2014年1月13日月曜日

『プラットフォーム ブランディング』

「ブランドを「体験のプラットフォーム」として再定義する、日本企業にいま最も必要な戦略書」という出井伸之、元ソニー会長のコメント付きのブランド関連本。
顧客体験価値という観点からブランドを再構築するための手法が書かれている。
色々なブランドのフレームワークが載っているのも大変参考になった。

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ブランドが製品やサービスという企業の提供する実体(モノ)の価値だけでなく、そのブランドにまつわる生活者同士のコミュニケーションなどの「体験」の価値と捉えるべきだとすれば、ブランドはまさにそうした生活者の体験フローを全て乗せ、生活者同士が価値を提供し合うコミュニケーションの「取り持ち役」的な存在として再設計されなければならないだろう。 言い換えれば、ブランドは生活者に対する価値そのものというよりは、さまざまなコミュニケーションの「場」の総称、すなわち「プラットフォーム」となるべきだ。
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「ブランド」を「プラットフォーム」という概念で捉えているのは斬新である。

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生活者のブランド評価=体験の魅力度 × 体験の量・時間 × 体験の一貫性

多くのプロモーション投資をしているにも関わらず、「ブランドが弱い」と嘆く企業の多くは、三つ目の「体験の一貫性」の重要性を見落としている。
顧客接点におけるブランド体験の一貫性を保つ軸は二つある。 長期間にわたって変わらぬ印象を与える「時系列での一貫性」と、 どの顧客接点に触れても変わらぬ印象を与える「接点間での一貫性」だ。

ブランドを形成するには、「顧客ニーズに合わせて変えること」と「アイデンティティとして変えずに守る」という、相反することを両立させるマネジメントが鍵になる。
ブランドとはあくまでも、「体験の一貫性を保証する単位」であり、異なる価値を持つ商品ならば、異なるブランドを用意するべきだ。
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ブランドの一貫性を保つことの難しさについては、変えてみたくなる誘惑にしょっちゅうかられているので非常によく分かる。
要は、変えるべきものと変えてはいけないものの見極めだ。


グローバル化時代のブランディングについても、原研哉氏のコメントを引いて述べている。
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「センスの悪い国にセンスのいい国の商品が入ってきた場合、センスの悪い国の人々は入ってきた商品に触発されて目覚め、よそから来た商品に欲望を抱くだろう。しかしこの逆は起こらない。 ここでいう「センスの良さ」とは、それを持たない商品と比較した場合に、一方が啓蒙性を持ちほかを駆逐していく力のことである。」
by 原研哉

グローバルに市場が統合されるということは、各国の市場の生活者に対して個別に最適化した商品よりも、原氏の言うような意味で「センスのいい商品」の方が、生活者に最適化された凡庸な商品を踏みつぶして世界を席巻するチャンスがでてくるということ。
調査によって顕在化した顧客ニーズに適応する「マーケティング」ではなく、自社が見定めた知覚価値を積極的に啓蒙していく「ブランディング」が決め手になるといってよい。 

グローバル化で統合されたのは、市場だけではない。メディア環境もそうだ。
インターネットは、蓄積型かつ非同期型のコミュニケーションの場、つまり一度流れた情報はいつまでも残り、閲覧されるメディアである。
これにより、特定地域のモノ(製品)とそのデザインセンスだけでなく、そのモノにまつわる情報、過去から現在に至るまでの生活者の反応などもどんどん蓄積され、世界規模で容易に拡散するようになった。
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そう、インターネットは蓄積型なので、世の中の情報量がインターネット環境の普及とともに指数関数的に伸びており、生活者は(自ら取りにいっている訳ではない)ネット上で配信されている情報についてはスルーするようになってしまっている。
フェイス to フェイスが再び脚光を浴びてきた原因だ。


恩蔵直人 早稲田大学ビジネススクール教授の「R3コミュニケーション」というフレームワークについても紹介されている。
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企業・ブランドにとっては、生活者にブランドの提供価値を「自分ごと」として捉えてもらう(Relevance)ようなコミュニケーションを成功させるのが最終的な目的だが、そのためには、生活者が認知や興味の形成プロセスの中で、他の生活者の評判や推奨(Reputation)といったコミュニケーションに触れることが重要。
このため、企業は生活者に対して直接働きかけるだけでなく、その周辺にいてブランドの評判を形成する「支援者」を獲得し、彼らに向かって継続的な信頼関係(Relationship)を構築するようなコミュニケーションをしなければならない。
この 3Rコミュニケーションというフレームワークは、企業から支援者、支援者から生活者といったコミュニケーションのプロセス解析と革新だけに注目しており、あくまでブランドそのものの価値が最初に明確にあるという考え方である。
コミュニケーションそのものがブランド価値の重要な構成要素となっている昨今では、「R3」のフレームワークは、ブランドコミュニケーションの捉え方としては少し時代遅れの可能性がある。
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Relationshipの捉え方が、「企業→支援者→生活者」という流れのある意味一方向のRelationshipだけでなく、生活者同士の相互コミュニケーションというRelationshipというように拡大されてきているということか。


