2012年8月12日日曜日

『デファクト・スタンダードの競争戦略』

日本が弱いとされるデファクト・スタンダード作り。
その基本が書かれている本。原理原則が最初と最後に書かれており、間に事例が載っているという形で非常に分かりやすく書かれている。

「標準化機関の承認の有無にかかわらず、市場競争の結果、事実上市場の大勢を占めるようになった規格」をデファクト・スタンダード(de facto standard)と呼ぶ。
de fact は英語のin fact。
一方、従来の公的な標準をデジュリ・スタンダード(de jure standard)と呼ぶ。
de jure(デジュールとも。ラテン語で「プロセスに正統性がある」という意味)

デジュリ・スタンダードなるものは言葉すら知らなかった。


<規格競争と製品ライフサイクル論とのギャップ>
規格競争が発生する消費財においては、従前の製品ライフサイクル論と違った傾向を示すものが多い。①製品ライフサイクル論によれば、市場の導入期においては競合企業はほとんどなく、競合は成長期から増えてくるはずであるが、規格競争では競争が最も激しいのは開発期(上市前)から導入期。(プレ・コマーシャル競争)
②製品ライフサイクル論によれば、企業の撤退が始まるのは成熟期以降。ところが規格競争においては、市場が立ち上がった直後の導入期に撤退が始まる。
③製品ライフサイクル論では、成熟期にリーダー企業のキャッシュフローは最大になるはずだが、規格競争においては、成熟期にキャッシュが回収できない状態が多発している。
(撤退前に低価格競争が始まり、成熟期に関しても利益が上げられない状態が多発)



規格の絡まない普通の製品の場合には、機能的に優れた製品を開発し、それをなるべく早期に市場に導入し、他社の模倣を防ぎながら市場を支配することが優れた戦略である。
しかし、規格が絡む製品では、「ネットワーク外部性(network externalities)」と呼ばれる性質があるために、どれだけ多くのユーザーが自分と同じ規格を使っているかが重要となるため、この考え方がそのまま当てはまらない場合が多い。



<メカトーフの法則>
ネットワークの効用を表す指標はnC2で表され、計算式 n(n-1)/2 で表される。
電話会社A 55万人と電話会社B 45万人のネットワークの総和を比較すると、電話会社Aは約1500億本、電話会社B は約1000億本となり、わずか10万人多いか少ないかが、何と1.5倍の効用になって表れる。

新しい規格を発売する場合には、市場導入後早期に優位に立つことが、規格競争において重要であるということが出来る。とはいえ、これを突き詰めていくと最初に1台を出したメーカーが優位に立つということになってしまうが、現実は必ずしもそうではない。では、いつの時点で優位に立っていることが必要なのだろうか。
日本における家庭用VTRやビデオディスクの事例からは、世帯普及率2〜3%の時に優勢であった規格が結果的に勝利を収めている。
普及率2〜3%とは、他者の購買に影響を与えるオピニオン・リーダーであるアーリー・アダプターが購入し始める時期に相当する。すなわち、イノベーターではなく、オピニオン・リーダーに支持された規格が、デファクト・スタンダードになる可能性が高いのである。

ロジャースの普及理論(diffusion theory)によると、更に製品化して受け入れられるまでにアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にもキャズムがあるとされているので、製品がブレイクするまでにはいろいろな壁があると思ってよい。


規格を構成する技術が自社内で未充足であるが、大きな市場で売上アップを狙うなら協調路線(open戦略)、規格を構成する技術が自社内で充足しており、限られた市場で利益率を狙うなら競争路線(proprietary戦略)が望ましいといえる。
これは協調路線で利益率を下げてでもシェアアップを目指すか、シェア拡大が遅れてでも利益率を重視するかということであり、囲碁における、地をとるか、厚みをとるかというバランス感覚を彷彿させる。



規格とはとって変わられることが多い。規格が変わる時の与件とはなんであろうか。
<世代間規格競争で旧規格を代替するための3要件>
①桁違いの優位性
②含みの多い技術

・規格を定めるということは、その時点で技術革新を止めてしまうことになる。含みの多い技術とは、「規格の将来の発展への可能性の大きさ」と言い換えられる。③キラー・アプリケーションの発見
・キラー・アプリケーションとは、デスクトップ・パブリッシングをやりたいからMacintoshを買い、「脳トレ」をやりたいからニンテンドーDSを買う。VHSがアメリカでデファクト・スタンダードになった理由の一つに、「アメリカンフットボールを終わりまで録画できる」ことが鍵となった。アメリカで家庭にパソコンが普及した理由は、ほとんどのビジネスマンが確定申告をしており、そのためにパソコンと表計算ソフトが非常に便利だったから。

面白かったのが、融通の利かなさが売りとなったCD-Rの事例。
・追記できないCD-R
CD-Rは「1回しか記録できない」ため発売当初は用途を見つけられず低迷していた。
しかし、「1回しか記録できず、後から改ざんできない」という融通の効かない特徴が見直され、公的文書の正式記録メディアとして正式に採用されるようになった。

すぐにはがれてしまう糊が、使い方を換えてポストイットとして大ブレイクしたのと似た事例だ。

後半は製品ライフサイクル論にのっとって、開発期、導入期、成長期、成熟期と時期を分けてリーダーとチャレンジャー各々の側の戦略について記載されている。
事例編を読むと、1990年代のメーカーの苦悩がよくわかる。
歴史を振り返って講釈をたれるのは簡単だが、当事者として見えない未来に思いを馳せながらの決断がどのようになっていくのか。
歴史はある意味冷徹である。
そして歴史は繰り返す。
我々は先人が血のにじむような思いで行った決断からいろいろ学ばなければならないと感じた。


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