会社の仕事を推進するにあたり、勧められた本。
非常に分かりやすく、グローバル時代の本社業務の基本を知ることができる本。
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経営における難しいさは、「やりたいこと」(=事業)を行うにあたって、「先立つ物」(=財務)をどう工面し、「取り組む人」(=組織や人材)にどう頑張ってもらうか、というところにある。
しかし、日本において戦後連綿と続いてきたのは、企業に対して「安定化装置」を取り付けるような仕組みだった。
「先立つ物」の面倒は全て銀行に任せ、「取り組み人」は”終身雇用・年功序列・協調的組合”問いう日本型経営システムを採用することで、不安定な3つの存在のうち、2つまでを取り除いてしまった。
日本企業は、オペレーションについては得意である、とよく言われる。
しかし、オペレーションをいくら頑張っても、それだけではマネジメントをやっていることにはならない。
本書の趣旨は「オペレーションではなく、マネジメントをやろう」ということに尽きる。
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2 まずは「投資家」に徹し、事業を見極める力を磨く
3 「投資家」として必要な武器はきちんと揃える
4 「エラいだけの本社」にならず、連携を促す力を発揮する
5 グループを束ねていく時に、「きれいごと」ばかり言うのはやめる
「大黒柱」(企業として追い求める目的)=右脳的企業価値(定性的)
は異なる。両方とも大切。
(左脳的な)企業価値
企業価値=負債及び株主資本にかかるコストを勘案した後の、その企業が生み出す将来キャッシュフローの現在価値の総和
企業価値が成功を示す指標であるならば、やるべきことは3つ。
1 「やりたいこと」をやって結果としての「キャッシュベースの利益」を増やす。
2 「やりたいこと」をやった結果としての「キャッシュベースの利益」が、それに必要な「先立つもの」を手当てした結果としての「投資家に対するコスト」よりも小さいような事業はそもそもやらない(逆の場合はやる)
3 「先立つもの」を手当てした結果としての「投資家に対するコスト」を減らす
(3については、①「情報開示」を充実させること、②信用リスクが顕在化しない範囲において、安いコストの負債を適度に取り混ぜること、により実現する。)
(右脳的な)企業価値
「企業がその存立基盤として大事に守っている価値」は、何かを決める際の判断指針になる。
このうち最も上位にある概念を英語ではMission(使命)という。
このミッションを、どういう態度で希求し続けていきたいか、といった考え方がバリュー(Value)。日本語に訳すと「価値観」。ミッションとバリューは、外部環境が大きく変わっても変わることのない「軸」となるもの。
次に出てくるのが「ビジョン」。ミッション、バリューを追求していくにあたって、長期的に何を行っていくべきか、将来どうなりたいか、という青写真のこと。
次が将来像を実現するために「戦略」(Strategy)。より具体的な方向や行動を詰めるとどうなるのかが問われる。アクションプランやマイルストーンも必要となる。忘れていけないのは数字。
次にくるのが「仕組み」(Management System)。戦略をやり遂げるために、どのような仕組みや仕掛けが必要なのかを考える。
最後に最も日常的な業務プロセス(Business Process)が規定される。
「神は細部に宿る」。経営陣が留意すべきは、「細部に至るまで、大きな『軸』と整合性を持って動くようなっているか」という点。
「左脳的な企業価値」だけなら投資ファンドと同じ。
「右脳的な企業価値」だけなら慈善団体と同じ。
誰かがこの2つの価値を繋げていかなければならない。脳の中だと「脳梁」の役割。企業においては、この「脳梁」の役割を果たすのが経営陣。
その最も重要な要素が、「営利を追求するにあたって、皆が共有できる成功指標を持つ」ということであり、「企業の存在意義としての目指すべき理念を共有する」ということ。つまりグループにおける共通言語を定める必要がある。これが第一歩。
第一歩を踏み出した後には、最も重要な要素が派生する様々な「共通言語」をさらに定める作業が必要になる。
左脳的な企業価値から派生する共通言語としては、経営管理手法の充実といったことが挙げられる。
右脳的な企業価値からは、ダイバーシティマネジメントの実践などが不可欠になってくる。
要は以心伝心では済まない相手に対して、なるべく共通言語を使って理解を深めるということ。そして、これらの仕組みや仕掛けを作っていくのは本社の仕事。
事業を推進する機能、事業を管理する機能、サービス提供機能(事業を支援する機能)。