「メディアの民主化」によるブランドの進化についても書かれている。
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<メディアの民主化>
1.生活者がブランドについてネット上でポジティブな話しだけでなく、ネガティブな話しも発信するようになり、ブランドに関する情報や知覚を企業が一方的に押し付けてコントロールできる裁量が減った。
2.生活者の言動=クチコミが、ブランドの知覚を形成するための重要接点となったため、生活者をブランドを作るうえでの共創者として見なし、ポジティブな発信をしてもらうために必要な心理的共感を得ることが重要になった。
3.生活者のメディア接触におけるインターネット比率が高まり、接触するメディアが分散した結果、マスメディアに広告出稿することでカバーできる範囲が狭まった(つまり、増す広告が効きにくくなった)。生活者のブランド想起を効率的に維持するためには、オウンドメディアなどの活用も併用し、従来のマスメディアとは異なる方法でブランドとユーザーが直接つながる重要性が高まった。

メディアの民主化が進んだことにより、モノのスペックやベネフィットなどブランド主語の自分語りだったものが、生活者の願望や課題への貢献など、生活者主語の協調的支援に変わる必要がある。(ただし、転換ではなく、あくまでも付加する拡張であることに注意。ブランド主語の知覚価値はベースとして依然重要。)
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ブランドが強いと言われる企業の三つの典型
①カリスマ牽引型
中央集権的ガバナンスを持つ個人の暗黙知の嗜好性で一貫性を担保
②技術牽引型
高い技術がもたらす他社にはない顧客体験で一貫性を担保
③戦略牽引型
ブランド戦略スキルを形式知として社内で共有・育成して一貫性を担保

日本では組織的なブランド戦略スキルを駆使してブランドを作り上げてきた③のケースは非常に少ない。
これら「カリスマ、技術、戦略」という三つのブランド牽引力は、トレードオフの関係ではなく、併用し補完できるはず。
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LVMH、ネスレ、P&G、コカ・コーラなど、各種ブランドを連ねるグローバル企業では③の戦略スキルを形式知とすることに成功しているということだ。

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ターゲットには、ブランドターゲットとセールスターゲットの二種類が存在する。
ブランドターゲット・・
自社ブランドの思想や世界観という深いレベルで共感し、ブランドの象徴的な顧客層。ライフスタイルの先進性や、そのカテゴリでの専門性など、市場で高い影響力を持つ層の場合は、この顧客層からの支持そのものがブランドの魅力要因にもなる。

セールスターゲット ・・
売上規模を確保するための拡販層。自社ブランドが規定するブランドターゲット層への憧れに限らず、機能性や価格など、商品・サービスの購入理由には様々なパターンが混在する。ブランドターゲットと異なり、複数の層を想定することがある。
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よく社内で議論しているとブランドターゲットが必ずしもメイン顧客でない、という話しになるのだが、ブランドターゲット≠セールスターゲットということが分かっていれば、議論しやすい。


Google日本法人の及川卓也氏によるメディア・コンテンツ業界のマーケティングで用いられる「3Cフレームワーク」というのが面白かった。
・コンテンツ(情報の中身)
・コンテナ(情報の編集・加工)
・コンベア(情報の伝達経路)
そして、いままでは3つのC全てをやっていた既存メディアにとってインターネット時代を経て、メディアビジネスに残された付加価値は、コンテンツを編集して読者に魅力的に見せるとともに、広告や課金システムを組み込んだ「コンテナ」として売る部分だけになったとのこと。
こういうフレームワークで説明されると、新聞社が生き残りをかけて次のビジネスモデルを模索しているのもうなずける。


他にも「ネットワーク外部性」「プラットフォームの包含性」「トリプルメディア」「広告代理店との役割分担」など参考になる内容が多かった。
最近のブランド論についてフレームワークも含めて頭を整理するのに非常に役立った。



