2013年12月31日火曜日

『ユーザーイノベーション』

「イノベーションの民主化」、すなわち、製品やサービスのつくり手であるメーカーでなく、使い手であるユーザー(製品やサービスを使うことで便益を得るプレーヤー)のイノベーションを起こす能力と環境が向上している状態のこと、がテーマ。

バリバリプロダクトアウト型企業である我が社がどう変革していくべきなのかを考える上で参考になるかと思い購入した本。

>>>>>
これまで多くの研究者、実務家や政策立案者が前提にしてきたイノベーションの発生・普及ルートは、イノベーションは大学やメーカー企業の研究室で生まれ、最終的に市場導入された後、一般消費者に普及するというものだった。
しかし、イノベーションは消費者が製品を使用する場所で生まれることがある。
消費者が行ったイノベーションは、時に他の消費者に伝わる。イノベーションを利用したいと思う他の消費者が、製品を無料または実費でイノベーターから譲り受けたり、消費者自身がイノベーションを複製したりし、そこから消費者イノベーションの普及が始まる。
このように従来の社会的通念だった「大学・企業のイノベーション→消費者への普及」というルートと異なる「消費者によるイノベーション→他の消費者への普及→メーカーの参入」という普及ルートが少なからずある事が分かってきた。
これは、イノベーションを促進する方法が増えることを意味している。
企業や大学のイノベーション活動を支援するだけでなく、消費者の革新活動を支援すること(あるいは阻害しないこと)でこれまで以上にイノベーションが実現され、国民の生活がより豊かになる(社会的厚生が増加する)可能性がうまれる。
そうした機会を活かすためには、これまで考察の対象とされてこなかった消費者個人、消費者間、そして消費者・企業間で起こる知識層像と普及に注目する必要がある。
>>>>>

消費者をどうとらえるか。
これまで、消費者はメーカーが開発した製品を選択、購入し、消費する受け身的存在として考えられてきた。
これはイノベーション研究の父ともいえるジョセフ・シュンペーターでさえそうだと著者は言う。
それに対して、「イノベーションの民主化」における消費者はイノベーションを行う能動的な存在であり、ユーザーイノベーションを起点とするイノベーションの普及ルートの枠組みは新しいイノベーション・パラダイムであると著者は言っている。


「画期的製品を生み出す消費者の声に出会うことはほとんどない」と話す開発担当者が多い一方で、いくつかの消費財分野で消費者がイノベーションを起こしている。
これに対して著者は、消費財メーカーが消費者イノベーターの存在に気づいていないからであるという仮説を立てている。
実証してみると、消費者イノベーターの率は多くて1%。100人に1人程度しか消費者イノベーターは存在しない。そんなごく少数の消費者の存在はメーカーからはニッチ的、あるいは例外としてみられてしまう可能性が高いというわけだ。

企業は消費者イノベーターを見つけたとしても安心はできない。
過去3年間のうちに製品創造か製品改良を行った消費者イノベーターを見つけたとしても、50%以上の消費者イノベーターは「一発屋」で終わることが調査結果からでている。
100人に数人程度存在する多産型の消費者イノベーターを見つけ出したとしても、同じ製品分野で製品イノベーションを行うとは限らないのだ。
そこで企業とすると何らかの「コミュニティ」の活用が大切となる。個々人では「一発屋」でしかなり得ない消費者イノベーターが、絶えずとっかえひっかえでてくるコミュニティを目指すということだ。

以前読んだ「Yコンビネーター」でも同様の発想で、常に一発屋であるところの「スタートアップ」(ベンチャー起業)が絶えず発生する組織を目指していたが、それは専門でやっても非常に困難な(でも楽しい)チャレンジのように見えた。
消費者イノベーターを企業側が(単に)支援するコミュニティの中で絶えず発生させるようにするのは現実には非常に困難であり、何らかの「仕掛け」が必要となるだろう。
(逆に、その「仕掛け」を見つけることができれば、他社との強烈な差別化になりうる)


著者は、製品化の仕組みとして、今まで通りの企業主導のやり方、リードユーザー法(LUM)、クラウドソーシング(CS)の3つの方式を比較して、クラウドソーシング(不特定多数の消費者に対し、欲しいと望む製品案やそれに対する評価をインターネットを通じて募集し、消費者からの反応をもとに製品化を検討する仕組み)が優れているとしている。

CS(クラウドソーシング)はLUM(リードユーザメソッド)と比較して、消費者に対する開放度と透明度の点で異なっている。
CSでは不特定多数の消費者がどの段階からも参加でき、その過程も閲覧可能になっているのに対して、LUMではユーザーの発見・選別・製品案の創出、最終開発案の決定を社外の人には見えない形で行う。
そのため、LUMではユーザー同士の助け合いも行われないし、開発過程が消費者に開示されていないため、そこで生まれる製品案に対する他ユーザーの評価、注目度を知ることができない。つまり、当該製品案に対する需要の大きさを事前に知ることができない。

CSでは、リーンスタートアップにおけるプロトタイプを用いたスモールスタートと同様のことが期せずして(といよりその構造上必然的に)できるということ。まずはプロトタイプを作って世に出し、それがどのような点でどう評価を受けるのか、それを受けて改良を繰り返す(もしくはピボットする)ことが意図せずできてしまうのがCS。
では何故多数の企業がCSを実践しない(できない)のか?
その辺りが今後の研究課題なのだろう。


特定少数の専門家 vs 不特定多数の素人、すなわち「社内専門家の精鋭部隊」と「社外の素人消費者集団」ではどちらが結果を出すのか。
やり方次第ということだと思うが、現状ではまだまだ「社内専門家の精鋭部隊」に頼る企業が多いということだ。
今後、「イノベーションの民主化」に向けて企業型で仕組みの精度を上げることができれば、社外の素人消費者集団の知見を活用する時代がくるのかもしれない。

現在でも「不特定多数の群衆の知恵(wisdom of crowds)は市場の評価をより正確に予測する」というのが現実として当たっている事例が多数ある。
自民党小泉政権の大勝は、政治評論家の意見よりもむしろネットの風評を見ていた方がより正確だったと言われているし、オバマ政権のネット活用は皆の知るところだ。

「集団的顧客予約」(Collective Customer Communication:CCC) という顧客が集団的に事前予約をする仕組みがある。
不特定多数の消費者と透明度の高い関係を構築することで、製造業者は新製品の開発につながるアイディアを得るだけでなく、時にはそのまま製造できるほどの完璧なデザインを得ることさえあるらしい。
CCCが有効となるのは、次の2つの状況下。
①顧客経験がほとんど存在しないため、市場調査を行っても曖昧な結果しか得られないと見込まれる極めて革新的な製品の開発。
②比較的規模の小さい極めて不均質な市場セグメントで販売する製品の開発。

このCCCの事例のように、CSもあらゆるジャンルの製品開発全てに万能ということではなく、まだ特定のジャンルにおいてその強みを発揮するものであるような気がする。


プロダクトアウト型の我が社でも、実はCSのような取り組みをトライアルで開始している。
それがどこまで伸びていくのか。伸ばすには何が必要なのか。
この本を読んで、まだまだ仮説を色々実証していかなければならない段階のように思えた。








0 件のコメント: