2018年9月24日月曜日

『人の名前が出てこなくなったときに読む本』

認めたくはないが、この本を読もうと思ったのはタイトルにある通りである(笑)

度忘れ程度の軽いボケを、著者は「軽度認知症」と呼んでいるが、決して軽視してはいけないと警鐘を鳴らしている。
名前を忘れれば、人間関係が崩れ、社会性が崩れる。名前忘れは群れの放棄であり、孤独の始まり。群れを作る動物を孤独にすると、凶暴になり、ついには狂死するという報告もあるらしい。

<TOT現象>

いわゆる「人の名前が出てこない」症状を心理学用語では「Tip of the tongue」(舌先現象:「喉まで出かかっているのに思い出せない」現象)というらしい。

<顔は浮かぶのに名前が出てこなくなる訳>

これは人の顔を覚える機能と名前を覚える機能が脳の中で別々であることから発生する。
名前のような簡単に思える記憶は、ひとまず脳の海馬の短期記憶の倉庫に入れられる。その後、重要と認められれば、脳の側頭野で長期記憶化される。
一方、顔の記憶は非言語記憶で、顔貌という情報が目から入る。おまけに脳内には「顔細胞群」と呼ばれる、顔を覚える特別な細胞の集合体があり、「顔という形態」として認知される。そしてもちろん側頭前葉にある長期記憶の倉庫には、ほぼスムーズに収まることになる。
顔記憶はエピソード記憶に属するので覚えやすい。エピソード記憶が残りやすい理由は、脳には「生きる・死ぬのような生存に関わる事柄を優先的に記憶するというシステム」が存在し、エピソード記憶が生命や生存に関わる記憶だから。
一方、意味記憶である”名前”の誕生は、進化的にはかなり時がたってから。言葉も生まれ、文字らしきものが現れてからの話。名前が誕生した頃には、脳の構造も完成に近くなり、「名前を覚える専門の細胞群」の誕生とはならなかった。
脳の中では人の顔と人の名前が別々に処理されているため、顔は出てくるのに名前が出てこないということが起こる。

<名前が出てこなくなることに潜む危機>

名前が出てこなくなることには、二つの危機が潜んでいる。
第一の危機はアルツハイマー型認知症の発生。
第二の危機は社会性の欠落。
「孤独」とい言葉は孟子の「鰥寡孤独(かんかこどく)」からきている。
「鰥(かん)」とは61歳以上のやもめ(鰥)、「寡」とは50歳以上の未亡人、「孤」とは16歳以下の父親のいない子供、「独」は61歳以上の子供がいない者を指す。
孤独の何が恐ろしいのか。それは社会性を失う点だ。社会性を失い孤独になれば、異常行動や異常思考が始まる。そして認知症につながっていく。


<認知症対策は血液循環が鍵>

脳には酸素の備蓄機能がない。酸素補給が途絶えると脳神経細胞は20秒前後で酸欠になる。生命だって5分と保たない。しかも代用機能もない。
認知症の基礎疾患の御三家は、「高血圧」「脳血管障害」「心臓疾患」。最近では「糖尿病」も加わるため4つで四天王に昇格。
この四天王、全てが血管系の疾患、もしくは血管に悪影響をもたらす疾患。
認知症との戦いの鍵は血液循環にある
問題は血管の確保も課題。
「1−2−600〜800」この意味は血管の断面積の和。
大動脈の断面積の和を1とすると、大静脈は2であり、毛細血管は600〜800。
大動脈は確かに太い。心臓近くの大動脈は直径が3cmもある。だが数は少ない。毛細血管は超細いけれど、数は無数に近い。毛細血管まで血液を流すためにどうしたらいいのかが課題。

毛細血管を増やすには、5分くらいの軽い筋トレと15分ウォーキングが有効。歩くときには足の親指を意識して歩くと良い。
認知症や糖尿病を含めて、簡単運動法の極意は、「可能な運動を、可能な時間帯に、可能な限り多く」やること。
「簡単スクワット+つま先立ちの組み合わせ」を可能な時間帯に可能な限り多くやることが肝要。


