2012年9月23日日曜日

『Think Simple』

スティーブ・ジョブズと一緒に12年間働いて、伝説のマーケティングキャンペーン「Think Different」の制作に参画したクリエイティブ・ディレクターであるケン・シーガルの著作。
スティーブ・ジョブズの仕事の仕方を通じて、いかに「シンプルであること」が大切か(そしてそれが如何に難しいか)を述べた本。

先般来読んでいるテーマ、「フォーカスする」ということにもつながり、非常に共感することができた。

アップルの社内では、シンプルであることは目標であり、仕事のやり方であり、物事を評価するものさし。
アップル社では、シンプルでない時には、スティーブ・ジョブズの「シンプルの杖」で打たれたらしい。

人間(顧客)はシンプルさを好む、という単純な事実。
シンプルさは<頭脳>と<常識>という、ビジネスにおけると最も強い二つの力の間に生まれた子供だ。
しかし実際のところ、頭脳と常識はよく無断でどこかに出かけてしまう。

その理由は、シンプルさと同様で対極の力を持つ複雑さが、シンプルさの力を削ぐクリプトナイト(スーパーマンの力を削ぐ石)を持っているからだ。

他人に対して率直に物を言う、というのもシンプルだが実践が難しい行為の一つである。
これを実践したスティーブは、往々にして「気が難しい」「傲岸」といった評価を受けることがあった。

スティーブは、Macのチームは決して100人を超えない、というルールを持っていた。
だから、誰かをチームに入れたい時には、誰かを外すことになった。
この考えは、スティーブ・ジョブズの典型的な見方だった。
「周りにいる人間は個人的に知っていたいが、私は100人以上のファースト・ネームをおぼえられない。だから100人以上になると。組織構造を変えなければならなくなって、今まで通りのやり方ができなくなる。私は自分が全てに関われるところで仕事がしたいんだ」


広告における「シンプル」の事例として面白いものが挙げられている。
シャイアット・デイ(スティーブ・ジョブズとともにアップルのプロモーション・キャンペーンを行った広告代理店)のリーダー、リー・クロウのデモンストレーションだ。
30秒のCMにいくつものメッセージを盛り込もうとスティーブ・ジョブズが考えた時のこと。
リーはメモ帳から5枚の紙をちぎると、一枚ずつ丸め始めた。全てを丸め終えると彼のパフォーマンスが始まった。
「スティーブ、キャッチしてくれ」
と言って、紙の玉を一つテーブル越に投げた。スティーブは難なくキャッチして、投げ返した。
「これがよい広告だ」。リーが言った。
「またキャッチしてくれ」と言って、紙の玉5つ全てをスティーブの方に投げた。スティーブは一つもキャッチできず、紙の玉はテーブルや床に落ちた。
「これが悪い広告だよ」

我々が広告を作る時にもよくある話で、耳の痛い話だ。


指揮者のレナード・バーンスタイン曰く、「偉大なことを成し遂げるには、二つのことが必要だ。計画と、十分ではない時間だ。」
アップルではさらにふたつの要素が加わるらしい。
○現実的な高い目標を設定すること。

動くのをやめないこと。

そして、いくつかの普遍的な法則。
○プロジェクトの成果の質は、そこにかかわる人間の多さに反比例する。
○プロジェクトの成果の質は、最終的な意思決定権者がかかわる程度に比例する。

疑わしき時はミニマル化せよ。
汝、隣人のマーケティングを望むなかれ



スティーブ・ジョブズが築いた組織では、マーケティングがほとんど全ての状況に関わっている。アップルの成功には、その製品と同じくらいマーケティングが欠かせないと言っても過言ではない。
著者はそう記述しているのが、そのやり方は大企業が一般的に行うマーケティングではない。
著者は、この本を読んでそのマーケティングのやり方を学べ、としているのだが、ジョブズという天才の判断によりマーケティングが成されていたのだとすると、一般的な企業で出来るやり方に昇華するのは難しい。



「1」は疑いもなく、人間が発明した最も単純な数字だ。単純だから子供でも分かる。1から離れれれば離れるほど、複雑になっていく。
それが理由で、スティーブはiPhoneのボタンをひとつにすることにこだわり、多くの案を却下して最終版にたどり着いた。iPhoneのシンプルさは、わざわざそれを使うまでもなく理解できる。ボタンが一つだけという視覚的手がかりは、それだけでたくさんのことを物語っている。
実際に、このひとつだけのボタンは、アップルが見せるシンプルさへの献身の象徴ともいえるのだ。
もしもアップルがこのまま自分たちの道をいけば、すべての製品のボタンはひとつになる。今では、Siriという音声認識機能も開発されたので、ボタンがなくなる日を覚悟しても良いだろう。
結局、「1」よりもシンプルな数字は「0」だけだからだ。


なるほど、iPhoneのボタンが一つなのがうなずけるし、今後のアップル社のデザインの方向性も見えた気がする。


最後にジョブズの言葉を。
シンプルであることは、複雑であることよりも難しい。
物事をシンプルにするためには、懸命に努力して思考を明瞭にしなければならないからだ。
だが、それだけの価値はある。
なぜなら、ひとたびそこに到達できれば、山をも動かせるからだ。
by スティーブ・ジョブズ



