方で、いくつかの消費財分野で消費者がイノベーションを起こしている。
これに対して著者は、消費財メーカーが消費者イノベーターの存在に気づいていないからであるという仮説を立てている。
実証してみると、消費者イノベーターの率は多くて1%。100人に1人程度しか消費者イノベーターは存在しない。そんなごく少数の消費者の存在はメーカーからはニッチ的、あるいは例外としてみられてしまう可能性が高いというわけだ。

企業は消費者イノベーターを見つけたとしても安心はできない。
過去3年間のうちに製品創造か製品改良を行った消費者イノベーターを見つけたとしても、50%以上の消費者イノベーターは「一発屋」で終わることが調査結果からでている。
100人に数人程度存在する多産型の消費者イノベーターを見つけ出したとしても、同じ製品分野で製品イノベーションを行うとは限らないのだ。
そこで企業とすると何らかの「コミュニティ」の活用が大切となる。個々人では「一発屋」でしかなり得ない消費者イノベーターが、絶えずとっかえひっかえでてくるコミュニティを目指すということだ。

以前読んだ「Yコンビネーター」でも同様の発想で、常に一発屋であるところの「スタートアップ」(ベンチャー起業)が絶えず発生する組織を目指していたが、それは専門でやっても非常に困難な(でも楽しい)チャレンジのように見えた。
消費者イノベーターを企業側が(単に)支援するコミュニティの中で絶えず発生させるようにするのは現実には非常に困難であり、何らかの「仕掛け」が必要となるだろう。
(逆に、その「仕掛け」を見つけることができれば、他社との強烈な差別化になりうる)


著者は、製品化の仕組みとして、今まで通りの企業主導のやり方、リードユーザー法(LUM)、クラウドソーシング(CS)の3つの方式を比較して、クラウドソーシング(不特定多数の消費者に対し、欲しいと望む製品案やそれに対する評価をインターネットを通じて募集し、消費者からの反応をもとに製品化を検討する仕組み)が優れているとしている。

CS(クラウドソーシング)はLUM(リードユーザメソッド)と比較して、消費者に対する開放度と透明度の点で異なっている。
CSでは不特定多数の消費者がどの段階からも参加でき、その過程も閲覧可能になっているのに対して、LUMではユーザーの発見・選別・製品案の創出、最終開発案の決定を社外の人には見えない形で行う。
そのため、LUMではユーザー同士の助け合いも行われないし、開発過程が消費者に開示されていないため、そこで生まれる製品案に対する他ユーザーの評価、注目度を知ることができない。つまり、当該製品案に対する需要の大きさを事前に知ることができない。

CSでは、リーンスタートアップにおけるプロトタイプを用いたスモールスタートと同様のことが期せずして(といよりその構造上必然的に)できるということ。まずはプロトタイプを作って世に出し、それがどのような点でどう評価を受けるのか、それを受けて改良を繰り返す(もしくはピボットする)ことが意図せずできてしまうのがCS。
では何故多数の企業がCSを実践しない(できない)のか?
その辺りが今後の研究課題なのだろう。


特定少数の専門家 vs 不特定多数の素人、すなわち「社内専門家の精鋭部隊」と「社外の素人消費者集団」ではどちらが結果を出すのか。
やり方次第ということだと思うが、現状ではまだまだ「社内専門家の精鋭部隊」に頼る企業が多いということだ。
今後、「イノベーションの民主化」に向けて企業型で仕組みの精度を上げることができれば、社外の素人消費者集団の知見を活用する時代がくるのかもしれない。

現在でも「不特定多数の群衆の知恵(wisdom of crowds)は市場の評価をより正確に予測する」というのが現実として当たっている事例が多数ある。
自民党小泉政権の大勝は、政治評論家の意見よりもむしろネットの風評を見ていた方がより正確だったと言われているし、オバマ政権のネット活用は皆の知るところだ。

「集団的顧客予約」(Collective Customer Communication:CCC) という顧客が集団的に事前予約をする仕組みがある。
不特定多数の消費者と透明度の高い関係を構築することで、製造業者は新製品の開発につながるアイディアを得るだけでなく、時にはそのまま製造できるほどの完璧なデザインを得ることさえあるらしい。
CCCが有効となるのは、次の2つの状況下。
①顧客経験がほとんど存在しないため、市場調査を行っても曖昧な結果しか得られないと見込まれる極めて革新的な製品の開発。
②比較的規模の小さい極めて不均質な市場セグメントで販売する製品の開発。

このCCCの事例のように、CSもあらゆるジャンルの製品開発全てに万能ということではなく、まだ特定のジャンルにおいてその強みを発揮するものであるような気がする。


プロダクトアウト型の我が社でも、実はCSのような取り組みをトライアルで開始している。
それがどこまで伸びていくのか。伸ばすには何が必要なのか。
この本を読んで、まだまだ仮説を色々実証していかなければならない段階のように思えた。








2013年12月23日月曜日

『勝負は、お客様が買う前に決める!』

ソーシャルメディアにおける『事前期待のマネジメント』というテーマで面白い本だと、FBで勧められていたので購入して読んでみた。

昨今はモノがあふれており、モノのコモディティ化が進んでいる。サービスにおいても同様の傾向にある。
モノやサービス自体で差別化が図れなくなった企業は、モノやサービスを購入した後のアフターサービスで差別化を図ろうと、様々な次のサービスを考案する。
しかし、差別化のステージはさらに次のステップに進みつつある。
お客様の購買プロセスは、大きく分けると購入前、購入時、購入後の3つのフェーズで考えることができる。
更に進んだ企業は、購入前の潜在顧客へのアプローチを開始している。

購入前段階での差別化として重要なのが「事前期待のマネジメント」だと著者は言う。

事前期待は「事前期待の内容」「事前期待の持ち方」「事前期待の持ち主」の3つの要素に分解できる。

【事前期待の内容】
サービスメニュー、サービス価格、サービス品質
【事前期待の持ち主】
ユーザーの属性、ユーザーのサービスへの関わり方
【事前期待の持ち方】
「事前期待の持ち方」はさらに以下の4つの種類に分類できる。
①共通的な事前期待:そのサービスを利用しようと考える誰もが必要としている内容
②個別的な事前期待:お客様それぞれの固有のニーズ。お客様個人の好みをデータベース化することで応えることが可能。
③状況で変化する事前期待:お客様との会話やメールのやり取りから判明する場合が多い。少ない会話の中から的確にお客様の期待を読み取らなければならない。
④潜在的な事前期待:お客様本人が気づかない場合も多く、お客様のペルソナを具体的にイメージし、お客様の立場に立って考えることでお客様にとってふさわしいサービスを考えることができる。


ソーシャルメディアを活用することによって、より一層事前期待のマネジメント(顧客の事前期待を読むこと)がしやすくなる。
ソーシャルメディアの特徴を挙げてみよう。
◯ほとんどのソーシャルメディアにはプロフィール項目があり、この情報を事前に見ることでお客様の経歴や趣味、嗜好が手に取れるように分かる。
◯従来のメディア(実際の会話やメールのやり取り)とソーシャルメディア上でのやり取りで大きく違う点は、コミュニケーションのやり取りが会話している当事者だけでなく、周りの人々(潜在顧客)にもみえるということ。
◯ソーシャルメディアでの会話には、「友人の共感」が付与されている。
◯ソーシャルメディアは、拡散性に優れているが、情報の滞留性という面では、既存のウェブサイトやブログ、紙媒体に軍配が上がる。
◯コーチングの3原則、「双方向」「継続性」「個別対応」というマインドはソーシャルメディアと相性がよい。お客様に寄り添いながら、一緒に成長していくバーチャル・コーチングで共感を獲得できる。


サービスサイエンスでは、6つのサービス品質評価軸(正確性、迅速性、柔軟性、共感性、安心感、好印象)というフレームワークでサービスを評価する。ライバルのサービスレベルのベンチマーク指標としても使える。

6つのうち、事前期待を把握し、お客様がサービスに期待している内容を紐解くには「共感性」の発揮が何よりも重要とのこと。
「共感性」には日本人の気遣い、おもてなしの心に通じるものがある。
ソーシャルメディアを活用したお客様とのやり取りは、ある意味”行間を読み込む行為”。 相手を慮るという日本的なアプローチで人の気持ちを汲み取り、その上で西洋的な仕組みで人やチームをうごかすことは日本人にしかできないのでは、というのが著者の考え方。

という訳で共感を生むためのコンテンツづくりのノウハウ。
<共感を生む話題性のあるコンテンツ5条件>
①広く受け入れられる内容であること(心に響く、感動する)
多くの人に受け入れられるテーマだと広く拡散し、ターゲットとする人にリーチする可能性が高まる。
②役に立つ内容であること(有益であること)
人々の課題を解決するような内容だと、同じ問題意識を持つ人々の間に拡散する。
③魅力的であること(リッチコンテンツ)
映像や音声を活用した表現豊かなリッチコンテンツで届けたい内容の魅力をアップ。
④クセになる内容であること(習慣性)
ゲーム性があったり、続けて利用したくなるようなコンテンツであること。
⑤ニュース性があること
みんながあっと驚くようなコンテンツであること。

<3つの共感を意識する>
「企業やお店への共感」「発信者への共感」「情報への共感」


これからは「共創」の時代だということで、アドボカシー・マーケティング(お客様との強固な信頼関係を築くことを目的に、お客様の意向を最優先し、場合によっては他社製品を紹介したり、他店での購入を案内するなど、徹底的にお客様本位で接するマーケティング活動のこと。アドボカシー・マーケティング導入による効果は、お客様の企業に対するロイヤルティが上がること)と言った内容も紹介されている。


非常に想いを強くしたのが以下のくだり。
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ソーシャルメディアは、手間ひまかけないとダメ。
リアルの対面ビジネス以上に気遣いをしながら進めなければならない。
ソーシャルメディアは、決して魔法のコミュニケーションツールではない。バーチャルな空間でお客様と対話しながら、お客様の事前期待を読み解きながら共感のコミュニティを実践していく共感のプラットフォームなのだ。
お客様にそっと寄り添って、地味だけれどお客様の悩みに応えてくれるパートナーの方が、長いおつきあい(ロング・エンゲージメント)が継続する。
お客様の中からロイヤル・カスタマー(自社、自店舗のモノやサービスを好んで選択してくれるロイヤルティの高いお客様を指す。飲食店でいう常連さんであり、モノやサービスを提供する企業にとってはヘビーユーザーをいう。)と呼ばれるお客様をつくることで、ロング・エンゲージメントのビジネスが実現する。
ロイヤル・カスタマーが進化すると、いわゆるエバンジェリストと呼ばれる伝道師となる。言ってみれば私設応援団的な存在であり、他の誰よりもその企業や店舗のことを愛しているお客様である。
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自分の会社では、まだまだアフター段階に力を入れるところから、ようやく購入前の潜在顧客層へのアプローチのトライアルを始めた段階だ。でも、既にロイヤルカスタマーになってもらうべくロング・エンゲージメントの取り組みは鋭意継続中である。

業務を進めるにあたっても、頭の整理に非常に良い一冊だった。






2013年12月22日日曜日

『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』

ダン・アリエリーの3冊目の著作。
この人の実験は、視点が非常に面白い。「数字探し課題」という発展性もある基本実験をベースに、色んな仮説を科学的に証明できる仕掛けを考える発想がすごい。
今回は、誰もがもっているちょっとした「ずる」についての考察。

我々は、自分を正直で立派な人物だと思いたい(心理学でいう「自我動機」)。
その一方では、ごまかしから利益を得て、出来るだけ得をしたい。
では、ごまかしから利益を確実に得ながら、自分を正直で素晴らしい人物だと思い続けるには、一体どうすればいいのだろうか。そこで「認知的柔軟性」の出番となる。
両者のバランスをとろうとする行為こそが、自分を正当化するプロセスであり、「つじつま合わせ仮説」と呼ばれる仮説の根幹である。


結論は最後にまとめるが、その中にでてくる「自我消耗」という概念は面白い。
<シャイ・ダンジガー(テル・アビブ大学准教授)、ジョナサン・レバブ(スタンフォード大学准教授)が行った研究>
イスラエルで行われた多数の仮釈放決定を調べた結果、仮釈放審査委員会が仮釈放を許可することが最も多いのは、一日の最初の審問と、昼食休憩直後の審問だった。
仮釈放審査委員会にとって標準的な決定は、仮釈放を認めないこと。 判事が元気を回復したとき、つまり朝一番か、食事をして休憩を取った直後は、標準的な決定を覆して、より大きな努力を要する決定を行い、仮釈放を認める能力が高まっていたようだ。
しかし、一日のうちに多くの困難な決定を下し、認知負荷が高まるにつれて、仮釈放を認めないという単純で標準的な決定を選ぶようになった。

我々は人間であり、誘惑に屈しやすい。
一日中複雑な決定を下し続けていると、衝動と理性の葛藤を生むような状況に何度もとらわれる。
重要な決定(健康、結婚など)になると、葛藤は輪をかけて激しくなる。皮肉なことに、衝動を抑えようとする単純で日常的な努力が、自制心の在庫を減らしていき、その結果ますます誘惑に駆られやすくなる。
自分が一日中誘惑にさらされっぱなしだということ、また時間の経過とともに抵抗が積み上がっていくうちに、誘惑に抗う力が弱まることを自覚する必要がある。
消耗を理解することで、自制が必要な状況(たとえば職場での退屈きわまりない仕事など)には、まだ消耗していない日中の早い時間に(出来る限り)向かうべきだ。
誘惑にさらされると、背を向けるのが難しいとわかっているなら、近づきすぎて身動きが取れなくなる前に、欲求の引力から抜け出すのが得策だ。

この知見を日常の業務に活かそうとすると、上司の裁可を得るのに、標準的な内容の決裁であれば夕方(抗う意志が消耗している時)、決断が必要な内容であれば、朝一か昼一番(消耗しておらず元気な時)がいいということか。
退屈極まりない仕事は消耗してない時じゃなくても出来る気がする。


対外シグナリングという概念も非常に面白い。
対外シグナリングとは、我々が身につけるものを通して、自分が何物であるかを他人に知らせる方法のこと。
時をさかのぼって古代ローマの法には、奢侈禁止令という一連の規制があった。それはその後数世紀をかけてヨーロッパのほとんどの国に浸透した。
この法では何よりもまず、身分や階級によって、誰が何を着て良いかが決められていた。法は驚くほど詳細に及んでいた。(最貧層は、たいがい法から除外されていた。カビ臭い麻布や毛織物、馬の尾の毛でできたシャツなど規制したところで仕方がないからだ)
一部の集団は「堅気」の人たちと間違えられることのないよう、さらに区別されていた。 例えば、売春婦が「不純さ」をシグナリングするために縞模様の頭巾の着用を強いられたり、異教徒が火あぶりの刑に処せられる可能性、または必要があることを示すために、薪の印をつけるよう強制されることもあった。
「身分を越えた身なりをする」者は、周りに対してもの言わずに、だがあらかさまに、嘘をついていた。 身分を越えた身なりをするのは死罪に値するような罪ではなかったが、法を破るものは罰金などの処分を受けることが多かった。
こうしたルールは、上流階級のばかばかしいまでの強迫症のように思えるかもしれないが、実は世間の人たちが自らシグナリングした通りの身分であることを保証するための策だった。つまり、無秩序と混乱を排除するためのしくみだ。
現代の衣服の階級制度は、昔ほど硬直的ではないが、成功と個性をシグナリングしたいという欲求は、かつてないほど高まっている。

著者が行った実験では「身なりは人をつくる」という諺の示す通り、ニセモノを身につけることは、倫理的判断に確かに影響を及ぼすという結果が出ている。
さらに、人は偽造製品のせいで、自分自身が不正直な行動をとるようになるだけでなく、他人のこともあまり正直でないと見なすようになることが実験で分かった。
つまり、偽造品を利用することで代償を払うのは、高級ブランド企業だけではない。
たった一つの不正行為をきっかけに、それ以降の行動が一変することがある。
おまけに、その不正行為を始終思い出させるようなものが身近にあれば(グッチの偽サングラスなど)、長期にわたって深刻な波及効果が続く。
要するに、究極的には誰もが「道徳通貨」建てで、偽造品の代償を払わされるということだ。

嘘をつくことの最大の問題点は、他人も嘘をついていると思ってしまうというカルマに囚われるという事だというのを何かで読んだことがある。
同様に、ニセモノを身につけるということは、結局他人も同様に不正直だと判断を誤らせるカルマに囚われるということか。


人は何かの「ふりをする」と、自分の行動と自己イメージ、それに周りの人たちに対する見方が変わるのだ。
どんなものであれ、不正行為をとるに足らないものと片付けるべきではない。
初犯は大抵の場合、初めてのことだし誰にでも間違いはあると言って大目に見られることが多い。
だが、初めての不正行為は、その後の自分自身や自分の行動に対する見方を形成するうえで、特に大きな意味をもつことも忘れてはならない。
だからこそ、最も阻止すべきは最初の不正行為なのだ。一見無害に思われる、単発の不正行為の数を減らすことこそが重要だ。

