2019年4月30日火曜日

『THE TEAM』

4月から新部署に赴任。新任として所信表明で「コミュニケーションが成果の基盤」と言う話をしたところ、翌朝の新聞で「コミュニケーションが活発なチームがいい❌」と言う本の紹介がされていて独り憤慨。早速購入して読んだのがこの本。
会社業務でもお世話になっているリンクアンドモチベーション役員の麻野耕司氏の著作。
結論からすると、「コミュニケーションは非常に重要である」と言うことは著者は重々分かっていて、その上で「コミュニケーションだけではない」と言う趣旨であえて挑戦的な表現にしたものと思われる。(「時代に求められるのはルールよりもコミュニケーション」とう章があるくらい)
読んでみたら非常に共感できる良書であった(笑)

<チームの重要性>

約10万年前に地球上には6種類の人種が存在したが、その中で生き残ったのは我々ホモ・サピエンスだけだった。
ホモ・サピエンスは他の5種類に比べて個体としての能力が低かったとされている。では何故、我々ホモ・サピエンスだけが生き残れたのか。
『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、その理由が「集団」にあったと述べている。
ホモ・サピエンスは複雑な言語や空想的思考によって大きな社会集団を形成した。そして、集団の知恵によって協力・共創する事で環境に適応し、他の人種を滅ぼしながら世界中へ広がることができたという。

もともと西洋では、物事は要素に分解することで理解することができるという「要素還元主義」の考え方が発達してきた。
西洋医学において、悪くなった臓器を手術で取り除くことによって病気を治すという行為にも「要素還元主義」の考え方が表れている。物事の要素、つまりは「個」に注目する考え方が西洋では重視された。
一方で東洋では、物事の成否は要素と要素の関係性に左右されるという「関係性世界観」の考え方が発達してきた。東洋医学において、臓器と臓器を繋ぐ血流を漢方薬によって良くしていくことで病気にかかりにくくするという行為にも「関係性世界観」の考え方が表れている。物事と物事の関係、つまりは「個と個との繋がり」に注目する考え方が東洋では重視されてきた。


<チームの5つの法則>

Aim(目標設定)の法則
Boarding(人員選定)の法則
Communication(意思疎通)の法則
Decision(意思決定)の法則
Engagement(共感創造)の法則

各々フックのかかった部分についてコメントしていく。


<Aim(目標設定)の法則>

サミュエル・I・ハヤカワ「抽象のハシゴ」と言うのがある。
大聖堂(教会)を作る職人の目標設定が
意義 「みんなが幸せに過ごせる場所を作る」
目的 「教会を作る」
作業 「レンガを積む」
と言うことで目標においても抽象度が異なってくることを述べたもの。
これを転じて、ビジネスにおいても「行動目標」「成果目標」「意義目標」という各々のレベルで目標の設定ができる、と著者は言う。

意義目標がなければ作業と数字の奴隷になってしまう。
歴史的に「目標」がどう変化してきたのかも面白い。
高度成長期の日本は、各企業におけるビジネスの勝ちパターンはさほど変化することはなかった。よって行動目標が重視された。
しかしビジネス環境の変化のスピードが速くなる中、チームやメンバーが取るべき行動が刻一刻と変えることが必要となってくると、行動目標に基づく評価だけではパフォーマンスが上がりにくくなった。
1990年代以降の日本で普及したのが成果目標に基づく「MBO」(Management by Objectives) チームごとの成果目標を各メンバーにブレイクダウンしていく。成果目標はできる限り定量的に設定され、評価は期末時点の成果目標の達成度合いによって決まる。これにより、成果を創出するためにどんな行動をとるか、というのは個人の自己責任による部分が大きくなった。成果を創出するために必要な行動をメンバー自らが考えることにより、ビジネス環境の変化にも対応できるチームが生まれてきた。
しかし、昨今のビジネス環境の変化スピードはさらに速くなってきている。
そして今、普及しだしているのが意義目標に基づく「OKR」(Objectives and Key Results)。元インテル CEOアンディ・グローブが生み出したと言われる。
OKRにおいては、「Key Results=創出すべき成果」とともにその先にある「Objectives=実現すべき目的や意義」まで含めて目標設定をする。
OKRにおいて重視すべきは「Objectives」意義目標であり、その実現のために効果的だと判断されれば「Key Results」は変更することも可能。


<Boarding(人員選定)の法則>

【チームの4タイプ】
著者は、環境の変化度合い×人材の連携度合いと言う2軸により、チームは4タイプに類型化できるとしている。
サッカー型(人材の連携度合いが大きく、環境の変化度合いも大きい。例:スマートフォンアプリの開発チーム)
野球型(人材の連携度合いが大きく、環境の変化度合いが小さい。例:飲食業の店舗スタッフチーム)
柔道団体戦型(人材の連携度合いが小さく、環境の変化度合いが大きい。例:生命保険の営業チーム)
駅伝型(人材の連携度合いが小さく、環境の変化度合いも小さい。例:メーカーの工場の生産チーム)

