2013年6月30日日曜日

『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』

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全てのビジネスはたった2つの要素から構成されている。需要と供給だ。 供給、すなわち「どうやって注文に対応するか(どうやって顧客のニーズに応えるか)」という要素については企業側でコントロールすることができる。 供給の世界は、左脳型人間(論理的な考え方をする人々であり、財務系の仕事に就いていることが多い)が落ち着ける場所だ。彼らは何十年にもわたり、サプライチェーンや業務プロセスの効率化に務め、進捗管理する方法を確立することに尽力してきた。 一方で需要は、企業がコントロールできない要素である。コントロールするのは消費者だ。 需要はあいまいな世界で、何が原因で何が結果なのかは必ずしも明確ではない。
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という文章から始まるデータマーケティングの本。

1.ターゲティング:誰にアプローチするか
2.メッセージ:何について話すか
3.ロケーション:どこで顧客を見つけるか
4.予算:いくら費やすべきか
5.測定:何が有効か、有効でないかをどう把握するか
6.最適化:有効なものをさらに活用し、無効なものを排除するには
という流れで、具体的に企業がどのようにデータ活用すべきなのかが分かりやすく書かれている。

面白かったのは、結局いくつかの小クラスターに分類し、そうした上でストーリーをつくるあたり。
細かい分析を大ざっくりにまとめてストーリーを創らないと、実は経営サイドに理解されないという経験から導きだされていると思われる。
分析という結果ありきの業務に見えるものでも、やはりストーリーは大切だ。

データ分析するにあたって(というより分析を発信するにあたって)有用なプラットフォームがたくさん提示されていて、具体の業務でも活用していけそうな感じである。

ちょっと意外だったのが、Facebookにおける情報発信の有効な方法。
インフルエンサーを押さえるということで有名ブロガーに発信をしてもらうということなのかと思っていたら実は多数のユーザー数を獲得する方が効率的とのこと。

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エリック・サンはFacebook上でどのように情報が拡散するかを調べるために、26万2985のFacebookページと、そのファンを分析した。 あるページの人気がどのように集まるかという点については、まずは少数のインフルエンサーが集まり、彼らの存在を通してネットワーク上で人気が広がるというのが従来の考え方だった。 しかし、サンの研究からは、人気を得るためには少数のインフルエンサーを見つけるよりも、多くのユーザーを獲得する方が重要という結論が得られた。 Facebook上のネットワーク非常に密接に絡み合っている。そのため、良いアイデアは、次々と大規模なグループに広がっていくのである。
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<投資/回収曲線を描くハイブリッド型アプローチ>
・最低値:予算を一切使わなかった場合の売上はどうなるか?
・最高値:予算が限りなくあった場合に、達成できる売上の最高値はどうなるか?
・現在値:予算で達成している売上はどの程度か?
・増分:もし予算をX%増やしたら/減らしたら、売上はどの程度変化するか?
このアプローチで説明をすると分かりやすいというのもノウハウである。

アジャイル(機動的な)マーケティングを実現するためには
・感度を高める
・適応する
・学ぶ
・素早く動く
・フィードバックを繰り返す
ことが必要。

また、
○具体的な数字がストーリーを語るものであれば、それを示すことに躊躇する必要はない。
○1.「価値のある顧客」とは、自社にとってどんな顧客なのかを定義すること。
 2.定義した「価値」を、計測・追跡が可能な要素に変換すること
 3.「価値」の高さを基準にして顧客を順位づけること。
○愛着度:ブランドに愛着を抱いている顧客はどの程度か。企業はそれぞれ、自社にとっての「愛着」の意味を考えなければならない。
といった点も非常に参考になる。


データ分析と創造性について、著者は最後に以下のように述べている。
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分析と創造性は極めて補完的な関係にあると信じている。
我々に必要なのは、技術者(システムを駆使してより重要な発見をより素早く把握する役割)と魔法使い(得られた発見をアクションへと変える、想像力や直感的な意思決定を行う役割)の両方なのだ。
技術者と魔法使いの両者がタッグを組んで働くことが成否を左右することになる。
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技術者と魔法使いのタッグという比喩がアンバランスな組み合わせで面白い。