という訳で、NYで実践されて効果が出たと言われている「割れ窓理論」は非常に重要だということだ。


色々な実験によるまとめは以下の通り。
<不正をつくる要因のまとめ>
【不正を促す要因】
正当化の能力
利益相反
創造性
一つの反道徳的行為
消耗
他人が自分の不正から利益を得る
他人の不正を目撃する
不正の例を示す文化
【影響なし】
不正から得られる金額
つかまる確率
【不正を減らす要因】
誓約
署名
道徳心を呼び起こすもの
監視

割愛したが、「創造性」が不正を促す要因となっているというのも面白い(自己肯定する物語を創ってしまうということらしい)。
誓約、署名などが不正を減らす要因に挙げられているが、誘惑の瞬間に道徳心を呼び起こすのは驚くほど効果の高い方法であることが実験から分かっている。


最後に。
不正には「どうにでもなれ」効果というものがあるらしい。
しばらくはあまりごまかしをしないようにして、正直者という自己イメージを保ちながら、ごまかしから利益を得ようとする。
このような「バランスのとれた」ごまかしはしばらく続くが、ある時点で「正直の閾値」に達すると、それ以降は前よりもずっと頻繁にごまかしをするようになる。
興味深いことに、道徳的指針をリセットし、「どうにでもなれ」効果を阻止するために、特別に設計されたかのような社会的機構が、現に数多く存在する。
例えば、カトリックの懺悔やユダヤ教のヨム・キプル(贖罪の日)、イスラムのラマダン(断食月)、毎週の安息日といったリセットの儀式がそうだ。
これらはどれも自制心を取り戻し、堕落を食い止め、改心する機会を与えてくれる。
こんな感じで、宗教にはちゃんと「リセット」を許す仕掛けが盛り込まれているという。
(信仰をもたない人は、新年の抱負や、誕生日、転職、失恋などを「リセット」の機会と考えるといい)

著者は、不正に対抗するための、より効果的で実践的な方法を考えだすためには、まずそもそも何故人は不正な行動をとるのかを理解することが必要だと述べている。
理解が進んだからといって、人間が不正をしなくなるとは考えにくいが、正直者が馬鹿をみない、不正をしにくい世の中というのは目指していくべきである。




2013年12月18日水曜日

妻の寛解

本日、妻の癌手術から5年目の検診だった。
一般的に大腸癌は5年経って再発が認められなければ、「寛解」ということでその癌については治癒したということになる。
ここ3年位は半年に一度、一緒に検診を受けていて、半年前の検診では不安症の妻に対してDr.が
「もう、ほとんど心配しなくて大丈夫ですよ」
という話しもしてくれていた。

とはいえ、本日5年目の最終検診ということで、会社には年末の忙しい時期だったが休ませてもらい、一緒に受けてきた。
「特に問題は見受けられませんので、再発なし。完治ということになります。」
というDr.からの結果報告はあまりに淡々としていて、あっけない位であったが、想定通りとはいえ、やはり安堵した。

思えば、この5年色々あった。
戻って妻と二人で食事をしながら、この5年間を振り返った。
病気になったのは決して「いいこと」ではないが、その経験の中で得られたものは「悪いこと」ばかりではなかった。

妻は「痩せたね」と言われるのが嫌で、他の地域の新しいメンバーとの交流を始め、今そのメンバーと親しく付き合いをしている。
こちらも妻に任せっきりにしていた家のことをやることで、ワークライフバランスというものを真剣に考えるようになった。まだまだレベルは低いが料理もおぼえた。
妻との関係も病気をする前とは明らかに変わった。

このブログを始めてからすぐに妻の癌が発見されて、その時点、時点のことが自分の気持ちと合わせて書かれている。
抗がん剤が必要と分かった時とか、抗がん剤服薬期間の不安感とか、読み返すとその時々の気持ちが思い出されて、何とも言えない気分になる。
5年前の紅白でミスチルの”GIFT”を聞いた時の気持ちは多分一生忘れないだろう。

何につけ5年。妻も頑張った。(よく分かってなかったであろう)子供たちにも負担をかけた。こちらも頑張った。
長かったが、無事に済んで本当に良かった。
「来年は一歩二歩前に進みたい」と言っている妻と喜びを分かち合った。
世の中に感謝!

2013年12月8日日曜日

『メリットの法則 行動分析学・実践編』

桜花学園大学大学院各員教授、奥田健次先生の著作。

行動分析学(Behavior Analysis)について分かりやすく解説されている本。
以下はまとめということで、専門用語を用いた結論と備忘的な事例だけを記載したが、実際の本には具体的な事例が分かりやすく書かれており、それをお読みいただかないと分かりづらいかもしれない(自分の備忘録みたいになってしまいました。スミマセン)。


心理学的な原因を探ろうとすると得てして循環論に陥りがちである。
原因を「行動随伴性」で考えるのが、行動分析学の特徴。
時間的に後で起こった出来事が、その先に起きた行動の原因になっている、と考える点が、各種ある心理学の中でも、行動分析学のユニークな点。

「行動」と何か。
「死人テスト」と「具体性テスト」の二つをクリアしたもの。
①行動とは「死人にはできないこと」。症状・状態は死人にも起こりうる場合があるので行動ではない。
②「具体的」とは「ビデオで撮影して、誰が見てもそれとわかるもの」。
記述概念:ビデオカメラで撮影して誰もが認めることができる行動の事実。
説明概念:事実を説明したものであって、見た人によって意見が分かれるかもしれないもの。
意外と「具体的」というのが訓練しないと判別しにくいらしい。

行動の前ではなく、後に続く結果が原因となる「行動」のこと(行動随伴性を考える場合の行動)をオペラント行動と呼び、行動の前に生じた刺激によって引き起こされる、「反射」と呼ばれる種類の行動であるレスポンデント行動と区別している。

以下の四つの行動随伴性(二つの強化の原理、二つの弱化の原理)は「基本随伴性」と呼ばれるもっともベーシックなもの。
ちなみに、好子=メリット、嫌子=デメリットと捉えると分かりやすい。
<行動を強める「強化」の原理>
①好子出現の強化
  例)[直前]向こうに安全に渡っていない
      ↓
    [行動]青信号の時に横断歩道を渡る
      ↓
    [直後]安全に向こうへ渡ることができた
②嫌子消失の強化
  例)[直前]顔面のテカリあり
      ↓
    [行動]あぶらとり紙を使う
      ↓
    [直後]顔面のテカリなし
<行動を弱める「弱化」の原理>
③嫌子出現の弱化
  例)[直前]白いシャツにシミなし
      ↓
    [行動]カレーうどんを豪快にすする
      ↓
    [直後]白いシャツにシミあり
④好子消失の弱化
  例)[直前]大切なデータあり
      ↓
    [行動]意味も分からずクリックする
      ↓
    [直後]大切なデータなし
 好子や嫌子は行動の直後に随伴していることがポイント。
随伴性とは行動が起きてから60秒までが目安。

消去:今まで強化されていた行動が元のレベルに戻ること。
「消去抵抗」とは消去の開始以降、一時的に行動の頻度がエスカレートする現象をいう(さらにスゴいものを「消去バースト」という)。
消去バースト(簡単にいうと「エクソシストの除霊において、悪霊が退散する直前が一番大変な事態となるということ」)が起こることが分かっていると、ひるまずに実行できるという素晴らしい効能がある。


行動分析学を実践する際には、「アメとムチ」ではなく「アメとアメなし」にするべき。
☞「好子出現の強化と嫌子出現の弱化」ではなく「好子出現の強化と消去」が正解。
なぜならば弱化には以下の副作用があるから。
①行動自体を減らしてしまう 叱られないようにするために、何もしないようになる。いわゆる「積極性」が失われやすい。
②何も新しいことを教えたことにならない。新しい行動は、強化と消去の組み合わせによって生まれる。
③一時的に効果があるが持続しない。弱化の効果は「回復の原理」があり長続きしない。叱られないと行動しないのであれば、常に叱ってくれる人の存在が必要になる。
④弱化を使う側は罰的な関わりがエスカレートしがちになる。
⑤弱化を受けた側にネガティブな情緒反応を引き起こす。
⑥力関係次第で他人に同じことをしてしまう可能性を高める。


応用系である「阻止の随伴性」には次の四つがある。
①嫌子出現「阻止」の強化
  例)[直前]やがて忘れてクレームがくる
      ↓
    [行動]注意深く商品を指差し確認する
      ↓
    [クレームがこない]
②好子消失「阻止」の強化
  例)[直前]ふとしたミスで入力した文章が消える
      ↓
    [行動]こまめに文章を確定する
      ↓
    [直後]入力した文章が消えない
③嫌子消失「阻止」の弱化
  例)[直前]やがて刺を抜いてもらえる
      ↓
    [行動]ジタバタする
      ↓
    [直後]刺を抜いてもらえない
④好子出現「阻止」の弱化
  例)[直前]やがて紙芝居が始まる
      ↓
    [行動]大声で騒ぐ
      ↓
    [直後]紙芝居が始まらない

阻止の随伴性には
①我々が注意を集中し続けるのに役立っている
②我々のスムーズな運動機能を維持するのに貢献している
③課題に従事する行動を促進する などの特徴がある。
実は「阻止」には日常生活上のマイナスな側面もある。長谷川芳典氏は「楽しく始めたはずのものが、いつしか義務的になってしまう行動」や「現状維持でよしとする行動」に阻止の随伴性が関与していると指摘している。


「行動」の「機能」は次の4つしかない。
「機能」という言葉だが、これは「どのような働きをしているか」という意味である。
対照的な言葉として「形態」という言葉がある。
「行動」を正しく捉えるとき、その「行動」の「形態」よりも「機能」を重視することが極めて重要なことであり、これが応用行動分析学(学校臨床や教育のみならず、社会問題全体への行動分析学の応用)の基本姿勢となっている。
<行動の機能>
①物や活動が得られる
②注目が得られる
③逃避・回避できる
④感覚が得られる

オペラント行動は、必ず行動随伴性の枠組み(行動随伴性の3つのボックスを一つのまとまりとして行動の1単位と考える)で捉えるようにしなければならない。


行動分析学の実践において、トークンエコノミー法というものの応用が有効とのこと。
トークンエコノミー法とは、応用行動分析学でしばしば用いられる技法の一つ。
トークンとは「貨幣の代用」という意味で、特定の価値を持たせたスタンプやポイントのようなもの。

トークンエコノミー法の利点
①ポイントの受け渡しが容易なこと
②ポイントは貯めて使えるので食べ物のように満腹にならないこと
③特定の行動の出現を高めて維持するのに有利なこと
④視覚的に動機づけられて達成感も味わえること

トークンエコノミー法は「さじ加減」が決め手。
配慮すべき事項として
一つ目は、「子供自身がバックアップ好子を選択できること」。子供の年齢によって、興味や関心、好みを考慮する必要がある。
二つ目は、トークンエコノミー法以外の手段ではバックアップ好子を入手できないようにしておくこと。普段は手に入れられないのに、手が届きそうな歩みをする事自体に「ワクワク感」が得られる。
三つ目は、バックアップ好子は実際に与えやすいものであること。達成したのに「ワクワク感」を裏切ることがあってはいけない。

トークンエコノミー法は、親や教師が子供に押し付けるようなものではなく、「やればやっただけお得だと思いますが、いかがですか?(やりたくなければやらなくてもいいよ?)」というスタンスで計画するべき。
そして、それは裏切ってはいけない契約。

ポイントを減点するレスポンスコストは、好子消失の弱化の手続き。弱化手続きには副作用があるので、あまりお勧めではない。
やはり、基本的には「アメとムチ」のトークンエコノミー法とレスポンスコストの併用よりも、「アメとアメなし」のトークンエコノミー法のみの導入を目指した方がよい。


行動分析学の実践において、もう一つ有効な介入方法がある。「FTスケジュール」である。 FT(fixed time)とは「時間を固定させる」という意味。
FTスケジュールでは、行動に随伴させるのではなく、時間ごとに好子や嫌子を提示する。 つまり、行動と無関係に好子を提示する方法。
もちろん、ちょうどその好子が出現する直前のタイミングで、特定の行動をしていると偶発的にその行動を強化することになる。
暴れる自閉症性生徒を殴り掛かる行動に随伴させないように好子を提示する方法は、NCR(Noncontingent Reinforcement:非随伴強化法)とも呼ばれている。
FTスケジュールは、行動分析学の基礎研究では「迷信行動」の出現として知られている。


がんじがらめでステレオタイプな行動を変えていくためには、「行動変動性」を高める作業が必要となる。
その一つには、消去の原理の役割や、エクスポージャーがんじがらめでステレオタイプな行動を変えていくためには、「行動変動性」を高める作業が必要となる。 その一つには、消去の原理の役割や、エクスポージャー(不安を引き起こす刺激をクライアントに提示し続ける手法。クライアント側からすると、不安を引き起こす刺激に「さらされ続ける」ことになる。人間も含め動物は、ある種の感覚を強く引き起こす刺激にさらされ続けると、その刺激によって引き起こされる反射が次第に弱くなる。専門用語では『馴化』(じゅんか)と呼ばれる。)があると考えられている。
エクスポージャーは、ステレオタイプな行動を断ち切り、新しい行動変化をもたらすものなのである。


ダーネル・ラッタル博士(組織行動管理という分野でアメリカ最大手企業オーブリー・ダニエルズ・インターナショナルCEO)は「任意の努力」(Discretionary Effort)という概念を打ち出している。
ビジネスにおける成功のカギはこの「任意の努力」を見つけて伸ばしていくことにある。 ”ねばならない”曲線(”Have-to” curve)=求められたことの最低ライン、(最低要求水準))と”したいからやる”曲線(”Want-to” curve)の間のパフォーマンスが「任意の努力」


う〜ん、事例が分かりにくく結論的な要素だけの記載だと、このブログを読んでも全く理解できないだろうと思いつつ所感を述べると、こんなに単純な考え方でいいのか?という疑念が湧くが、定義の説明ために定義を連ねねばならないようなのはバッドサイエンスである、と著者は力づよく言い放っている。
精神疾患の現場においては、「原因の究明」よりも「行動が変わるための手法」が強く求められているはずなので、そういう意味では現場に強く求められている学問、実践法であると思った。

でもこの単純さってビジネスの現場でも活用できるのでは?と思ってしまうのは自分だけでしょうか。
もうちょっと研究してみる価値がありそう。




2013年12月7日土曜日

『鉄の骨』

池井戸潤の著作。
テーマがゼネコンの談合ということで同僚から課題本として借りた本。
2010年には小池徹平を主人公にしてNHKでドラマ化されている。

ゼネコンの若手社員を主人公として描いているので、談合=悪といったステレオタイプの描き方でなく、様々な考え方、立場の人間が織りなす人間模様として描かれている。

詳細はお読み下さいということだが、感想をいくつか。
主人公の恋のライバルであり、主人公の会社(中堅ゼネコン)の融資担当者として銀行マンを登場させるあたり、著者の池井戸潤が自分のテリトリー(金融)を広げながら書いている感じでリアリティがあり、物語に安定感がある。
(とはいえ、談合の部分については相当想像による部分が多いと思うが)

テーマがしっかりした上でのミステリー仕立てになっており、登場人物の織りなす人間模様も面白い。(恋人関係、親子の関係、上司と部下の関係などなど)
池井戸潤は同世代(若干先輩だが)。岐阜県出身で大学から東京にでてきているので地方から出てきた人間の心情を描くのが非常に巧みである。
600ページ超の大作だったが、ぐいぐい引き込まれて難なく読めて楽しめた。


『フレーミング』


タイラー・コーエン氏の著作。

行動経済学者らは、人間を「フレーミング効果」に影響されるものだと表現することがある。フレーミング効果とは、選択肢の提示が人の選択を左右することだ。
例えば全く同じ機会でも、何かを獲得する機会として示されると、何かを失う機会として示された場合よりも、無難な選択をしがちになる。
一般的な行動経済学では、「フレーミング効果」は人の決定を歪めるものだとされているが、多くの状況において、フレーミング効果は生活を一層現実的で生き生きとした意義あるものにする助けになる。

著作のタイトルからして、行動経済学上の「フレーミング」についての本かと思いきや、自閉症者の認知についての知見が多く書かれており、自閉症者の認知についての本かと思ったくらいであった。

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自閉症の大きな特徴の一つは、整理、系統立て、区分、収集、暗記、類別、リスト化などの行動によって、情報をさらに体系化しようとする傾向があることだ。
自閉症者は極度の情報好きで、非常に熱心に情報に関わろうとする。自分の関心のある分野において、自閉症者はまさに、情報食(インフォボア)になる。
自閉症者は心のないゾンビのように描かれることもあるが、実のところ、彼らは、意味を表す人間の記号体系に極めて強い関心を持つ人々なのだ。「喜び」「情熱」「自閉症」という三つの言葉を一緒に見かけることはあまりないだろうが、これらはたいてい密接に繋がり合っている。

