2016年2月20日土曜日

『限界マンション』

マンション。
その最後はどうなって終わっていくのか。
あまり考慮されずに拡大再生産されていくマンションの行方について予見した本。
結論からすると、解体費を誰が負担するのか、という点に行き着き、所有者が負担できないとなると最終的には公費(税金)にて賄われることになるのではないか、という見立て。
空家関連を始めとした様々な法制度の経緯や数値が分かりやすく述べられている。


<数値編>

◯総務省「住宅・土地統計調査」によれば、2013年の空家数は全国で820万戸(2008年対比+63万戸)、空家率は13.5%(2008年対比+0.4P)と、引き続き増加傾向にあることが明らかとなった。
空家のうち、特に問題になるのは、空家になったにも関わらず、買い手や借り手を募集していないもので、放置期間が長引くと劣化し、近隣に悪影響を与える問題の空家の予備軍となる(空家の内訳で「その他」にあたるもの)。その「その他」の空家の数は318万戸と5年前に比べ1.2倍となり、空家全体に占める割合も4割にまで高まった。

◯空家問題は今のところ一戸建てが中心であるが、近い将来、深刻になっていくと予想されるのが分譲マンションである。
分譲マンションのストックは全国で613万戸(2014年末)に達する。 マンションの居住人口は、1世帯当たりの平均人員2.46を(2010年国勢調査)を元に算出すると1510万人に達する。
613万戸のうち1981年6月以前に建設された旧耐震マンションは106万戸(全体の17%)、さらに1971年4月以前に建設された旧・旧耐震マンションは18万戸(全体の3%)。
ちなみに、旧耐震基準とは、1968年に発生した十勝沖地震の被害発生を踏まえ、1971年の改正により、鉄筋コンクリート造の帯筋の基準を強化したものである。
中地震(震度5程度)に耐え得る基準となっているが、大地震(震度6強〜7程度)へは対応していない。
新耐震基準とは、1978年の宮城県沖地震の被害発生を踏まえて1981年に策定されたもので、中地震に対して損傷しないことに加えて、大地震に対して倒壊しないことの確認を追加したもの。

◯マンションの完成年次別の空室率を見ると、全体の空室率は2.4%に過ぎないが、1974年以前に完成したマンションでは空室戸数の割合が10%以上の物件が増え、1969年以前になると空室戸数の割合が15%超の物件が増えていく。築40年を超えると、マンションの空室率が高まっていくことがわかる。

◯東京都区部では1.6〜2.8倍程度容積を割り増さなければ、採算に合わないとの筆者試算。実際に建替えできたのは、全国で211件、16,600戸(2015年4月時点)に過ぎない。(阪神淡路大震災関連を除く)

◯老朽化マンションでは既存不適格物件(建設当時の法令では適法だったが、その後の法改正によって違法となり、従前と同じ容積率で建替えることができなくなったなどの物件)が多く存在する。既存不適格物件は、1970年以前の建設で67%、1971〜1975年の建設で65%もあり(いずれも民間の物件、国土交通省調べ)、これらは建替えが極めて困難である。 このように建替えには限界があるため、他の方策も必要になる。
マンションの区分所有権を解消し、敷地を売却して終止符を打つ方法がそのひとつである。
この場合、区分所有権解消には全員一致が必要という条件がネックとなる。この問題は東日本大震災での被災マンションで、全壊判定されたマンションでも解体できない問題として浮上した。これを受け、法改正により被災マンションについては4/5の賛成で区分所有権解消が可能とされ(被災マンション法改正)、次いで、耐震不足のマンションについても同様の法改正がなされることとなった(マンション建替え円滑化法改正)
しかし、問題はこれで終わりではない。区分所有権を解消しようとしても、解体費用が捻出できない場合には、老朽化物件が放置される恐れがある。
戸建ての空家の場合、非常に危険な場合には、自治体が解体費用を補助するケースも増えてきた。だが、共同住宅であるマンションの場合、解体には億単位の費用がかかると考えられ、すぐに行政が費用を負担できるものではない。


