「孫子」は色々な本が出ているが、今回は守屋淳氏の本。
分かりやすいのと、「孫子」がどういう世界観の中で書かれたものか、そして他の戦略書(特にクラウゼヴィッツ)と違うのか、ということが述べられていたので「孫子」を学び直すこととした。
孫子(孫武)の活躍した春秋時代末期は、ちょうど周の戦乱状態がエスカレートした時期。
「やり直しのきかない一発勝負になりかねないのが戦争。」
という時代。
今のビジネスで言われる「小さく試して、早く失敗し、学習を重ねる」というセオリーが成立しない「負ければ、国が滅びかねない状況」が眼前に繰り広げられていた時代だ。
さらに、もう一つ。
目の前の敵以外にも、ライバルが多数いる状況。すなわちバトルロイヤル状態ということだ。
そこから導きだされる前提が
「負けてはダメ。それどころか勝手も自分が擦り減ってはダメ」
ということ。
このシビアな状況をもとに編み出されたのが「孫氏の兵法」ということだ。
こういうバトルロイヤル状態における方針となると相手と自分の強弱により、敵対勢力に対する、実力行使に入る前の政治・外交戦略は以下の通りとなる。
1ライバルの方が弱い場合
バトルロイヤル状態に限らず、戦争や争いごとには基本的に次のような悲しい本質が備わっている。
「いくら自分は戦いたくない、平和主義だといったところで、どこかから戦いを挑まれ、それを引き受けない限り自分の守りたいものを守れない場合、戦わざるを得なくなる」
ちなみに、この本質について、革命家のトロツキーは次のように表現している。
「あなたは戦争に関心がないかもしれないが、戦争はあなたに関心を持っている」
孫武は「勝ち」「負け」以外にも「不敗」という「勝手はいないが負けてもいない」という状態があると整理した。
不敗の態勢を作れるかどうかは自軍の努力次第だが、勝機を見いだせるかどうかは敵の態勢如何にかかっている。
「不敗」という状態(勝っても負けてもいない状態)があり、不敗の態勢は自ら維持・構築できるが、勝てるかどうかは相手次第。
だから、戦上手は、自軍を絶対不敗の態勢におき、しかも敵の隙は逃さずにとらえるのが肝要ということになる。
また、孫武の重視するものに「短期決戦」というものがある。
これは「(憎悪や敵対心をベースとする)戦いは、一方的に始められるが、一方的に終わらせることはできない」という戦いの特質から導かれるものである。(ちなみに恋愛は両者の合意なくして始まらないが、一方的に終わらせることができる)
従って『孫子』における二分法は
1 短期決戦で戦いに勝てる、ないしは新規事業がうまく利益だけあげて終結できる場合。短期で終結させられる条件をうまくつくり出せる場合→やる
2 それ以外→やらない
となる。つまり戦いが長期に泥沼化する可能性がある場合には、勝てそうであっても「やらない」という判断ということだ。
これはバトルロイヤル状態を意識すると当然そうなる。
太平洋戦争において、日本軍が読み間違ったのはこのポイント(短期決戦で終わらせる予定だったのが長期化してしまったこと)だ。
意図しなまま「長期戦」となってしまうのも現実的にはやむを得ない中で、
「いかに短期決戦で勝てる条件を重層的に構築していくか」
を粘り強く探求していったのが『孫子』という古典。
「戦うなら短期決戦での勝利を期すが、最悪、不敗を守れればよい」
というのが「不敗」と「短期決戦」の原則だというのが著者の解釈である。
その他面白かった点をいくつか。
<勢いにのる「勝ち」と学びのある「負け」のバランス>
「勢い」の乗り方とは、「試行錯誤」とちょうど裏表の関係になっている面がある。
勝って自信をつけ、勢いに乗ることは重要だが、そればかりだと、学びや自己の弱点の認識といった面が弱くなる。
勝負事では明らかに
・自己点検や成長を考えるべき時期
・勢いの力も借りて勝ち進む時期
があり、二つを見分ける必要があるのだ。
このバランスについて、チェスのチャンピオン カスパロフが明言を残している。
「自信をつけることと誤りを訂正されることの適切なバランスは、各個人が見つけなければならない。経験からいって『我慢できるうちは負けろ』は優れた原則だ」
常勝チャンピオン カスパロフですら、「我慢できるうちは負けろ(学べ)」と言っているのは面白い。
その他にもクラウゼヴィッツの『戦争論』との比較や、戦争における「熱狂」が宗教やナショナリズムから発生するが、同様の「熱狂」を企業でも導入することができて『カルト企業』と呼ばれるなど、非常に勉強になった。
後段の「孫子」とはなれた守屋淳氏の歴史観とかもとても面白かった。
最後に
「不敗レベルの設定が、生き残りやすさ、特に復活のしやすさを決める」
というのが奥の深い指摘だな、と関心した。
若いうちは苦労を買ってでもせよ、というのはこの「不敗レベル」設定値が低く設定されるからだと思えば非常に納得がいく。
分かりやすいのと、「孫子」がどういう世界観の中で書かれたものか、そして他の戦略書(特にクラウゼヴィッツ)と違うのか、ということが述べられていたので「孫子」を学び直すこととした。
孫子(孫武)の活躍した春秋時代末期は、ちょうど周の戦乱状態がエスカレートした時期。
「やり直しのきかない一発勝負になりかねないのが戦争。」