本社が果たすべき機能はこのうちの事業を管理する機能。その求められる機能は大きく3つ。
1 「見極める力」:本社の投資家的機能
①純粋な意味での投資家機能:各事業を見定め、経営資源を配分する
②投資家機能を発揮するためのインフラ整備機能:組織構造、経済構造の設計やマネジメントサイクルの運営など必要なインフラ整備を行う
2 「連ねる力」:本社の連携強化機能
③”戦略的”投資家としてのシナジー発揮推進機能:事業横断的な働き掛けを行う
④”戦略的”投資家としてのインキュベーション機能:新規事業や事業の入れ替え、撤退を支援する
3 「束ねる力」:本社のグループ代表機能
⑤外部に向けてグループを代表し経営資源を獲得する機能:経営資源を外部市場から効率的・効果的に調達する
⑥内部に向けてグループを一つにしていく統括機能:強固なアイデンティティをグループ内に示す
①事業化が行おうとしている事業が本当に確からしい事業なのか(運用方針)
②事業化はこれまできちんとした実績を上げているのか(運用実績)
③事業を行うにふさわしい体制を整えているのか(運用基盤)
を確認する。要は「情報開示」を求める。
そして事業家に対して規律付けを求める(企業統治)
これに対し、企業(資金運用者)は、
①戦略構築:活用と還元に関する将来仮説作り(運用方針)
②過去実績:仮説の正しさを証明する成果(運用実績)
③基盤整備:将来仮説を実行できるインフラ整備(運用基盤) を行う。
「先立つもの」、すなわち財務について考えることを安定化装置付き経営によって免除されてきた日本企業は、この「投資家」的機能にいまだ慣れていない。
<本社が果たすべき3つの機能 その2>
1 「見極める」力
まずは個別事業の見極め。
次に、②投資家機能を発揮するためのインフラ整備機能。投資方針を決定して、計画策定から実行、評価、フィードバックに至る一連のサイクルを回していくには、リアルタイムで様々な状況がわかるようにしておかなければならない。
インフラとして欠くことのできないのは、「アナリスト・ストラテジスト・エコノミスト」としての機能。
部門最適を追求する事業部門に対して、全体最適の観点からツッコミを入れるこうした機能は、グループ経営を進めていく上で不可欠なもの。
2 「連ねる」力
①と②は極めて一般的な投資家的機能だったが、③と④は「戦略的」という要素が付け加わる。単にファイナンシャルインベスターとして「安く買って、高く売って終わり」というのではなく、中長期の時間をかけて本質的な事業価値向上を追求するということ。
事業の組み合わせにより、単純な足し算以上のもになっていくようにすること。この価値は一般的にはシナジーと呼ばれている。
④についても、黙っていては新しい”起業家”は出てこない。新規事業を立ち上げる、その支援をする、あるいはM&Aを行う。新規事業創造機能ということで言えば、研究開発(R&D)機能も含まれる。
3 「束ねる」力
これは、グループ内に向けて投資家として発揮する機能とは異なるもう一つの顔。
グループ外に向けて、グループの代表者として振る舞う機能。「経営資源の調達」に際し、情報開示や企業統治について考えるのもこの機能。
また、外部にアピールできるような企業グループのあり方を確立して、利害関係者に理解を求めるには、グループ内部を一つにしていくことも大切。
これらはあくまでも本社部門の「機能」であって、「組織」ではない。
機能がしっかり定義できてさえいれば、経営企画部も財務部も人事部も一つ屋根の下でも全く構わない。
逆に、機能が定義できておらず、本社の仕事を理解していない人が本社で多く働いていると、その企業は間違いなく縦割りや官僚化が進み元気が無くなってくる。こうしたサイロのような組織の中で、受身的な規制対応だけに専念して仕事をした気になっている高圧的な本社パーソンなどが跋扈していたらもう最悪。
得てして新規事業探索の責任者は、保守本流の事業を丸ごと代替できるような、有望で、規模も大きく、まったく新しい成長が約束された分野はないだろうか、と日々悩むことになる。
ちょっと考えればすぐにわかるのだが、そんな分野は「あるはずはない」。
まずは、青い鳥はいない、ということをしっかり認識すること。
寓話の結末を思い出すと、青い鳥が最後にいたのは自分の家。新規事業探索もこれと同じ。
本当は、自社が強みとするところを改めてじっくりと考え直し、本質的な強みから生まれる小さな事業の種を大事に育てていくことにしか解はない。
新規事業の重要度や、既存事業とのリンクの程度によっても変わってくるが、独り立ちできるようになるまでは、本社部門がきちんとバックアップできるような組織体制にしておくこと。