<マンション法整備の歴史>

◯「マンション」という呼び方についてだが、鉄筋アパートにマンションという名称を使ったものは戦前にも見られたが、戦後では1959年に建設された「信濃町アジアマンション」が最初と言われている。「アパート」という言葉だと従来主流であった木造アパートのイメージでとらえられることもあったため、それに代わり消費者に優越感を与える新たな言葉が求められたからである。

◯1962年に「建物の区分所有等に関する法律」が制定された。法律制定当時のマンションの戸数は全国で1万戸前後あった。

◯大衆向けマンション市場にいち早く乗り出したのは秀和といわれる。秀和は1960年からマンション分譲に乗り出した。1966年には同社の大衆マンション第1号である「外苑レジデンス」を売り出した(分譲価格300万円台)。秀和はこの時、東部信用金庫と提携し、住宅ローンを使ってマンションを販売する手法を取り入れた。

◯マンション大衆化に伴い、マンションの取得について、公的支援を行う動きも出てきた。住宅金融公庫(現 住宅金融支援機構)は発足した当時から、個人については住宅を建設する場合に融資を行っていたが、1960年代後半からは分譲住宅の購入に対しても融資を行うようになった。

◯マンション供給増加により、様々な課題が浮上してきた。1960〜1970年代には、漏水、結露、排水など建物の欠陥(工事瑕疵の問題)を巡る問題がしばしば現れた。
こうした問題を受け、1977年には建設省から通達(「宅地建物にかかる取引条件の明確化、工事施工の適正化、建築物の設計および工事監理の適正化について」)が出され、デベロッパーは「アフターサービス基準」を整備した。
並行して、1970年代には、日常のマンション監理を委託している管理会社の業務に対する不満も表面化してきた(管理問題)。これは管理会社の業務が当時はまだ未成熟であった事によるが、1979年には業界で「高層住宅管理協会」が設立され、業務改善の取り組みがなされるようになった。

◯1980年代に入ると、マンションの修繕問題が本格化するようになった。外壁修繕工事などがしばしば行われるようになったが、これに伴い、修繕費積み立て基金が不足するなどの問題が生じるようになり、積立金の値上げや長期修繕計画の整備が検討されるようになった。

◯その後、1980年代後半から1990年代に入ると、初期マンションが築30年を迎えるようになり、建替え問題が現実問題となり始めた。

◯このように、マンションを巡る問題は、初期の「工事瑕疵の問題」から「管理問題」、さらに「修繕・建替え問題」と、時を経るにつれクローズアップされる問題が大きく変わってきた。

◯一方区分所有法は、1962年に制定された後、1983年と2002年に改正がなされた。
1983年改正の最大のポイントは、4/5以上の賛成があれば建替えが決議できることである。それまでは、マンションを建て替えるには全員の賛成が必要とされていた。
ただし、建替えを決議できるのは、「老朽、損傷、一部滅失その他の事由」によって「建物が価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、または回復するのに過分の費用を要するに至った時」に限られるとされた。
しかしその後建替えられたマンションは、全員の賛成によるもので、この基底が実際に適用されることは長らくなかった。
初めて適用されたのは、1995年の阪神淡路大震災に伴う、マンションの建て替えの際であった。この時、建替え決議が成されたケースで、「建物がその効用を維持し、または回復するのに過分の費用を要するに至った」のか否かを巡って、建替え非賛成派が裁判に持ち込んだケースも複数あったが、結局は非賛成派が敗訴するに至った。

◯2002年の区分所有法の改正では、この立て替えに関する規定で、「過分の費用を要するに至ったとき」という曖昧な要件が削除され、単に多数決で建替え決議を行うことができるようになった。1983年改正で導入された建替え規定が阪神淡路大震災で初めて試され、その問題点が明らかになったことを受けたものであった。
2000年に「マンション管理の適正化の推進に関する法律」の制定、2002年に「マンション建替えの円滑化等に関する法律」の制定が行われ、マンション関連法が整備された。 マンション管理適正化法では、区分所有法で設けられていなかったマンション管理の具体的なあり方が規定され、マンション管理の専門知識を有する「マンション管理士」の資格が新たに創設された。

