2013年11月10日日曜日

『人を動かす、新たな3原則』

モチベーション3.0のダニエル・ピンク氏の最新刊。
内容がスゴく濃いし、目から鱗の知見が満載の良書。

ダニエル・ピンク氏によると、今我々の大半は実は意識せずに広義の「セールス」(売らない売り込み)を行っているらしい。

クァルトリクス社による職場の実態調査によると、
1 現在、職場で過ごす時間の40%が、売らない売り込み〜購入行為に誰一人関与せずに、他人を説得し、影響を与え、納得させること〜にあてられている。広範な職業にわたって、一時間ごとに約24分が人を動かすことに費やされている。
2 たとえかなりの時間を費やす必要があるとしても、この側面は仕事で成功を収めるうえで不可欠だとみなされている。
ということが判明した。

以下の四つの質問をしてみて欲しい。
1 商品やサービスの購入を人に勧めることで生計をたてているか?
2 独立して働くか、副業であっても何か自分で事業を営んでいるか?
3 仕事にスキルの弾力性が求められるか?つまり、境界と役割を超える力、専門外の領域で働く能力、終日、多様な業務をこなす能力が求められるか?
4 教育か医療の分野で働いているか?
全ての質問にNOでなければ、あなたは「売らない売り込み」のセールスの仕事をしているということだと、著者は言う。


セールスの取引の金言ABC「Always Be Closing(必ず契約をまとめろ)」、は一部ものしかセールスに関わっていない、買い手が最小限の選択肢や情報の非対称性に直面している時代の過去の金言である。
現在では、同調力(Attunement)、浮揚力(Buoyancy)、明確性(Clarity)という三つの特質が21世紀の環境で効果的に人を動かすために必要とされる新たな条件だ。
ちょっと正直、無理クリABC合わせにした感も否めないが、内容的には納得だ。


【同調力】
わずかでも力を付与された感覚を味わった者は、他の人の観点に同調しにくく(「視点取得」ができにくく)なる(それに、おそらくできなくなる)ということが調査結果から分かっている。

<視点取得と共感>
視点取得は認知的能力で、主に思考に関するもの。一方共感は感情的な反応で、主に感情に関するもの。非常に近いが、完全に同じではない。
視点取得と共感のどちらがより交渉における成果を上げるかという実験が、ガリンスキーとウィエイアム・マダックスにより行われた。
結果、視点取得の立場を取る者が、自身の物質的利益を犠牲にすることなく、最高レベルの経済的効率性を獲得した。一方、共感も有効ではあるが、視点取得ほどではなく、創造的解決策と自己利益の両方を見いだそうとすると不利になる場合もあった。
最終的には、相手の頭の中に入り込む方が、自分自身の心の中に相手を入れるよりも、利益をもたらすということだ。

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外向的な人がセールスパーソンに最適という概念はほぼ自明の理とされているが、実は、その概念が真実だという証拠はほとんどない。
外向性は販売量とは何の関係もない。
それどころか、外向的傾向が強すぎると、実際には成績の低下に繋がる恐れがあることが、その他の調査により裏付けられるようになってきた。
セールスパーソンに一番打撃を与える行動は、情報に疎いことではなく、行き過ぎた自己主張と熱意のせいで、顧客に頻繁に接触を図ることだ。外向的な人は、自分で自分の足を引っ張る傾向がある。
内向的な人は「検査向き」で、外向的な人は「対応向き」という人もいる。
もっとも同調力があるのは、両向型のタイプだ。
両向型の分布は全人口の中で最も数の多い。すなわち、我々の大半は生まれながらにセールスパーソンなのである。
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実は外向的な人が必ずしも営業向きではない、というのは薄々感じていたことではあった。車にしても、保険にしてもスーパー営業マン(ウーマン)は必ずしも押しの強い人ではなく、顧客の話しをよく聞き、そしてちゃんと顧客のためのコンサルを行う人だからだ。
(全体的なボリューム層である)両向型のタイプが、実は「セールス」に必要な「同調力」を最ももっているということだ。


【浮揚力】
訪問販売に出ると、いつも「拒絶の大海」に直面する。
この拒絶の大海の真ん中で沈まずに浮かぶ方法が、他者を動かす上で必要不可欠な二番目の特質だ。これを「浮揚力」と名付けた。

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ポジティブなセルフトークはネガティブなセルフトークよりも効果的だ。
ところが、それよりも効果的なセルフトークは、単に感情面を変化させるにとどまらない。言語学上の分類も変わる。平叙文から疑問文になるのだ。
イリノイ大学のイブラヒム・シネイ、ドロレス・アルバラチン、南ミシシッピー大学のケンジ・ノグチが2010年に実施した一連の実験で「疑問文形式のセルフトーク」の有効性が確認された。
その理由は二つからなる。一つには、疑問文という形式が、答えを引き出す役目を果たしているからだ。しかもその答えの中に、任務実行の戦略が含まれるのだ。
二つ目の理由もこれに関連する。疑問文形式のセルフトークは、自発的、または内発的動機による目標追求の理由を考えるように促す可能性がある。