既存事業の傘下にぶら下げておくと、経営資源配分移管する意思決定権限を持つのが既存事業の責任者になってしまう。既存事業を代替するかもしれない事業となってくると、既存事業部門側が「継子いじめ」をすることもある。こうなると新規事業担当チームは孤立する。
一方、本社直属のチームにすればいいかというとそれも必ずしもうまくいくとは限らない。ただトップの実態ある庇護を受けていることが重要。
新規事業開発を考えていく際に最も重要な機能の一つは研究開発機能。
今の時代は、どちらかといえば本社部門の下に付けて、どこかの事業部門の占有になることを避け、次世代の成長に資するような経営資源配分を行いやすいようにしておくことの方が優先順位が高い。その方が、様々な事業部門が柔軟に活用しやすい。
企業における新しい事業は、企業側が持つ宝であるところの事業の種、すなわちシーズと、顧客が持つ事業の種、すなわちニーズとがうまくすり合ったところにチャンスが生じる。
研究開発部門と、事業部門との交流や、経営トップとの意見交換などを頻繁に行わせるような仕掛けが必要。
こうした「業際を刺激する仕組み」を作るのは本社の仕事。
研究開発部門と事業部オンとの交流を増やしても、研究開発部門が一体何をやっているのか、それがどう使えるのか、などがきちんと伝わらないことが多い。伝わらない原因はいろいろあるが、最もよくあるのは「言語が通じない」ということ。
研究開発ポートフォリオマネジメントをやることで、研究開発部門以外の人たちにとっても、自社の「タネ」の何が使えるか、に関して飛躍的に理解度が向上する。
「タネ」となる新技術と、それを使った製品やサービスとは分けて管理すべし。そうしないと、製品が技術以外の別の理由で終売となったりした時に、せっかくの「タネ」も一緒にお蔵入りになってしまう。
1 「左脳的」企業価値向上のプラットフォーム作り=経営管理
2 「右脳的」企業価値向上のプラットフォーム作り=経営理念
3 「脳梁」の働きを活性化=ガバナンス
左脳型プラットフォーム構築について。これには親会社自身の経営管理の充実が不可欠。それと同時にCFOポジションを押さえる。
日本では経理に毛が生えた程度にしか思われないポジションだが、多くの海外企業では経営管理の心臓部であり、ほとんどすべての情報はここに集まってくる。
子会社にガバナンスを効かせる3つのポイント
まずは、監査機能の充実。重要なのは、親会社から子会社を見るための監査。内部監査もそうだが、親会社の監査役には海外も含めた子会社をどんどん回ってもらう。
日本では従来よりあまり重視されていなかった機能だが、グローバルにグループ経営が進展するにつれ、この機能はそれがうまく回るかどうかの「キモ」となってくる。
2つ目は、取締役会など、ガバナンスを担う機能が本当に働いているかどうか、という点。親会社の役員が子会社の取締役を兼務している場合には、必ず出席を。
3つ目は、指名と報酬の仕組みの明確化。これには、相互の信頼とコミュニケーションの確立も必要。円滑な関係を築くためには、トップ同士が嫌という程濃いコミュニケーションを確立している必要がある。
<その他>
○「利益は意見、キャッシュは事実」などという言葉もあるくらい、実は会社側の操作によって会計的な利益の額は変えられる。
○オペレーションとマネージメント(経営)は異なる。
ピラミッドをある時点まで登ったら、逆にそこからピラミッドの全貌を見渡して、何が必要なのか、何が不要なのか、常にリスクを取りながら判断をしなければならない。そうした手腕は、専門分野を極めるのとは別の次元にある。
○企業統治の「キモ」は指名と報酬。
指名委員会等設置会社においては、「監査」「指名」「報酬」の3つの委員会が立てられる。
「(悪いことをしたら)暴くぞ」「選ばないぞ」「お金やらないぞ」というプレッシャーをかけている。
人間心理を考えれば、経営者にとって嫌なのは特に後ろの2つ。「指名と報酬の意思決定の明確化」がなされているということは大切。
分かりやすく「陥りやすいパターン」についても記載されている。
先人の二の轍を踏まないように仕事を進めるためにバイブルとして身近に置いておきたい。
非常に分かりやすく、グローバル時代の本社業務の基本を知ることができる本。
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経営における難しいさは、「やりたいこと」(=事業)を行うにあたって、「先立つ物」(=財務)をどう工面し、「取り組む人」(=組織や人材)にどう頑張ってもらうか、というところにある。
しかし、日本において戦後連綿と続いてきたのは、企業に対して「安定化装置」を取り付けるような仕組みだった。
「先立つ物」の面倒は全て銀行に任せ、「取り組み人」は”終身雇用・年功序列・協調的組合”問いう日本型経営システムを採用することで、不安定な3つの存在のうち、2つまでを取り除いてしまった。