この本でもジョン・ボイド大佐のOODAループが引用されている。
観察、観察、また観察。
CRMの基本を実践するために非常に参考になった。

2013年6月22日土曜日

『ソーシャルシフト』


LOOOPSの斉藤徹氏の著書。

「ソーシャルシフト」とは、ソーシャルメディアが誘起する、不連続で劇的な変化。そして、マーケティング、リーダーシップ、組織構造にまで及ぶビジネスのパラダイムシフトを表した斉藤氏の造語。
この本では、ソーシャルメディア時代に企業がどのように顧客とコミュニケーションをとっていくべきなのかがたくさんの事例とともに語られている。

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フィリップ・コトラーは『コトラーのマーケティング3.0』の中で、これからのマーケティングの目的を「世界をよりよい場所にすること」とし、顧客獲得や利益を追求する従来型の企業姿勢に警鐘を鳴らすとともに、社会的責任を重用視しない企業は淘汰されていくであろうことを示唆している。
内村鑑三は『代表的日本人』の中で、東洋思想の美点として、経済と道徳を分けない考え方を説いた。富は常に徳の結果であり、両社は木と実と同様の相互関係なのだ。
日本資本主義の父と言われる渋沢栄一は『論語と算盤』の中で、「道徳経済合一説」という理念を打ち出した。富を成す根源は何かと言えば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができない。
経済学の父アダム・スミスは『国富論』で「市場経済において各個人が自己の利益を追求すれば、結果として社会全体において適切な資源配分が達成される」とし、この効果を「神の見えざる手」と表現した。 しかし、同時に前著『道徳情操論』の中では「人間は他人の視線を意識し、他人から共感を得られるように行動する。その結果、社会にはある種の秩序が形成される」と説いている。
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ジム・ステンゲル氏の『GROW』でもあったように、「高次のブランド理念が必要」という大原則はソーシャルシフト時代においても変わらないようだ。

ではマーケティング手法はどのような変遷をたどってきたのか。

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昔のマーケティングは「製品が中心」だった。良いものをつくれば売れる時代。
マーケティングは取引指向で、どのように製品を販売するかに力点が置かれていた。 特に重要視されたのは1961年にジェローム・マッカーシーが提唱した4P、適切な製品(Product)に、適切な価格(Price)をつけ、適切な場所(Place)で売り、適切な販促(Promotion)を行うこと。この考え方に基づいた製品管理がマーケティング活動の中心となっていた。
やがて1970年代に入ると石油ショックなどで米国経済が打撃を受け、経済成長はアジアの途上国に移り始める。世の中にはモノがあふれ始め、良いモノをつくっても売れない不確実性の時代が到来した。そんな時代背景が、マーケティングを「消費者が中心」にしていく。 マス市場を細分化(Segmentation)し、その中からフォーカスすべき分野を選択(Targeting)し、顧客に対して独自のベネフィットを提供(Positioning)するSTPアプローチが主流になった。そして製品も顧客ニーズに合わせ多様化していく。
さらにマーケターは、新規顧客を開拓するよりも、繰り返し購入してもらう方がローコストなことに気づいた。CRM(Customer Relationship Management)の登場だ。既存顧客との関係性を重要視し、顧客に継続的に消費してもらうことに主眼がおかれるようになったのだ。そして、「誰が」「いつ」「どこで」「何を」「いくらで」買ったのかを把握するためのデータベースが構築され、生活者は多角的に分析されるようになる。
一方で企業間の競争は激しさを増し、企業は自社に不利な情報を覆い隠し、一方的に都合のいいメッセージを流し続けた。 売り手が買い手よりより多くの情報を持つ、情報の非対称性を生み出した。モノローグ、一人芝居の時代だ。

