今をときめく日本人科学者、落合陽一の著作。
若き天才から見ると、今後の世界はどうなっていくのか、歴史認識も含め、見えているものがちょっと違う点があって非常に面白かった。
<高度成長の正体>
結局、高度経済成長の正体とは、「均一な教育」「住宅ローン」「マスメディアによる消費者購買行動」の3点セットだった。
つまり、国民に均一な教育を与えた上で、住宅ローンによる家計のお金の自由を奪い、マスメディアによる世論操作を行い、新しい需要を喚起していくという戦略。
<平等と公平の概念>
平等とは、対象があってその下で、権利が一様ということ。何かの権利を一ヶ所に集めて、それを再分配することによって、全員に同じ権利がある状態を示す。
それに対して、公平はフェアだということ。システムの中にエラーがないことや、ズルや不正や優遇をしないということ。
日本人は公平については意識が高いけれど、権利が平等であることについてはあまり意識しない。
江戸時代から、お上の裁きは公平であってほしいと思う一方、士農工商については違和感なく取り入れている。日本人は同じ仕事をしたら、公平にお金を払うということには敏感だが、飲み会で男性が女性より多く払う。これは平等意識が低いから。
<人口減少、少子高齢化>
人口減少と少子高齢化は日本にとってチャンス。
理由その1。自由化、省人化に対する「打ち壊し運動(ラッダイト運動)」が起きないこと。
理由その2。人口減少・高齢化が早く進む分、高齢化社会に向けた新しい実験をやりやすい立場にある。もし日本が、人口減少と少子高齢化へのソリューションを生み出すことができれば、それは最強の輸出戦略になる。これは、インバウンドの人材誘致戦略としても力を発揮するであろう。
理由その3。教育投資が行われ易くなる。相対的に大人の数が多くなり、子供の数が少なくなる。すると「子供は少なくて貴重なのだから大切にしよう」ということになる。社会全体として子供への投資に対して不平が出にくくなる。
<ロボット/AI社会>
日本人はテクノロジー好き。日本人にとってテクノロジーはカラクリのようなもの。それは人の技能の最大到達点であって、それを崇めたいという思いがすごくある。だから日本はロボットフレンドリーな社会に変えやすい。
一方、(自分の印象として)、西洋人は人型ロボットに限らず、ロボットがあまり好きではない。西洋人にとって労働は神聖なものなので、それをロボットに任せることに抵抗がある。
AIについても似たことが言える。一神教支配の国にとっては、AIは人類の根幹、彼らの精神支柱に関わるようなものになる。西欧の国は統治者に人格性を強く求めるので、AIに対する反発は強いだろう。
(日本人は意思決定の上流がAIになっても、違和感なく受け入れるはず)
<ブロックチェーンと仮想通貨>
日本再興のカギを握るテクノロジーは、ブロックチェーン。
分散型の台帳技術と言われるが、あらゆるデータの移動歴を、信頼性のある形で保存し続けるためのテクノロジー。しかも、誰かが一元的に管理するのではなく、全員のデータに全員の信頼をつけて保っていくことができる、日中央集権的なテクノロジー。
これからの日本は全てをブロックチェーンにして、あらゆるものはトークンエコノミーであるという考え方にしていかなければならない。
トークンとは、仮想通貨とほぼ同義と考えてもらって構わない。
日本では「仮想通貨」という言葉で広がっているが、元々は「クリプトカレンシー」。本当は暗号通貨と訳す方が正確(ビットコインのハッシュはそもそも暗号ではない)
バーチャルカレンシーこと「仮想通貨」と訳したので、パスモなどの馴染みのある仮想通貨をイメージして日本人がブロックチェーンを受け入れやすい土壌を作れた。
トークンエコノミーということでいうと、TSUTAYAのTポイントもANAのマイレージも立派なトークン。日本人ほど、ポイントカードがたくさん財布に入っている国民は見たことがない。日本はすでにトークンエコノミー先進国なのだ。
トークンエコノミーとは、このポイントカード経済圏がさらに広がって、企業だけでなく、個人もポイント発行できるようになるイメージ。
欧州のエストニアは国自体を ICO(イニシャル・コイン・オファリング:証券会社の介在なく上場できる)した。
ICOすることで、地方自治体は攻めの投資を行うことができる。今の財政の仕組みは、まず産業振興等により税収を増やしてから次の投資を行う、後手でしか動けないモデル。
このやり方は国が成長している時には良かったが、今のような人口減少経済になると、財政を絞るばかりで攻めの一手を打つことができない。
この流れを逆流させるためにも、先行投資型にモデルを変えなくてはならない。その切り札になるのがトークンエコノミー。
トークンエコノミーが広がると、面白い開発が行われる自治体ほど、良いビジョンがある自治体ほどお金が集まる。独自性のある優れたビジョンと戦略と実行力がある自治体ほどお金が集まる。今のふるさと納税のアップデート版とも言える。