という時代。
今のビジネスで言われる「小さく試して、早く失敗し、学習を重ねる」というセオリーが成立しない「負ければ、国が滅びかねない状況」が眼前に繰り広げられていた時代だ。
さらに、もう一つ。
目の前の敵以外にも、ライバルが多数いる状況。すなわちバトルロイヤル状態ということだ。
そこから導きだされる前提が
「負けてはダメ。それどころか勝手も自分が擦り減ってはダメ」
ということ。
このシビアな状況をもとに編み出されたのが「孫氏の兵法」ということだ。
こういうバトルロイヤル状態における方針となると相手と自分の強弱により、敵対勢力に対する、実力行使に入る前の政治・外交戦略は以下の通りとなる。
1ライバルの方が弱い場合
その国力を背景とした外交や威嚇によって相手を味方に引き入れたり、傘下に収めたりして「戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」を実現する。
2彼我が同じくらいの力の場合
・最高の戦い方は、事前に敵の意図を見破ってこれを封じることである。
⇒「相手の戦うエネルギーが小さいうちに摘み取ってしまう」
・次善の策は、敵の同盟関係を分断して孤立させることである。
⇒「相手が戦うエネルギーをこちらに向けてきても、それをうまくかわす」
3 ライバルの方が強い場合
逃げるか、戦わない算段をして生き残りを図る。『勝てる所で戦う』
バトルロイヤル状態に限らず、戦争や争いごとには基本的に次のような悲しい本質が備わっている。
「いくら自分は戦いたくない、平和主義だといったところで、どこかから戦いを挑まれ、それを引き受けない限り自分の守りたいものを守れない場合、戦わざるを得なくなる」
ちなみに、この本質について、革命家のトロツキーは次のように表現している。
「あなたは戦争に関心がないかもしれないが、戦争はあなたに関心を持っている」
孫武は「勝ち」「負け」以外にも「不敗」という「勝手はいないが負けてもいない」という状態があると整理した。
不敗の態勢を作れるかどうかは自軍の努力次第だが、勝機を見いだせるかどうかは敵の態勢如何にかかっている。
「不敗」という状態(勝っても負けてもいない状態)があり、不敗の態勢は自ら維持・構築できるが、勝てるかどうかは相手次第。
だから、戦上手は、自軍を絶対不敗の態勢におき、しかも敵の隙は逃さずにとらえるのが肝要ということになる。
また、孫武の重視するものに「短期決戦」というものがある。
これは「(憎悪や敵対心をベースとする)戦いは、一方的に始められるが、一方的に終わらせることはできない」という戦いの特質から導かれるものである。(ちなみに恋愛は両者の合意なくして始まらないが、一方的に終わらせることができる)
従って『孫子』における二分法は
1 短期決戦で戦いに勝てる、ないしは新規事業がうまく利益だけあげて終結できる場合。短期で終結させられる条件をうまくつくり出せる場合→やる
2 それ以外→やらない
となる。つまり戦いが長期に泥沼化する可能性がある場合には、勝てそうであっても「やらない」という判断ということだ。
これはバトルロイヤル状態を意識すると当然そうなる。
太平洋戦争において、日本軍が読み間違ったのはこのポイント(短期決戦で終わらせる予定だったのが長期化してしまったこと)だ。
意図しなまま「長期戦」となってしまうのも現実的にはやむを得ない中で、
「いかに短期決戦で勝てる条件を重層的に構築していくか」
を粘り強く探求していったのが『孫子』という古典。
「戦うなら短期決戦での勝利を期すが、最悪、不敗を守れればよい」
というのが「不敗」と「短期決戦」の原則だというのが著者の解釈である。
その他面白かった点をいくつか。
<勢いにのる「勝ち」と学びのある「負け」のバランス>
「勢い」の乗り方とは、「試行錯誤」とちょうど裏表の関係になっている面がある。
勝って自信をつけ、勢いに乗ることは重要だが、そればかりだと、学びや自己の弱点の認識といった面が弱くなる。
勝負事では明らかに
・自己点検や成長を考えるべき時期
・勢いの力も借りて勝ち進む時期
があり、二つを見分ける必要があるのだ。
このバランスについて、チェスのチャンピオン カスパロフが明言を残している。
「自信をつけることと誤りを訂正されることの適切なバランスは、各個人が見つけなければならない。経験からいって『我慢できるうちは負けろ』は優れた原則だ」
常勝チャンピオン カスパロフですら、「我慢できるうちは負けろ(学べ)」と言っているのは面白い。
その他にもクラウゼヴィッツの『戦争論』との比較や、戦争における「熱狂」が宗教やナショナリズムから発生するが、同様の「熱狂」を企業でも導入することができて『カルト企業』と呼ばれるなど、非常に勉強になった。
後段の「孫子」とはなれた守屋淳氏の歴史観とかもとても面白かった。
最後に
「不敗レベルの設定が、生き残りやすさ、特に復活のしやすさを決める」
というのが奥の深い指摘だな、と関心した。
若いうちは苦労を買ってでもせよ、というのはこの「不敗レベル」設定値が低く設定されるからだと思えば非常に納得がいく。
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