2012年5月27日日曜日

『サムスン式仕事の流儀』

本屋で立ち読みし、2/3を読み終わったところでタイムアップとなり、残りが気になったこともあり購入した本。

 サムスンマンは5年で一人前になるのだそうだ。
これは以下の理由から5年とおいたというのがホンネだと思うが、5年で社外的にはいっぱしと思われるような対応ができないと「次がない」ということなのだろう。

<一万時間の法則>
どの分野でも1日3時間ずつ10年間取り組めば(合計約1万時間)、その分野に「精通し」、誰もが認める専門性を身につけることができる。
1日を3時間ではなく、6時間にすると「一万時間の法則」に該当するのは、ちょうど5年目ということになる。
このように5年間という時間は、単に「最初の5年」というだけでなく、「専門家として確実に成長できる5年」という意味もある。
サムスンでは入社5年目になると、「社長の立場」を理解し、「社長の役割」への十分なサポート力が身に付くらしい。「社長の立場」を理解するというのは、会社全体を把握できることであり、組織レベルで「全体を見渡す」ことができることを意味する。
また、ある就職関連サイトで、社会人の男女1100人以上を対象に調査した結果、転職したいという人の割合が一番高かったのは「入社5年前後」。
入社5年で一人前になり羽ばたいていく(もしくは会社が自分と合わないと見切り転職する)というのはタイミングとして珍しい事ではない。

というわけで、サムスンマンが1年目から5年目までどのようにスキルアップしていくかが具体事例とともに記載されている。
報告書の書き方から上司との付き合い方まで。
面白いのはやはり激烈な部分だろうか。
サムスンでは仕事のスピードアップのために、退社前にその日の報告事項を整理して上司にメールを送る。こうして最終報告メールを送っておいて退社すれば、業務はストップしない。夜、役員がメールを開き、考え判断する時間ができることで、業務は「進行中」の状態になる。
また、サムスンでは出張報告書は帰りの飛行機で書き終えるのが常識。
役員が出席した会議が終了して夕方に戻って来て指示が出る前に、その会議でどのようなことが話されたのかを現地に確認する。。
読んでいて、まるで日本の戦後の高度成長期のサラリーマンのようだと思った。
イ・ゴンヒ会長が「妻と子供以外はすべて変えろ」という名言をおっしゃとかという会社だからさもありなん。
「そりゃあ、サムスンには勝てんわ」で済めばいいのだがグローバル化ということはこういう企業と対峙していかなければならないということだ。
とはいえ、日本は高度成長期のような仕事オンリーが許される環境にもなければ、モーレツ軍曹方式で耐えられる若手もいない。(著者のムン・ヒョンジン氏も「仕事で子供と遊んでやれなくてゴメン」と書いている。そりゃそれだけやってりゃ子供なんて相手にしてられないでしょ)
「成熟化時代のグローバルでの戦い方」を見出さないと、同じ土俵で戦っていたら間違いなく高度成長期の日本ばりのサムスンには負けてしまう。

意外だったのは、日本と同じで上司との付き合い方は慎重に、忠誠心も大事、成功するには節制を、という論調で書かれている事。
これだけグローバル化していて「結果」だけが求められている会社のように見えるのに、結構日本人と近しい価値観なんだな、とちょっとビックリ。
先日の韓国出張でも思ったが、ハングルという言葉の大きな違いはあるものの、儒教文化圏だからか、価値観は日本と韓国は非常に近しいものである気がする。

面白かったのは業務をスピーディーにこなす「瞬間移動のスキル」。
毎朝30分デスクを整理しながら、その日の業務に必要な資料をファイルごとに整理しておき、必要な資料が出てくるよう準備をする。 同時に二つ以上の業務をこなすには、「考えを瞬間的に移動するスキル」が必要というもの。
効果的な会議を設計するには「目標」と「担当者」、そして「完了日」が必須、といった基本的なことは明日からでも業務に活かしていきたい。

2012年5月26日土曜日

『成功するポイントサービス』

ポイントサービスに関する様々な実態および知見が書かれた本。
スマートシティを研究すると地域通貨的なことは避けて通れない感じもあり、勧められて読んでみた。 

ポイントサービス=お金+α
+αは「そのポイントを貯める楽しみ、使う喜び」「その企業・ブランド・店舗への帰属感」「そのポイントサービスがもたらす限定感・優越感」など、いわゆる『精神的インセンティブ』 。
ポイントサービス=『金銭的インセンティブ』+『精神的インセンティブ』といいかえてもよい。