ブロックチェーンの本質は、非中央集権化であり、コードによるガバナンスであり、受益者負担。元締めとなるプラットフォームがなくても、ユーザー同士で情報を管理したり、取引ができたりする仕組み。これは日本の伝統的な価値観にも合っている。
トークンエコノミーの受益者負担、自給自足という考え方に自分は強く賛同している。
何故ならば、それがあれば、グローバルなプラットフォームによる搾取を防げるから。言い換えると、シリコンバレーと戦う最高の戦略になるから。
<デジタルネイチャー>
デジタルネイチャー とは、ユビキタスの後、ミックスドリアリティ(現実空間と仮想空間が融合する「複合現実」)を超えて、人、Bot、物質、バーチャルの区別がつかなくなる世界のこと。そして、計算機が偏在する世界において再解釈される「自然」に適合した世界観を含むもの。
「デジタルネイチャー」は、英語では「Super nature defined by computational resources」と説明することが多い。コンピューターによって定義されうる自然物と人工物の垣根を超えた超自然のことを意味している。
デジタルとアナログの空間をごちゃまぜにした時に現れうる本質であり、従来の自然状態のように放っておくとその状態になるようなコンピューター以後の人間から見た新しい自然。それは、質量のない世界にコードによって記述される新しい自然みたいなものとも言える。
それが質量や物質や人間と混ざり合って新しい自然を作る。
あらゆるものは情報の表現形態として今までになかったようなスピードで相転移する、というのが自分の考えているビジョン。
この相転移が前世紀にイノベーションと呼ばれていたものの本質だと思っている。
デジタルネイチャーの世界では、あらゆるものがパーソナライズされる。
2次元が3次元化されたり、運転が自動化されたり、必要な部品のほとんどがハードウェア側ではなくソフトウェア側に寄っていく。
日本はソフトウェアが全然得意ではないので、そこはあまり勝てないだろう。日本にとっての勝負所は、各ローカルの問題を解決するような若いベンチャー企業を日本中にバラまけるかどうか。
<ワークライフバランスからワークアズライフへ>
日本人には、「ワークライフバランス」よりも「ワークアズライフ」の方が向いている。
日本は歴史的にも、労働者の労働時間が長い国家。大和朝廷の時代にも下級役人は長時間労働をしている。1年のうち350日は働いて、そのうち120日が夜勤というような生活。一方、農民や上級役人などは、生活の中に労働を含む文化を持っている。それが過労でなかったのは、ストレスが少なく、生活の一部として働いていたから。
これは、時間やノルマの労働スタイルで過労すると心身が持たないことを示している一方で、生産性を上げきれない理由でもある。
ワークライフバランスからワークアズライフへ。
一番重要なのは、ストレスフルな仕事とストレスフルでない仕事をどうバランスするか。
この考え方に則ると、ストレスのかかる私生活(ライフ)をすることの方が、会社でストレスレスの長時間労働をするよりも問題になったりする。
近年、うつ病などが増えているのは、ワークライフバランスが声高に叫ばれる中、未だに会社がタイムマネジメントを中心に回っていて、ストレスマネジメントが全然できていないから。
ストレスマネジメントでオススメは筋トレ。筋トレはわかりやすいバイタルチェックになる。 筋トレを楽しくできるくらいのメンタルがあれば、それは病的なメンタル状態ではないと推測できる。また、体を動かし、適度な負荷をかけることは予防医学の観点からしても重要だし、心身にかかるストレス状態を把握するには、体の方が指標としてわかりやすい面がある。
◯高度経済成長期の概括について、「均一な教育」「マスメディアによる(均一な)消費者購買行動」というのに合わせて「住宅ローン」というのが意外でもあり、ちょっとピントがずれている気もするが面白い、自分にはなかった観点。
◯少子高齢化がチャンスであるという理由として「ラッダイト運動が起きづらい」「子供一人当たりの教育投資が増える」というのは面白い観点。アメリカでトランプ大統領が選出された事実を考えると「ラッダイト運動が起きづらい」というのは実はありがたいメリットなのかもしれないと気付かされた。
◯地方分権的な観点からも、VSカリフォルニアの観点からも、「ブロックチェーン」が肝となるテクノロジーであるという考え方は全くなかった。単に、今お騒がせのビットコイン系の基本技術であるという位の認識であったので、それについては認識を改めたい。
◯デジタルネイチャーの概念は抽象的すぎて良く分からなかったが、おそらく未来を見据える天才の中には感じられる未来があるのであろう。
◯ワークライフバランスについては(ネーミングはともかく)、タイムマネジメントではなくストレスマネジメントを行うべきだ、という主張については全くその通りだと思う。とはいえ、今までそのように認識したことはなく、目から鱗の発想であった。
