2012年2月12日日曜日

『アイデアの99%』

アイデアが実行されるために、どうしたらよいのか。
「天才とは1%のひらめきと、99%の努力である」とはかのトーマス・エジソンの言葉だが、アイデアを実現するには、1%の発想力と99%の実行力が必要という考えのもと書かれたハウツー本。
対象としてクリエイターやアーティストをイメージしているようで、最初の「発想力」については記載されていない。


アイデア実現力=発想力+整理力+仲間力+統率力 
どんなプロジェクトもたった3つのことに落とし込むことができる。
「やるべき作業(アクション・ステップ)」
「参考資料(レファレンス)」
「後回しにすること(バックバーナー)」
これらの物事に優先順位をつけ、エネルギーと注意力を正しく配分することが実現力につながるとしている。


創造的譲歩
アイデアの実現を支える手法は、たいてい直感とは対極にある。アイデアを実現するための規律と自制は、時にクリエイターとしての本質を曲げることのように感じられるかもしれない。信念や芸術性を曲げる必要性はないが、自らの破壊的な傾向を戒める必要がある。
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これは実体験からも非常に納得することができる。
建築家とアーティストのコラボレーションを行った時に、双方の「直感」を摺り合わせるのに非常に時間がかかった。途中プロジェクトそのものが頓挫するかと思われた瞬間もあったが、結局双方が自らの信念や芸術性を曲げることなくプロジェクトを推進してくれて、双方にとって今までにないものを作ることができた。
これぞ、著者の言う「創造的譲歩」だったのだと思う。


アクション・ステップについては
①すべてのアクション・ステップは動詞で表す
②そして短い文章にする。
とか、
実行力を高める秘訣は簡単なこと。せっつく
というありがたい教えも非常に実践的である。

また、
「行動する前に考えよ」但し「確信がなくても動け」
 というのも言い得て妙である。これは結局バランス感覚の問題か。


実行力がないチームにあり勝ちなこととして、実行段階に入り根気のいる実践段階、いわゆる『プロジェクトの踊り場』で新しいアイデアに飛びついてしまうことを挙げている。


これを防ぐためには、新しいアイデアに飛びついてしまわないようにする『免疫システム』が必要である。
著者は、
新しいアイデアを放棄する能力は、生産性の向上と既存プロジェクトの拡大に欠かせない。
懐疑派(アイデアに飛びつかず、まず疑ってかかる人達)はチームにとっての白血球。
懐疑派が我々の機能を正常に保ち、本筋にとどめてくれる。」
として懐疑派の人を必要不可欠だとしている。


組織的なネガティブチェックのやり方として、ディズニーの映画制作手法が紹介されている。
第1の部屋:どんな制約もなく自由にアイデアを発言することが許される。本来の意味でのブレインストーミングが行われ、そこに疑いが挟まれることはない。
第2の部屋:第1の部屋からの突飛なアイデアが集められ、整理される。それが出来事を時系列にまとめた筋書きや、キャラクターの人物像などになる。
第3の部屋:別名「冷や汗部屋」。クリエイティブチームの全員が、なにものにも縛られずにプロジェクトを批判的に評価する場所。個々人のアイデアは予め第2の部屋でまとめられているので、第3の部屋での批判は個人攻撃ではなく、プロジェクトの要素に向けられることになる。
アイデアをめった切りにする第3の部屋も、突飛な考えを生みだす第1の部屋と同じ位重要。


そして、実現しつづけるためには、まとめたものがどんなものであれ発送(発信)することが重要である。
これをためらうと、いつまでたっても何もやっていないのと同じことになる。
批判的なフィードバックを恐れてはいけない。


フィードバックを自ら進んで取り入れる人々は、他人の意見を資産、つまり、ある意味でお金によらない報酬だとみなしている。
「すべきこと」「やめるべきこと」「続けるべきこと」という形でまとめるのは非常に有益な手法。
アイデア実現の過程で知見を集めるのに役立つだけでなく、協力者やクライアントといったコミュニティに、あなたがフィードバックを取り入れ、向上し、積極的に学ぼうとしているという信号を送ることにもなる。
フィードバックの共有は、効果的な自己マーケティングの一種であり、プロジェクトの中身を変容させる役割をもつ。


また、合意に達するまで議論するが、合意に縛られないことも重要。
共同作業によるプロジェクトの究極の課題は、全員から最良の意見を引き出しながら、同時に最大公約数的な落としどころに落ち着かないようにすること。
コンセンサスにこだわると、結局誰も怒らせず、誰も喜ばせない平凡な結果につながることは少なくない。
広告業界のクリエイティブチームの多くは「多数から情報を収集し、少数が決める」戦略をとっている。


クリエイター向けということで、いかに実行するかというビジネスマンには当たり前のことにフォーカスされているが、非常に実践的な手法が多い。
公式の「発想力」、すなわちアイデア自体をどうやって生むのかということもあるが、これについては、昔と違って、ネットの世界にパクれるアイデアはたくさんある気がする。 
コンピューター・ネット社会においては、アイデアの素晴らしさよりも、実現力(そしてそのスピード!)の方が重要であることを考えると非常に大切な部分にフォーカスをあてた本であると言える。
 

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