Be Simple.
分かっちゃいるけど、クリプトナイトにやられてばかりで(?)中々実践できないお題の一つだ。

2012年9月22日土曜日

文化祭

子供がみたいとのことで、母校の文化祭に行ってきた。
最近は文化祭用にHPやTwitterが用意されており、駅を降りると文化祭のポスターが駅に貼られていたりなど、企業顔負けの発信力でちょっとびっくり。
配布される文化祭案内もカラーで紙質もデザインもしっかりした折り込み付き70ページものだし、自分の頃と違って学校ブランドの商品まで販売されていたりしてこれまたびっくり。
子供がみたいというので、お化け屋敷(名前が『ひとり墓地』)に並んで入ったのだが、ファストパス制度がちゃっかりあったり(残念ながら抜かれる側だったが・・)、貞子の恐怖映像を見せてから進ませるという工夫があったり。
途中、髪の長い女の子(おそらく貞子のイメージ)が体育座りをしながら
「うふふ、うふふ」
と気味悪く笑う場所もあるのだが、その”女の子”は男子のはずで(母校は男子校)、その気味悪さが却って可笑しさを醸し出していたりで満喫。
結局小一時間並んだのだが、待っている間も女子高生のキャーキャーいう叫び声が聞こえるだけのことはあったか。

文化祭全体としては自分の頃よりも来場者が多いな、などと思いつつ、連れて行った肝心の子供は素っ気ない感じだった。やれやれ。

2012年9月2日日曜日

『リーン・スタートアップ』

「リーン・スタートアップ」とは、リーン生産方式やデザイン思考、顧客開発、アジャイル開発など従来から活用されてきたマネジメントや製品開発の手法をベースにした、イノベーションを継続的に生み出せるアプローチである。
「起業」というとベンチャー企業で行うイメージだが、ここでいう「スタートアップ」とは大企業であれベンチャーであれ、新たな商品・サービスをビジネスとして提供し始めることを総括して称している。
(著者はスタートアップを、「とてつもなく不確実な状態で新しい製品やサービスを創りださなければならない人的組織」と定義している。)
なので一般企業に属する「新規事業」「新商品開発」などを担当している人間にも役に立つ訳だ。

リーン・スタートアップ。
色々と書かれていて全体が見えないと分かりにくい部分もあるが、次回説のMIT メディアラボの伊藤穰一氏によると、以下の通りになる。

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リーン・スタートアップの本質を分かりやすく表現すると「地図を捨て、コンパスを頼りに進め」ということになる。
イノベーションに必要なコストが劇的に下がった現在においては、あるプロダクトを生み出すためにそれを成功に導くまでの「地図」を描こうとすると、その作業だけでプロダクトを開発する以上のコストがかかってしまう。たとえ地図ができたとしても、イノベーションが急速に進む今の世の中では、プロダクトを開発している途中でゴールが変わり、地図そのものが陳腐化する可能性が高い。
こうした状況においては地図などはじめから持たずに、市場の変化を敏感に感じ取るコンパスを手に、しなやかにプロダクトの方向性を変えていった方がよい。
地図を捨てることで「セレンディピティ」の恩恵にもあずかれる。

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リーン・スタートアップの具体的な手法としては
MVP(minimum  viable product:製品やサービスのプロトタイプ)を作って、構築ー計測ー学習のフィードバックループに要するトータルの時間を最小にする
というもの。

著者は様々なケースにて起業支援やアドバイスを行ってきているので、リーン・スタートアップを行った際に実際起こることについても述べている。様々な事例は非常に説得力があり、それを読んでいるだけでも面白い。
その一例が、チームの生産性について、その定義を機能的な卓越性〜マーケティングや営業、製品開発などそれぞれにおけるエクセレンス(卓越性)〜から検証による学びにかえるとフリクションが起きるというもの。
各機能のスペシャリストは自分の仕事に没頭できた時間の割合で業務効率を測ってきた。
それが、リーン・スタートアップの場合、スペシャリスト一人一人の効率向上は目的に含まれない。機能横断的に仕事をして「検証による学び」を得るチームを構築することを目的としているため、一見メンバー個人の業務効率が悪化するように感じられるというのだ。
行動につながる評価基準、継続的デプロイメント、全体的な構築ー計測ー学習のフィードバックループなど、そのためのテクニックはいずれも、チームメンバーの個人的効率を落とす。

しかし、大事なのは、ループ全体を少しでも速くまわすことだ。
「やってはいけないことを素晴らしい効率で行うほど無駄なことはない」by ピーター・ドラッカー)
我々は得てして、”やってはいけないことを素晴らしい効率で行い”、自己満足に陥っていることがあるということだ。


また、大企業におけるスタートアップについては、「親組織を守る」ため、イノベーションのサンドボックス(砂場)をもうけることが有効であると提言している。
この「砂場」、その中では一定の制限の中、チームに裁量を渡して自由にチャレンジをさせるというものだ。
また、社内スタートアップであっても通常のスタートアップであっても、3つの組織的な特質が必要になると著者は述べている。
①少ないが確実に資源が用意されていること
②自分たちの事業を興す権限を有していること
③成果に個人的な利害がかかっていること


現在企業内で、新商品企画を考えたり、新事業を興したりしている立場からすると非常に参考になる本であった。