若き天才から見ると、今後の世界はどうなっていくのか、歴史認識も含め、見えているものがちょっと違う点があって非常に面白かった。
<高度成長の正体>
結局、高度経済成長の正体とは、「均一な教育」「住宅ローン」「マスメディアによる消費者購買行動」の3点セットだった。
つまり、国民に均一な教育を与えた上で、住宅ローンによる家計のお金の自由を奪い、マスメディアによる世論操作を行い、新しい需要を喚起していくという戦略。
<平等と公平の概念>
平等とは、対象があってその下で、権利が一様ということ。何かの権利を一ヶ所に集めて、それを再分配することによって、全員に同じ権利がある状態を示す。
それに対して、公平はフェアだということ。システムの中にエラーがないことや、ズルや不正や優遇をしないということ。
日本人は公平については意識が高いけれど、権利が平等であることについてはあまり意識しない。
江戸時代から、お上の裁きは公平であってほしいと思う一方、士農工商については違和感なく取り入れている。日本人は同じ仕事をしたら、公平にお金を払うということには敏感だが、飲み会で男性が女性より多く払う。これは平等意識が低いから。
<人口減少、少子高齢化>
人口減少と少子高齢化は日本にとってチャンス。
理由その1。自由化、省人化に対する「打ち壊し運動(ラッダイト運動)」が起きないこと。
理由その2。人口減少・高齢化が早く進む分、高齢化社会に向けた新しい実験をやりやすい立場にある。もし日本が、人口減少と少子高齢化へのソリューションを生み出すことができれば、それは最強の輸出戦略になる。これは、インバウンドの人材誘致戦略としても力を発揮するであろう。
理由その3。教育投資が行われ易くなる。相対的に大人の数が多くなり、子供の数が少なくなる。すると「子供は少なくて貴重なのだから大切にしよう」ということになる。社会全体として子供への投資に対して不平が出にくくなる。
<ロボット/AI社会>
日本人はテクノロジー好き。日本人にとってテクノロジーはカラクリのようなもの。それは人の技能の最大到達点であって、それを崇めたいという思いがすごくある。だから日本はロボットフレンドリーな社会に変えやすい。
一方、(自分の印象として)、西洋人は人型ロボットに限らず、ロボットがあまり好きではない。西洋人にとって労働は神聖なものなので、それをロボットに任せることに抵抗がある。
AIについても似たことが言える。一神教支配の国にとっては、AIは人類の根幹、彼らの精神支柱に関わるようなものになる。西欧の国は統治者に人格性を強く求めるので、AIに対する反発は強いだろう。
(日本人は意思決定の上流がAIになっても、違和感なく受け入れるはず)
<ブロックチェーンと仮想通貨>
日本再興のカギを握るテクノロジーは、ブロックチェーン。
分散型の台帳技術と言われるが、あらゆるデータの移動歴を、信頼性のある形で保存し続けるためのテクノロジー。しかも、誰かが一元的に管理するのではなく、全員のデータに全員の信頼をつけて保っていくことができる、日中央集権的なテクノロジー。
これからの日本は全てをブロックチェーンにして、あらゆるものはトークンエコノミーであるという考え方にしていかなければならない。
トークンとは、仮想通貨とほぼ同義と考えてもらって構わない。
日本では「仮想通貨」という言葉で広がっているが、元々は「クリプトカレンシー」。本当は暗号通貨と訳す方が正確(ビットコインのハッシュはそもそも暗号ではない)
バーチャルカレンシーこと「仮想通貨」と訳したので、パスモなどの馴染みのある仮想通貨をイメージして日本人がブロックチェーンを受け入れやすい土壌を作れた。
トークンエコノミーということでいうと、TSUTAYAのTポイントもANAのマイレージも立派なトークン。日本人ほど、ポイントカードがたくさん財布に入っている国民は見たことがない。日本はすでにトークンエコノミー先進国なのだ。
トークンエコノミーとは、このポイントカード経済圏がさらに広がって、企業だけでなく、個人もポイント発行できるようになるイメージ。
欧州のエストニアは国自体を ICO(イニシャル・コイン・オファリング:証券会社の介在なく上場できる)した。
ICOすることで、地方自治体は攻めの投資を行うことができる。今の財政の仕組みは、まず産業振興等により税収を増やしてから次の投資を行う、後手でしか動けないモデル。
このやり方は国が成長している時には良かったが、今のような人口減少経済になると、財政を絞るばかりで攻めの一手を打つことができない。
この流れを逆流させるためにも、先行投資型にモデルを変えなくてはならない。その切り札になるのがトークンエコノミー。
トークンエコノミーが広がると、面白い開発が行われる自治体ほど、良いビジョンがある自治体ほどお金が集まる。独自性のある優れたビジョンと戦略と実行力がある自治体ほどお金が集まる。今のふるさと納税のアップデート版とも言える。