しかし、インターネット、さらにソーシャルメディアの登場によって、企業の独りよがりは終わりを告げた。
これからのマーケティングは「人間が中心」だ。 生活者は機能的な満足だけでは満たされず、ココロの満足を求め始めた。 生産活動がボーダーレスとなり、製品はコモディティ化が進む。企業は製品や価格での差別化が困難となり、特別なサービス、心のこもったおもてなしがテーマとなってきた。 生活者は対話交流の場を得て、能動的な存在となった。ありとあらゆる顧客体験が日常的にシェアされる。そして、企業の不誠実な言動は告発される透明性の時代が訪れた。
今やマーケターにとって、生活者は分析のターゲットではない。一人ひとりが心を持ち、終わりなき旅をともにする、大切なパートナーとなったのだ。
そして私たち企業人は、新しい資本主義にふさわしい新しい企業価値を定め、新しいマーケティング・スタイルを速やかに取り入れる必要がある。
企業は生活者とのあらゆる接点で、今までの考え方を大きく変革しなくてはいけない。透明性の時代、ソーシャルメディアが誘起したパラダイムシフトを、「ソーシャルシフト」と呼ぶ。 ソーシャルシフトの背景にあるのは、驚くべきスピードで世界に広がりつつある新しい習慣「シェアの文化」だ。
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ソーシャルメディア時代では、企業の発信した情報は顧客に届かなくなっている。

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総務省の「情報流通インデックス」の調査では、国内に流通している情報の総量を 「流通情報量」、その中で実際に生活者が知覚する情報量を「消費情報量」として動向調査を行っている。
それによると2009年度の流通情報量は7.6×10の21乗ビットなのに対して消費情報量は2.9×10の17乗ビット。簡単にいうと、世の中に流通している情報のうち、実際には0.004%しか人間の意識に入らず、残りは全てスルーされてしまう時代になったのだ。特に爆発的に増加しているのはインターネット経由の情報で、2001年からの8年間で71倍になっている。
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もとよりGoogleが担っていたのは、すでに買いたいと思っている人に告知する「リード・ジェネレーション」のみだった。Facebookはリード想像に加えて、買いたいと思ってくれる人を増やす「デマンド・ジェネレーション」の機能も備えている。
サーチからディスカバリーの時代へ。人々の行動に変化の兆しがあらわれてきた。
ソーシャルメディアは、情報の洪水の中から人々が「知っておくべき情報」を浮き上がらせるフィルターの役目をしている。信頼できる友人による「知っておくべき情報」の選別、ソーシャル・フィルタリングだ。このフィルターは抽出機能だけではなく、共感できる情報、逆に反感を感じる情報などを拡散させる拡声器としての機能も合せ持っている。
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マスメディア全盛の時代は、「お茶の間」というプラットフォームを通じて情報が男女全世代に伝搬していた。家庭のお茶の間、テレビの前に老人から子供まで男女全世代が集い、そこがクチコミ源となる。そしてその情報は、会社、学校、井戸端など各世代の外のつながりで、一気に拡散していく。
しかし、都会を中心に核家族化が進み、お茶の間が万能ではなくなった。生活者は男女そして世代ごとに分かれ、それぞれが異なる情報に触れるようになる。正月にはみんな家に戻るのに、4割の家庭で食卓に家族が揃わなくなり、別行動をとるのが当たり前になった。 ネット上ではコミュニティが形成され、同じ趣味や考えを持つ同士が集まり始めたが、それらが相互に交流することはほとんどない。そして情報洪水が生活者を襲い始めた。
今、ソーシャルメディアの出現が、情報伝達の仕組みを根本から変えようとしている。情報伝搬のコアが「友人・知人とのつながり」へと移行し始めた。
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この話しを一番最初に聴いたのは佐藤尚之氏の話しを聞いた時だ。既に企業が発信する(お手盛りの)情報は顧客に届くことはなくスルーされていく。
昔のファネル型のマーケティングで企業側が管理しようとしても出来ない時代がソーシャルネットワークというインフラにより実現してしまっている。
ソーシャル時代では、これがファネル型ではなくベル型(と佐藤尚之氏は表現していた)となっており、従来よりも費用はかからないが、企業側でコントロールが効かない。すなわち、いくら投下するといつ頃撥ねるのかが読めない時代になっているということだ。

