最近の研究によると、食生活を改めたり、もっと運動したり、喫煙をやめたりしなければ心臓病で死にますよと専門医から警告された時、実際にそのように自分を変えることが出来る人は、7人に1人にすぎないと言う。
残りの6人も自己変革の重要性を理解していない訳ではない。自分を変える背中を押すインセンティブも極めて強い。どこをどう変えればいいかは、医師から明確に指示されている。それなのに、自分を変えられない人が7人のうち6人、約85%もいるのだ。
心臓病で死ぬ危険があっても生活習慣を改めない人たちがそうだったように、リーダーと組織のメンバーが変革を成し遂げることを妨げている要因は、基本的に意志の欠如ではない。
本当の問題は、自分が本心からやりたいと望んでいることと、実際に実行できることの間にある大きな溝だ。
「変われないのは意志が弱いからだ」という思考停止状態から一歩進んで、時には免疫機能が健康を脅かす場合もあるように、実は 「免疫機能」のようなものがその人を守ろうとしていることにより「変わること」ができないのではないか、という仮説をもとに作られた理論。
著者はその「変革を阻む免疫機能」について多くのクライアントのコンサルを行うことにより変わっていくための手法として確立し、その内容を著している。
大人の知性は思春期以降も伸びていく。
いまや脳科学の世界でも「脳の可塑性」という考え方が認められており、人間の脳には生涯を通じて適応を続ける驚異的な能力が備わっていると考えられている。
大人の知性には3つの段階がある。
その知性の3段階の特徴は以下の通り。
<環境順応型知性(ソーシャライズド・マインド)>
・周囲からどのように見られ、どういう役割を期待されるかによって、自己が形成される。
・帰属意識を抱く対象に従い、その対象に忠実に行動することを通じて、一つの自我を形成する。
・順応する対象は、主に他の人間、もしくは考え方や価値観の流派、あるいはその両方である。
<自己主導型知性(セルフオーサリング・マインド)>
・周囲の環境を客観的に見ることにより、内的な判断基準(自分自身の価値基準)を確立し、それに基づいて、周りの期待について判断し、選択を行える。
・自分自身の価値観やイデオロギー、行動規範に従い、自律的に行動し、自分の立場を鮮明にし、自分に何が出来るかを決め、自分の価値観に基づいて自戒の範囲を設定し、それを管理する。こうしたことを通じて、一つの自我を形成する。
<自己変容型知性(セルフトランスフォーミング・マインド)>
・自分自身のイデオロギーと価値基準を客観的に見て、その限界を検討できる。あらゆるシステムや秩序が断片的、ないし不完全なものだと理解している。これ以前の段階の知性の持ち主に比べ、矛盾や反対を受け入れることができ、一つのシステムを全ての場面に適応せずに複数のシステムを保持しようとする。
・一つの価値観だけいだくことを人間としての完全性とはき違えず、対立する考え方の一方に組するのではなく、両者を統合することを通じて、一つの自我を形成する。
ワシントン大学文章完成テスト(WUSCT)、主体客体インタビューの二つの手法を用いた調査結果によると、 二つの研究は全く別個の被験者を対象にした調査をメタ分析したものだが、結論は一致していて、被験者の過半数(6割近く)は自己主導型知性の段階に達していない。
(いずれの研究も大卒中流層の専門職の割合が大きいので、社会の全ての層を調べれば、この段階に達していない人の割合はもっと大きいと予想される)
そして、自己主導型知性より上に到達している人の割合は、極めて小さい(6〜7%)
今日の世界で直面する課題の多くは、既存の思考様式のままで新しい技術をいくらか身につけるだけでは対応できない。
そうした課題をリーダーシップ論の研究者ロナルド・ハイフェッツは「適応を要する課題」と呼び、「技術的な課題」と分類している。
適応を要する課題に、技術的なアプローチではなく適応型のアプローチで対処するにはどうすればいいのか。
研究によれば、適応を要する課題に対処するために必要なのは、第一に、適応型のアプローチで問題を明確に定義すること。そして第二に、適応型のアプローチで問題の解決策を見いだすことだ。