<血糖値スパイク>

糖尿病は、糖をエネルギーに変えるインスリンと深い関係がある。
そのインスリンが認知症に原因であるアミロイドβと深くつながっている。
穀類、パン類、麺類など、糖化しやすい食べ物をたくさん取り入れると、血液中の糖分が増える(血糖値が高くなる)。
血液中の糖分はエネルギー。体力向上のためには一刻も早く糖質をエネルギーに変えなくてはならない。膵臓は大急ぎでインスリンを分泌する。かくして糖質はエネルギーとなり一件落着。
ところが、ここに血糖値スパイク(食後高血糖)という現象が現れる。
日に3度の毎食後の高血糖値となると、膵臓もインスリンの過剰分泌を起こす。
この過剰分泌による「残りのインスリン」が認知症の原因であるアミロイドβを増やすことになる。
血糖値スパイクを抑えるには、食事の食べる順番を変えるだけで良い。
野菜→肉・魚→ごはん、パン、麺
コメ飯の前に野菜を食べると、野菜に含まれる食物繊維が、小腸からの糖や脂質の吸収を抑制し、食後の血糖上昇を抑える。
インクレチンとは、食事をして糖などが吸収されると小腸から出てくるホルモン。
血糖を上げるホルモンに、グルカゴンという物質がある。インクレチンは、グルカゴンの分泌を抑えたり、胃の動きを緩やかにしてくれる。そして食後の血糖上昇を抑制する。
また、食事の直後に運動をすると、血液が運動器の方に集まり、消化器に集まるはずの血液が減る。すると消化吸収力が落ちて血糖値が上がりにくいということになる。
これまでの健康法は「親が死んでも食休み」だったが、糖尿病は血糖値スパイクを抑制するために、食事直後の運動が有効。
方法はともかく、血液を消化器から遠ざけて、運動器に集めるのだ。血液というエネルギーが不足ならば、消火器も十分に働けない。その結果血糖値が急激に上がることがなくなる。



<その他小ネタ>

◯日本人は、現在ガンは2人に1人、認知症は5人に1人。決して遠くない日に2人に1人になるであろう。
◯認知症予防には緑茶も効果あり。
◯単一食材の主食より、バラエティに富む副食重視の食事の方が認知症予防にも記憶力回復にも効果あり。
◯1日に何回食事をするのが良いか議論について。
胃腸派は胃腸を休めるためにも1日2回を唱え、脳エネルギー派は1日3回説を重視する。
1日2回だと脳エネルギー的には明らかに糖質不足。
◯親が認知症になると、子が認知症になるリスクは1.6倍も高くなる。
親が80歳未満で認知症になった場合は遺伝率が非常に強くなり、子供が認知症になるリスクが1.6倍に高まる。逆に親の認知症発症年齢が80歳以上であった場合には子供が認知症になるリスクは1%しか高まらず、ほぼ無関係と言える。
親が認知症になった場合の子供の発症に、男女差はなかった。
◯人間は血管とともに老いる。



認知症対策で面白かったのは「小さな親孝行」というもの。
「小さな親孝行」
10分間くらい、両手で親の背中を優しく撫でるだけ。指圧、マッサージ、あんまのテクニックは必要なし。ただただ優しく撫でるだけ。
この方法はオキシトシン療法といって、認知症の予防に有効と認められ、注目されているらしい。
もともとオキシトシンは、子宮収縮薬や陣痛促進剤として使われていて、闘争欲を減少させ、イライラを解消する。
このご時世「オレオレ詐欺」が流行っているが、息子にも娘にも相手にされない老人は、電話でやさしく話しかけられると、オキシトシンが大量分泌されて、相手をすぐに信用してしまうからだと言う。