私は、学校を、人が認知力の面でやや自閉症的になるように教えるところだと考えている。実際、極めて多くの学校では、集中することや、認知力の専門化、脳内整理を奨励している。
自閉症者は、非自閉症者よりも空想(内向きの休息的思考)に耽ることが少ないとみられる。 教育は社会的な影響力を用いて、自閉症的な認知力を育成しているのだ。
いくつかの事実が示しているのは、自閉症者は非自閉症者よりも、物語の形で考えることや、物語ベースの非常に鮮明な夢を見ることが少ないということだ。
自閉症者は情報を独特の形で脳内整理していると見られ、その整理作業は専門性が高く徹底的だが、物語はあまり重視しないようだ。

自閉症者は認知面で強みを持つ。
自閉症者は、対象物や芸術作品の美しさを評価するのに、文化的な基準を必要としないことが多い。
自閉症者には、非自閉症者が一般に芸術作品と呼ぶ媒体なしで、そうした対象の美しさの質を部分的に評価出来る面もあるようだ。
自閉症者は、形や色、触感などの根源的な美を探り当てるのに、自分自身と関心対象の質との間に、社会的に作られた一般的な関係性を必要としない。
こうした自閉症者は、楽しく充実した芸術的世界に暮らしているが、彼らの楽しみは、社会的な媒体や、型通りの思考基準や解釈にはあまり依存していないため、他者はこの楽しみに気付きにくい。
このギャップは、「自閉症者対非自閉症者」といった単純なものではない。自閉症者の知覚力も極めて多様であることを思い出して欲しい。だから、たとえ他に同様の人がいなくても、自閉症者はそれぞれ自分の美的思考に基づいて、様々な対象に没頭する傾向があるのだ。
非自閉症者の文化的基準と比べられるような「自閉症者の文化的基準」は存在しない。こうした基準がないことは弱点のように見えるかもしれないが、強みと捉えることも出来る。
自閉症者は必ずしも基準というレンズを通じて美を評価する必要がない。
文化的基準とは、多くの自閉症者が全く必要としない、一種の知覚的な支え、つまりフレーミングの道具であるとも考えられる。
自閉症者はこの点で、一部の仏教思想により近い立場にある。彼らは全世界の美を、極めて小さな、または極めて特殊な対象物の中に見いだすことができる。
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自閉症者は認知のプロセスにおいて「フレーミング」効果を受けにくい。非自閉症者が一定の文化における「物語」を通じて認知をする傾向があるのに対し、そういったコンテキスト(文脈)を無視して一つ一つの情報を脳内整理し認知するのが自閉症者のやりかた、ということか。


ポスト工業化時代においては、価値を生み出す作業の多くは、個人個人の心の中で行われるようになった
「生産物」は工場の床に積まれるものではなく、人間の心の内面へと変わってきている。 大手メディア会社が映像をつくり出したとしても、それを見たり聞いたりする側が頭の中を整理することで意味や解釈が生まれているのであり、価値のほとんどはそこに存在する。
「価値」は人の心の中(認知のされ方)によって大きくも小さくもなるということだ。
では、その認知され方にはどのような傾向があるのか。
だんだん「フレーミング」というタイトルっぽい話題となっていく。

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アクセスが簡単であれば、我々は短く、快く、小さいものを好み、アクセスが困難であれば、大規模な制作物や派手なもの、傑作などを求める傾向がある。
こうしたメカニズムを通じて、アクセスのコストは人間の内面の活動に影響する。
我々の手に入る文化は、たいてい「小さなピース」と「大きなピース」の二種類からなる。
アクセス・コストが高いと、小さいピースははじき出され〜選ぶに値しないのだ〜結果的に大きなピースに目が向けられる。
アクセス・コストが低ければ、大小様々なピースが選択可能になるが、どちらかといえば小さいピースの方が好まれる。

文化のピースが短くなってくると、新しいことに挑戦しやすくなる。
様々な物事をほんの少しずつ取り入れることで、何かを試してみたいという願望が満たされやすくなるのだ。
web上の基本的な通貨とは、お金ではなく、喜びや落胆の小さな爆発だと言えるだろう。 人は、楽しさの小さな爆発を、最初からすぐに、たくさん与えてくれるウェブサイトや文化的メディアを好む傾向がある。
クリックの回数が満足感と失望感の分かれ目になるのは、非常によくあることだ。
何かを始め、終わらせる喜びを得たいという気持ちも、文化の小さなピースを求める動機になる。

現在の文化は、かつてなく小さく多量のピースによって形成されるようになったが、「情報や知識の供給過多の時代になった」ということなのだろうか。
外部者から見て、それぞれのテーマがバラバラのようであっても、その流れの大半は、その人の情熱や関心、所属、そして全体のまとまりに関連しているということで一貫性がある。
根本的にはすべて自分に関することであり、これこそ多くの人々が好むテーマなのだ。 現在では、外の世界から得た情報のピースを組み合わせ、操作し、それを再び個人的な関心事に結びつけることがかつてなく容易になっている。

多くの批評家は、マルチタスキングによって我々の効率性が落ちていると批判する。
だが、文化の小さなピースを楽しみ、組み合わせることに関しては、マルチタスキングは非常に効率的である。
マルチタスキングは、(人間の内的な)生産活動の主要な手段であることが極めて多い。 マルチタスキングは、自分の興味を持続させる方策の一つでもあるのだ。
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情報取得のアクセス・コストが低くなった昨今においては、小さなピースの情報が好まれる。大河ドラマのような物語は、アクセス・コストがかかる場合のみに選択されるようだ。
小さなピースは、紡がれて全体を構成するわけだが、この小さなピースの選び方が既に一定のテーマに基づいた一貫性のあるものになっているはずだというわけだ。
自閉症者は、テーマに一貫性がなくてものめり込むことが出来るのに対し、非自閉症者はテーマに一貫性がないと小さなピースを集めることに興味が湧かなくなってくるということか。

だから認知における脳内整理の仕方というのが非常に重要なものとなってくる。
経済学者らは、我々人間を経済人(ホモ・エコノミクス)として研究してきたが、数十年前に社会科学者らが、遊戯を楽しむ人間の性質を調査し、遊戯人(ホモ・ルーデンス)という言葉が生まれた。 そして現在では、新しい種類の人間が、その頭の中で自分だけの経済を創造している。整理人(ホモ・オルド)の時代がやってきたのだ。


多様化の時代について、情報認知面での傾向についても記載されている。
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「違いが災いのもとではなく恵みになるのは、交換によってである」
この考え方のもとで、経済学、神経学、そしてウェブは一体になる。この交換についての考えは、ウェブが極めて重要になる理由のひとつである。 そう考えることで、特に自閉症者にとって交換が極めて重要なことや、自閉症者とのやり取りによって、非自閉症者が自閉症的な認知面の強みから利益を得られることも説明しやすくなる。

現実の世界で出会うフレーミングは、一般に自分の選択を示しており、その選択の裏には何らかの理由がある。フレーミング効果に関する行動学的研究のほとんどは、市場経済の最も基本的な特徴である競争(この場合はメッセージ間の競争)を排除している。
自分が非合理的な決定をしたのは、おそらくそれが自分の現実に、ひいては自分だけの経済をフレーミングする、自分で選んだ方法に合っていたからなのだ。

この考え方のもとで、経済学、神経学、そしてウェブは一体になる。この交換についての考えは、ウェブが極めて重要になる理由のひとつである。
そう考えることで、特に自閉症者にとって交換が極めて重要なことや、自閉症者とのやり取りによって、非自閉症者が自閉症的な認知面の強みから利益を得られることも説明しやすくなる。

安く簡単に手に入る文化の世界では、伝達の媒体はかつてないほど大きな重要性をもつ。媒体は情報をどう整理するか、また何を整理するかを左右するのだ。

コミュニケーション手段をどう決定するかは、あなたの人生で実現する、最高に豊かな経済を創造するにあたっての、基本的な選択なのである。
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これだけメディアが多数あり情報入手が簡単な世界においては、どのフレームを選択するかも自ら選んでいるといえる、ということ。情報をとる前から、「どのメディアで情報をとるかの選択」が実は個々人の「フレーミング」であるということ。
こういった話しになると、何故か攻殻機動隊を思い出してしまう。。

自閉症者の有名人としてシャーロック・ホームズ先生が出てきたり、実は文化の多様性にゆかりのある地域を巡って世界を旅するなら、真っ先に東京に行くべし(ちなみに次はフィンランドらしい)という記載があったりして非常に馴染み深い記載も多かった。

自閉症者の話しが多くタイトルとの差異に若干の違和感を覚えたが、読み解いていくと内容的には脳内認知というテーマを色々な切り口から述べられた良書であった。

2013年11月30日土曜日

酵素ダイエット講習

簡単な酵素ダイエット講習を受ける機会があった。
特にダイエットをしようと思っている訳ではないが、酵素について学べるいい機会だったので拝聴した。

講師は一般社団法人日本ナチュラルビューティスト協会の高島さん。

・酵素は、人間のあらゆる生命活動に関わっている。
・酵素は全ての食べ物に含まれるが、48℃以上加熱すると死滅する。

・体内酵素は「消化」(食べ物を消化して栄養を全身に届ける)と「代謝」(デトックスや細胞の再生、免疫力を高める、エネルギーを燃やす)の二つの働きをしている。
・酵素量は加齢とともに減少する。消化酵素は加齢時にも減少させることができないので優先的に残されるため、代謝酵素が減少し不足する。
・代謝酵素を食物酵素として外部から補う必要がある。
・人間は死んでも、土に還る分の酵素は残している。
・食品添加物や抗生物質はたくさんの消化酵素を必要とする。

・空腹時に特定の食べ物を食べたくなるのは、その食べ物を分解する酵素が不足して栄養素を吸収できない栄養不足状態だから。でも特定の栄養素を摂り過ぎると特定の部位で毒素や死亡として蓄積してしまう。。
という訳で空腹時食べたくなるものによって、将来なりがちな体型が分かるということらしい。
将来の体型:空腹時に食べたい物→不足している酵素→不足している栄養素
①全体ポッチャリ マンゴー型:チョコ、カップケーキ、クリームパン、麺類→炭水化物分解酵素→糖質
②下半身ポッチャリ 洋梨型:揚げ煎餅、ドーナツ、ポテトチップス→脂肪分解酵素→脂肪
③お腹ポッコリ リンゴ型:唐揚げ、フランクフルト、チーズ、ナッツ→タンパク質分解酵素→タンパク質
④ほっそりだけど疲れやすいバナナ型:乳製品、ヨーグルト、プリン→乳糖分解酵素、酵素全般→栄養全般

<ナチュラルハイジーン>・・1日の生理リズム
排泄:午前4時〜昼12時・・消化酵素が不要な果物など、朝はそんな食べなくてOK。
栄養補給と消化:昼12時〜午後8時・・小腹が空いたらドライフルーツや果物を食べる。チョコを食べる前にはバナナを食べる。食事は野菜から。焼肉だったらキムチから。揚げ物だったらキャベツから。
吸収と代謝:午後8時〜午前4時


酵素って、とっても重要なんですな。
食べ方によっても酵素の消費量が変わったり、足りない酵素によって食べたいものが変わってきたり。
酵素を考慮した食生活に明日から切り替えよう。(ダイエットは特にしないけどね)



2013年11月24日日曜日

情報の重要性

会社でHOLOS-BRAINSの細田収さんのセミナーを受けた。
細田さんは住友不動産から東京海上日動あんしん生命に転職し、成果を出した人らしい。
「心理学と脳科学の観点からの営業セミナー」ということで興味を持って受講した。


売り手と買い手に別れて、売り手は1,000円の価値を売り込むトークを4分間で行い、買い手がジャッジするというペアワークを行った。
これは、「売り込み」という行為を行うにしても、まず商品の説明を行うのではなく、相手のニーズ、嗜好を聞くことから入るべし、ということに気づくワークだったようだ。

この日の最大の気付きがあったのは、以下のワーク。
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あるメーカーが新商品のパンフレットを企画制作することになり、2社の印刷会社に声をかけたところ、A印刷とB印刷の営業パーソンがそれぞれ訪問してきた。

それぞれの営業パーソンが聞いて帰ったことは以下の通り。
A印刷:パンフレットサイズ、色数、部数、納期、納品場所
B印刷:新商品の特徴、客層とニーズ、販売方法、競合メーカー、販売時期

さて、A印刷、B印刷にそれぞれ期待することは何か?また、そこにはどんな違いがあるか?
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A印刷には、印刷業務そのもの、価格(安さ)を期待し、B印刷にはクリエイティブな紙面を期待する、ということで、営業サイドがヒアリングする内容で相手の期待する内容が異なってくるというもの。

このワークで気付いたのは、営業場面に関わらず、相手がどんな情報を持っているか(持っていると思うか)によって期待する内容が異なってくるということ。
新入社員の提案と、中堅社員の提案では、提案内容が同じであっても取り上げられる確率が断然異なるのは、提案の内容以前に、持っているだろうと思われている情報量が異なることによる「期待度」の違いからではないだろうか。

情報を持っている(少なくとも持っているように振る舞う)という行為は相手の自分に対する期待度を上げ、自分のプレゼンを受け入れやすくするためには必須のこと、というわけだ。

顧客にとって営業マンが、その業界の情報をもっているのは当たり前で、業界以外の情報・知識をどれだけ持っているかによって、営業マンに期待する付加価値度合いが変わってくるということらしい。
情報過多の時代。情報の取得能力よりも情報の選別能力の方が重要であると言われているが、周りから「情報を持っていると思われる」ことは相変わらず非常に重要ということだ。

その他にも、「販売代理人」と「購買代理人」という概念も参考になった。
これからの営業は、会社サイドの売り込み(販売代理人)ではなく、顧客サイドの目線をもった「購買代理人」として振る舞う必要があるというものだ。


細川氏、不動産業から保険業界へ転職ということで、どちらにも精通していて面白いトピックを色々話してくれた。
◯保険会社は自分が採用(ヘッドハンティング)してきた人間は、自分で育成する。
◯保険業界の考え方としては、「商品は常に顧客のライフプラン上にある」。なので契約してからがスタート。
◯表面的なニーズに対する対応は常に比較にさらされる。顧客の真のニーズを発見することが重要。
 ☞情報過多時代においては、課題解決能力よりも問題発見能力の方が大切という、ダニエル・ピンクの主張とも合致する。

リアルな世界がネット世界に喰われつつある。保険業界もその一つ。
しかし、細川氏の見立てでは、不動産業界は宅建業法がある(宅建業法に守られている)のでネット世界には喰われないとのことであった。
ネット世界で勝負すると、スピード感がリアル世界の何倍にも加速する。新規参入組にはチャンスであり、既存組にとっては脅威である。
医薬品業界が色々理屈をつけてネット販売を不可とし対面販売にこだわるのも、そう言った理由があるのかもしれない。

当初、期待した心理学、脳科学との関連部分は時間の関係もあって、あまり聞くことができなかったが、それ以外の点で気付きの多いセミナーであった。




2013年11月16日土曜日

顔の見える商品・サービス


近くの高級スーパーでみつけたポップ。
「エクアドル産なのに田辺さん」というところに違和感あってちょっと笑ってしまった。

前に『人を動かす、新たな3原則』の投稿でも書いた(http://omachido.blogspot.jp/2013/11/blog-post_10.html)が、顔が見えるということが非常に重要ということで、最近は「◯◯さんの××」というコピーに加えて、その◯◯さんの顔写真が載っているポップが添えられているケースがよく見られる。

今回のちょっと違和感がある「エクアドル産 田辺さんのバナナ」というコピーに持った違和感を何故か考えていて思った。
これが「エクアドル産 ガブリエルさんのバナナ」だとどうなのだろうか。
(ちなみにエクアドルはカトリックの国なので、ヨハネ、ガブリエル、ヤコブと言った名前が多いらしい)
日本人だと「ガブリエルさん」のイメージが湧かないのでフックとしての効果は薄れるのかもしれない。
これは日本人だと、顔写真のないが「田辺さん」であってもイメージが湧くからなのではないか。
顔写真があった方がよりイメージが湧く(というよりそのまま)ので、それが「顔が見える」という意味でベストだが、なくても「◯◯さん」と書くとなんとなくの人のイメージを出せるということなのであろう。

広告効果として考えると
①顔写真付きの「◯◯さん」
②顔写真なしの「◯◯さん」(日本人名)
③顔写真なしの「◯◯さん」(エクアドル人名)
という順だと思うが、バナナのケースでは、顔写真付きだったら「◯◯」は「ガブリエルさん」の方が「田辺さん」よりも広告効果が高いのではないか。

広告効果はさておき、田辺さんがエクアドルで作ったバナナなので、「エクアドル産 田辺さんのバナナ」という記載になっている訳で、これが広告効果の高さに鑑みて「ガブリエルさんのバナナ」となっていたら、今流行の(?)食品偽装になっちゃうか。




2013年11月10日日曜日

『ゲームのルールを変えろ』

ネスレ日本の代表取締役兼CEOの高岡浩三氏の著作。

キットカットのプロモーション戦略の話しなど、マーケティングについて書かれていたのが面白そうで購入した。
読み続けると氏の主張は
「戦後成功してきた『ニッポン株式会社モデル』からの脱却には人材がキーポイント。そして、そのためにマーケティングの発想が必要」
ということであって膝を打つ感じであった。

