2017年9月9日土曜日

『リクルートのすごい構”創”力』

ボストンコンサルティングの杉田浩章氏の本。
まるでリクルートの社内にいた感じで書かれているのだが、経歴を見るとそのようなことはない。

まとめてしまうと

<3つのステージと9つのメソッド>

【ステージ1 ”0→1” 「世の中の不ををアイデアへ」】

メソッド① 不の発見
・あるべき社会の実現につながる、潜在的な「不」を探す
・「不」を生んでいる産業構造の暗黙のルールを突き止める
・「不」を解決するための、新たなお金の流れを見つけ出す

メソッド② テストマーケティング
・本当に人の心を動かす事業アイデアなのかを検証する
・顧客がお金を払ってでも解決したい課題なのかを検証する
・検証を段階的に設計し、規模を拡大しながら次へ進める

メソッド③ NEW RING(インキュベーション)
・ボトムアップによる新規事業の起案を賞賛する
・アイデアを事業へとブラッシュアップし、軌道に乗せる ・起案者の「志」を尊重し、実現への覚悟を問い続ける

【ステージ2 ”1→10前半” 「勝ち筋を見つける」】

メソッド④ マネタイズ設計
・誰が、なぜ、いくらで、どの予算で、買ってくれるのかを突き止める
・ユーザーの行動、顧客売り上げ、自社の活動を方程式でつなぎ込む
・市場を継続的に成長させることができる、お金の流れを作り出す

メソッド⑤ 価値KPI
・事業の価値を上げるカギとなる指標を、顧客の評価から探し出す
・価値KPIへの因果関係の高い、実際の行動を探り出す
・全員での高速なPDSによって、指標と行動の仮説を変更し続ける

メソッド⑥ ぐるぐる図
・現場から市場変化の兆しを経営へとつなぎ、縦の知恵を回す
・異なる役割の人材が並行して洞察を加え合い、横の知恵を回す
・現場に勝ち筋への兆しが見えなければ、潔く撤退の決断を下す

【ステージ3 ”1→10後半” 「爆発的な拡大再生産」】

メソッド⑦ 価値マネ
・KPIによって目標の優先順位を絞り込み、意識と行動を集中させる
・PDSを日常の活動に組み込み、「なぜ」をマネジメントする
・価値マネの結果を、現場の「型化」と、サービスの「改善」に活かす

メソッド⑧ 型化とナレッジ共有
・成功事例を生み出した行動を分析し、「型化」して組織へ横展開する
・「型」は活用例を共有することで理解を深め、一気に全体展開する
・「型」は均一化が目的ではなく、「型」を超えた次への挑戦につなぐ

メソッド⑨ 小さなS字を積み重ねる
・現場の情報からいち早く、成長の減速を捉え、次の一手へ進める
・改善をスピーディに試し続け、大きな変革の「てこ」を見つける
・できない理由を突き詰めることから、できるための資源を考える

ということらしいのだが、いくつか個人的にフックがかかった内容について記載する。

○「リボンモデル」

リクルートにとっての「事業」とは、リクルートを取り巻く様々なステークホルダーが抱える不満や不安を解消するためのもの。
リボンモデルは、その全体像を捉えて、時には業界構造を変えながら人々の不満や不安を解消し、継続的な成長を実現するためのフレームワーク。
個人や企業を「集め」、 何らかの働きかけをすることで両者の行動を変化させて「動かし」 中央のマッチングポイントで「結びつける」 ことでリクルートが収益を上げる、ということを社内共通認識を持つために何度も社内で研修され、実際に活用される。

○ダメなKPIの見抜き方

ダメなKPIを見抜くのは簡単。所属メンバーに対して「あなたの組織におけるKPIの目標数値を知っていますか?」と尋ねて、それにきちんと答えられるかどうかを見ること。
KPIに必要な3条件は以下のとおり。
①整合性:最終的な目標に向かって、きちんとロジックが通っていること。最終的な目標が売り上げなのか、利益なのかということだけでも、達成への道筋は異なってくる
②安定性:KPIとして定めた指標が、安定的・継続的に取れること。検証しづらいものをKPIにしてはいけない。
③単純性:指標が少なく(できれば一つ)、覚えやすいかどうか。