ブロックチェーンの本質は、非中央集権化であり、コードによるガバナンスであり、受益者負担。元締めとなるプラットフォームがなくても、ユーザー同士で情報を管理したり、取引ができたりする仕組み。これは日本の伝統的な価値観にも合っている。
トークンエコノミーの受益者負担、自給自足という考え方に自分は強く賛同している。
何故ならば、それがあれば、グローバルなプラットフォームによる搾取を防げるから。言い換えると、シリコンバレーと戦う最高の戦略になるから。
<デジタルネイチャー>
デジタルネイチャー とは、ユビキタスの後、ミックスドリアリティ(現実空間と仮想空間が融合する「複合現実」)を超えて、人、Bot、物質、バーチャルの区別がつかなくなる世界のこと。そして、計算機が偏在する世界において再解釈される「自然」に適合した世界観を含むもの。
「デジタルネイチャー」は、英語では「Super nature defined by computational resources」と説明することが多い。コンピューターによって定義されうる自然物と人工物の垣根を超えた超自然のことを意味している。
デジタルとアナログの空間をごちゃまぜにした時に現れうる本質であり、従来の自然状態のように放っておくとその状態になるようなコンピューター以後の人間から見た新しい自然。それは、質量のない世界にコードによって記述される新しい自然みたいなものとも言える。
それが質量や物質や人間と混ざり合って新しい自然を作る。
あらゆるものは情報の表現形態として今までになかったようなスピードで相転移する、というのが自分の考えているビジョン。
この相転移が前世紀にイノベーションと呼ばれていたものの本質だと思っている。
デジタルネイチャーの世界では、あらゆるものがパーソナライズされる。
2次元が3次元化されたり、運転が自動化されたり、必要な部品のほとんどがハードウェア側ではなくソフトウェア側に寄っていく。
日本はソフトウェアが全然得意ではないので、そこはあまり勝てないだろう。日本にとっての勝負所は、各ローカルの問題を解決するような若いベンチャー企業を日本中にバラまけるかどうか。
<ワークライフバランスからワークアズライフへ>
日本人には、「ワークライフバランス」よりも「ワークアズライフ」の方が向いている。
日本は歴史的にも、労働者の労働時間が長い国家。大和朝廷の時代にも下級役人は長時間労働をしている。1年のうち350日は働いて、そのうち120日が夜勤というような生活。一方、農民や上級役人などは、生活の中に労働を含む文化を持っている。それが過労でなかったのは、ストレスが少なく、生活の一部として働いていたから。
これは、時間やノルマの労働スタイルで過労すると心身が持たないことを示している一方で、生産性を上げきれない理由でもある。
ワークライフバランスからワークアズライフへ。
一番重要なのは、ストレスフルな仕事とストレスフルでない仕事をどうバランスするか。
この考え方に則ると、ストレスのかかる私生活(ライフ)をすることの方が、会社でストレスレスの長時間労働をするよりも問題になったりする。
近年、うつ病などが増えているのは、ワークライフバランスが声高に叫ばれる中、未だに会社がタイムマネジメントを中心に回っていて、ストレスマネジメントが全然できていないから。
ストレスマネジメントでオススメは筋トレ。筋トレはわかりやすいバイタルチェックになる。 筋トレを楽しくできるくらいのメンタルがあれば、それは病的なメンタル状態ではないと推測できる。また、体を動かし、適度な負荷をかけることは予防医学の観点からしても重要だし、心身にかかるストレス状態を把握するには、体の方が指標としてわかりやすい面がある。
◯高度経済成長期の概括について、「均一な教育」「マスメディアによる(均一な)消費者購買行動」というのに合わせて「住宅ローン」というのが意外でもあり、ちょっとピントがずれている気もするが面白い、自分にはなかった観点。
◯少子高齢化がチャンスであるという理由として「ラッダイト運動が起きづらい」「子供一人当たりの教育投資が増える」というのは面白い観点。アメリカでトランプ大統領が選出された事実を考えると「ラッダイト運動が起きづらい」というのは実はありがたいメリットなのかもしれないと気付かされた。
◯地方分権的な観点からも、VSカリフォルニアの観点からも、「ブロックチェーン」が肝となるテクノロジーであるという考え方は全くなかった。単に、今お騒がせのビットコイン系の基本技術であるという位の認識であったので、それについては認識を改めたい。
◯デジタルネイチャーの概念は抽象的すぎて良く分からなかったが、おそらく未来を見据える天才の中には感じられる未来があるのであろう。
◯ワークライフバランスについては(ネーミングはともかく)、タイムマネジメントではなくストレスマネジメントを行うべきだ、という主張については全くその通りだと思う。とはいえ、今までそのように認識したことはなく、目から鱗の発想であった。
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