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「ニッポン株式会社モデル」
戦後日本は焦土と化した。
その直後から、日本は先進諸国に「追いつき、追い越せ」とばかりにしゃかりきになって復興への道を突き進む。その結果、世界に類を見ない急激な右肩上がりの成長を遂げるが、それを支えた要因はいくつかある。
銀行のメインバンク制によって資金を手当し、稼いだ利益の株主への還元を押さえるシステムが功を奏した。これにより、将来の収益を生み出す設備投資に資金を振り向けることが可能となった。(現在の日本において、あらゆる産業での利益率がグローバルスタンダードと比較して圧倒的に低いのは、これに起因している)
加えて労働者のコストが安かったことも寄与した。
刻苦勉励という日本人特有の気質によって、成長を体現するために欠かせない労働の質が極めて高かったことも無視できない。これには当時の日本の教育システムが重要な役割を担った。
人と違う人はいらない。リーダーは必要ない。人をきちんと動かすことが出来るマネージャーがいればいい。
こうしたシステムと相まって、戦後半世紀で5000万人の人口増加がもたらされたこともあり、日本は世界で戦う競争力を身につけることができた。高度成長の波に乗ってGDPを世界第二位まで上げ、経済大国として確子たる地位を築く。

しかし、労働力のコスト優位性がなくなり、人口増加もストップした1980年代後半のバブル絶頂期を過ぎると、急激に競争力を失うことになる。
本来であれば、その時点で何かを変えるべきだった。だが、日本企業の経営者はそれまで成功していたニッポン株式会社モデルを変えようとはしなかった。。


ニッポン株式会社モデルからの脱却は、人材がキーポイントになる。
企業とは人が中心にいる世界だ。採用の問題しかり、育成の問題しかり、評価の問題しかり、労働組合の問題しかり。真っ先に人の問題にメスを入れるべきである。

その時に欠かせないのがマーケティングの発想である。人の問題とマーケティングという組み合わせは意外に思うかもしれないが、マーケティングの導入こそあらゆる問題を解決する突破口になる。
マーケティングとは、「経営そのもの」であると自分は理解している。 ニッポン株式会社モデルの根本的な問題は、マーケティングに無知なことだ。
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確かに、人材の課題とマーケティングという一見無関係な二つが実は関連しており、どちらも非常に重要であるという指摘は珍しい。そして個人的には非常に腑に落ちる意見である。


「人材の課題」について著者は「人材育成」だけが大切とは言う言い方をあまりしない。
それは「リーダーの育成が課題である」との認識だからだ。
「リーダー」の資質は誰もが持っているものではないということなのかもしれないし、人材流動性の高い外資ならではの感覚なのかもしれない(著者は「ネスレ日本」は外資にあって外資あらず、雇用に関して非常に日本的な会社であると述べているが)。
著者のリーダーシップ論を見ていく。
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リーダーシップで重要なのは、リスクヘッジをしながら新機軸を打ち出す能力。

リーダシップとは、多くの人を束ねて自分が打ち出した考えを「やらせる」度量だと誤解されている節もあるが、これは違う。
リーダーは、自分の考えたこと、主張したことを「やってみせる」のが最低条件になる。

リーダーシップを発揮して変革へ踏み出そうとすると、必ず反対される。
真っ先に反対するのは社長、部長、課長など、自分より上の人間だ。彼らは、過去に生み出された現在進行中のモデルの完璧な遂行によって評価され出世した人間である。自分の下の人間が新しいことを始めようとした時、自分を否定されたと感じて不愉快になるからだ。
それと同時に、過去の自分がうまくやってきたことについては絶対的な自信を持っている彼らも、未体験のビジネスでは下の人間と同じ土俵で勝負することとなる。未体験への不安から認めることを躊躇するのだ。
プロの経営者としてニッポン株式会社モデルを本気で変えるのであれば、まずはその悪しき習慣から手を付ける必要がある。

「リーダーをつくれる人間」 これが、ネスレにおけるリーダーの定義だ。
ニッポン株式会社モデルから脱却させ、次世代のリーダーが育つ土壌を整えることが、プロの経営者としての責務なのである。
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破綻をきたしたニッポン株式会社モデルではマネージャーは量産されたが、リーダーを育てることはしなかった。
グローバルで戦うためにもリーダー育成が日本の最重要課題ということだ。


ネスレという会社についても様々な観点から述べられている。
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ネスレが事業を進めるか否かの決断をする場合は、大げさではなく、過去の歴史を1000年単位でみる。そのうえで、 これから先50年の人口動態などに鑑みて、その国が発展していくのか、それとも衰退していくのかという視点をベースに検討する。
ヨーロッパを拠点とするネスレは、非常に長期的な視点を重視する企業。その意味では、超短期で利益を追求するアメリカ型資本主義と一線を画す。

ネスレの株主総会は、プロの経営者が長期的視点に立ったビジョンを策定する。それを7時間、8時間という長い時間をかけて丁寧に株主に説明し、コミットメントをもらうというスタイル。

ネスレでは、ブランドごとに損益計算書をもっている。

ネスレの行動哲学は” Think Globally,Act Locally.”

ネスレは昔から「ブランドマネジャー制」を設けている。
社内的には、「ビジネス・エグゼクティブ・マネジャー:BEM)と呼ばれるカテゴリーブランドのトップが、カテゴリーブランドを1つの企業に見立てて販売戦略を立て、損益を全て管理する。

3・11震災時の方針として、日本人以外の社員を国外に帰還させる会社が多い中、
「外国人であっても帰ることは許さない。日本の力になりなさい。それがネスレだ」
3/11の地震発生から1時間後、スイス本社の副社長の口から出てきた言葉。
これはインターナショナルスタッフとして日本に来ている外国人はお客様ではないという考え方の表れ。現地に同化する。それがネスレのカルチャー。

ネスレグループでは、企業が負うべき責任として「共通価値の創造:CSV」というコンセプトを戦略に掲げ、グローバルに展開している。
この柱は3つ。
1つは、栄養。昨今子供の栄養の過不足が問題になっている。
2つ目は水資源。水は世界的に枯渇しつつあり、砂漠化の進行は待ったなしの状況。
3つ目が地域・農業開発。 ネスレが最も懸念しているのは、資源の枯渇である。 新興国が豊かになるにつれ、世界の人口は爆発的に増加している。食料危機はすぐそこまで来ている。
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ネスレ日本での高岡氏の活躍として、マギーブイヨンのクロスマーチャンダイジングの話し、キットカットのプロモーションの話し、ネスカフェアンバサダーモデルの導入などがあって読み物としても非常に楽しい。

○イノベーションとは、思いつきを行動に起こすか起こさないかである。
○失敗の定義とは何か。それはおそらく、失敗から何も学ばないことだ。
○本当のブランドを持つことが、(事業において)絶対的優位に立つ条件だ。
などの格言も実際の経験とセットで語られると説得力が違う。

高岡さん、機会があったら是非お会いした人だ。



『人を動かす、新たな3原則』

モチベーション3.0のダニエル・ピンク氏の最新刊。
内容がスゴく濃いし、目から鱗の知見が満載の良書。

ダニエル・ピンク氏によると、今我々の大半は実は意識せずに広義の「セールス」(売らない売り込み)を行っているらしい。

クァルトリクス社による職場の実態調査によると、
1 現在、職場で過ごす時間の40%が、売らない売り込み〜購入行為に誰一人関与せずに、他人を説得し、影響を与え、納得させること〜にあてられている。広範な職業にわたって、一時間ごとに約24分が人を動かすことに費やされている。
2 たとえかなりの時間を費やす必要があるとしても、この側面は仕事で成功を収めるうえで不可欠だとみなされている。
ということが判明した。

以下の四つの質問をしてみて欲しい。
1 商品やサービスの購入を人に勧めることで生計をたてているか?
2 独立して働くか、副業であっても何か自分で事業を営んでいるか?
3 仕事にスキルの弾力性が求められるか?つまり、境界と役割を超える力、専門外の領域で働く能力、終日、多様な業務をこなす能力が求められるか?
4 教育か医療の分野で働いているか?
全ての質問にNOでなければ、あなたは「売らない売り込み」のセールスの仕事をしているということだと、著者は言う。


セールスの取引の金言ABC「Always Be Closing(必ず契約をまとめろ)」、は一部ものしかセールスに関わっていない、買い手が最小限の選択肢や情報の非対称性に直面している時代の過去の金言である。
現在では、同調力(Attunement)、浮揚力(Buoyancy)、明確性(Clarity)という三つの特質が21世紀の環境で効果的に人を動かすために必要とされる新たな条件だ。
ちょっと正直、無理クリABC合わせにした感も否めないが、内容的には納得だ。


【同調力】
わずかでも力を付与された感覚を味わった者は、他の人の観点に同調しにくく(「視点取得」ができにくく)なる(それに、おそらくできなくなる)ということが調査結果から分かっている。

<視点取得と共感>
視点取得は認知的能力で、主に思考に関するもの。一方共感は感情的な反応で、主に感情に関するもの。非常に近いが、完全に同じではない。
視点取得と共感のどちらがより交渉における成果を上げるかという実験が、ガリンスキーとウィエイアム・マダックスにより行われた。
結果、視点取得の立場を取る者が、自身の物質的利益を犠牲にすることなく、最高レベルの経済的効率性を獲得した。一方、共感も有効ではあるが、視点取得ほどではなく、創造的解決策と自己利益の両方を見いだそうとすると不利になる場合もあった。
最終的には、相手の頭の中に入り込む方が、自分自身の心の中に相手を入れるよりも、利益をもたらすということだ。

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外向的な人がセールスパーソンに最適という概念はほぼ自明の理とされているが、実は、その概念が真実だという証拠はほとんどない。
外向性は販売量とは何の関係もない。
それどころか、外向的傾向が強すぎると、実際には成績の低下に繋がる恐れがあることが、その他の調査により裏付けられるようになってきた。
セールスパーソンに一番打撃を与える行動は、情報に疎いことではなく、行き過ぎた自己主張と熱意のせいで、顧客に頻繁に接触を図ることだ。外向的な人は、自分で自分の足を引っ張る傾向がある。
内向的な人は「検査向き」で、外向的な人は「対応向き」という人もいる。
もっとも同調力があるのは、両向型のタイプだ。
両向型の分布は全人口の中で最も数の多い。すなわち、我々の大半は生まれながらにセールスパーソンなのである。
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実は外向的な人が必ずしも営業向きではない、というのは薄々感じていたことではあった。車にしても、保険にしてもスーパー営業マン(ウーマン)は必ずしも押しの強い人ではなく、顧客の話しをよく聞き、そしてちゃんと顧客のためのコンサルを行う人だからだ。
(全体的なボリューム層である)両向型のタイプが、実は「セールス」に必要な「同調力」を最ももっているということだ。


【浮揚力】
訪問販売に出ると、いつも「拒絶の大海」に直面する。
この拒絶の大海の真ん中で沈まずに浮かぶ方法が、他者を動かす上で必要不可欠な二番目の特質だ。これを「浮揚力」と名付けた。

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ポジティブなセルフトークはネガティブなセルフトークよりも効果的だ。
ところが、それよりも効果的なセルフトークは、単に感情面を変化させるにとどまらない。言語学上の分類も変わる。平叙文から疑問文になるのだ。
イリノイ大学のイブラヒム・シネイ、ドロレス・アルバラチン、南ミシシッピー大学のケンジ・ノグチが2010年に実施した一連の実験で「疑問文形式のセルフトーク」の有効性が確認された。
その理由は二つからなる。一つには、疑問文という形式が、答えを引き出す役目を果たしているからだ。しかもその答えの中に、任務実行の戦略が含まれるのだ。
二つ目の理由もこれに関連する。疑問文形式のセルフトークは、自発的、または内発的動機による目標追求の理由を考えるように促す可能性がある。

豊富な調査結果が証明するように、外部からの圧力よりも内部からの選択に動機づけられた方が、積極的に行動する傾向がある。
断言的なセルフトークは、動機を回避する恐れがある。質問形式のセルフトークは、行動選択の理由を引き出し、その理由の大半は自己の内部から生じていることを思いださせる。
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ポジティビティ研究の第一人者 ノースカロライナ大学のバーバラ・フレドリクソンによるとネガティブな感情は次第に人の視野を狭め、当座の生存を目的とした行動へと駆り立てる(怖いから逃げる、頭に来たから闘う)。 対照的に、ポジティブな感情はこれと相反する方向に働く。ほかのどのような行動が可能か着想する力を拡張し、意識を幅広い思考に向けて開放させ、我々の受容力と想像力を高めるらしい。

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ポジティビティの黄金比率 ポジティブな感情とネガティブな感情の比率が3対1を上回ると一般的に人生を謳歌できるようになる。
一方でフレドリクソンとロサダは上限があることにも気づいた。
比率が高すぎる場合は、低すぎる場合と同様に非生産的になる。
比率が11対1に達すると、ポジティブな感情は有益どころか有害な影響を及ぼすようになった。人生が底抜けの楽天家による無知の祭典と化し、自己欺瞞が自己鍛錬を抑え込むようになる。
「適切なネガティビティ」は必要不可欠。それなしでは、ふるまいのパターンは硬直化する。ネガティブな感情は、自分の行動に対するフィードバックや、機能することと機能しないことに関する情報、向上する術を教えてくれるのだ。
人々の健全なポジティビティ比率を、フレドリクソンは、矛盾する二つの力、つまり浮力と重力の調和とみなす。
「浮力は、人を高く押し上げる目に見えない力で、重力はこれと反対に作用し、地上に引きつける力だ。抑制のない軽さは、浮ついた、地に足のつかない、非現実的な状態にする。抑制のない重厚さは、度重なる苦難に倒れて立ち上がれなくする。それでも、この二つが適切に組み合わさると、二つの相反する力により、沈まずに浮揚したままでいられる」

「この人たちの心を動かすことができるだろうか?」
社会科学者が突き止めたように、疑問文形式のセルフトークは断定的セルフトークよりも有益であることが多い。
けれども、質問を投げかけたら、迷子の風船のようにただ宙に浮いたままにしておいてはいけない。その質問にこたえること〜率直に文字にして。
質問に対する答えがイエスの理由を五つ書き出す。
その理由から、任務遂行に必要となる効果的な戦略に気づいて、単なるアファーメーションよりも、確固とした揺るぎない基盤が得られる。
求めよ(ask)、さらば与えられん。
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【明確性】
明確性とは、見えていなかった様相を明らかにして、おかれた状況を理解できるようにする能力で、それまで存在に気づかなかった問題を突き止める能力のことだ。

優れたセールスパーソンは問題解決に長けた人だと、長年にわたり言われてきた。
しかし、特定の人だけではなく誰もが情報を豊富に入手できる現代社会では、その能力の重要性は以前よりも低い。
自分の問題を正確に把握していれば、たいていは誰の助けも借りずに、自力で必要な情報を探して決断を下せるものだ。

一方で、本当の問題を取り違えているとき、はっきり把握していないとき、あるいは皆目検討がつかないときに、他者の助けは大いに役に立つ。
そのような時、人の心を動かすために必要なのは、他人の問題を”解決”する能力よりも、問題を”発見”する能力なのである。

「発見された問題の質は、得られた解決策の質を予見させる」
人を動かすために”問題を認識する”には、長年利用されてきた二つのスキルを今までとは逆さまにする必要がある。
一つ目のスキル。かつて、優秀なセールスパーソンは情報を”入手”することに長けていた。現在、優秀なセールスパーソンは情報を”監督する”ことに長じていなければならない。
二つ目のスキル。かつて、優秀なセールスパーソンは疑問に”答える”ことに長けていた。 現在、優秀なセールスパーソンは、”訊ねる”ことが得意でなければならない。
可能性を明らかにし、隠れた論点をあぶり出し、思いもよらない問題を見つけ出すとういことだ。そのためには、訊ねるべき質問がある。

情報過多の時代においては「情報を入手すること」ではなく、”キュレーション(情報を収集して分類し、新しい価値を持たせて共有すること)”が重要になる。
建築家ミース・ファン・デル・ローエが建物の設計について語った言葉は、そのまま現代の人間にも当てはまる。「少ない方が豊かになれる」


面白かった知見をいくつか紹介したい。

<メールの件名ピッチ>
著者は「ピッチ」という言い方で、相手に対して投げかける言葉の「投げかけ方」の重要性にも言及している。
その中のひとつに「メールの件名ピッチ」というのがある。
カーネギーメロン大学の三人の教授が、メールの件名が及ぼす影響について検証した。
被験者は「仕事に直接影響するメールを読む」傾向と、「内容に関してある程度不確実に感じるとき、すなわり、どんなことが書かれているのか『好奇心』を抱く時に、メールを開ける可能性が高くなる傾向がある」ということが判明した。
「有用性」は、多数のメールが届いている時に影響力を及ぼす一方で、「好奇心」は、処理すべきメールがあまりないときに受信者の注意を引きつける。
被験者は有用なメールを外発的理由から開封した。これには利害が関与するからだ。その他のメールは内発的理由から開封した。ただ好奇心をそそられたからだ。
外発的動機に内発的動機を加えるとかえって裏目に出やすいことが多数の調査からわかっている。「機能性に優れ安価なコピー機をお探しの方へ」にするか「コピー機の革命!」のどちらかにすべきで、「キャノンIR2545はコピー機に革命を起こす」とすべきではない。
有用性と好奇心の他に、3つ目の要因として具体性が挙げられる。超具体的に「ゴルフスイングの改善のために」→「半日でゴルフスイングを改善できる四つのヒント」
など。

