2017年5月2日火曜日

『日本と世界を動かす悪の孫氏』

孫氏の教えが、現代国際社会や歴史上でどのように活かされてきたか、を述べたもの。

世界中で日本ほど孫氏が人口に膾炙された国はない。
実は中国より、日本の方が広く読まれているようである。

孫氏の重要性は戦いの具体的戦術の妙より、実はインテリジェンスにある。
日本では「詭道とは卑怯なり」とする独特の美意識が、孫氏を強く嫌う流れにもなった。徳川家康が最も愛読したのは孫氏ではなく、徳により政の安泰を追求した『貞観政要』であった。

孫氏の代表的な箴言の一つは、
「疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如く」
だろう。戦国時代、武田信玄が「風林火山」として旗印に用いたが、正しくは続きがある。
「其の疾きこと風の如く、其の徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷の震うが如く」

情報用語にいう”エリント”(電子機器偵察、スパイ教育など)に対するのが、人間を使う”ヒューミント”。
戦国時代のヒューミントは専門の忍者部隊のほか、主として行商人や学者、修行僧、旅人などに変装してこれを行なった。特に重宝されたのは各地を自由に行き来し、指導層と付き合える俳人、茶人であった。
現代の国際情報合戦では、米国がエリント優先、旧ソ連KGBの伝統を継ぐロシアの情報機関や中国国家安全部などはヒューミント中心型だ。

本能寺の変の後、秀吉と家康が争った小牧・長久手の戦いが実は情報戦(諜報戦)だったという見立ては面白い。

ちょっと著者のイデオロギー的な思いが強い部分があるので、多少調整しながら読む必要があるのだが、マッキンダーの『ハートランド』論、マハンの『海上権力史論』から、リデルハートの敵に棘を刺しながら相手の弱体化を図る『間接的アプローチ』などの流れもあって面白く読めた。


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孫氏は詭道を重視しているため日本人が生来持つ精神的数構成や美徳を損なうため、『闘戦経』が孫氏を補った。日本的兵法であり、これを拳々服膺(けんけんふくよう)したのが楠木正成だった。
孫氏には「玉砕」「自刃」「散華」という項目は全くない。「至誠」も言及されていない。したがって、今の中国人は玉砕、特攻が理解できない。
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現在の日本人にも玉砕、特攻は理解できないのではないか、と思いつつ、やはり「詭道」は最後の手段であると思ってしまう自分はどっぷり日本人のようだ。

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