2014年1月6日月曜日

『新参者』

ガリレオシリーズで有名な東野圭吾の著書。
時流として読むのが当然という雰囲気で渡されたのだが、近日中にドラマ化・映画化されたりするのだろうかと思って調べてみたら既に2012年にドラマ化されていた。

主人公は加賀恭一郎という刑事なのだが、この本を読んだ限りでは、ちょっと裏方の刑事として描かれているので、既に加賀恭一郎シリーズとして8作目の作品とは思えずにびっくりした。
人形町が舞台として描かれているのだが、その中で起こった殺人事件を中心に市井の人々の生活を丁寧に描きつつ、全てが一つの物語を紡ぐという構成になっている。
小説ならではの、オムニバス方式となっているので、もし映画化されるとすると脚本家を悩ませるだろうと思いながら読んでいたが、果たして映像化された阿部寛主演の『新参者』はどういった見せ方をしているのだろうか。

読後感も非常によく、さすが今をときめく東野圭吾といった感じ。
他の加賀恭一郎シリーズを読んでみたくなった。

2014年1月3日金曜日

『グロースハッカー』

敬愛する、中西紹一立教大学特任准教授がFacebookで勧めていたので、Amazonワンクリックでほとんど衝動的に購入した本。

グロースハッカー・マーケティングと呼ばれるマーケティングの新手法における、マーケターのマインドセットについて書かれた本。
旧来のマーケター視点との比較で書かれているので、マーケターが読むと(腑に落ちるかどうかは別として)分かりやすいのかも知れない。

「マーケティングは企業や製品の完成後にスタートする自己完結型活動」という考え方を放棄することから始まる。
簡単に言うと、製品開発とマーケティングを完全に別のプロセスとして行う方法はもう古い、ということ。
だからグロースハック・マーケティングのマインドセットは、製品発表前の数週間前に始まるのではなく、製品の開発・設計フェーズから始まる。
「マーケティング」とは、顧客の獲得だ。そう考えれば、顧客を獲得するための行動すべてがマーケティングだといえる。

という訳で、今までの「マーケティング」とは、製品が決まっている段階からいかにそれの認知を上げてリードジェネレーション(見込み客)を獲得するか、ということであったのに対し、グロースハッカー・マーケティングにおいては、(製品開発段階からアフターサービス段階まで、コンバージョン率を上げることも含めて)顧客獲得のために行うあらゆることが「マーケティング」ということになる。


著者ライアン・ホリデイは4つのステップがあるという。
【ステップ1】まずは人が欲しがるものを作れ。
プロダクト・マーケット・フィット(Product Market Fit:PMF)。これはサービスと顧客(のニーズ)が完全にシンクロする状態。『リーン・スタートアップ』の著者、エリック・リースは、PMFを獲得する最善の方法は、まず「実用最小限の製品」(minimum viable product:MVP)でスタートし、ユーザーからのフィードバックに基づいて改良していくことだと説明している。

グロースハッカー・マーケティングにおいて、PMFへの到達はマーケターの仕事だ。
マーケターは、PMFが奇跡的に達成されるのを待つのではなく、このプロセスに参加する必要がある。サービスの顧客を見極め、彼らのニーズを把握し、圧倒するようなサービスをデザインする。これらは全てマーケティングの決定であり、開発設計のプロセスではない。
マーケターは製品やサービスが開発されるのに任せるのは、もうやめるべきである。マーケターはアイデアの提供、ルールとガイドライン、そしてフィードバックによって開発に影響を与えることができるのだ。

【ステップ2】自分なりのグロースハックを探して
事業を成功させて収益をあげるには、マーケティングの方法を、潜在顧客の購買行動プロセスに合わせる必要がある。
マーケターの仕事はもはや「ブランド構築」ではない。忠誠度が高く、情熱的なユーザーの集団を形成するのが仕事だ。
ユーザーは引き込まなければならない。いいアイデアだけでは不十分だ。
実際、顧客は獲得するものだ。その方法は絨毯爆撃ではなく、ふさわしい相手にターゲティングしたピンポイント攻撃だ。

【ステップ3】クチコミを巻き起こせ
クチコミを巻き起こすためにも製品設計の段階から自問するべき内容がある。
◯顧客がこの製品を話題にする理由はあるだろうか?
◯この製品には人に薦めたくなるような工夫がしてあるだろうか?
◯そもそもこの製品には話題にするだけの価値があるだろうか?