<ピクサーピッチ>
著者はいくつか、このピッチの事例を挙げているのだが、その中の一つがこの「ピクサーピッチ」。
元ピクサーのストーリー担当 エマ・コーツ ピクサーの映画は、ストーリーテリングの深部構造において、次の順で展開する6つの文章を含む。
昔々、〜〜〜。毎日、〜〜〜。ある日のこと、〜〜〜。そんなわけで、〜〜〜。そんなわけで〜〜〜。そしてついに〜〜〜。
この六文形式は、心に訴えるし融通も利く非常に活用度の高いテンプレート。

<顔の見える効果〜”奉仕”というモチベーション>
優秀な放射線医と平均的な放射線医を隔てるスキルの一つに、「偶発的所見」の発見ということが挙げられる。これは医師が想定していなかった異常、治療中の症状に関連しない異常を画像に発見することだ。
顔写真がCT画像の横に現れるように設定して、画像診断後、医師たちにアンケートをとったところ、医師たちは全員「写真を見たあとで患者に対して一層の共感を抱いた」と答え、画像検証に一層細心の注意を払ったと答えた。
実はこの実験はその後の真の実験を検証するためのもので、3ヶ月後に同じ画像を、今度は顔写真なしで診断させたところ、顔写真がある時に発見された偶発的所見の80%は、顔写真が削除された場合に報告されなかった。
患者を無名の一症例ではなく、1人の人間として対応することの重要性が明らかになったというわけである。
人間は主に自己の利益によって動機づけられると考えがちだが、我々は誰もが、社会科学的な用語でいえば「プロソーシャル(向社会的)」とか「自己超越的」と言った理由でも行動することが、数多くの研究から分かっている。

<意欲を起こさせるインタビュー>
「意欲を起こさせるインタビュー」の第一人者、エール大学研究科学者 マイケル・パンタロン が開発した、 のらりくらりと試験前に勉強をしない子供に対する質問。
そういう子供たちに「さぁ、勉強するんだ」とか「頼むから勉強してくれ」とは言ってはならない。
代わりに、二つの質問を投げかける。
質問1「1が『これっぽっちも勉強するつもりはない』で、10が『勉強する気満々』だとしたら、1〜10の間の数字で表すと、どのくらい勉強するつもりがある?」
子供が答えたら次の質問をする。
質問2「どうしてもっと低い数字を選ばなかったの?」
「これは誰もが不意打ちを食らう質問だ」とパンタロンは著書”Instant Influence”で述べている。
選んだ数字が、もっと低い数字でない理由を訊ねることが、変化のきっかけとなる。
何かの行動や観念を拒んでいる人の大半は、二元的なイエス、ノーの立場はとらない。
行動に移したいという欲求を相手がわずかにでも抱いているなら、1〜10のうちどこに位置するか訊ねることで、一見「ノー」だった姿勢が、実際には「たぶん」だということが明らかになる。
更に重要なのは、子供が3ではなく、4を選んだ理由を説明するとき、勉強する理由を告げ始めたことになるという点だ。現在の振る舞いを防衛する態度から、ある程度であれ、異なる振る舞いを望む理由を述べるという態度に変化した。
パンタロンによれば、これによって勉強に対する個人的、肯定的、内発的動機が明確になり実際に本人が勉強する可能性も高まるという。

これを、数ヶ月後に中学受験を控えているのに、中々エンジンのかかり具合にムラのある我が家の子供に対して実践してみた。
「1は中学受験をしない子レベル。10は100%フル稼働で頑張っている状態として、今の頑張りを1〜10までで表してみて。」
「・・2。。」
1は中学受験をしない子レベルという設定だったので、次の「なんでもっと低い数字を言わなかったの?」という次の質問をすることが出来ず完敗。
現実は中々想定通りに行かない。。(泣)

2013年11月4日月曜日

『ロスジェネの逆襲』

池井戸潤、半沢直樹シリーズ第3弾。テレビドラマの続きということで、読みたいと思っていたら会社のメンバーが貸してくれた。

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1994年から2004年に亘る就職氷河期に世の中にでた若者たち。その彼らを後の某全国紙の命名により「ロスト・ジェネレーション」略してロスジェネ世代と呼ぶようになる。
身を削るような就職活動をくぐり抜けて会社に入ってみると、そこには大した能力もないくせに、ただ売り手市場だと言うだけで大量採用された危機感なき社員たちが中間管理職として幅をきかせていた。バブル入社組である。
大量採用のおかげで頭数だけはいるバブル世代を喰わすため、少数精鋭のロスジェネ世代が働かされ、虐げられている。

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昭和63年に三菱銀行に入校した著者(まさにバブル世代)ならではの書きようだが、今回はロスジェネ世代が主人公とも言える。


相変わらずどんでん返しが続く展開だが、その要所要所で著者の池井戸潤の価値観が登場人物によって語られる。

大勝負が終わって沙汰を待つ段階で、半沢(バブル世代)が森山(ロスジェネ世代)に語るセリフ。
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「世の中を儚み、文句をいったり腐してみたりする——。でもそんなことは誰にだって出来る。お前は知らないかも知れないが、いつの世にも、世の中に文句ばかりいている奴は大勢いるんだ。だけど、果たしてそれに何の意味がある。例えばお前達が虐げられた世代なら、どうすればそう言う世代が二度と出てこないようになるのか、その答えを探すべきなんじゃないのか」
「あと十年もすれば、お前達は社会の真の担い手になる。そのとき、世の中のあり方に疑問を抱いてきたお前達だからこそ、できる改革があると思う。その時こそ、お前達ロスジェネ世代が社会や組織に自分達の真の存在意義を認めさせるときだと思うね。
オレたちバブル世代は既存の仕組みに乗っかる形で社会に出た。好景気だったが故に、世の中に対する疑問や不信感というものがまるでなかった。つまり、上の世代がつくりあげた仕組みに何の抵抗も感じず、素直に取り込まれたわけだ。だが、それは間違っていた。そして間違っていたと気づいた時には、もうどうすることも出来ない状況に置かれ、追いつめられていた。」
「だが、お前たちは違う。お前たちには、社会に対する疑問や反感という、我々の世代にはないフィルターがあり根強い問題意識があるはずだ。世の中を変えていけるとすれば、お前たちの世代なんだよ。失われた十年に世の中に出た者だけが、あるいは、さらにその下の世代が、これからの十年で世の中を変える資格が得られるのかもしれない。ロスジェネの逆襲がこれからはじまるとオレは期待している。だが、世の中に受け入れられるためには批判だけじゃダメだ。誰もが納得する答えが要る」
「批判はもう十分だ。お前たちのビジョンを示して欲しい。なぜ、団塊の世代が間違ったのか、なぜバブル世代がダメなのか。果たしてどんな世の中にすれば、みんなが納得して幸せになれるのか?会社の組織も含め、お前たちはそういう枠組みが作れるはずだ」
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半沢は、半沢が考える「枠組み」を聞かれ、「あるのは信念だけ」と答える。
「正しいことを正しいといえること。世の中の常識を組織の常識を一致させること。ただ、それだけのことだ。ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価される。そんな当たり前のことさえ、今の組織はできていない」


そして中野渡頭取の言葉。
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「どんな場所であっても、また大銀行の看板を失っても輝く人材こそ本物だ。真に優秀な人材とはそういうものなんじゃないか」
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これはドラマで半沢直樹自身が同期の近藤直弼に向かって同様の内容を言っていた。

手に汗握る展開の物語の内容についてはネタバレになるのでここでは割愛。
でも第3作も面白かった!


2013年10月27日日曜日

ずZOOっと旭山ワンカップ

会社の同僚からもらった北海道旭川のお土産のワンカップ。
飲み終わっても使えるように、ワンカップ系としての必要事項の記載は全て蓋の部分に集約。
かわいらしい絵柄は旭川のデザイナーあべミチコさん作。
てなわけで飲み終わると「ガラスびんアワード2013」で審査員特別賞を受賞した素敵な絵柄のみの素敵なコップに早変わり。


というのは分かっていたが、この絵柄、実は外側と内側が別々にしっかり描かれていて、後ろ頭の子供達が内側では楽しそうにしている顔が描かれている!

飲みながら気づいて、やられてしまいました。


そして何と内側にひっそり1カ所だけ「高砂酒造」の文字。

ネット検索でも「高砂酒造 旭山」でしっかり情報出てくるし、この心憎い自己主張の仕方にもやられた!!


酔っぱらいながら、高砂酒造恐るべしと思いつつ、こんな素敵なお土産をくれた同僚に感謝したのでした。




『クチコミュニティ・マーケティング 実践ノート』

株式会社ハー・ストーリィの日野佳永恵子代表の著作。
インターネット×スマートフォンによる個人総メディア化時代のマーケティグについて、実際の事例を基に説明した本。

「クチコミュニティ・マーケティング」を一言で言えば、共感者を集め(コミュニティ)、リピート(ファン)、紹介(クチコミ)を増やしていくための仕組み。

<クチコミュニティ・マーケティング 黄金の4ステップ>
①クチコミしたくなる魅力をつくる=「共感」
 ・クチコミされる良いネタを「1本」立てる。
 ↓
②クチコミをする人をつくる=「共鳴」
 ・良いネタをクチコミしてくれる「シーダー」をつくる。
 ↓
③クチコミのネタが伝わる工夫をする=「共創」
 ・顧客が惹き付けられる情報発信、五感的な演出、空間、配布物、SNSの活用
 ↓
④クチコミが広がるコミュニティをつくる=「共育」
 ・イベントをはじめ、クチコミを広げる機会づくり
 ・クチコミが継続し、発展・成長していくビジネスモデル

一言で言うと、
「開発から販売までのプロセスを通して、売り手は部門を超えて横につながるプロジェクトをつくり、あわせて、売り手と買い手が共に関わっていく」
仕組みづくりということ。
もっと噛み砕いて言えば、関わる全ての人が「自分事化しよう」という考え方を実践すること。
そのキーワードは「共」。
4つのステップに共通する共通項は「共働」


この黄金の4ステップに基づいた実例を分かりやすく述べていて、クチコミュニティ・マーケティグの基礎を学びやすい構成となっている。

女性を対象としたマーケティグを得意としているので、女性に対する洞察は納得させられるものがある。
近年、消費財の購買決定権は8割が女性にある。
女性は複数で集うことが好き。複数で集まっているときに共感し合い、おしゃべりをしながら選び、買うのが好き。
「学・遊・働・交」というのが、女性の買い物の心理から出てきたキーワード。
学ぶため、遊ぶため、役に立つため、出会うために使うお金の優先順位が高くなる傾向にあるらしい。
男の場合、働くことは基本すぎて(時間ではなく)お金を使う優先順位としては下がるだろうし、交わることも程度問題ではあるが一般的にお金を使う優先順位は女性に比べて低い気がする。学ぶことについては最近優先順位が上がってきているが、男の場合、優先順位が高いのは何と言っても遊ぶことか。単純な生き物ですな。


男女の行動特性についての記述も面白い。
「共感」「広げる」のが得意なのが女性の行動特性、「絞る」「掘り下げる」のが得意なのが男性の行動特性、ということらしい。
なるほど納得。



自分の会社の事業においても非常に参考となる記載が多い。
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顧客と企業の認識のズレが一番大きいのがホームページだ。
特に顕著なのが、住宅、車、パソコンや家電品、健康食品など、どうしても専門用語が多くなりがちな業界。
クチコミは、商品・サービスをお客様が新たなお客様に伝えていくので、お客様が分からない言葉の羅列では、クチコミ以前の問題となる。
こうした課題を解決するのが、専門用語に浸っていない人たちを巻き込んだ「説明資料」の改善活動だ。
初めてその会社を知った人が、どうやって関心を持つかを工夫する、それはクチコミかがお客様から広がるためには必要な視点だ。
気軽に楽しんでいただく機会を提供したり、商品に触れて知っていただけるように工夫する。
そうすることで、お客様が「欲しい」と思ったときに思い出していただける。
これはつまり、どれだけ購入前の活動ができているか。
これこそ、実はある意味「新規開拓」である。


記憶されないと、存在しないも同然。
リピーターや紹介が多い理由は「商品」の魅力だけではない。
五感を通して伝わる印象があり、五感を通して経験したことは人の記憶に残りやすい。
見た目、香り、音、旨さ、肌触りといったように、自分たちの商品やサービスを五感で感じてもらえる工夫によって、お客様の印象に残る。


「個が主役になった」それにより「顧客がメディア」となり、「顧客が商品力を高める」ようになり、これまで以上に「企業の論理ではなく、顧客の評価が重要」になった。

マーケティング業界では、近年、「モノよりコト」という言葉を聞くが、SNSの進化によって「モノよりコトより、メッセージ」となった。いわば「一緒に何かをしませんか?」ということだ。
価値観を共有した者が出会い、活動し、輪を広げていく。

「クチコミ」を伝播させるツールは、急激なスピードで進化してきたが、クチコミをするのは「人の意志」であることに変わりはない。
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日野さん、近々お会いできる機会がありそうなので、何かお仕事でご一緒できたらと思っている。






2013年10月19日土曜日

『インバウンドマーケティング』

WEBサイトのシステム改修の提案をしたら、
「その改修の趣旨はこれだな」
と上司から渡された本。

インバウンドマーケティングとは、インターネットが普及した時代における消費者・購買者の情報行動を真摯に捉えることによって、広告を中心とした企業マーケティングが長らくもっていた課題を解決しようという試みでもある。

今までのマーケティングは、人がいるところ(広告媒体やイベントなど)をターゲットにしてリーチするという点で「Hunter(狩猟民)」型マーケティングだった。
対してインバウンドマーケティングは「Harvester(農耕民)」型マーケティングであり、自分たちで種をまき、育てるもの。
「インバウンドマーケティング」というのは、言ってみればマーケティングを行う時のマインドセット、すなわち「態度・姿勢・考え方」そのもの。

人間と言うのは、色々な情報が流れているような環境下で、それぞれが自分にとって重要だと認識した情報だけに注意を示すという認知特性があると言われている。
これを心理学の世界では「選択的注意(Selective attention)」と呼ぶ。
情報過多・情報洪水時代において、人々は”選択的注意(Selective attention)”によって情報を選り好みしている。だから、マーケターは”選択肢としての魅力(Selective attraction)”を準備しなければならない。

インバウンドマーケティングが、これまでの考え方とは違うポイントが二つある。
1つは「マーケター側ではなく、人々のタイムライン(時間軸)に合わせたマーケティングを行うこと」。
もう1つは「マーケティングを好かれるものにしよう」(lovable marketing)ということ。

インバウンドマーケティングは、SEOの新しい名前ではない。
それは、organic(お客さんを自然な流れで連れてくる) で earned marketing(自分たちで努力するマーケティング)な、あらゆるチャネルを用いたマーケティングのことなのだ。


<検索連動型広告の歴史>
1997年 米国のアイデアラボ社の「GoTo.com」後に「Overture」と名前を変え、その後2003年にYahoo!傘下の企業となる。
1クリックあたりに支払う金額が高ければ高いほど、上位の位置の枠を獲得することができた。

2000年からスタートしたGoogleのAdWordsは入札金額とクリック率を乗じた数値で順位を決めた。クリック率をみることで「その広告がユーザーに指示されている」と考えた。このGoogle AdWordsの考え方は非常に画期的すぎて、当初は中々理解されなかった。

2011年にGoogleは「ZMOT」という概念を提唱する。
ZMOTとは”Zero Moment Of Truth”を縮めたもので、2000年代半ばにP&Gが提唱したFMOT(First Moment Of Truth:消費者とブランド・商品が出会う瞬間。即ち棚や店頭のこと)、SMOT(Second Moment Of Truth:買った後の体験のこと)を発展させたもの。 AIDMA(Attention,Interest,Desire,Memory,Action)モデルを若干否定し、商品と出会う場所としての棚(Shelf)、そしてその後のブランド・商品との体験(Experience)を重視せよ、というもの。
これに対して、「今では、人々は店頭に行く前に色々調べてからモノを買っているのではないか?」という仮説から生まれたのがZMOT。

<マーケティング手法色々>
【One to One マーケティング】
1993年、ドン・ペパーズとマーシャ・ロジャーズによる 『ONE to ONEマーケティング 顧客リレーションシップ戦略』 によって 普及。リコメンデーションエンジンを活用する。