最初の段階では危機感を煽るためか、「たかが人の名前が出てこなかった」とは考えないよう、それは軽度の認知症、認知症の始まりである、という流れで書かれているのだが、一方で認知症には不安やストレスが良くないとも言っており、危機感を煽れば煽るほど、認知症予防と反するのではないか?読者はこれ読んだら不安だぞ、という疑念を持ちながら読み続ける感じだった。
ちょいと気軽に読み始めたのに、いきなり軽度の認知症の恐れあり、と言う風に論じられると反発心が起き上がるのも否めないが、食事の順番には気をつけたいし、「小さな親孝行」というのは今度実行してみようと思った。

2018年9月23日日曜日

『1分で話せ』

「エレベーターブリーフィング」という言葉がある。忙しい役員などにそもそも説明の時間をもらうために短時間で話の概要を説明することだ。
忙しい人々に時間をもらうため、短時間で概要を説明する、そのためのノウハウを学ぶべく読んでみた。

そもそも人間は、相手の話の80%は聞いていない。
これは偉くて時間のない人に限らない。
そのため日々の活動においてチームで動く場合にも、チームの力を最大限活かすためには、自分の主張を相手にしっかりと伝え、理解してもらい、動いてもらう力、すなわち「プレゼン力」が必要となる。
これは人前で発表するスキルでも、話すスキルでもない。人に「動いてもらう」力である。
プレゼンというのは、自分が伝えたいことを「伝えていく」行為ではなく、「相手の頭の中に、自分が伝えたいことの骨組みや中身を『移植』していく作業」なのだ。

そのために必要なのが、「1分で話せるように話を組み立て、伝える」ということ。
「1分で伝える」極意、それは左脳と右脳の両方に訴えかけること。
そして「相手を動かす」、これを明確に意識すること。


右脳と左脳の両方に訴えかけるためには、ピラミッドは3段で作る。
 「結論」→「根拠」→「たとえば」の3段ピラミッド。
左脳には理論で根拠を示し、右脳には例えを引くことで想像させる。

ピラミッドを作るにあたっては
・前提を聞き手と共有する(そのためには「◯◯の場合には」という枕詞をつける)
・主張(結論)を明確にする
・主張を説明する根拠を複数用意する(できれば3つ)
・意味が繋がっているか、「〜だから、〜だ」と読んでみてチェックする。
ことを経る。

いくらいい話をして聞き手に喜んでもらったとしても、聞き手がそれをずっと覚えているかどうかは別の話。
人は相手の話を80%聞いていないことを忘れてはいけない。
しかし、印象に残るストーリーをしっかりと話し、相手に覚えてもらうための仕掛けを作ることによって、相手にずっと話を覚えてもらうことは可能だ。
そのためには、「自分の伝えたいことを、一言のキーワードで表す」。そうすることで、自分の伝えたい内容をその一言に「包み込む」。それを「めちゃくちゃ大事な一言」という意味を込めて「超一言」と言っている。
「覚えやすく、その一言で、プレゼン全体を表現するようなキーワード」を用意することだ。


必要なら、事前の根回し、会議後のアフターフォローなんでもやる。
相手が動くためにできることを全てやりきる。そしてそのために時間を惜しんではいけない。
自分がプレゼン下手だと思い込んでいる人の7割は単に「声が小さい」ことが原因。
声に出して、立って、何度も練習する。時間の許す限り。

たとえ上司であっても「配慮はしても遠慮はしない」
大事なのは動かしてなんぼ。


1分間で言い切れるように、シンプルに言いたいことをまとめ上げる。
これはプレゼンだけではなく、チーム内のコミュニケーションにも重要なこと。
シンプルな中にも独創性のある「超一言」を入れ込むことでビジョンを共有することができる。

その他にもプレゼン資料のフォントの大きさやら、人前で話すとき意識することのポイントなど、具体的な内容がシンプルに記載されている良書。
確かに、「1分間で話せ」の内容がダラダラと長かったら説得力ないからね。