目につきやすくすれば、模倣しやすくなり、人気がでる可能性も高まる。商品やアイデアそのものに宣伝させ、また買った後や利用した後でも分かる『行動の残滓』を生み出すよう、工夫をする必要がある。
事例として、Hotmailはユーザーが送信する電子メールを新規ユーザーへのアピールに利用した。Appleとブラックベリーは自社製モバイル端末からユーザーが送信する全ての電子メールの文末に「iPhoneから送信」「BlackBerryから送信」と表示させた。
さらに、Appleによる「製品そのものに宣伝させる作戦」で最も効果的だったのは、それまで黒が普通だったイヤホンをiPadで白にしたことだ。

グロースハッカーは、ブランディングのために全国ネットのテレビ番組での製品露出の権利を買ったり、セレブに金を払ってサービスを利用してもらったりはしない。
その代わりに、こうした「ソーシャルカレンシー(社会的通貨)」を無料で獲得する方法を考えるのだ。

【ステップ4】つかんだユーザーを手放すな
「伸び悩んでいる企業は、営業とマーケティングに投資するべきだ」というこれまでの常識は忘れるべきだ。
企業はサービスそのものの改善に投資する必要があるのだ。ユーザーがそのサービスから離れられなくなる(そして友達を誘う)まで改善しよう。
新しいマーケティング戦略を試す方がやる気が出るし、プレス発表の方が面白いのは確かだ。だが、ビジネスにとって既に手の内にあるものを定着させたり、最適に改善したりする方が重要なのである。

コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーによると、 顧客の定着率が10%上がるのは、企業価値が30%上がることに相当するという。
調査会社マーケット・メトリクスによると 既存顧客が購入する可能性は60〜70%なのに対し、新規顧客の場合は5〜20%だとしている。
「定着は獲得に勝る。」のだ。



グロースハックは、ROI(投資収益率)の最大化を目指すもの。最も効果的なポイントに全精力を注ぎ込むことだ。
グロースハック・マーケティングで重要なのは、そこに共通するマインドセットだ。
グロースハックを実践している新興企業は、グロースハックのプロセスを踏襲し、マーケティングを製品あるいはサービスの構築に結合させている。
立ち上げ段階でアーリーアダプターを巻き込み、製品あるいはサービスにクチコミを誘発する要素を埋め込み、データを分析して最適化を繰り返している。
戦術はバラバラでも、戦略的ゴールはひとつだ。
効率的で拡張可能なデータ駆動型の方法で顧客にリーチすること


そう、今やっている事業の目的も「効率的に顧客にリーチする手法を生み出すこと」だ。
データ駆動型の準備はできているので、拡張可能なやり方を編み出すというのが今年の事業上の課題だな。
フムフム。



2014年1月1日水曜日

今年の抱負

昨年末は急に高熱を発症し(熱とそれに伴う節々の痛みのみで他の症状は全くなし)、最後の週はほぼ休み(実は1日だけどうしても休めない打ち合わせがあり、這うようにして出勤。辛かった。。)、大掃除も下の子が受験ということで「運気が逃げるといかん」(?)という理由で必要最小限のみ。その結果、案外ゆったりとした年末を過ごした。

昨年2013年、年初に掲げた目標は「初心にかえる」ということであった。
年初にイメージしていたのとは違う形ではあったが、初心にかえった年であったと言える。
それにしても「初心にかえる」というのは「心のギア」を入れ替えるということであり、思っていた以上に負荷がかかる事であった。
(逆に負荷がかかっていないのだとすると、それは本当には初心にかえっていないということか)
気持ちの切り替えは早い方だと自分では思っていたが、この「ギアの切り替え」に2〜3ヶ月要したような感じがある。
その間の不安定な気分たるや。
「この不安定さを楽しもう」ということを意識してやっていたつもりだが、やはり人間、ギアがニュートラルに入っていて不安定な状態というのは、不安な状態でもあるようだ。

清水寺で年末に発表された「今年の一文字」が「輪」というのも何か因縁のようなものを感じたのは気のせいだろうか。


さて、今年の抱負。
年末に色々考えたが、今年は「一所懸命」ということを掲げたい。
ギアは定まったので、後はやるだけ。
好きな言葉である「一隅を照らす」にも通じる言葉だ。

年末高熱を発症した時に、色々なことを考えた。そのときの想像に比べると身体の状況は思いのほか悪くなかった。
まだまだやるべきことがある、という天の声と思って今年も駆け抜けたい。