第一の点は、今直面していることを解決する上で、自分の現段階の知性がどのような点で不十分なのかを正しく把握することを意味する。そして第二の点は、必要に応じて自分を変えることに他ならない。
とはいえ知性を高めるプロセスは単純なものではない。思考と感情の両方を動員しなければ、それは成し遂げられない。
では、具体的には何が必要なのか。 発達心理学者達の75年あまりの研究成果を一言で言うと、人間の知性を高めるために必要なのは「適度な葛藤」ということになる。
ここで「免疫マップ」なるものが登場する。
<免疫マップ>
1 改善目標
2 阻害行動(改善目標の達成を妨げる要因)
3 裏の目標
4 強力な固定観念
これを自ら内省し埋めていくことで気づきが得られ、変革への一歩を踏み出すことができる。
このマップの埋め方は様々な実例とともに述べられていて非常に分かりやすい。
本当の変化と成長を促したければ、リーダー個人の姿勢と組織文化が発達志向である必要があると著者はいう。
<本当の発達志向の姿勢の7つの要素>
①人間が思春期以降も成長できるという前提に立つ。人は大人になってからも成長し続けるべきだと考える。
②技術的な学習課題と適応を要する学習課題の違いを理解する。
③誰もが成長への欲求を内面に抱いていることを認識し、その欲求を育む。
④思考様式を変えるには時間がかかり、変化がいつも均一なペースで進むとは限らないことを理解する。
⑤思考様式が思考と感情の両方を形作ることを理解し、思考様式を変えるためには「頭脳」と「ハート」の両方にはたらきかける必要があると認識する。
⑥思考様式と行動のいずれか一方を変えるだけでは変革を実現できないと理解する。思考様式の変革が行動の変革を促進し、行動の変革が思考様式の変革を促進するのだと認識する。
⑦思考様式の変革にはリスクがついて回ると理解し、メンバーがそういう行動に乗り出せるように安全な場所を用意する。
著者は組織においても同じ手法が活用できるとしているのだが(そしてそれはそうだと思う)、個人の事例は非常に分かりやすく紙面を割いているのに対し、組織の事例はほとんど書かれていない(組織の方が、類型化しづらいからだろうか)。
変われない理由を、自らを嫌なものから守る「免疫機能」によるものとして、それを具体的な手法として確立しているのはスゴい。
あとがきで「これは文字通り、我々のこれまでの研究者人生全てを費やして書いた本だ」と言い切ってしまうだけのことはある。
非常に参考になる本であった。
心臓病で死ぬ危険があっても生活習慣を改めない人たちがそうだったように、リーダーと組織のメンバーが変革を成し遂げることを妨げている要因は、基本的に意志の欠如ではない。
本当の問題は、自分が本心からやりたいと望んでいることと、実際に実行できることの間にある大きな溝だ。
「変われないのは意志が弱いからだ」という思考停止状態から一歩進んで、時には免疫機能が健康を脅かす場合もあるように、実は 「免疫機能」のようなものがその人を守ろうとしていることにより「変わること」ができないのではないか、という仮説をもとに作られた理論。
著者はその「変革を阻む免疫機能」について多くのクライアントのコンサルを行うことにより変わっていくための手法として確立し、その内容を著している。
大人の知性は思春期以降も伸びていく。
いまや脳科学の世界でも「脳の可塑性」という考え方が認められており、人間の脳には生涯を通じて適応を続ける驚異的な能力が備わっていると考えられている。
大人の知性には3つの段階がある。
その知性の3段階の特徴は以下の通り。
<環境順応型知性(ソーシャライズド・マインド)>
・周囲からどのように見られ、どういう役割を期待されるかによって、自己が形成される。
・帰属意識を抱く対象に従い、その対象に忠実に行動することを通じて、一つの自我を形成する。
・順応する対象は、主に他の人間、もしくは考え方や価値観の流派、あるいはその両方である。
<自己主導型知性(セルフオーサリング・マインド)>
・周囲の環境を客観的に見ることにより、内的な判断基準(自分自身の価値基準)を確立し、それに基づいて、周りの期待について判断し、選択を行える。
・自分自身の価値観やイデオロギー、行動規範に従い、自律的に行動し、自分の立場を鮮明にし、自分に何が出来るかを決め、自分の価値観に基づいて自戒の範囲を設定し、それを管理する。こうしたことを通じて、一つの自我を形成する。