「環境の変化の度合い」が大きければ、メンバー選びは出口にこだわった方が良い。環境の変化度合いが大きいということは、状況に応じてメンバーを入れ替えていく必要があるから。入り口のハードルを多少下げた上で、その都度パフォーマンスを上げるメンバーに残ってもらい、そうでないメンバーに去ってもらう形でメンバーを構成していった方がチーム全体のパフォーマンスは高まりやすくなる。
環境の変化度合いが少ない場合には、逆にメンバー選び入り口にこだわる。
人材の連携度合いが大きければ、異なるタイプの人材を集めた方が良いが、人材の連携度合いが小さければ同じタイプの人材を集めた方が効率的である。


<Communication(意思疎通)の法則>

ルールの4W1Hを用いてチームに合ったルール設計をすることで、コミュニケーションの複雑性を減らす。ルールによってコミュニケーションの複雑性を下げたとしても、チームにおけるメンバー同士の効果的な連携にはコミュニケーションは必要不可欠。

【ルール設定のポイント】
① What:ルールの設定粒度
ルールが多い(人材の連携度合いが大きく、環境の変化度合いが小さい『野球型』)


ルールが少ない(人材の連携度合いが小さく、環境の変化度合いが大きい『柔道団体戦型』)
② Who:権限規定のルール
チームで(リーダーが)決める(人材の連携度合いが大きく、環境の変化度合いが小さい『野球型』)


メンバーが決める(人材の連携度合いが小さく、環境の変化度合いが大きい『柔道団体戦型』)
③ Where:責任範囲のルール
個人成果に責任を負う(人材の連携度合いが小さく、環境の変化度合いも小さい『駅伝型』)


チーム成果に責任を負う(人材の連携度合いが大きく、環境の変化度合いも大きい『サッカー型』)
④ How:評価対象のルール
成果を評価する(人材の連携度合いが小さく、環境の変化度合いが大きい『柔道団体戦型』)


プロセスを評価する(人材の連携度合いが大きく、環境の変化度合いが小さい『野球型』)
⑤ When:確認頻度のルール
確認が多い(人材の連携度合いが大きく、環境の変化度合いも大きい『サッカー型』)


確認が少ない(人材の連携度合いが小さく、環境の変化度合いも小さい『駅伝型』)


チーム内に「どうせ、しょせん、やっぱり」が蔓延らないようにするためにはチームメンバーに「心理的安全」を醸成することが必要。
「心理的安全」に支障をきたす原因は4つに分類することができる。
1つ目は、「無知(Ignorant)だと思われる不安」→率直質問の機会を設ける。NGワードは「こんなことも知らないのか」
2つ目は、「無能(Incompetent)だと思われる不安」→失敗共有の機会を設ける。NGワードは「こんなこともできないのか」
3つ目が、「邪魔(Intrusive)だと思われる不安」→発言促進の機会を設ける。NGワードは「今の言う意味あった?」
4つ目が、「批判的(Negative)だと思われる不安」→反対意見の機会を設ける。NGワードは「それは絶対違うでしょ」

ルールによってコミュニケーションの複雑性を低減させることはいつの時代でも同じ。しかし、今の時代においては、ルールよりもコミュニケーションによって臨機応変にチームメンバー同士の連携を図らなければならなくなっている。
チームに対して降りかかる予想もつかない様々な問題に対して、その都度メンバーたちが話し合い、知恵を出し合い、乗り越えていく必要があるのだ。


<Decision(意思決定)の法則>

チームの意思決定には「独裁」「多数決」「合議」がある。どれにもメリット、デメリットがある。

チームによる「合議」をスピーディに、再現性を持って進めるには、選択肢同士ではなく、まず選択基準と優先順位を決めるべき。

多くの意思決定には51%のメリットと49%のデメリットがあることを意思決定者だけでなく、チームメンバーが理解し、意思決定者の決断を自分達の手で正解にする気概が重要。 独裁による意思決定を成功させるのは、意思決定権者だけでなく、その意思決定を事項するチームメンバー全員なのだ。


<Engagement(共感創造)の法則>

【エンゲージメント(共感想像)の4P】
Philosophy(理念・方針)・・ディズニー型
Profession(活動・成長)・・マッキンゼー型
People(人材・風土)・・リクルート型
Privilege(待遇・特権)
上の3つは主に「感情報酬」として位置づけられ、Privilegeは「金銭報酬、地位報酬」に位置づけられる。