【パーミッションマーケティング】
このコンセプトは、米国Yahoo!の副社長を務めたセス・ゴーディンという、米国一有名なカリスママーケターが1999年に生み出したもの。(ちなみに『バイラルマーケティング』の概念も彼の著書が広げた。)(permission marketing ⇔interruption marketing) One to One マーケティングを進化させ、「相手の同意を得ること」、「消費者・顧客側が反応を返せること」が加わった。 パーミッションマーケティングにおいては、パーミッションを得るために懸賞やオマケをつけるのが一般的なのに対し、インバウンドマーケティングにおけるリード(見込み客)獲得においては、”役に立つコンテンツ”を提供することが異なる。
インバウンドマーケティングは”Get Found,Get Leads”、つまり人々に見つけてもらい、彼らに見込み客になってもらうためのマーケティング活動のことを指す。

<購買に至るステージの考え方>
【購買に至る3つのステージ】
ToFu:Top of Funnel:見込み客創出ステージ
 ↓
MoFu:Middle of Funnel:見込み客の育成ステージ
 ↓
BoFu:Closing:顧客化のステージ

この考え方を進化させたのがインバウンドマーケティングにおけるInbound Marketingu Methodology 。
【Inbound Marketing Methodology】
企業が人々に対して行う4つのアクション
    Attract   Convert    Close   Delight
潜在顧客  →  訪問者 → 見込み客 →  顧客  →    推奨者
Strangers     Visitors     Leads   Customers   Promoters
(インバウンドマーケティングの活動としては「ToFu」と「MoFu」の2段階で、「BoFu」については営業活動として捉えられていた。)

という訳で本の中では、具体的に
Attract(惹き付ける)、Convert(転換させる)、Close(顧客化する)、Delight(満足させる)ための具体策が述べられる。

面白かったのは、マーケティング部門と営業部門というのは元来仲が悪く、この2つの部門をどうやって仲良くさせるかというのは経営の重要課題の一つだったのだそうだ。
インバウンドマーケティングを実践しつつ、見込み客をさらに段階化しマーケティング部門と営業部門で見込み客リストを共有することを著者は提唱している。
そして「マーケティングと営業活動を行うことを「Sales + Marketing = SMARKTING」と呼んでいる。

「商品・サービスについてネガティブな体験をもった顧客のうち48%は、そのことを10人ないしはそれ以上の人に伝える」らしい。


非常に漠賭していた内容が非常に整理されていたものが体系だって整理されている本。
やろうとしていることの根本には、Looopsの斉藤徹さんの『ソーシャルシフト』『BEソーシャル!』で出てくるあらゆる顧客コンタクトポイントでの統一的なメッセージ発信に通じるものがあると感じた。


非常にコンパクトに分かりやすく体系が理解できることもあり、早速メンバーにも配布。課題図書とした。










2013年10月15日火曜日

渡辺勝彦先生による父母のための難関大学合格講座

上の息子がお世話になっている東進ハイスクールで、渡辺勝彦先生のセミナーがあるということで参加してきた。

渡辺先生とは、元々河合塾の人気講師で、春期講習の予約が30分経たずに瞬殺で埋ったという伝説の人らしい。
今年こそ「今でしょ」の林修先生に東進ハイスクールNO1人気講師の座を奪われたそうだが、昨年までは第1位だったのだそうな。

まずは登場・挨拶の段から落語家のよう。
正に落語のようにずっと一人で話し続けるのだが、おもしろおかしい内容を2分に1度は盛り込むことで集中力を途切らさないのが自慢なのだそうだ。

○「自分は頭が悪い」という生徒がいるが、頭の出来が関係あるのは、大学院や研究者になる場合だけ。大学受験においては頭の出来は関係ない。
○「この教科は嫌い」ということをいう生徒がいるが、好き嫌いなんて情報や知識の多い少ないで決まるもの。
○親御さんの禁句。「今更無理」「どうせ無理」ということは言わないように。
という話しから入って、徹頭徹尾言い続ける「難関大学合格絶対のシナリオ」とは
”英語は高校2年生の3月31日までにケリをつけること”
英語にケリをつけておかないと高校3年生で他の教科に時間を回せないことにより差がついてしまうということをデータで示しながら説明をする。

渡辺先生、元々は横浜にある某神奈川県立高校の教員だったらしい。そこでは東大、早慶などにも合格者が出る学校だったのを自ら志願してヤンキー高校へ転校したとのこと。
そこで東大、早慶合格者を目指したが、東大こそ出なかったものの、早大、中央、法政などの大学へヤンキー軍団を送り込んだ。
2分に1回のジェットコースター授業、スモールステップという技はこの時期に編み出されたものらしい。

その後、落語のような笑いをとりながらの延長でご自身の息子さんの実話をされるのだが、これがショッキングな内容。
息子さんが高校2年生のある日、建築現場の高所からの落下物が電線を切断し、その電線が息子さんの顔面を直撃し、一時は生命も危ぶまれる大けがをしたとのこと。
その後なんとか一命は取り留めたものの、視力がなくなる可能性の中、何とか全盲は免れる。
その時に担当医から励まされた
「もし光が再び君の目に宿すことができたならば、その力を次に苦しんでいる人を励ますのに使って欲しい」
という言葉を受けて、息子さんは医学部を受験、見事合格という話しだが、その過程には紆余曲折があって、落語家が自らの悲劇を語っているような泣きながら笑ってしまうような、家族愛にあふれた良い話しだった。

最後にもいい話しをされていて

「頭の出来不出来は関係ないと先ほど申し上げましたが、実は能力の差が出るところがあります。良いスタートを切れる能力については差がでます。」

「受験は点をとり、どこの学校に入るだけが勝負ではありません。人生をいかに生きるかということが凝縮されていると僕は思っています。」
「模試で悪い点数をとっても、こんなんじゃ志望校は無理じゃない、というようなことを言わないでください。本人も自覚していますし、東進からも厳しいことは必ず言います。親は最後まで、子供を信じてあげてください」

精神論だけかと思いきや、実務的(受験テクニカル)な英文の読み方の手法の一端を披露し、
「高2を制する者が大学受験を制する」
と言い切る、この渡辺勝彦先生、そりゃ人気講師になるだろうと思わせる人であった。






2013年10月14日月曜日

『覚悟の磨きかた』

吉田松陰の「超訳」。
現代語版になっているので分かりやすい。

教育者であり、実践者であった吉田松陰という人の考え方がよく現れている。

吉田松陰は、長州 松下(まつもと)村にて松下村塾を開く。十畳と八畳の二間しかない塾。 当時、長州藩には「明倫館」という藩校があり優秀な武士の子供達はそちらで学び、松下村塾へは下級武士の子供が集まった。
松下村塾で松陰が教えた期間はわずか2年半である。
そんな松下村塾から、高杉晋作、伊藤博文、品川弥二郎(内務大臣)、山形有朋、山田顕義(国学院大学と日本大学の創設者)を送り出した。
結果的には、総理大臣2名、国務大臣7名、大学創設者2名というとんでもない数のエリートが「松下村塾出身」となった。こんな塾は世界でも類を見ない。

松陰は「いかに生きるかという志さえ、立たせることができれば、人生そのものが学問に変わり、あとは生徒が勝手に学んでくれる」と信じていた。
だから、一人一人を弟子ではなく友人として扱い、お互いの目標について同じ目線で真剣に語り合い、入塾を希望する少年には
「教える、というようなことはできませんが、ともに勉強しましょう」
と話したという。
教育は、知識だけを伝えても意味はない。
教えるものの生き方が、学ぶものを感化して、はじめてその成果が得られる。
そんな松陰の姿勢が、日本を変える人材を生んだ。
ご存知のように、吉田松陰は30歳でその生涯を閉じる。
若すぎる死。一方で、松陰の志は生き続けた。

「今ここで海を渡ることが禁じられているのは、たかだか江戸の250年の常識に過ぎない。今回の事件は、日本の今後3000年の歴史に関わることだ。くだらない常識に縛られ、日本が沈むのを傍観することは我慢ならなかった」

この超訳を読むと、吉田松陰という人物の考え方が非常によく分かる。
以下まとめつつも全176テーマのうち、好きなものをピックアップ。

【自らのあり方について】
<自分はどうあるべきか>
反求諸己。
「すべての問題の根本は自分の中にある」
どれだけ大きな計画であっても、物事を動かす基本はここにあります。
計画がうまくはかどらずに悩んだときは、外部に答えを求めることなく、
「まず自分はどうあるべきなのか」
雑音から距離をおいて、一人静かに考えてみましょう。

<不安のない生き方>
「先行きの不安」に心を奪われないようにするためには、あれこれ目移りすることなく、自分という人間を鍛えることに集中して、
「全力を出し切りますので、あとは天命にお任せします」 という心構えでいるのが、良いと思います。

<また会いたくなる人>
毎日、少しずつ「いいこと」を積み重ねていると、本人も知らないうちに、身のこなし方が洗練されていき、顔とか背中から存在感があふれてくるもの。
どれだけ外見に気をつけたところで、この魅力に及ぶものではありません。

<流れを変えるのは自分の行動>
幸運とか不運というものは、天から無差別に降ってくるものではなく、すべて自分のほうから求めているものなんです。
そのことを思い出すことができれば、他人のせいにしたり、組織のあり方に腹を立てたりすることなく
「自分の行動を変えよう」
という発想に行きつくことが出来るはずです。


【実践者として】
<夢を引き継ぐもの>
「自分が実現させたいこと」について、何度も考えて、考えて、考え尽くすこと。
人と話すときは、その会話のはしっこでもいいから、「自分が実現させたいこと」について語ること。
平和や安定を愛しながらも、いつまでも続く平和や安定はない、という事実を、つねづね自分に言い聞かせること。
誰かが問題や事件に巻き込まれたとき、無関心でいたり、口を出すだけで済ませたりすることなく、その解決のために積極的に動くこと。
そうすれば、仮に「自分の実現させたいこと」が、断念せざるを得ない状況になったとしても、誰かがその夢を受け継いでくれることでしょう。

<失敗の定義は無数>
失敗した。大変だ。 どうすればこの失敗の埋め合わせはできるのだろうか。
その方法をあわてて探すよりも、
「この失敗の一体何が問題なのか」
よくたしかめてから、対応に動くべきです。

<やればわかる>
行動を積み重ねましょう。
必要な知識や言葉は、やっているうちに身につきます。

<行動力を生む心がけ>
未知なるものを知ろうとすること、本質を見抜こうとすること。
その意識が一番、行動につながります。

<ひとつのことに狂え>
「私は絶対こうする」という思想を保てる精神状態は、ある意味、狂気です。おかしいんです。
でもその狂気を持っている人は、幸せだと思うんです。

【教育者として】
<胸躍らせる存在>
この世界には、とんでもない才能が無数にあふれている。
その言葉に勝る、励ましの言葉はありません。

<壁を楽しめるかどうか>
生まれつき才能をもった人はたくさんいます。
子供の頃は、その才能が自然に輝いています。
ですが、その才能を磨き続けられる人は本当に少ないのです。 多くの人が 「才能さえあれば、途中で行き詰まることはないだろう」 と勘違いするからです。
才能はあったとしても、なかったとしても、行き詰まるものです。
ただ行き詰まったときに、「面白い」と思えるかどうかによって、その後が決まってくるのです。

<集団の中で生きる>
清廉。どんな人といても、自分を失わない。 協調。どんな人といても、その人に調子を合わせて楽しめる。 この清廉と協調というのは、バランスが難しいものです。
清廉でいようとすれば、世界が広がらないし、協調ばかりしていると、自分を見失いやすい。 どっちがいいのでしょうか。正解はありません。
もし何かを学ぼうとするなら、清廉でも協調でも、自分の生き方に近い人物や本から学べばいいと思います。
ただ目指してほしいのは、他人の考えを尊重し認めながらも、自分の考えは周囲に流されず、はっきりと述べることができる、そういう生き方です。
そういう生き方ができれば、そこが今あなたにとって、居心地の悪い場所だったとしても、やがて心ある人物を味方につけることができるはずです。

<力が目覚めるとき>
自分の中に眠り、まだ日の目をみない人望と才能。
それを引き出してくれるのは、ほぼ例外なく自分の仲間になる人か、自分の師匠にあたる人物です。
だからこそ品格が高い人ほど、「誰と付き合うか」をいつも真剣に考え、厳しく選んでいるんです。

<人に教えるイメージ>
綿を水でひたす感じ。
赤ちゃんにおっぱいを飲ませる感じ。
お香を焚いて、香りを服や布にしみこませる感じ。
土器をかまどで焼き固める感じ。
人を導いていくときも、こんな風に自然に。


【リーダーとは】
<やる勇気よりもまかせる勇気>
まじめな人なんていくらでもいます。
しかし大事な場面で、大胆なことを実行できる人はほとんどいません。
そういう人の、細かい欠点をいちいち挙げているようでは、優れた人材をえることなんてできません。

<人物>
私が尊敬するのはその人の、 能力ではなく、生き方であって、 知識ではなく、行動なんです。

<人をみきわめる>
自分の生きる道を知る人は、いつも地道でありながら、その行動には迷いがないものです。
そして自分の言葉で、自分の行動をごまかすことを最低の恥とします。

<リーダーをきわめる道>
リーダーをきわめる道はふたつあります。
一つは知識の豊富な人や、才能のある人たちと交流すること。
もう一つは、世界中のさまざまな分野の本を読むことです。
ですが、仕事が忙しくて、それほど多くの人に会ったり、本を読んだりする時間はないとおっしゃるならば、次の六つのことを習慣にしてみてはいかがでしょうか。
一 そもそもこの組織は「何のために存在しているのか?」を考えること。
二 今、自分が与えれられている役割の中で「最も重要な果たすべき責任は何か?」を考えること。
三 「この組織が大好きで、尽くしてくれる人」が成長できるチャンスをつくること。
四 「最近うまくいっている事例」を情報収集すること。
五 何者かが自分たちの領域を侵さぬよう、外の動静を見張ること。
六 いつでも、従業員とお客さんを愛すること。それを第一に考えること。

<熱い生き方>
立場的に弱い人、うまくいっていない人にやさしくする。
両親や上司をはじめ、お世話になっている人たちに、なにかにつけ感謝の気持ちを表す。 学ぶことと実践すること、どちらも同じくらい時間を費やす。
憧れのあの人をいつか超えてやると、燃えている。
そうやって生きていれば、いつか皆に慕われる人物になることでしょう。

<腹が据わっている人のおまじない>
「一生やり続ける」 すごくシンプルですが、これほど多くを語る言葉もありません。
みだらな誘惑、未知の物事に対する恐怖、手軽な安心感、どれも乗り越えることができるのは、「一生やり続ける」
この言葉が背骨に叩き込まれている人だけです。

<ミスを認め、失敗を責める>
失敗しないことは、自慢になりません。 何も失敗していないということは、何もやっていないということだからです。
自分の立場を守ろうとしないで、あれは失敗だったと潔く認めましょう。
どんな大きな失敗でも、次に改めれば決して無駄にはなりません。

<使える部下がいないという勘違い>
リーダーは忘れてはいけません。
才能のある部下がいないのではなく、部下の才能を引き出せる人物が、まだこの場にいないだけだということを。


【死生観】
<人が動物と違う理由>
人には「五倫」、つまり”踏みにじってはいけないもの”が五つあります。
一つは、親子の愛情、一つは自分を大切だと思う人の気持ち、それから夫婦の役割を認めあう心、年上を尊敬する心、そして仲間との信頼関係です。
人が人である理由は「心」にあります。 そして、人は、人の心に触れることによってのみ、そこに進むべき道を見つけることができます。
動物には絶対に得られない、人であることの最上の喜びは
「尽くしたいもののために尽くせること」
です。

<死を想え>
「自分の命は今日で終わり」
そう思ったとたん、視界から余計なものがきれいさっぱりと消えて、 自分がこれからどこへ向かうべきか、目の前に太くて真っ平らな道が、一本伸びているんです。

<自分はどこからやってきたのか>
自分のこの身の、原点は一体どこにあるのか。
はるか昔までゆっくりと思いを馳せていくと、突如、感激の心が涌き起こり、
「よし、やってやろう」という決意が生まれます。

<大切な人のために今日できること>
今日という日は二度ときません。
死ねば、再びこの世に生まれることはありません。
だから大切な人を喜ばせるために、少しの時間も無駄にしちゃいけないんです。



松陰が理想としたのは武士の生き方だった。
士農工商という制度に守られていた武士は、何も生み出さずとも禄(給料)があったが、その代わり、四六時中「生きる手本」、ロールモデルであり続けなければいけないというのが松陰の考えだった。

武士は日常から無駄なものを削り、精神を研ぎ澄ました。
俗に通じる欲を捨て、生活は規則正しく、できるだけ簡素にした。
万人に対して公平な心を持ち、敵にすらもあわれみを欠けた。
自分の美学のために、自分の身を惜しみなく削った。
目の前にある安心よりも、正しいと思う困難をとった。
そのように逆境や不安に動じることなく、自分が信じている生き方を通すことこそが、心からの満足を得られる生き方だと、松陰は固く信じていた。
新渡戸稲造の『武士道』にも通じる考え方ではないだろうか。

松陰の言葉の中で、非常に芯を喰っている言葉をひとつ。
「物事を成就させる方法はただひとつ。 それは「覚悟すること」だと思います。」

髙橋歩の大好きな名言
『必要なのは、勇気ではなく、覚悟。決めてしまえば、すべては動き始める。』
に通じる。

自らも匹夫の勇を誇るのではなく、実践者の覚悟をもって日々精進したい。







2013年10月5日土曜日

『アイデアは地球を救う』

電通ダイバーシティ・ラボの北本さんからご紹介を受けた本。

ソーシャルデザインという「希望をつくる仕事」、すなわち社会の抱える課題に気がついて実行するのは普通の社会人にもできるんだと気づかせてくれる本。

<ソーシャルデザインの現場で発揮されるチカラ> というのが面白い。
ソーシャルデザイン向きかどうかを判断できるというものだ。
1.感知力(問題に気づく)
 ・好奇心が旺盛である
 ・自分の長所を知っている
 ・気持ちに素直である
 2.理解力(詳しく知る・感じる)
 ・視野が広い
 ・裏付け情報を調査する
 ・できることを知っている
 3.協働力(仲間を増やす)
 ・共有するのが好き
 ・派閥をつくらない
 ・友達が多い
 4.構想力(アイデアを発明する)
 ・発想力に自信がある
 ・言葉を考えるのが好き
 ・ミステリーを解くのが好き
 5.改善力(アイデアを磨く)
 ・Win-Winの構想をつくれる
 ・感情に働きかける
 ・人脈を活用する
 6.実行力(実行する・アクションする)
 ・粘り強い
 ・参加のハードルを下げる
 ・新しい流れをつくる
 7.継続力(ふりかえる・つなぐ・まわす)
 ・成果を可視化する
 ・持続可能な仕組みを作る
 ・長期的展望をもつ

さぁ、どの程度あてはまっているか。自己診断だと正しくない場合もあるので、他者評価も聞いてみたいところ。
でも、これらってソーシャルデザインに関わらず、コンピューターが発達して単純作業を人間から奪っている昨今の業務全般に必要とされている資質ではないか?