 知らなかったのは会計上の取り扱いが近々変更になるということ。
今まで多くの企業は、過去の発行数や交換数に応じて「販促引当金」という形で計上してきているはず。
商品券やプリペイドカード発行時に届出が必要などと規制する「前払式証票法」のように、ポイントサービスに関する法律や専用の会計基準が存在せず、企業が自社の判断基準や慣習で計上しているのが実態。
 IFIRS(国際財務報告基準)ではこの計上方法が根本から変わる。
発行したポイント数に相当する全額を売上から除外して、負債に計上しなくてはならなくなる。そして、ポイントが使われたときか、有効期限を超えて失効した時にはじめて売上に計上できることになる。いままではポイント発行分も含めて「売上」となっていたが、IFRSでは、使われるか失効しないと売上にならない。

ポイントが引当金として計上されているのであろうことは想像していたが、その引当金を売上に計上するルールが各社バラバラというのは知らなかった。セゾンの永久不滅ポイントのようなものは、いつまで引当金として計上しておけばいいのだろうか。色々奥は深そうだ。


 ポイントサービス系のコンサル業務を通じて得られた知見として、各部分を「統合」する役割が必須であること、分析ツールも結局は使う「人」によるということが挙げられている。

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ポイントサービスは、システム面においては、「顧客管理機能」と「ポイント管理機能」さえ存在すれば稼働させることが可能。
導入にあたって基幹システム会社にまずは相談するが、SaaS型などで導入する方が安価であり、最近主流となりつつあるので、別会社と付き合うこととなる。
また、リアル店舗でポイントカードを発行する場合には、ポイントカードおよびリーダー・ライターなどのカードや端末類が必要となり、当然機器メーカーやカード製造会社が絡んでくる。
ポイントサービス運用の失敗は、いくつかの典型的な要因が存在するが、何より根本的な問題は、支援会社がそれぞれの領域ごとに複数存在し、各支援会社がバラバラに動かざるを得ないこと。そこに諸悪の根源がある。ポイントサービス全体を見渡す視点をもたないままサービスを開始してしまえば、運用後一気にしわ寄せがくる。
各支援会社が自分たちの責任の範囲内でのみバラバラに業務を行う。その支援会社をまとめてコントロールしようとする人はどこにもいない。。

分析ソフトはあくまで「あるパターンの分析ができます」というもの。 人工頭脳のように、これとこれを分析すれば、このようなことが分かりますと教えてくれるものでは決してない。 要は何を分析するかを決めるのは、人間=担当者ということ。
だから担当者に、店舗に関する、商品販売に関する、そして顧客に関する何らかの仮説がなければ、分析内容は決まるはずがない。


ポイントサービス全体設計として、①ポイントサービスを導入する目的は何か。②その目的に対し、どんな××を構築すればいいのか。についてはきちんと整理をしておく必要がある。

ポイントサービスを成功させる上で最も大切なのは、ポイントサービスのプログラム内容(特典、交換商品、サービス内容)、施策内容、見え方・見せ方、つまり「ソフト」(生活者接点)領域に関わる部分である。
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といったポイントサービスに関わる知見が事例とともに記載されている。


最後。ポイントサービスの効能は二つ。
①自社の顧客に対するCRM
 ②他社からの誘客戦略
どちらを目的とするのかは明確にしてポイントサービス全体戦略を構築するのが大切とのこと。
ポイントサービスも通貨と同じ複雑系で、どうするとどうなっていくのかが非常に読みにくい。
常に指標を把握しながら方向を見定めていくことを「人」が行っていくことが必要ということか。

2012年5月13日日曜日

『「ソーシャルラーニング」入門』


ソーシャルラーニングに関するワクワクする本があると教えてもらい、読んでみた本。
これからの時代必須となってくるであろう、ソーシャルラーニングに関する基礎事項が、導入時の反対勢力に対する方策とともに語られている。


「私たちは時々ポイントを外して理解してしまう」
ツイッターやフェイスブック、その他のソーシャルメディアをマーケティングのための道具と考え勝ち。
ソーシャルメディアというものが持ちうる根本的で影響力のあるインパクトとは、何よりも「学び」に対してである。
「学び」というものは基本的に社交的行動である。

