2014年4月27日日曜日

『売る力』

千趣会マーケティングサポート 中山悦二郎さんご紹介の2冊目。
セブン−イレブンの鈴木敏文さんの著作は昔から好きで、セブン−イレブン研究として様々な著作を読んだが、ご本人の書いた最新作ということで非常によくまとまっていて、分かりやすく、それでいて奥の深い本であった(流石、中山さんのお勧め本!)。

「売る力」とは、お客様から見て「買ってよかった」と思ってもらえる力である。 だから、売り手は常にお客様の求めるものを叶える「顧客代理人」でなければならない。

この本では、以前に鈴木氏が対談をした有名人の取り組みを引きながら、事例として挙げている。(取り上げなかったが、以前中山さんからその著作を推奨された立命館大学大学院教授でありマーケティング・コンサルタントのルディー和子さんも出てくる)


<秋元康 編>
・お笑いの世界でも「普遍的な笑い」と「飽きられる笑い」がある。
たけしなどは、話題になっている「ネタ」を「変わらない視点」を通して語るのでいつまでも飽きられない。
新しいものを生み出すときには、長い間処方して体質改善する「漢方薬」のように長期的に持続する姿勢、すなわち変わらない「視点」を基盤としてもち、その上で「抗生物質」のように即効性のある要素、つまり、新しい「ネタ」を取り込むのが理想。
・柳の下にドジョウは二匹いるかもしれないが、二匹目のドジョウは小振り。ひまわりがブームになっているときには、タンポポの種を撒こう。
・「ココアとバターと文庫本」
 新しいものを生み出すイノベーションには二つあって、一つはこれまで存在しなかった概念のものを生み出すこと。もう一つは既存の概念のものに新しい意味を付け加えて革新すること。
ヨーロッパでは、冬にはココアに少量のバターを入れる飲み方がある。よりコクが増して美味しくなる。「秋から冬の夜長には、ひとかけらのバターを入れた温かいココアを片手に文庫本を読もう」という新しい提案。これは組み合わせにより新しい意味が生まれ、別の意味を持つようになる「予定調和を壊す」事例。


<旭山動物園 前園長 小菅正夫 編>
「形態展示」から「行動展示」へと切り替えることで瀕死の動物園を日本有数の動物園へと奇跡の復活をさせた園長先生。
・動物たちの魅力を来園客に伝えるには、何よりも動物達が楽しく一日を過ごせるようにすることが大切。でも動物は一つの仕掛けを楽しんでいてもすぐに飽きてしまう。
・「お客様の立場で」という観点で動物園を見直してみたら、動物がみんなお客様におしりを向けていた。
動物達にとって、普段エサを運んだり、世話をしてくれる飼育係も、痛い注射を打ちにくる獣医師もみんな裏側からやってくる。動物達にしてみれば、お客様の側には特に用がないので、常に裏側に注意を集中させていた。
それまでは、お客様に「動物は寝てばかりいて面白くない」と言われてもピンとこなかった。
考えてみると、自分達の前では、動物達は美味しいものが食べられるとか、いやな注射を打ちにきたということで、いつでも緊張感を持って活き活きとしていた。いわば特等席で動物を見ていたことに気がついた。
そこで、以降は、お客様の側から動物に近づいていき、世話をするように変えた。すると、動物達はすぐにこの変化を察知して、今度はお客様の方に、いつ飼育係がくるか、いつ獣医師が来るかと緊張感をもって注意を向けるようになった。
・「動物達は自由がなくてかわいそう」という意見にも最初は反発を感じていた。
しかし、動物の生きる目的は究極的には繁殖であり、目的に向かって命を維持するために食べる。自然界では一日のすべてをこの目的にあて、達成された時に喜びを感じる。
それが動物園では、食べ物は与えられるだけで達成感はなく、24時間のうち食餌の時間はたったの30分。それ以外の時間は何もすることがない。これはものすごい拷問ではないか、と気づいた。
これがきっかけで、行動展示が生まれていく。 食餌の時間に、動物本来の動きを引き出してみせる方法が考案された。