豊富な調査結果が証明するように、外部からの圧力よりも内部からの選択に動機づけられた方が、積極的に行動する傾向がある。
断言的なセルフトークは、動機を回避する恐れがある。質問形式のセルフトークは、行動選択の理由を引き出し、その理由の大半は自己の内部から生じていることを思いださせる。
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ポジティビティ研究の第一人者 ノースカロライナ大学のバーバラ・フレドリクソンによるとネガティブな感情は次第に人の視野を狭め、当座の生存を目的とした行動へと駆り立てる(怖いから逃げる、頭に来たから闘う)。 対照的に、ポジティブな感情はこれと相反する方向に働く。ほかのどのような行動が可能か着想する力を拡張し、意識を幅広い思考に向けて開放させ、我々の受容力と想像力を高めるらしい。

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ポジティビティの黄金比率 ポジティブな感情とネガティブな感情の比率が3対1を上回ると一般的に人生を謳歌できるようになる。
一方でフレドリクソンとロサダは上限があることにも気づいた。
比率が高すぎる場合は、低すぎる場合と同様に非生産的になる。
比率が11対1に達すると、ポジティブな感情は有益どころか有害な影響を及ぼすようになった。人生が底抜けの楽天家による無知の祭典と化し、自己欺瞞が自己鍛錬を抑え込むようになる。
「適切なネガティビティ」は必要不可欠。それなしでは、ふるまいのパターンは硬直化する。ネガティブな感情は、自分の行動に対するフィードバックや、機能することと機能しないことに関する情報、向上する術を教えてくれるのだ。
人々の健全なポジティビティ比率を、フレドリクソンは、矛盾する二つの力、つまり浮力と重力の調和とみなす。
「浮力は、人を高く押し上げる目に見えない力で、重力はこれと反対に作用し、地上に引きつける力だ。抑制のない軽さは、浮ついた、地に足のつかない、非現実的な状態にする。抑制のない重厚さは、度重なる苦難に倒れて立ち上がれなくする。それでも、この二つが適切に組み合わさると、二つの相反する力により、沈まずに浮揚したままでいられる」

「この人たちの心を動かすことができるだろうか?」
社会科学者が突き止めたように、疑問文形式のセルフトークは断定的セルフトークよりも有益であることが多い。
けれども、質問を投げかけたら、迷子の風船のようにただ宙に浮いたままにしておいてはいけない。その質問にこたえること〜率直に文字にして。
質問に対する答えがイエスの理由を五つ書き出す。
その理由から、任務遂行に必要となる効果的な戦略に気づいて、単なるアファーメーションよりも、確固とした揺るぎない基盤が得られる。
求めよ(ask)、さらば与えられん。
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【明確性】
明確性とは、見えていなかった様相を明らかにして、おかれた状況を理解できるようにする能力で、それまで存在に気づかなかった問題を突き止める能力のことだ。

優れたセールスパーソンは問題解決に長けた人だと、長年にわたり言われてきた。
しかし、特定の人だけではなく誰もが情報を豊富に入手できる現代社会では、その能力の重要性は以前よりも低い。
自分の問題を正確に把握していれば、たいていは誰の助けも借りずに、自力で必要な情報を探して決断を下せるものだ。

一方で、本当の問題を取り違えているとき、はっきり把握していないとき、あるいは皆目検討がつかないときに、他者の助けは大いに役に立つ。
そのような時、人の心を動かすために必要なのは、他人の問題を”解決”する能力よりも、問題を”発見”する能力なのである。

「発見された問題の質は、得られた解決策の質を予見させる」
人を動かすために”問題を認識する”には、長年利用されてきた二つのスキルを今までとは逆さまにする必要がある。
一つ目のスキル。かつて、優秀なセールスパーソンは情報を”入手”することに長けていた。現在、優秀なセールスパーソンは情報を”監督する”ことに長じていなければならない。
二つ目のスキル。かつて、優秀なセールスパーソンは疑問に”答える”ことに長けていた。 現在、優秀なセールスパーソンは、”訊ねる”ことが得意でなければならない。
可能性を明らかにし、隠れた論点をあぶり出し、思いもよらない問題を見つけ出すとういことだ。そのためには、訊ねるべき質問がある。

情報過多の時代においては「情報を入手すること」ではなく、”キュレーション(情報を収集して分類し、新しい価値を持たせて共有すること)”が重要になる。
建築家ミース・ファン・デル・ローエが建物の設計について語った言葉は、そのまま現代の人間にも当てはまる。「少ない方が豊かになれる」