○BCGのタイムベース競争 4つの法則

①0.05-5の法則:実際の工程の中で価値を生んでいる時間は0.05-5%しかない。
②3分の3の法則:価値を生んでいない時間は、「前の工程の待ち時間」「手直しにかかる時間」「次の工程に進む決定までの待ち時間」に均等に配分される。
③4分の1と2と20の法則:サービスや製品を提供するのに要する時間は4分の1に低減できる。時間が4分の1に減ると、資本、労働の生産性が2倍になる。コスト削減は20%に及ぶ。
④3×2の法則:タイムベース競争により業界平均の3倍の成長率と2倍の利益率を実現できる。

○アジャイルな組織

アジャイルな組織を実現するには、次の2つを同時に実現しなければならない。
①Alignment(一致団結)・・目指す方向性や働き方が明確になっている
②Autonomy(自律)・・従業員が高い自由度を持つ
一見矛盾する2つをきちんとマネジメントすることができれば、組織の構成員自らが素早く動ける「自走するアジャイル組織」を作り上げることができる。
それこそが21世紀の経営層に求められていること。

○「お前はどうしたい?」

リクルート社内で非常によく耳にするのがこの質問。
この問いかけの背景には、「個の尊重」という文化がある。アジャイル組織を実現するための要素その②「Autonomy(自律)」が文化として定着している。
創業から57年を経て、グループ全体で3万8千人を大きく超える大企業となった今も、リクルートの社員は「誰かに与えられて」仕事をするという意識を持っていない。

リクルートは、外部にディスラプトされるくらいなら、自ら死神軍団(ディスラプター)を抱えてしまう、とういレベルまで覚悟して新規事業開発を行っている。
いわゆる『イノベーションのジレンマ』はリクルート社には当てはまらないということだ。


その他、会社あるあるで、症状1〜5というのが記載されていた。
【症状1】PDSサイクルの「P」に時間をかけすぎる 新規事業の成功には「数」と「スピード」が不可欠。
最終的に何がうまくいくかはやってみなければわからないので、できるだけ多くのタネをスピーディーに市場に出すことが必須だ。 多くの企業では、PDS(Plan:計画、Do:実行、See:検証)サイクルのうちの、Pに時間をかけすぎ、PDSのサイクルが遅くなる。
新規事業開発の重要なキーワードとしてよく挙がる「リーン(lean:引き締まった、無駄がない)」「アジャイル(agile:機敏な、敏捷な)」と真逆を行ってしまう。
【症状2】計画が変えられない 症状1に付随する弊害。新規事業開発において、計画を柔軟に軌道修正できないことは時に致命的。
【症状3】時間をかけて計画を立てる割に、ツメが甘い 多くの企業は、どのような条件をクリアしたら次の段階に進むか、明確に定義しないままで何となく走り出している。
このため、赤字の額がある程度大きくなったり、後発の競合他社に大きくシェアを奪われたりするほど傷が深くならないと、撤退の決断をすることができない。
【症状4】当事者も、経営陣も本気でない
経営にテストマーケティングをする、と言う姿勢がなく、上がったアイデアをブラッシュアップし、新規事業を創出できる人材を育てると言う発想がない。
【症状5】うまくいかなくなった時、撤退の決断ができない

やばい。我が社にも心当たりのある内容ばかりだ。
これだけのノウハウを公開しても、直ぐに真似できないのは、全てがリクルートという会社の社風、社員の意識とリンクしているからだ。
施策や制度は直ぐに変更できても、社員の意識は直ぐには変わらない。
時間をかけてじっくり対応する必要がある。