<経営コンサルタント 内田和成 編>
・「異業種間競争の時代」では、消費者起点で新たな事業連鎖を考えることが重要。
「事業連鎖」とは消費者が商品・サービスを購入するまでの、アフターサービスを含めた川上から川下にいたる流れの中で、様々な事業のつながりいう。
異業種間競争の時代になると、企業内の閉じた活動の範囲内で価値を生み出そうとする従来の考え方ではなく、既存の活動範囲や自分の業界を超えて、新たな事業連鎖を生み出す動きがドンドン活発になってくる。
他社との競争なら追い越した時点がゴールとなるが、顧客ニーズは変化し続けるので、この競争にゴールはない。これからもお客様を起点とした新たな事業連鎖が生まれ続けるということ。
・「明日の顧客のニーズ」はアンケートでも聞いても分からない。 必要になるのは、「仮説を立てる」という仕事の仕方。
 POSシステムは「明日の顧客」のデータは出してくれない。 「素人の目線」、普通の生活感覚で考えることが大切。
・「成功の復讐」
過去の成功体験が「よいパラダイム」として人や組織に染み込んでいると、変化に直面した時にその成功体験に足を縛られてしまうということを「成功の復讐」という。
 ダイバーが潜っているとき、水深50メートルほどの深さの海底にビールのバドワイザーの缶が落ちていて、赤いロゴマークが目立ったのですぐに目に入ったという話し。実はその位の水深だと、光の屈折の関係で赤い色は見えないはず。正確には、本当は濃いグレーに見えるはずのものが、グレーに見えず赤に見えてしまった。それほど人の思い込みは強いという逸話。

<佐藤可士和 編>
・「『当たり前』とは『あるべき姿』のことで、いわば理想型です。『当たり前』のことができるのはものすごくレベルの高いこと」
自分都合の範囲内での「当たり前」ではなく、相手にとって「当たり前」のことを愚直なまでに積み上げていくことが大切。
「当たり前」のことを徹底して実行し、積み重ねていくと、あるとき爆発点に達し、非凡化する。非凡化することで大きな成果に結びつく。
・「伝わらないのは存在しないのと同じ」
・「ブランドデザインは根底に流れるフィロソフィがないとできない」