ソーシャルデザインのたくさんの事例が記載されていて、各々「背景と課題」→「アイデア」→「結果」という流れでまとめられている。
「背景と課題」というところでは社会が抱える様々な課題が数値的にも浮き彫りにされていた。

<乳がん>
・日本では、女性の15人に一人が乳がんになると言われている。
・30歳代から60歳代の女性のがん死亡原因の第1位は乳がんで、亡くなる女性の数は年々増加している。乳がんはごく早期に発見できればその95%は治すことが出来るとも言われているが、乳がんの検診の受診率が低く(約10%)、気づいた時には進行していたケースが多い。

<教育>
・世界では約1億人の子供達が学校に通えずにいる。
・15歳以上の人口のうち、6人に1人(7億7500万人を超える人々)が読み書きができないと言われていて、そのうちの2/3が女性。
・日本では7人に1人の子供が、学校で学習するための資金的支援を必要としている。

<犬猫>
・オーストラリアでは、知られることのないまま、毎年10万以上もの保護された犬が安楽死を遂げている。
・日本では殺処分される犬猫の数は年間約20万。
<水環境>
・世界人口の約8人に1人が安全な飲料水を得ることができていない。
・世界人口の40%近い人が自宅のトイレや公衆便所など衛生施設を利用できていない。
・2030年には世界人口の47%(2人に1人)が水不足の厳しい地域で暮らしていると予想される。

<エネルギー>
・1960年には58%だった日本のエネルギー自給率は、2008年にはわずか4%に。

<生物多様性>
・生命が誕生してから38億年。地球上には知られているだけで約3,000万種類の生き物がいると言われている。
・生物種の絶滅スピードは、人間のいなかった時代の1000倍とも言われている。
・両生類の42%、鳥類の40%で個体種が減少。植物の23%が絶滅危種にあり、漁業資源の14%が崩壊。珊瑚礁は2050年までに絶滅するかもしれないと予想されている。

<女性妊娠時>
・世界では毎日、約800人の女性が妊娠や出産が原因で命を落としている。そのうち、約99%が途上国の女性。

<多様化>
・LGBT(Lesbian,Gay,Bisexual,Transgender)の頭文字をとった、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)を総称する言葉。日本におけるLGBTの推定人口割合は5.2%と言われている。
・ジェンダーギャップ指数(男女格差)ランキングで、日本は135カ国中101位という低い順位。
・日本人のおよそ5%が、何らかの障害を有していると言われている。
・2040年、日本人の3人に1人が65歳以上の高齢者になる。


ソーシャルデザインの色んなアイデアが紹介されているのだが、その中で一番面白いと感じたものをご紹介。

<Smoking KIds>
タイでは、子供達が間違った行いをしていたら大人が指摘し、ただすという文化がある。 タイのオフィス街や繁華街の路上でタバコを吸っている大人たちのもとに、突然タバコを手にした幼い子供達が「ライターを貸してくれ」とやってくる。
もちろん、どの大人もライターを貸したりはしない。そして、子供達に、喫煙は悪いことだ、有害なことだと諭す。
「タバコを吸うと早死にするぞ」「肺がんになるわ」
すると子供達は自分の健康を心配してくれた大人達に手紙を渡して立ち去る。
そこにはこんなメッセージが。
「あなたは僕のことを心配してくれるのに、なぜ自分のことは心配しないの?」
ほとんど全ての大人が、その手紙をみて吸っていた煙草を捨てた。手紙を捨てた人はいなかった。
このキャンペーンは、リアルな禁煙へのメッセージを喫煙している本人に認識させるという、喫煙のための最も効果的な方法だった。

ここにあるのは、「愚行権」といったような”言い訳”ではない。
教えることこそが一番学ぶことである、というのを体現しているアイデアであるのが素晴らしい。


「今の小学生が大人になる頃には、2/3の子供が今は存在しない職業に就く」という予測があるらしい。
聞いた時には、そりゃ多すぎではないのか?と思ったが、ソーシャルデザインの事例を見ているとそうなる予感がしてこなくもない。
後は、このソーシャルデザインのアイデアをいかにビジネスモデルとして成立させるかだ。
それには老練な大人のノウハウが活きてくる気がしている。




2013年9月30日月曜日

『無印良品は、仕組みが9割』

良品計画会長の松井忠三氏の著作。
無印良品といえば、マス媒体に頼らずにブランド化を達成した珍しい企業というイメージがあるが、その裏には地道とも言えるマニュアル文化があった、という話し。

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無印良品の店舗で使っているマニュアル、MUJIGURAM。
店舗開発部や企画室など、本部の業務をマニュアル化した、業務基準書。
この2つのマニュアルには、経営から商品開発、売り場のディスプレイや接客まで、すべての仕事のノウハウが書かれている。
MUJIGURAMは2000ページ分にもおよぶ。(業務基準書はその3倍!)
これほどの膨大なマニュアルをつくったのは、「個人の経験や勘に頼っていた業務を”仕組み化”し、ノウハウとして蓄積させる」ため。
個人の経験と勘を蓄積するのは、チームの実行力を高めるため。
「それぐらい、口で言えばわかるのでは?」と思われるようなことまで明文化する。これは”仕事の細部”こそ、マニュアル化すべきだという考えがあるから。
マニュアルは毎月、更新されていく。

マニュアルを作れる人になるのが、無印良品で目指すところ。
マニュアルは社員やスタッフの行動を制限するためにつくっているのではない。むしろ、マニュアルをつくり上げるプロセスが重要で、全社員・全スタッフで問題点を見つけて改善していく姿勢を持ってもらうのが目的。

機動力のある現場にするためには、仕事を標準化すること。
お客様がどこの無印良品に行っても同じ商品を同じサービスで受けられるようにする最低限の基準を定めるため。
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マニュアル化というと、画一的な管理をイメージするが、無印良品におけるマニュアルは日々更新される柔軟なものである。そして、どの店舗(どの顧客コンタクトポイント)でも同様の商品、サービスを提供できるのでブランド戦略としても有効だと言える。

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仕事の「何、なぜ、いつ、誰が」を具体的に記載することで、会社の理念や価値観を統一する。
コミュニケーションとは「言えば伝わる」のだと思いがちだが、実際には言ってもなかなか伝わらない。
明文化して初めて意識できる。
さらにそれを繰り返し教えることで、本当の意味で「体得した」というレベルになる。
仕事の基準はリアルタイムで改善するのがポイント。
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マニュアルの話しの他に、松井氏の経営理念が随所に書かれている。
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優秀な人材は簡単に集まってくるものではない。
無印良品では、「人材委員会」「人材育成委員会」という二つの機関をつくっている。
人材委員会は異動や配置を検討し、人材育成委員会は研修などを計画する。
人材は適材適所で育つ。
人材育成はそれぞれの組織に合った方法があるが、いずれにしても重要なのは「組織の理念や仕組みを身体にしみ込ませた人材」を育てること。
一般的な「出来る社員」を育てても、自社に貢献するわけではない。

人は一度の失敗からは学ばない。二度失敗してようやく学ぶもの。
一度失敗して改善されなかった場合、多くの場合はそこで直らないものなのだとあきらめるのかもしれない。けれど、二度失敗して初めて問題の深刻さに気づき、原因が何なのかを探れる姿勢になれる。

社内のITシステム構築時は「7割できていればよし」。後は使いながら機能を変更したり追加したりする。 特にITの分野は変化が激しいので、開発に数ヶ月かかっていたら、その間に求めれる機能が違ってしまう。走りながら考えないと間に合わない。

行き過ぎたホウ・レン・ソウは、人の成長の芽を摘んでしまう行為。

あせらず、くさらず、おごらず

莫煩悩・・鎌倉時代の幕府の執権 北条時宗は、モンゴル帝国に侵攻される元寇に悩まされていた。二度目の元寇の前、建長寺を訪ねて無学祖元に教えを請うた時、祖元は「莫煩悩」と書いて時宗に渡した。
煩悩するなかれ。迷わず、悩まず、ただ一心に目の前のことに取り組めという教え。
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マニュアルというものもちゃんとした理念をもって継続的に活用することで血の通ったものとなり、ひいてはブランド構築にも繋がっていくという事実(無印良品はそれを実践しブランド構築を行えている!)が新鮮であった。






2013年9月29日日曜日

『運命のバーカウンター』

リラクゼーションサロンを起業した安井義男がバー「リアルフリー」でベロベロ社長 イブと出会い、色々な薫陶を得ながら事業を伸ばしていくストーリー。

イブさんの台詞は奥が深いのだが禅問答のようなところがある。
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○20年前ならブルーオーシャンを目指してもよかった。ネットも発達していないし、後発が出てくる前に自分がマーケットを制圧すりゃ勝てた。
だが、今はすぐに仕組みをつくられて真似される。そうなったら行きつく先は不毛な蹴落としあい。
自由ってのは罠。制約なく、何でも自由にやれると思うから失敗する。
制約やルールがある中で活躍できる奴は一流。最初はみんなそこで鍛えられる。だが、そこで勝手満足していたら一流どまりで終わる。
その次にルールがない中で勝てたら超一流。
けど、最初からルールも競合もないところを選んで楽して何かしようとしてるやつは一流にすらなれない。永遠の二流だ。
○女心が分かるのと、女心を掴むのは違う。 経営も同じ。分かるのと掴むのは違う。
○経営者にアフター5もなければゴールなんてのもない。誰でもなろうと思えば経営者にはなれる。ただ、終われないゲームに参加する覚悟があれば。
○ものごとがうまくいかないってのは、大抵タイミングを逸している。やるべき時にやるべきことをやらないで、やるべきでない時にやらないでいいことをやっている。だからうまくいく訳がない。タイミングを外したのなら、やらない方がいい。逆に言えば、今日がダメでも明日の方がうまくいくかもしれない。
○スティーブ・ジョブズ曰く、方向を間違えたり、やり過ぎたりしないようにするには、まず、本当は重要でも何でもない1000のことにノーと言う必要がある。
○AVが好きだからといって、それを仕事にする奴はいない。いるとしたら、そいつは本当のバカか本当の事業家のどちらかだ。 だいたい好きなことを仕事にしてうまくいくという奴らに限って表面しか見えていない。一瞬はうまくいっても、好きなことに裏切られたら立ち直れない。 ビジネスとしてやるなら”好きの壁”を越える必要がある。好きで始めたことは自分の満足したところで終わってしまう。好きなことに裏切られるのは怖いから冒険もできない。 常に波も来ない自己満足の湾の中をグルグル回っているだけの遊覧船だ。
○自分が持ってないものを持っている仲間をどれだけ集められるか。優秀な奴を集めるとかそういうことではない。 競争させて人が伸びるというのも嘘。桃太郎がイヌ、サル、キジを競わせたか? それにあいつらは、実はそんなに大した仕事はしていない。イヌは鬼のケツに噛み付き、サルは鬼の背中を引っ掻き、キジはくちばしで鬼の目をつつく。逆に言えば、それで十分だったってこと。なのに奴らにもっと他の攻撃も覚えろと競争させてたら、イヌ、サル、キジは嫌になって仕事を放棄しただろうな。
○経営者なら、青いマグロと黒いバナナを売れ。 (黒いバナナは見た目が悪い。でも、その見た目の悪さを捨てられたら、あれほど甘いバナナはない。青いマグロは思いつき。)
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正直ベンチャーでも経営者でもない自分にとってどれだけの価値がある言葉なのかは分からないが、親の説教(そして冷や酒)と一緒でそのうちジ〜ンと分かるようになるのだろうか。





2013年9月28日土曜日

『100円のコーラを1000円で売る方法3』

人気シリーズの第3弾。
シリーズ1作目は「顧客中心主義への回帰」をテーマにマーケティングのエッセンスについて、シリーズ第2作目は「成功体験からの脱却」をテーマに、競争戦略や仮説思考・論点思考について、そしてこの第3作目では「イノベーションとリスクへの挑戦」をテーマに、グローバル化、デジタルマーケティング、企業のM&Aについて述べられている。

相変わらず、ビジネスエッセンスを物語として表現しているので非常にとっつき易い。

著者の永井孝尚氏が登場人物に言わせている日本市場観が面白い。
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すべての市場は特殊。日本の市場も、そのような特殊な市場の中の一つに過ぎない。
日本市場が特殊な点は、ユーザーの要求レベルがおそらく世界で一番高いということ。日本のユーザーは妥協しない。その要求に個別に答えようとすると企業は高コスト体質にならざるを得ない。
また、日本向けにカスタマイズされすぎてグローバル展開できない
こうした市場の特殊性に対応するには、
①企業はユーザーの高い欲求に、個別にカスタマイズせずに標準品で対応して世界展開すること。
②意思決定のスピードを速めること。
が肝要。
国内市場の縮小が確実な今、グローバル市場で勝負しない日本企業には緩慢な死が待っているだけ。

ネット社会に入って、世の中の動きは加速する一方。昔はヒト・モノ・カネが経営資源だった。情報社会になってそれに情報が加わった。さらにネット社会になって「時間」が5つ目の貴重な経営資源になっている。しかし、あまりにも多くのマネジメント層がこのことに気がついていない。 間違っていてもいいからすぐに意思決定をして実行し、本当に間違えたらすぐに修正すればいい。

ネット社会になって、あらゆる情報が瞬時に伝わるようになって、生産するのは必ずしも「現地」でなくてもよくなった。
もう一つは、自由化の流れ。モノの移動に制限がなくなり、金融が自由化された結果、企業は「最も安いところで調達し、最も安いところで生産したモノを、全世界に向けて売る」ことができるようになり、世界全体でサプライチェーンを最適化することが可能になった。

AppleもAmazonも実態は、製品とサービスが一体化した、『サービス製造業』。そのプラットフォームを世界全体で統一している。 つまり、ハード本体はノー・カスタマイズで、サービスと一体化した世界共通仕様の単一製品を世界に供給している。
我々に必要なのは、ローカライズしなくてもすむような製品力をつけること。
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世の中の流れと日本市場を非常に分かりやすく示していると思う。


『イノベーションのジレンマ』においてクレイトン・クリステンセンが、大企業ほど自らの商品・サービスを乗り越えるものを作り出すこと(自己否定)が出来ずに、新たに現れた競合に飲み込まれているとしているが、その自己否定を行ってきた模範の企業として著者はAppleを挙げている。
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1970年代にパーソナルコンピューターを生み出した。
2000年まではiMacに代表されるパソコン事業が中心。
2001年に音楽プレイヤーのiPodを発表。iTunesという革新な仕組みと組み合わせで瞬く間にヒット商品へ。
2007年にiPhone発売。スマートフォンという新しい市場を生み出す。iPhoneは音楽プレイヤーとしても使えたので、iPodの売れ行きは鈍る。
2010年にiPad 発売。タブレット市場が立ち上がり、パソコン市場を食い始める。
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こうしてみるとAppleは、自社が生み出したイノベーションを、自ら乗り越えてきている。だからスティーブ・ジョブズは神様と言われるのだろう。


