2013年11月10日日曜日

『ゲームのルールを変えろ』

ネスレ日本の代表取締役兼CEOの高岡浩三氏の著作。

キットカットのプロモーション戦略の話しなど、マーケティングについて書かれていたのが面白そうで購入した。
読み続けると氏の主張は
「戦後成功してきた『ニッポン株式会社モデル』からの脱却には人材がキーポイント。そして、そのためにマーケティングの発想が必要」
ということであって膝を打つ感じであった。

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「ニッポン株式会社モデル」
戦後日本は焦土と化した。
その直後から、日本は先進諸国に「追いつき、追い越せ」とばかりにしゃかりきになって復興への道を突き進む。その結果、世界に類を見ない急激な右肩上がりの成長を遂げるが、それを支えた要因はいくつかある。
銀行のメインバンク制によって資金を手当し、稼いだ利益の株主への還元を押さえるシステムが功を奏した。これにより、将来の収益を生み出す設備投資に資金を振り向けることが可能となった。(現在の日本において、あらゆる産業での利益率がグローバルスタンダードと比較して圧倒的に低いのは、これに起因している)
加えて労働者のコストが安かったことも寄与した。
刻苦勉励という日本人特有の気質によって、成長を体現するために欠かせない労働の質が極めて高かったことも無視できない。これには当時の日本の教育システムが重要な役割を担った。
人と違う人はいらない。リーダーは必要ない。人をきちんと動かすことが出来るマネージャーがいればいい。
こうしたシステムと相まって、戦後半世紀で5000万人の人口増加がもたらされたこともあり、日本は世界で戦う競争力を身につけることができた。高度成長の波に乗ってGDPを世界第二位まで上げ、経済大国として確子たる地位を築く。

しかし、労働力のコスト優位性がなくなり、人口増加もストップした1980年代後半のバブル絶頂期を過ぎると、急激に競争力を失うことになる。
本来であれば、その時点で何かを変えるべきだった。だが、日本企業の経営者はそれまで成功していたニッポン株式会社モデルを変えようとはしなかった。。


ニッポン株式会社モデルからの脱却は、人材がキーポイントになる。
企業とは人が中心にいる世界だ。採用の問題しかり、育成の問題しかり、評価の問題しかり、労働組合の問題しかり。真っ先に人の問題にメスを入れるべきである。

その時に欠かせないのがマーケティングの発想である。人の問題とマーケティングという組み合わせは意外に思うかもしれないが、マーケティングの導入こそあらゆる問題を解決する突破口になる。
マーケティングとは、「経営そのもの」であると自分は理解している。 ニッポン株式会社モデルの根本的な問題は、マーケティングに無知なことだ。
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確かに、人材の課題とマーケティングという一見無関係な二つが実は関連しており、どちらも非常に重要であるという指摘は珍しい。そして個人的には非常に腑に落ちる意見である。


「人材の課題」について著者は「人材育成」だけが大切とは言う言い方をあまりしない。
それは「リーダーの育成が課題である」との認識だからだ。
「リーダー」の資質は誰もが持っているものではないということなのかもしれないし、人材流動性の高い外資ならではの感覚なのかもしれない(著者は「ネスレ日本」は外資にあって外資あらず、雇用に関して非常に日本的な会社であると述べているが)。
著者のリーダーシップ論を見ていく。
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リーダーシップで重要なのは、リスクヘッジをしながら新機軸を打ち出す能力。

リーダシップとは、多くの人を束ねて自分が打ち出した考えを「やらせる」度量だと誤解されている節もあるが、これは違う。
リーダーは、自分の考えたこと、主張したことを「やってみせる」のが最低条件になる。

リーダーシップを発揮して変革へ踏み出そうとすると、必ず反対される。
真っ先に反対するのは社長、部長、課長など、自分より上の人間だ。彼らは、過去に生み出された現在進行中のモデルの完璧な遂行によって評価され出世した人間である。自分の下の人間が新しいことを始めようとした時、自分を否定されたと感じて不愉快になるからだ。
それと同時に、過去の自分がうまくやってきたことについては絶対的な自信を持っている彼らも、未体験のビジネスでは下の人間と同じ土俵で勝負することとなる。未体験への不安から認めることを躊躇するのだ。
プロの経営者としてニッポン株式会社モデルを本気で変えるのであれば、まずはその悪しき習慣から手を付ける必要がある。

「リーダーをつくれる人間」 これが、ネスレにおけるリーダーの定義だ。
ニッポン株式会社モデルから脱却させ、次世代のリーダーが育つ土壌を整えることが、プロの経営者としての責務なのである。
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破綻をきたしたニッポン株式会社モデルではマネージャーは量産されたが、リーダーを育てることはしなかった。
グローバルで戦うためにもリーダー育成が日本の最重要課題ということだ。


ネスレという会社についても様々な観点から述べられている。
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ネスレが事業を進めるか否かの決断をする場合は、大げさではなく、過去の歴史を1000年単位でみる。そのうえで、 これから先50年の人口動態などに鑑みて、その国が発展していくのか、それとも衰退していくのかという視点をベースに検討する。
ヨーロッパを拠点とするネスレは、非常に長期的な視点を重視する企業。その意味では、超短期で利益を追求するアメリカ型資本主義と一線を画す。

ネスレの株主総会は、プロの経営者が長期的視点に立ったビジョンを策定する。それを7時間、8時間という長い時間をかけて丁寧に株主に説明し、コミットメントをもらうというスタイル。

ネスレでは、ブランドごとに損益計算書をもっている。

ネスレの行動哲学は” Think Globally,Act Locally.”

ネスレは昔から「ブランドマネジャー制」を設けている。
社内的には、「ビジネス・エグゼクティブ・マネジャー:BEM)と呼ばれるカテゴリーブランドのトップが、カテゴリーブランドを1つの企業に見立てて販売戦略を立て、損益を全て管理する。

3・11震災時の方針として、日本人以外の社員を国外に帰還させる会社が多い中、
「外国人であっても帰ることは許さない。日本の力になりなさい。それがネスレだ」
3/11の地震発生から1時間後、スイス本社の副社長の口から出てきた言葉。
これはインターナショナルスタッフとして日本に来ている外国人はお客様ではないという考え方の表れ。現地に同化する。それがネスレのカルチャー。

ネスレグループでは、企業が負うべき責任として「共通価値の創造:CSV」というコンセプトを戦略に掲げ、グローバルに展開している。
この柱は3つ。
1つは、栄養。昨今子供の栄養の過不足が問題になっている。
2つ目は水資源。水は世界的に枯渇しつつあり、砂漠化の進行は待ったなしの状況。
3つ目が地域・農業開発。 ネスレが最も懸念しているのは、資源の枯渇である。 新興国が豊かになるにつれ、世界の人口は爆発的に増加している。食料危機はすぐそこまで来ている。
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ネスレ日本での高岡氏の活躍として、マギーブイヨンのクロスマーチャンダイジングの話し、キットカットのプロモーションの話し、ネスカフェアンバサダーモデルの導入などがあって読み物としても非常に楽しい。

○イノベーションとは、思いつきを行動に起こすか起こさないかである。
○失敗の定義とは何か。それはおそらく、失敗から何も学ばないことだ。
○本当のブランドを持つことが、(事業において)絶対的優位に立つ条件だ。
などの格言も実際の経験とセットで語られると説得力が違う。

高岡さん、機会があったら是非お会いした人だ。



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