その他、鈴木敏文語録。
・変わらない「視点」の基本は、常に「お客様の立場で」考えること。
売り手は「お客様のために」ではなく、「お客様の立場で」考えなければならない。
「お客様のために」となると、無意識のうちに「売り手の立場で」考えた思い込みや決めつけがある。
「お客様の立場で」考える時には、時には、売り手としての立場や過去の経験を否定しなければならない。
・6割のお客様が「手軽さ」、4割が「上質さ」を求めているとして、6割のお客様に対して売り手の9割が商品を供給すると、そのマーケットはたちまち飽和状態となり、価格競争に陥る。
・真の競合相手は競合他社ではなく、絶えず変化する顧客ニーズである。
・「メリハリ消費」「ごほうび消費」
現代の消費者は「消費を正当化する理由」を求めている。
消費が、単にモノそのものを買うのではなく、イベント性を持つようになっている。 モノを買うのではなく、コトを買う。
・「ペンシル型消費」
 ある商品の売れ行きが突然動き始めたら、商品を一気に市場に投入し、広告を打ち、情報発信に注力して、爆発点にもっていく。幻冬舎の見城さんが行っているようなきめ細やかな戦略は、消費者相手に商品を売るあらゆる業種で求められる。商品のライフサイクルが「ペンシル型」になっているからだ。
その昔の型からの推移を模式化すると、「富士山型」→「茶筒型」→「ペンシル型」となる。
 ピークの期間が極端に短いのが「ペンシル型」。ライフサイクルが短命化し、人気商品の交代が激しくなっている。よそが売れているのを見てから仕入れていたのでは、ニーズがピークのときに売り逃しを起こし、ピークが過ぎてから商品が大量に入ってきて売れ残ってしまう。
 お客様の潜在的なニーズはここにあると仮説を立てて開発した新商品や、あるいは、売れ行きのカーブに立ち上がる兆しが見えて、これが新しい売れ筋ではないかと仮説を立てた商品は、思い切って市場や店頭に投入する。同時に売れ行きの落ち始めた死に筋を排除する。
 ペンシル型消費に対して、ペンシル型のマーケティング戦略をとり、機会ロスと廃棄ロスを極力小さくしていく。
特に重要なのは機会ロス。機会ロスが小さくなればなるほど、お客様は欲しい商品を欲しいだけ手に入れることができ、売り手も多くの売上を得ることが可能となり、互いの利益を一致させることができるようになる。
・「積極的にお客様に近づく」
消費が飽和状態になり、現代の消費者は何を買っていいか迷っているといわれる。しかし、それは売り手側から見た見方で、「迷っている」というよりは「確認したい」という意識が非常に強まっているように感じる。
今は、自分のニーズを本当に満たしていないと購買行動に移らない。だから、お客様は、売り手側が自分たちの求める価値を理解し、その商品が本当に自分のニーズを満たしてくれているのかどうか確認したい。つまり、選択を納得できる理由がそこにあるかどうかを確認したい。
 別の言い方をすれば、売り手と自分が一方通行の関係ではなく、互いに情報と価値観を共有できているかどうかを確認したいのだ。
 接客で大切なのは、お客様との「対話」 コミュニケーションのあり方には、双方向のコミュニケーションにより価値や情報を共有する「対話」レベル、売り手側の都合だけで一方的に伝達しようとする「一方通行」レベル、送り手も受け手も盛り上がるが肝心なことは何も伝わっていない「漫談」レベル、送り手だけが送っているつもりで受けては何も聞いていない「ひとり言」レベルなどがあるが、お客様と「対話」ができているかどうかが大切。
・お客様は期待した以上の価値を感じて初めて満足する。その期待度は一定ではなく常に増幅し、食べ物ならば以前は「おいしいもの」のレベルが次は「当たり前」になり、やがて「飽きるもの」に変わる。
一度得たお客様のロイヤルティを維持していくことは非常に難しい。
明日の満足のためには、常にプラスオンされたものが求められる。プラスオンの積み上げこそが重要。


その他セブン−イレブンの現状のお話。
・セブンイレブンの全店平均日販は2009年度約62万円。2012年は約67万円と3年間で大きな伸びを示した。
「コンビニで食事用の買い物をする」という新しい提案が実を結んだ。主に高齢者や40歳以上の女性の増加のおかげ。
2012年度は大手コンビニエンスチェーンの中でセブンイレブンだけが既存店売上高伸び率でプラス。
・2千名を超えるOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー)全員を全国各地から隔週で東京の本部へ集めて、1日がかりの会議(FC会議)を行い、最新の情報提供や成功事例の共有などを行い、会長講話に通してコンビニ経営の基本を繰り返し説き血肉化させていく。(その昔は毎週という話しだったが、最近は隔週でやっているようだ)
・セブン&アイ・ホールディングスは、「変化への対応」と「基本の徹底」という二本柱をスローガンに掲げる。


スゴいと感じたのは以下のエピソード。
弁当をセブンイレブンで客として購入し、レベルが落ちていてお客様に提供すべきではないと判断すれば、即刻店頭から撤去の指示を出す。
北は北海道から南は九州まで、1万5千店を超える全ての店頭から、本部の負担で20分以内で撤去させる。「お客様の立場で」あらゆる面から徹底して追求し、決して妥協しない。 それが全店平均日販約67万円と、他の大手チェーンを12万以上引き離すセブンイレブンの「売る力」の強さになって表れている。

自ら説明責任をしょっているからこの判断ができるのだろう。
相変わらずマーケットと闘っている経営者を具現化している人だと思った。

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