他にも色々なビジネスモデルエッセンスが物語で学べて面白い。
BATNA(Best Altenative To Non-Agreement)『交渉が成立しなかった場合の次善策』という概念は知らなかった。
交渉は強いBATNAを持っている方が勝つということ。

シリーズものでボリュームも出てきたので、映画化とかされて研修に使われるようになるかもしれないと思った。







2013年9月18日水曜日

『株価暴落』

今をときめく『半沢直樹』の著者、池井戸潤の著作。
会社の同僚が貸してくれた。
やはり銀行ものなのだが、犯罪と交えて描かれる感じが宮部みゆきの『火車』を彷彿させる。
最後のどんでん返しも面白い。
つるつると通勤時間で読んでしまった。

2013年9月17日火曜日

『戦略を、実行できる組織、実行できない組織。』

今自分が仕事で非常に悩んでいる内容について、示唆に富む内容を与えてくれた素晴らしい本。

実行の4つの規律(4Dx)4Disciplines of eXecutionを実践することで、戦略を実行に移すことが出来るというものだ。





ミッション
  ↓
ビジョン
  ↓
戦略(サイン型、行動変化 、竜巻)
  ↓
総合的な戦い(WIG)
  ↓
 局地戦
チームレベル

リーダーがチームや組織を大きく前進させるためにとるイニシアチブは、大きく2つに分けられる。
ひとつは承認してサインすればすむ戦略(サイン型戦略)。
もうひとつは、行動の変化を求める戦略(行動変革型戦略)である。

面白いのは「竜巻」という概念。
実行を邪魔する本当の敵は、日常業務である。これを「竜巻」と名付ける。
竜巻と戦略目標は全く別物である。それどころか、時間、資源、労力、注意を奪い合い敵対関係にある。

サイン型戦略はリーダーの決断があれば実行することができる。
4Dxは竜巻に巻き込まれながら、行動変革型戦略をいかに実行するのかの方法論である。


実行の4つの規律(4Dx)4Disciplines of eXecutionについて具体的に述べる。

第1の規律:最重要目標にフォーカスする
チームがより多くのことを達成するために、リーダーはより少ないことにフォーカスする必要がある。
これを最重要目標(Wildly Important Goal:WIG)と名付けて、何よりも重要な目標であることをチームにはっきりと示す。

最重要目標を決める時の問いかけは、「何が最も重要か?」(「最も重要な優先課題は何か?」)ではない。
最初に問うべきは、「他のすべての業務が現在の水準を維持するとして、変化することで最大のインパクトを与えられる一つの分野は何か?」である。
一つか二つの最重要目標を決めてしまったら、チームがそれ以外のことをないがしろにするのではないかと心配したくなるかもしれない。しかしチームの労力の80%は竜巻を維持することに使えるのだから、そんな心配が無用だ。


第2の規律:先行指標に基づいて行動する
目標に到達したいなら、インパクトの強い活動を特定し、それを実行する必要がある。
どのような戦略を推進するのであれ、その進捗と成功は、二種類の指標で測られる。
遅行指標と先行指標である。
遅行指標とは、最重要目標を追跡する測定基準。売上高、利益、マーケットシェア、顧客満足度は全て遅行指標。これらの指標のデータを手にした時には、そのデータをたたき出した活動は全て過去のものとなっている。
先行指標は、基本的に遅行指標を成功に導く新たな活動を測定する。
適切な先行指標には2つの基本的な特徴がある。目標達成を予測できること、そしてチームのメンバーが影響を及ぼせること。


第3の規律:行動を促すスコアボードをつける
第3の規律は、意欲的に取り組むための規律。
リーダーはコーチ用の複雑なスコアボードを好むものだが、選手専用のスコアボードはシンプルでなければならない。

「選手のスコアボードの根本的な目的は、選手に勝ちたい気持ちを起こさせること」
スコアをつけなけば練習だけで終わる。


第4の規律:アカウンタビリティのリズムを生み出す 第4の規律で戦略実行を現実のものにする。 第4の規律はアカウンタビリティ(報告責任)の原則に基づいている。お互い報告する責任を負い、その責任を一貫して果たさなければ、目標は竜巻に吹き飛ばされてしまう。
アカウンタビリティのリズムとは、最重要目標に取り組むチームが、定期的かつ頻繁にミーティングをもつことを意味する。
ミーティングは少なくとも週1回、長くても20〜30分程度が理想。
チームのメンバーはお互いにリズムよく定期的に報告しあえなくてはならない。毎週、「スコアボードに最大のインパクトを与えるために、竜巻の外で来週できる一つか二つの重要なことは何か」という簡潔明瞭な質問に一人ひとり答える。 前週の約束を果たしたかどうか、スコアボード上で先行指標と遅行指標はどう動いたか、来週は何をするのかを、メンバー一人ひとりが数分以内にまとめて報告する。
第4の規律の秘訣は、定期的なリズムを維持すること、そしてそれぞれのメンバーが自ら約束をすること。


すなわち、実行の原則は、フォーカス、レバレッジ、エンゲージメント、アカウンタビリティの4つである。


<プロセス指向の先行指標に関する注意事項>
◎WIGが何かのプロセスに関係しているのであれば、仕事をプロセスのステップに分けてみることは効果的である。
プロセスのどこかに必ず、テコの作用点がある。パフォーマンスが伸び悩んでいるステップだ。そこを先行指標にすれば、チームはそのテコの作用点に力を集中的にかけることができる。
☞これはエリヤフ・ゴールドラット氏の制約理論(Theory of Constrraints)におけるボトルネックを先行指標とするということと同じ考え方。

◎プロジェクトのマイルストーンは適切な先行指標か?
WIGが一つのプロジェクトなら、プロジェクトのマイルストーンも効果的な先行指標になるが、マイルストーンが6週間未満の細切れ短期間のものだと、一般的には先行指標として十分に機能しにくい。
☞プロジェクト型の場合もボトルネックとなるプロセスを先行指標として設定することで全体のプロジェクトの進捗をコントロールできることになる。これはプロジェクトのスケジュール管理を行うにあたって、一番ネックになる行程を常に監視しつづけることで、全体スケジュールを管理するという考え方であり、自分もマンションの工程管理では活用させていただいた考え方だ。


理屈上では非の打ち所のないこの方法も、実際ではWIGの設定の仕方は仮説に基づく”賭け”である。著者達はそれを素直に認めている。
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組織全体の最上位WIGを選ぶのは、一足の靴を買う時と似ていなくもない。履いて少し歩いてみなければ、自分の足にしっくりするかどうかはわからない。
だから、WIGの決定をチームに急がせてはならない。しっくりなじむWIGを選び、各チームのリーダーに少し試させてみる。
そうしてはじめて、各チームは組織のWIGの達成に貢献できるチームWIGを検討できる
組織全体に試してみて、どこかぎくしゃくしていると感じたら、その時は別のWIGを選べばいい。
最上位のWIGは組織として真剣に取り組む最重要目標であるから、経営陣としてもただ一つに決めることには少なからず躊躇するものである。多くの組織が本当のフォーカスを決められない理由はここにある。WIGを選んだ後でも再考できる自由があれば、チームは心置きなくこのステップに取り組めるだろう。
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やはり、ここまで方法論が確立していても最後のところは「やってみなはれ」の精神なのだ。


そして、最後に関心したのが、実際に企業にこのプロセスを定着させるやり方だ。
フランクリン・コヴィー社では、コンサルタントが4Dxを教えながら組織全体で立ち上げる方法はとらず、リーダーが自分のチームに4Dxを導入できるようにコンセプトを教え、認定するプロセスに重点を置くことにした。(リーダー認定)
・後で自分が教えなければならないことを学ぶとなると、誰でも真剣に学ぶものである。実際、何かを学ぶのに最も効果的な方法は他人に教えることだ。
・誰でも何かを教える時は、自然とそれを推奨している。
・4Dxの推奨者となってリーダーは、自分自身がその手本になろうとする。4Dxを信じていないリーダーは、たとえ4Dxを導入しても、4Dxに反する行動をとり、実行に一貫性を欠く。
・リーダーはチームのメンバーから信頼されているから、チームは本気で4Dxに取り組む。4Dxが本物のプロセスなのかどうかを判断するとき、チームのメンバーはまず、リーダーを注視する。リーダーが4Dxを教え、推奨し、立ち上げるのであれば、メンバーは4Dxを信じるのだ。

受講者を集めて講義をするのではなく、講師を養成するための講義を行うという発想は前田出氏の「新家元制度」にも通じる考え方だ。

日常業務を「竜巻」ととらえる概念。遅行指標ではなく先行指標に着目し、その指標を日々管理し続けるという方法論は非常に参考になった。

実際の業務にどこまで落とし込めるか、後は実践あるのみ。






2013年9月7日土曜日

家電量販店ヘルパー派遣


先日エアコンがカビだらけになったということで近所の家電量販店に行ってきた。
その際、某メーカーからのヘルパーさん(ちゃんとメーカー名が分かる服装をしていた)が対応してくれたので色々ヒアリングしてしまった。

仮にSさんとすると、Sさんはメーカーの契約社員で、そのメーカーからヘルパーとしてこの家電量販店に来ているらしい(「メーカーとは3ヶ月以降もずっと契約を続けてもらってます」という発言があった)。

もうこの家電量販店でのヘルプ暦6年目。長い人だとこの家電量販店が出来てからずっといるヘルパーさんもいる。短い人だと季節モノ対応で3ヶ月とかで終わる人もいるらしい。
やはり派遣元メーカーの製品から推すが、昔のようなゴリ押しはしないとのこと。
都内だと全メーカー揃い踏み状態。地方都市だと2〜3社。
新製品の勉強会(研修)は大きいのが年2回。後は小さいのがこまごま。

ノルマは家電量販店側からは来ず、メーカーから来る。
(これは2007年頃にヤマダ電機に、大規模な小売業者が「優越的な地位」を利用しメーカーに対して人材派遣やリベートを強要することを禁止している独占禁止法違反なのではないか、ということで公正取引委員会の検査が入ってから、”きちんと”指示命令系統はメーカーにあるということにしている、ということであろう。)
http://toyokeizai.net/articles/-/256

商品の値段の変更は朝晩で違うことがある。 (実は今回、午前中に話しを聞きに行った時と値段が変わった商品があった。エアコンについてこの時期午後から価格変更というのは珍しいらしい。)
価格変更指示は家電量販店の本社から来ているようだが、ヘルパーの身としてはよく分からないとのことだった。

ちなみに、エアコンの寿命は修理で保たせると10年くらい。
今回カビがひどいという妻の言で3台一気に換えることにしたのだが、ハウスクリーニング業者に任せるのもありだったようだ。
業者にもよるが、ちゃんとバラしてやるところだと結構キレイになるし、メーカーのオーバーオールだと新品並みにキレイになるらしい。

待て待て、3台一気に換えちゃったら、10年後、また一斉に壊れるのでは・・



2013年9月1日日曜日

レジカゴバッグ


いつものスーパーで買い物をしていたら、後ろの人が入れ替え先の買い物カゴを持参のバッグで巻き込むようにして、レジの検品を通過していた。
確かに、買い物カゴに入れてもらってもすぐに別のスーパーの袋もしくは持参のエコバッグに詰め替える(しかも大抵重いものが下に入っているので一度全体をひっくり返す感じになる)ので、結構斬新と思ってみていたら今や普通に『レジカゴバッグ』という名称で販売されているモノらしい。
結構スーパーを利用しているつもりだったが、このレジカゴバッグを実際に使用しているのは初めてだった。

ちなみに、気になって見ていたら、やはり詰めたものをそのまま持って帰ることもあり、お客側の奥様がレジ脇でレジのおばさまが入れるのを更に入れ替えたりしていて、ちょっとレジの効率は悪化している感じだった。

レジの効率は悪化し店舗サイドの効率は下がるが、顧客全体が入れ替える手間を省けるという点で、全体的には効率的なのだろう。
セルフレジでこの『レジカゴバッグ』を活用したら○円引き、とやれば店舗側も顧客もwin-winとなって本当の全体最適になるような気がする。

ヘリコプターを使った救助訓練見学

先日、某タワーマンションの屋上でヘリコプターによる救助訓練があって、初めて間近で見る機会を得た。

まず、ヘリコプターの近づき方だが、上から下降してくるのではなく、高さ一定で水平移動しながら近づいてくる。

まずはロープを落とした後、救助隊員が一人急降下してくる。
そして、救助隊員一人が降りた後、そのロープはヘリコプターからヘリポートに向けて投げ下ろされる(これがちょっと意外。そのロープの役割はその後明らかになる)

その後、再度、先端に救助者を括り付けるための器具が付いたロープが降ろされる。
そのロープの先に救助者(今回の訓練では人形)が括り付けられ、そのロープが巻き戻されるのだが、先ほど投げ捨てられたロープが救助者を括り付けられる器具に結びつけられていて、ふれ止めとして下に降りた救助隊員が握りしめて救助者が揺られないように対応していた。

救助者(人形)が救助された瞬間。
左下に凧の紐を持つかのように振れ止めを行っている救助隊員が見える。


そして救助者がヘリコプターに乗せられた後、先のふれ止めとして活躍したロープは再度ヘリコプターから投げ捨てられるのであった。
(恐らく、巻き戻している時間がないため。)

この後、ロープはヘリコプターから切り離されて
ヘリポートに向けて投げ捨てられる。


というわけで、このやり方だと最初に降りてきた救助隊員は救助者と入れ替わりでヘリポートに残るという形になる。

ちなみにこの訓練でどのくらいの燃料を消費したのか気になって調べてみた。
東京消防庁のちどり(13席)だとすると燃料消費量350L/hとのこと。
20分消防署(?)を飛び立って訓練を終えて戻るまでをざっくり20分と想定すると、120ℓ弱の燃料消費となる。さほどビックリするほどの燃料代ではない感じ。


もし大震災による救助の場合、救助者は一人とは限らないし、救助を要請するのはこのマンションだけではないだろう。
そう考えると、救助(公助)を待つのではなく、家具転倒防止等の予防策(自助)とマンション内での助け合い(共助)で対応するのが現実的であり、そのための訓練等は必須だと感じた。


2013年8月25日日曜日

柏の葉 ピノキオマルシェ

柏の葉恒例、ピノキオマルシェに行ってきた。
今回は「かしわ街まるごとキッザニア」と共催とのことで、盛り上がっていた。
仕事をするピノキオ達とお客さんで混み合う
ららぽーと柏の葉のクリスタルコート


柏会場が1700組の枠に4000組超の予約。
今回完全予約制の柏会場であぶれた人も先着順の柏の葉に流れ込むことが想定されたが柏の葉のお仕事枠は先着200組。運営側は相当準備にぴりぴりしたようだ。
当日の仕事枠はあっと言う間に埋まって、遊ぶ方も1000組に対応出来るようにしたとか。
見えないところでの運営サイドの努力には頭が下がります。



今回は田中中学校を中心にピノキオOBが事前の準備に参加。
当時小学生で参加者していた子供達が、成長して企画運営側に回るという、まさに正統的周辺参加論を地で行く取り組み。素晴らしい!!



今年は辻仲病院に加えて、国立ガンセンターも参加。
 看護婦さんの上着をそのまま活用しているので子供が着るとちょっとミニ風になっちゃってるのはご愛嬌。


次回は11月23日とのこと。
参加する側だった子供達が成長して、企画運営側に廻るという素晴らしい構図が出来始めているのも継続しているから。
継続は力なりで、頑張って欲しい。



2013年8月12日月曜日

マンハッタン紀行 その6


最終日は、特に予定を組んでいなかったら、中学・高校時代のNY在住の同級生がFBで今こちらに来ていると知って連絡をしてきてくれた。
という訳で朝飯を一緒に食べることに。
懐かしい話しから最新のNYの話しまで。
FBってすごい、と思わざるを得ない。

待ち合わせはグランドセントラルステーション。
すごい大空間。



 ガイドさんに教えてもらったJFK空港のシェイク・シャックでハンバーガーを食べる。
小振りだけど結構いける。マンハッタンのお店は行列しているらしい。

帰りの飛行機で、これまたFBでNYに来ているという情報を得ていたスパイラルのOさんとばったり遭う。


<NYで気づいたこと>
・あまり言われないが、NYマンハッタンは臭い(夏だから?)。正直ゆったりと暮らすという雰囲気(香り)ではない。
・地下鉄にはコインロッカーがない。
・NYkerは気が短い。だから信号は守らない。
・NYはクレジットカード社会。メトロカードチャージでもZIPコードを要求される。スーパーでも、サインが、ペン入力。 
・NY 摩天楼と古い街並みが共存する街。人種もるつぼ。それが当然のごとく格差が存在する街。
・NYではスタバはテイクアウトがメインの使い方。 Macよりもスターバックスの方が多い。 スターバックスは名前を聞かれる。
・NYerは傘ささない。
・NY、トミー・リー・ジョーンズそっくりさんが多い。。 


最後の方は、よく分からないが非常に刺激を受けた1週間であった。
英語勉強しないと、またチケット売り場の女の子にバカにされちゃうぞ。頑張ろう。