そんな時代の中、では企業はどのように対応したらいいのか、その1つの切り口がこれから述べられていく。

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<マッチングのアルゴリズム>
Facebookはヒトの行動に関わる共有情報を寡占しているが、これからは、そのテリトリーを超え、モノからの情報発信、そしてモノ同士の会話という極めて膨大なリアルタイムデータがサーバーサイド、「クラウド」に収納されていく。
現実世界のすべてがバックアップされたリアルワールドの写し鏡。
多くの宗教では、全宇宙の過去から未来までのすべてが記録された神秘的な投影像「アカシックレコード」の存在が示唆されているが、まさに人工版アカシックレコードとも言える究極のデータベースだ。この膨大な情報をもとに、ヒト、モノ、コトの最適なマッチングを生み出すアルゴリズムがキー・テクノロジーとなろう。

<リアルタイム セレンディピティの効率化>
1300年代に書かれた童話『セレンディップの三人の王子たち』には、王子達が旅の途中に意外な出来事と遭遇し、聡明さによって「予期せぬ何か」を発見するくだりがある。 この話しにちなみ、英国小説家のホレス・ウォルポールが「何かを探している時に、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力」という意味で「セレンディピティ」という言葉を創造した。日本語の「ご縁」にも通じるものだ。
これからは蓄積された情報に基づくリアルタイムなセレンディピティをいかに効率化するかにフォーカスが移っていく。

<コンテンツ・イズ・キング>
ソーシャルメディアの普及により、素晴らしいコンテンツは生活者の共感を得て、マスメディアの力を借りずとも拡散していく。逆に言うと、良いコンテンツさえ制作できれば、どんな伝送路を経由するかはともかく、必ず人にたどり着く。そんな時代になっていくということだ。

<広告を超えたクリエイティブ>
単なるアテンション獲得を超え、企業の課題解決にこそクリエイティブの力を活用すべきだ。モノをつくる、モノを売る、売った後にサポートする。そんな本質的な課題に広告業界のノウハウや経験を投入することで、クライアントに対してより大きな貢献ができる。
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スコット・M・デイビス/マイケル・ダン 『ブランド価値を高めるコンタクト・ポイント戦略』より、短期的な利益を求める風潮と、厳しいビジネス環境の下で、どうすればブランド資産を構築できるのかについて、2つの方向性があることが示されている。

第1は、コスト効率が高く、有効で信頼性のあるブランド構築を行うこと。
効果は消費者が体験する個々の接点で決まる。そこで着目すべきは、ブランド・コンタクトポイントである。コンタクトポイントを活動の中心に据えれば、桁外れの金を費やさずとも、効果的なブランド構築を行えるであろう。平素から継続的に企業の質を高める活動だからだ。流行のコンセプトに飛びつき、一貫性のない施策を繰り出すのとはまるで正反対である。
第2の方向は、ブランド主導型の企業文化を築くことである。ブランド構築活動への抵抗勢力を排し、マーケティング部門のみならず、社内の全部署が責任を負うようにする。ブランド浸透はまさにそのための活動であり、ブランド構築活動を先頭に立って進める層をつくり出す。 ポイントは、全社員をブランドの下に結集させ、それぞれが自分の職責の中で消費社のブランド体験を強化する方法を身につけさせることだ。


上記のような原則論だけでなく、具体的な企業での進め方について事例をベースに詳述されている良書。

著者の斉藤徹氏とは直接お会いしてお話をしたこともあるが、非常に素晴らしい方。
是非一度ご一緒にお仕事をさせていただきたい人だ。