2012年8月14日火曜日

『フォーカス!』

1997年にアル・ライズ氏が著した古典的名著を2007年にリバイズした本。
「すべての企業は、二つの機能しか持っていない。マーケティングとイノベーションである」
というピーター・ドラッカーの言葉と
「経営者とは何なのか。財務諸表を読みこなせるマーケターである」

という著者の考えから始められている。

この本の中ではいろいろな業種の企業がフォーカスを失って失敗する事例が出てくるが、その事例の一つに航空業界が挙げられている。
アメリカ航空業界
航空会社は何らかの岐路に立つたびに「二兎」を追ってきた。
最初の岐路は「旅客をとるか、貨物をとるか」
「考えるまでもない。客室の下に空きスペースがあるじゃないか。」
→貨物に特化したフェデックスは237億ドルの貨物売上。そして8億3800万ドルの黒字。
次の岐路は「ビジネス客をとるべきか、観光客をとるべきか」
その次の岐路は「国内線にとどめるべきか、国際線も手がけるべきか」
さらに迎えた岐路は「ファーストクラス、 ビジネスクラス、エコノミークラスのうち、どのサービスを手がけるべきか」
→サウスウェスト航空はビジネス関連路線のみ。座席はエコノミークラスのみ。国内線のみ。食事のサービスもなく、ペットの搭乗もお断り。事前の座席指定や航空会社間の荷物のやり取りといったサービスも一切ない。

各社が「二兎を追う戦略」に走るのには理由がある。短期的には売上も利益ものびるからだ。
しかし、この「二兎を追う戦略」は崩壊する運命にある。時間の経過とともに、業界内にフォーカスを絞った競合社が必ず現れるからだ。

フォーカスしたサウスウェスト航空は、スケジュール管理やメンテナンスが格段に容易になった。整備工も担当する機体がボーイング737型だけなので、集中してより充実した仕事ができるようになった。同社は創業以来31年間、一度も死亡事故を起こしていない。



グローバル化の流れが進むこの時代において「フォーカス」が必要な理由を著者はある比喩を用いてわかりやすく説明している。
例えば、あなたが人口50人の町に住んでいるとしよう。そこにはどんな小売店があるだろうか。もちろん、何でも売っている「雑貨店」だ。
では、人口800万人のニューヨーク市ではどんな小売店があるだろう?もちろん、専門店だ。
専門化は、マーケットが大きくなればなるほど進んでいく。逆に小さくなればなるほど総合化が進む。だから世界がグローバル経済へ向かえば、企業はどんどん専門化せざるを得ない。

世界へうって出るには、FOCUSしなければならないのだ。
国内で「総合○○」で売ってきた企業ほど、海外進出時には何を売りにするのかFOCUSしなければならいないということだ。
(残念ながら実は我が社もこの「総合○○」に完全に合致している!)


著書は人材登用についても一言述べている。
フォーカスを失った会社が抱える最も重大な経営課題は昇進システムだ。
昇進させる人物を選ぶ際、社長が犯しがちな古典的ミスが二つある。「数字で判断する」「人格で判断する」だ。どちらもまずうまくいかない。
リーダーを選ぶには「数字」でも「人格」でもない第三の方法がある。それは、部下たちに「この事業に最もふさわしいリーダーは誰か?」と尋ねる方法だ。
人気投票をせよといっているのではない。今既にリーダーシップを発揮している人物を選び出せばうまくいく、といいたいのだ。
生まれつきのリーダーというものは、自ずと早くからリーダーシップを発揮するものだ。

偉大なリーダーは、外向的というよりむしろ内省的な人が多い。周囲の状況は観察するが、それに左右されることはない。彼らはうちなる情熱に駆り立てられているかのように見えるが、この情熱が、偉大なリーダーに必要な「ひとつにフォーカスできる」という能力を生み出すのだろう。



そして「品質」信仰についても述べている。
誰もが品質のこだわるが、その実、違いは分かっていない。
実際には「品質」ではなく、「好み」で選んでいるのだ。
消費者もまたよりよい商品が勝つと信じているので、「一番売れている商品は、よりよい品質に違いない」となる。
現実には、評判、すなわちイメージこそすべてだ。
ビジネス界を動かす真の推進力は品質ではない。品質に対するイメージなのだ。
評判が浸透するには時間がかかる。


面白かったのが、「多角化」による買収事例が失敗に終わり売却されるまでに一定の周期があるというもの。
買収・売却事例を研究していくと、7年目ならぬ「6年目の浮気」という周期が確認できるのだそうだ。
6年も経てば、不良品をつかまされたと認めざるを得ない。加えて、買収の際に約束した「素晴らしいシナジー」のことを、投資した人たちが忘れる頃でもある。
PR担当者が「基本に戻る」と売却発表を首尾よく運べば、買収のときと同様、好意をもって受け止めてもらえるという寸法だ。


最後に著者は「フォーカスを成功させる15の秘訣」というものをまとめている。
「フォーカス」はトップが意識的に努め続けないとエントロピーの法則によりすぐにフォーカスが失われる方向へと進むということだ。

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