<自己変容型知性(セルフトランスフォーミング・マインド)>
・自分自身のイデオロギーと価値基準を客観的に見て、その限界を検討できる。あらゆるシステムや秩序が断片的、ないし不完全なものだと理解している。これ以前の段階の知性の持ち主に比べ、矛盾や反対を受け入れることができ、一つのシステムを全ての場面に適応せずに複数のシステムを保持しようとする。
・一つの価値観だけいだくことを人間としての完全性とはき違えず、対立する考え方の一方に組するのではなく、両者を統合することを通じて、一つの自我を形成する。
ワシントン大学文章完成テスト(WUSCT)、主体客体インタビューの二つの手法を用いた調査結果によると、 二つの研究は全く別個の被験者を対象にした調査をメタ分析したものだが、結論は一致していて、被験者の過半数(6割近く)は自己主導型知性の段階に達していない。
(いずれの研究も大卒中流層の専門職の割合が大きいので、社会の全ての層を調べれば、この段階に達していない人の割合はもっと大きいと予想される)
そして、自己主導型知性より上に到達している人の割合は、極めて小さい(6〜7%)
今日の世界で直面する課題の多くは、既存の思考様式のままで新しい技術をいくらか身につけるだけでは対応できない。
そうした課題をリーダーシップ論の研究者ロナルド・ハイフェッツは「適応を要する課題」と呼び、「技術的な課題」と分類している。
適応を要する課題に、技術的なアプローチではなく適応型のアプローチで対処するにはどうすればいいのか。
研究によれば、適応を要する課題に対処するために必要なのは、第一に、適応型のアプローチで問題を明確に定義すること。そして第二に、適応型のアプローチで問題の解決策を見いだすことだ。
第一の点は、今直面していることを解決する上で、自分の現段階の知性がどのような点で不十分なのかを正しく把握することを意味する。そして第二の点は、必要に応じて自分を変えることに他ならない。
とはいえ知性を高めるプロセスは単純なものではない。思考と感情の両方を動員しなければ、それは成し遂げられない。
では、具体的には何が必要なのか。 発達心理学者達の75年あまりの研究成果を一言で言うと、人間の知性を高めるために必要なのは「適度な葛藤」ということになる。
ここで「免疫マップ」なるものが登場する。
<免疫マップ>
1 改善目標
2 阻害行動(改善目標の達成を妨げる要因)
3 裏の目標
4 強力な固定観念
これを自ら内省し埋めていくことで気づきが得られ、変革への一歩を踏み出すことができる。
このマップの埋め方は様々な実例とともに述べられていて非常に分かりやすい。
本当の変化と成長を促したければ、リーダー個人の姿勢と組織文化が発達志向である必要があると著者はいう。
<本当の発達志向の姿勢の7つの要素>
①人間が思春期以降も成長できるという前提に立つ。人は大人になってからも成長し続けるべきだと考える。
②技術的な学習課題と適応を要する学習課題の違いを理解する。
③誰もが成長への欲求を内面に抱いていることを認識し、その欲求を育む。
④思考様式を変えるには時間がかかり、変化がいつも均一なペースで進むとは限らないことを理解する。
⑤思考様式が思考と感情の両方を形作ることを理解し、思考様式を変えるためには「頭脳」と「ハート」の両方にはたらきかける必要があると認識する。
⑥思考様式と行動のいずれか一方を変えるだけでは変革を実現できないと理解する。思考様式の変革が行動の変革を促進し、行動の変革が思考様式の変革を促進するのだと認識する。
⑦思考様式の変革にはリスクがついて回ると理解し、メンバーがそういう行動に乗り出せるように安全な場所を用意する。
著者は組織においても同じ手法が活用できるとしているのだが(そしてそれはそうだと思う)、個人の事例は非常に分かりやすく紙面を割いているのに対し、組織の事例はほとんど書かれていない(組織の方が、類型化しづらいからだろうか)。
変われない理由を、自らを嫌なものから守る「免疫機能」によるものとして、それを具体的な手法として確立しているのはスゴい。
あとがきで「これは文字通り、我々のこれまでの研究者人生全てを費やして書いた本だ」と言い切ってしまうだけのことはある。
非常に参考になる本であった。