「ボートに乗り込め!」
あなたは一人じゃない。あなたにはいつでも呼び出すことのできるチームがいるということ。
「ボートに乗り込め!」
「仕事を通じて学べ」
「逃げるよりは飛び込め」
「ピンチをチャンスに変えろ」
これらこそが「ソーシャルラーニング」の真骨頂である。

ソーシャルラーニングとは1954年にジョン・デューイが提唱した理論をベースにしたもので、スイスの心理学者 ジャン・ピアジェが提唱した社会構成主義(Social Constructivism)と一緒になり現在に至る(らしい)。


21世紀の知とは、我々の友人や同僚の脳にアクセスすることによる「集合知」である。我々は共に賢くなり、またこれまで以上に困難な問題にも取り組むことができる。

時代とともに、我々の会話し共有する能力は絶えず発達し続けている。


学びに関する定義がいくつかなされている。

学びとは「情報を取り込むことによる変革のプロセス」。
学びとは新しい視点や初めての経験を求めてもっと力強く世界に関わっていくこと。

「人間が何かを知ることは、根本的に社交的な活動だ」by エティエンヌ・ウェンガー
「学ぶとは、自分のネットワークの質を最適化することである」by ジェイ・クロス
「多数の異なる意見によって物事を正しく測ることができる」by ジェームズ・スロウィッキー
(☞これこそが「集合知」)


新しく知った言葉もあった。

マッシュアップ
固有のモノやサービスを組み合わせて新しいモノをつくること。


バックチャネル
バックチャネルとは、ライブ・イベントなどの場において聴衆がツイッターやチャットを使って行うリアルタイムのテキストコミュニケーション。
元々は1970年に言語学者のヴィクター・イングベが公演中の聴衆の行動を指して造った言葉。



監訳者 松村太郎氏によるあとがきにも非常に参考になる知見が述べられている。
>>>>>ソーシャルラーニングは、人の学び方の「スマート化」を促していくことになる。
そこには6つの要素が介在していると考えている。
統合

これまでのデバイスやサービス、行動ごとに分断されていた物事を統合化していく基本的な方針。例えばスマートフォンであれば、電話・インターネット・手帳もしくは音楽プレーヤーを統合した。これによって、それぞれの分断されていた仕事がポケットの中に入り、あらゆる場所と時間で実現できるようになった。
アプリによる進化
多様化する人、環境、文脈に適合させるために、アプリを組み合わせることで最良の関係を作り出す。これもスマートフォンの文脈でいえば、全く同じアイフォンを持っていても、中に入っているアプリによって用途や目的が変わるし、使い勝手まで変化する。アプリケーションの組み合わせによって、より多くの人がユーティリティ的に機能や情報を手にする。
クラウドの活用と不在化
クラウド活用によって、目の前に用意されたデバイスや環境、コミュニケーション以上の情報や知識にアクセスできることを可能にする。あるいは、クラウドを活用していることを意識させなくするシームレスな統合へと進む。
チェックイン
場所だけでなく、時間や情報の単位等に対して参加している、あるいはその情報に触れていることを明示する「ソーシャルな意思表示」によって、自分あるいは周りの人が何をしているのかを記録し、将来の行動や学ぶべき知を予測することを可能にする。
Online to Offline(O2O)
オンラインつまりバーチャルな行動を、オフラインつまりリアルな行動へと昇華させるプロセス。これまで分断されていたオンラインとオフラインをモバイルやクラウド等によって1つの環境としてつなぎ、人や情報が行き来する環境を作り出す。
ソーシャル
人のつながりの記述によって、その上を情報が流れるようになる。あるいは友人から、上司から、同僚からもたらされる情報に文脈が付加され、情報の重み付けが流入経路から行われるようになる。既存のつながりだけでなく、チェックインしたりO2Oなどで時間や場所を共有したりすることによって、その場で有用なつながりを発見し、お互いに活用できるようにする。

この6つの要素は学習に限らず、様々なもののスマート化を推し進めていく基本的なトピックとして注目すべきだ。
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言葉については様々別のいい方でいわれることもある(統合→インターフェイス、O2O→バーチャルとリアルの融合など)が、基本的トピックなのであろう。
中西紹二さんが
「昔は世界を変えたいと思う人間は役人とか政治家になったけど、今は世界を変えたいと思ってる人間はアプリをつくろうと思うんですよ」
と言っていたのを思い出す。
スマートシティというテーマには必須の要素ということか。