◯一方マンション建替え円滑化法では、従来、建替え決議が成立しても、その後の事業を円滑に進めるルールが存在しなかったため、マンション建替え組合法人の設立、権利変換手法による関係権利の円滑な移行などについて新たに規定した。また、円滑化法では、有害・危険なマンションに対しては、市町村長が建替え勧告をできることとされた。


<海外の事例>

◯日本のマンション法制では、老朽化した場合に、多数決で建替え決議の選択ができるようになっているが、実はこれは、他の欧米先進国のマンション法制と比べると特異である。
アメリカの法制では、一切の事由を問わずに80%の議決による区分所有の解消は認められているものの、建替えは予定されていない。
ドイツやフランスの法制でも、老朽化による建替えは予定されておらず、区分所有の解消については、客観的な要件(一定規模を超えた滅失・損傷の場合)をもって行うことが認められている。
いずれも建替えは全く想定していないという点では共通している。
日本の場合、初期に建てられたマンションの寿命が長くなく、築後30〜40年程度で、現実問題として建替えをしなければそこに住み続けることが難しいという問題が発生したことが関わっていると考えられる。加えて日本では、所有権に対するこだわりが強く、それを解消する規定を設けることには大きな抵抗感があったという点も関係していると考えられる。

◯韓国では2009年までの建替え戸数は23万戸に達し、ソウル市の新規供給マンションの約3割が建替えによるものだった。
これは1990年代に入ってソウルなどの首都圏でマンション建設用地が不足するようになり、デベロッパーと所有者の利害が一致をみた結果、低層マンションが高層マンションに建替えられることが増えていったことによる。
韓国でも、日本の区分所有法にあたる法律により、多数決(当初4/5、2007年から3/4に緩和)で建替えを行うことが出来るが、実際には、危険建物であるという判定を受けた上で、行政処分で建替えを行っているケースがほとんだという。韓国では、住宅不足でマンション供給を増やさなければならないという社会的な要請に応える形で、行政処分で建替えができるという立法がなされた。ただ、成長期から成熟期に移行した現在の韓国では、マンション供給は過多となり、建替えは進まなくなっている。

◯シンガポールでは、一括売却制度によるマンション再生が進んでいる。
この仕組みは、当該マンションの危険性、機能の陳腐化など必要なニーズに対応できていないという前提のもと、所有者の多数決により、区分所有権の解消と一括売却ができるというもの。2013年9月現在で、一括売却の成立件数は829件にも達する。
シンガポール国内では土地は希少であり、その価格は上昇基調にある。そのため、一括売却により所有者がキャピタルゲインを得られることが多いことが、この仕組みの活用が増えている背景にある。

◯フランスでは、区分所有住宅は620万戸ほど存在する。住宅ストックの1/4という高い割合を占めるが、これらの区分所有住宅のうち、全体の5〜15%程度(30万〜100万戸)が、荒廃した状態になっているという。

◯イギリスでは、日本で言うところのマンションはフラット、定期借地権はリースホールドと呼ばれる。イギリスのリースホールドの存続期間は、一般的には99年である。このリースホールドで問題となったのは、メンテナンスが十分行われず、存続期間の満了時には極端に荒廃が進んだ状態になるという点であった。
こうした問題が発生するのは、リースホールドフラットの中でも、管理責任を賃貸人であるデベロッパーが負っているタイプであった。管理責任をフラット保有者が参画するフラット管理会社が果たすタイプでは、こうした問題は発生しなかった。この問題は、後に賃貸人の管理上の義務につき重大な違反が発生した場合には、フラット保有者が、賃貸人の管理権を強制的に取得できることにするなどの方法によって解決が図られた。
なお、現在のイギリスでは、日本の区分所有権に相当するコモンホールドが創設され(2002年)、マンションの供給は、リースホールド以外に、コモンホールドで行うことも可能となっている。
コモンホールドフラットでは、コモンホールド管理組合(日本の管理組合に相当)が管理責任を負う。デベロッパーの手は完全に離れているため、デベロッパーの管理義務不履行などの問題はそもそも発生する余地はない。