面白かった知見をいくつか紹介したい。

<メールの件名ピッチ>
著者は「ピッチ」という言い方で、相手に対して投げかける言葉の「投げかけ方」の重要性にも言及している。
その中のひとつに「メールの件名ピッチ」というのがある。
カーネギーメロン大学の三人の教授が、メールの件名が及ぼす影響について検証した。
被験者は「仕事に直接影響するメールを読む」傾向と、「内容に関してある程度不確実に感じるとき、すなわり、どんなことが書かれているのか『好奇心』を抱く時に、メールを開ける可能性が高くなる傾向がある」ということが判明した。
「有用性」は、多数のメールが届いている時に影響力を及ぼす一方で、「好奇心」は、処理すべきメールがあまりないときに受信者の注意を引きつける。
被験者は有用なメールを外発的理由から開封した。これには利害が関与するからだ。その他のメールは内発的理由から開封した。ただ好奇心をそそられたからだ。
外発的動機に内発的動機を加えるとかえって裏目に出やすいことが多数の調査からわかっている。「機能性に優れ安価なコピー機をお探しの方へ」にするか「コピー機の革命!」のどちらかにすべきで、「キャノンIR2545はコピー機に革命を起こす」とすべきではない。
有用性と好奇心の他に、3つ目の要因として具体性が挙げられる。超具体的に「ゴルフスイングの改善のために」→「半日でゴルフスイングを改善できる四つのヒント」
など。

<ピクサーピッチ>
著者はいくつか、このピッチの事例を挙げているのだが、その中の一つがこの「ピクサーピッチ」。
元ピクサーのストーリー担当 エマ・コーツ ピクサーの映画は、ストーリーテリングの深部構造において、次の順で展開する6つの文章を含む。
昔々、〜〜〜。毎日、〜〜〜。ある日のこと、〜〜〜。そんなわけで、〜〜〜。そんなわけで〜〜〜。そしてついに〜〜〜。
この六文形式は、心に訴えるし融通も利く非常に活用度の高いテンプレート。

<顔の見える効果〜”奉仕”というモチベーション>
優秀な放射線医と平均的な放射線医を隔てるスキルの一つに、「偶発的所見」の発見ということが挙げられる。これは医師が想定していなかった異常、治療中の症状に関連しない異常を画像に発見することだ。
顔写真がCT画像の横に現れるように設定して、画像診断後、医師たちにアンケートをとったところ、医師たちは全員「写真を見たあとで患者に対して一層の共感を抱いた」と答え、画像検証に一層細心の注意を払ったと答えた。
実はこの実験はその後の真の実験を検証するためのもので、3ヶ月後に同じ画像を、今度は顔写真なしで診断させたところ、顔写真がある時に発見された偶発的所見の80%は、顔写真が削除された場合に報告されなかった。
患者を無名の一症例ではなく、1人の人間として対応することの重要性が明らかになったというわけである。
人間は主に自己の利益によって動機づけられると考えがちだが、我々は誰もが、社会科学的な用語でいえば「プロソーシャル(向社会的)」とか「自己超越的」と言った理由でも行動することが、数多くの研究から分かっている。

<意欲を起こさせるインタビュー>
「意欲を起こさせるインタビュー」の第一人者、エール大学研究科学者 マイケル・パンタロン が開発した、 のらりくらりと試験前に勉強をしない子供に対する質問。
そういう子供たちに「さぁ、勉強するんだ」とか「頼むから勉強してくれ」とは言ってはならない。
代わりに、二つの質問を投げかける。
質問1「1が『これっぽっちも勉強するつもりはない』で、10が『勉強する気満々』だとしたら、1〜10の間の数字で表すと、どのくらい勉強するつもりがある?」
子供が答えたら次の質問をする。
質問2「どうしてもっと低い数字を選ばなかったの?」
「これは誰もが不意打ちを食らう質問だ」とパンタロンは著書”Instant Influence”で述べている。
選んだ数字が、もっと低い数字でない理由を訊ねることが、変化のきっかけとなる。
何かの行動や観念を拒んでいる人の大半は、二元的なイエス、ノーの立場はとらない。
行動に移したいという欲求を相手がわずかにでも抱いているなら、1〜10のうちどこに位置するか訊ねることで、一見「ノー」だった姿勢が、実際には「たぶん」だということが明らかになる。
更に重要なのは、子供が3ではなく、4を選んだ理由を説明するとき、勉強する理由を告げ始めたことになるという点だ。現在の振る舞いを防衛する態度から、ある程度であれ、異なる振る舞いを望む理由を述べるという態度に変化した。
パンタロンによれば、これによって勉強に対する個人的、肯定的、内発的動機が明確になり実際に本人が勉強する可能性も高まるという。

これを、数ヶ月後に中学受験を控えているのに、中々エンジンのかかり具合にムラのある我が家の子供に対して実践してみた。
「1は中学受験をしない子レベル。10は100%フル稼働で頑張っている状態として、今の頑張りを1〜10までで表してみて。」
「・・2。。」
1は中学受験をしない子レベルという設定だったので、次の「なんでもっと低い数字を言わなかったの?」という次の質問をすることが出来ず完敗。
現実は中々想定通りに行かない。。(泣)

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