メンバーの「当事者意識」を高めるために最も無駄なのが「当事者意識を持て!」と言うこと。当事者意識を高める仕組みをチームの中に埋め込むことが重要。
当事者意識を高めるポイントは3つ。
1つ目のポイントは「人数」。チームの人数が一定以上に達したら、チームを分化させ、大きなチームの中に小さなチームが複数あると言う状況にした方が良い。
2つ目のポイントは「責任」。「責任範囲」「評価対象」を明確にする必要がある。
3つ目のポイントは、「参画感」。「多数決」「合議」と言う意思決定手法を適宜取り入れることで参画感を持たせる。


<エリン・メイヤー「カルチャーマップ」>

面白かったのにエリン・メイヤー「カルチャーマップ」と言うのがあったので、ちょっとご紹介。
主に国ごとに文化が異なることによってもたらされる活動や人間関係の8つの前提の違いを示したもの。
コミュニケーション:ローコンテクスト型(アメリカ、オランダ)vsハイコンテクスト型(日本、中国)
評価(ネガティブフィードバック):直接的vs間接的
説得:原理優先vs応用優先
リード:平等主義(デンマーク、オランダ)vs階層主義(日本、韓国)
決断:合意志向vsトップダウン式
信頼:タスクベース(アメリカ、スイス)vs関係ベース(中国、ブラジル)
見解の相違:対立型vs対立回避型
スケジューリング:直線型(ドイツ、日本)vs柔軟型(中国、インド)
上記エリン・メイヤーの示した項目に加えて、著者はもう一つ、「役割分担」と言う項目を加えている。
役割分担:テトリス型(アメリカ、イギリス)vsアメーバ型(日本、タイ)

上記に関する追加のコメント
◇コミュニケーション
ローコンテクスト型は、「良いコミュニケーションとは厳密、シンプルで明確なものである。メッセージは額面通りに伝え、額面通りに受け取る」「ルールは多く設定した方が良い」
ハイコンテクスト型は、「良いコミュニケーションとは繊細、含みがあり、多層的なものである。メッセージは行間で受け取る。ほのめかして伝えられることが多い」「ルールは少なく設定した方が良い」
◇リード
平等主義は「上司と部下の距離は近い。理想の上司とは平等な人々の中のまとめ役である。組織はフラット。しばしば序列を飛び越えてコミュニケーションが行われる」
階層主義は「上司と部下の距離は遠い。理想の上司とは最前線で導く、強い旗振り役である。肩書きが重要。組織は多層的で固定的。序列に沿ってコミュニケーションが行われる」
◇役割分担
テトリス型は「職務や役割、責任範囲が明確に決まっており、互いに侵犯してはならない」「個人成果に責任を負う」
アメーバ型は「職務や役割、責任範囲は曖昧。全体最適の発想の元、自身の責任範囲外のことにも積極的に関わる」「全体成果に責任を負う」
「責任範囲」に関するルールで、メンバーがチーム成果と個人成果のどちらを重視するのかを明確にする必要がある。
◇信頼
タスクベース型は「信頼はビジネスに関連した活動によって築かれる。仕事の関係は実際の状況に合わせてくっついたり離れたりが簡単にできる」「成果を評価する」
関係ベース型は「信頼は食事をしたり、お酒を飲んだりすることによって築かれる。仕事の関係はゆっくりと長い期間をかけて築かれる。個人的な時間も共有する」「プロセスも評価する」
「評価対象」に関するルールで成果とプロセスのどちらを評価するのかを明確にする必要がある。
◇スケジューリング
直線型は「プロジェクトは直線的なものとして捉えられ、一つの作業が終わったら次の作業へと進む。一度に一つずつ、邪魔は入らない。重要なのは締め切りとスケジュール通りに進むこと」「途中段階も確認する」
柔軟型は「プロジェクトは流動的なものとして捉えられ、場当たり的に作業を進める。様々なことが同時に進行し、邪魔が入っても受け入れられる。重要なのは順応性」「最終的な結果を確認する」
「確認頻度」に関するルールで、途中確認は多い方が良いか、少ない方が良いのかを確認する必要がある。


ちょっとした反発心から読んでみた本だったが、実は5つの法則の中で一番紙幅を割いているのがCommunicationの章。
正直、「コミュニケーションが活発なチームがいい❌」と言うのはひっかけなんじゃないかと思うくらい、実はコミュニケーションが大切であることを述べている。
(最初に若干「必ずしもコミュニケーションが活発な方がいいわけではなくて、ルールで効率的に対応できるところはそうしましょ」と言うことが書いてあるくらい)
ちょっとプロモーション的な言葉を言わんがために無用な紙幅を割いている感がなくもないが、内容は非常に共感できる良書。
色々な部門をまとめる立場だとそれぞれが、どういうチームなのかを分類しながら取りまとめることができそうに感じる。
これを単に学問ではなく成果に結びつけるかは各読者の力量ということか。