<空家問題>

◯5年に一度行われている総務省「住宅・土地統計調査」によれば、2013年の全国の空家数は820万戸、空家率は13.5%と過去最高を記録した。
空家には「売却用」「賃貸用」「二次的住宅(別荘用)」「その他」の4つの類型がある。このうち特に問題になるのは「その他」の空家である。
空家全体に占める「その他」の空家の割合は、2008年の35%から2013年には39%にまで高まった。 「その他」の空家318万戸のうち、不朽・破損ありのものは105万戸(33%)に達する。また、「その他」の空家のうち木造戸建てが220万戸(69%)で、220万戸のうち不朽・破損ありが80万戸(36%)に達する。

◯問題空家となる予備軍が増加している背景には、①人口減少、②核家族化が進み、親世代の空家を子供が引き継がない、③売却・賃貸化が望ましいが、質や立地面で問題のある物件は市場性が乏しい、④売却・賃貸化できない場合、撤去されるべきだが、更地にすると土地に対する固定資産税が最大1/6に軽減されている特例(住宅用地特例)が解除されるため、そのまま放置しておいた方が有利、などがある。

◯こうした状況は海外から見ると特異である。たとえば、近年のイギリスの空家率は3〜4%、ドイツの空家率は0〜1%未満と、極めて低い水準で推移している。
ヨーロッパでは市街地とそれ以外の線引きが明確で、どこでも住宅を建てられる訳ではない。建てられる区域の中で、長持ちする住宅を建てて長く使い継いでおり、購入するのは普通、中古住宅である。
アメリカも同じ考え方であるが、空家率が近年8〜10%と比較的高い水準で推移しているのは、国土の広さが関係していると考えられる。
ヨーロッパやアメリカの住宅市場では、新築と中古を合わせた全住宅取引のうち、中古の割合が70〜90%を占めるのに対し、日本ではその比率は10%台半ばという極めて低い状態になっている。日本では空家が増加する現在でも年間80万戸ほどの住宅が新築されており、2013年度は消費税率引き上げ前の駆け込み需要で、99万戸もの住宅が新築された。

◯過疎地で空家の増加に悩む島根県江津市において、空家所有者に空家を貸し出すための条件を聞いたところ(総務省自治行政局・島根県江津市2007)、
①空家の修繕費用を入居者が負担
②賃貸期間を5〜10年に限定する場合
③仏壇や位牌の安置場所が確保された場合 を挙げる所有者が多かった。
①は自治体が改修費などの補助を行うことでクリアでき、②は定期借家を活用することでクリアできる。③は所有者自身によって解決してもらうしかないが、所有者にも金銭的補助を与えることによって、売却・賃貸化に向けて仏壇などを片付けるインセンティブをより高めるという方法も考えられる。


<まとめ>

◯これまでの日本のマンションの特殊事情から、建替え規定が設けられた経緯があり、今になってこれを無くすのは現実的ではない。区分所有権の解消規定を新たに加えることが適当と考えられる。
こうした方向に向かうとすれば、マンションの終末期に関し、多数決による建替え決議が設けられた1983年の区分所有法改正、特別決議の要件が問われなくなった2002年の区分所有法改正に続き、区分所有権に制限が加えられることになる。
今後は、区分所有権は制約を受ける弱い財産権であるという認識を持つことがより一層必要になる。

◯最終的に問題になるのは、その解体費を誰が出すのかということである。
長期修繕計画の中で解体費用積み立てを義務づけることが一案であるが、区分所有者にとっては負担が増すため、その実効性を担保できるかは分からない。
義務づけたとしても実効性が確保されないことを勘案すれば、代替案としては、固定資産税を使うことも考え得る。


よくまとまってて、知らないことも結構ありました。

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