日本企業は、オペレーションについては得意である、とよく言われる。
しかし、オペレーションをいくら頑張っても、それだけではマネジメントをやっていることにはならない。
本書の趣旨は「オペレーションではなく、マネジメントをやろう」ということに尽きる。
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<グループ経営の成功に向けた5つの提案>
1 理念も数字も「ゴール」を決めて共有する2 まずは「投資家」に徹し、事業を見極める力を磨く
3 「投資家」として必要な武器はきちんと揃える
4 「エラいだけの本社」にならず、連携を促す力を発揮する
5 グループを束ねていく時に、「きれいごと」ばかり言うのはやめる
<左脳的企業価値と右脳的企業価値>
「土台」(利潤追求の成功度を測る指標)=左脳的企業価値(定量的)「大黒柱」(企業として追い求める目的)=右脳的企業価値(定性的)
は異なる。両方とも大切。
(左脳的な)企業価値
企業価値=負債及び株主資本にかかるコストを勘案した後の、その企業が生み出す将来キャッシュフローの現在価値の総和
企業価値が成功を示す指標であるならば、やるべきことは3つ。
1 「やりたいこと」をやって結果としての「キャッシュベースの利益」を増やす。
2 「やりたいこと」をやった結果としての「キャッシュベースの利益」が、それに必要な「先立つもの」を手当てした結果としての「投資家に対するコスト」よりも小さいような事業はそもそもやらない(逆の場合はやる)
3 「先立つもの」を手当てした結果としての「投資家に対するコスト」を減らす
(3については、①「情報開示」を充実させること、②信用リスクが顕在化しない範囲において、安いコストの負債を適度に取り混ぜること、により実現する。)
(右脳的な)企業価値
「企業がその存立基盤として大事に守っている価値」は、何かを決める際の判断指針になる。
このうち最も上位にある概念を英語ではMission(使命)という。
このミッションを、どういう態度で希求し続けていきたいか、といった考え方がバリュー(Value)。日本語に訳すと「価値観」。ミッションとバリューは、外部環境が大きく変わっても変わることのない「軸」となるもの。
次に出てくるのが「ビジョン」。ミッション、バリューを追求していくにあたって、長期的に何を行っていくべきか、将来どうなりたいか、という青写真のこと。
次が将来像を実現するために「戦略」(Strategy)。より具体的な方向や行動を詰めるとどうなるのかが問われる。アクションプランやマイルストーンも必要となる。忘れていけないのは数字。
次にくるのが「仕組み」(Management System)。戦略をやり遂げるために、どのような仕組みや仕掛けが必要なのかを考える。
最後に最も日常的な業務プロセス(Business Process)が規定される。
「神は細部に宿る」。経営陣が留意すべきは、「細部に至るまで、大きな『軸』と整合性を持って動くようなっているか」という点。
「左脳的な企業価値」だけなら投資ファンドと同じ。
「右脳的な企業価値」だけなら慈善団体と同じ。
誰かがこの2つの価値を繋げていかなければならない。脳の中だと「脳梁」の役割。企業においては、この「脳梁」の役割を果たすのが経営陣。
その最も重要な要素が、「営利を追求するにあたって、皆が共有できる成功指標を持つ」ということであり、「企業の存在意義としての目指すべき理念を共有する」ということ。つまりグループにおける共通言語を定める必要がある。これが第一歩。
第一歩を踏み出した後には、最も重要な要素が派生する様々な「共通言語」をさらに定める作業が必要になる。
左脳的な企業価値から派生する共通言語としては、経営管理手法の充実といったことが挙げられる。
右脳的な企業価値からは、ダイバーシティマネジメントの実践などが不可欠になってくる。
要は以心伝心では済まない相手に対して、なるべく共通言語を使って理解を深めるということ。そして、これらの仕組みや仕掛けを作っていくのは本社の仕事。
<本社が果たすべき機能 その1>
どんな企業にも3つの機能が存在する。事業を推進する機能、事業を管理する機能、サービス提供機能(事業を支援する機能)。
本社が果たすべき機能はこのうちの事業を管理する機能。その求められる機能は大きく3つ。
1 「見極める力」:本社の投資家的機能
①純粋な意味での投資家機能:各事業を見定め、経営資源を配分する
②投資家機能を発揮するためのインフラ整備機能:組織構造、経済構造の設計やマネジメントサイクルの運営など必要なインフラ整備を行う
2 「連ねる力」:本社の連携強化機能
③”戦略的”投資家としてのシナジー発揮推進機能:事業横断的な働き掛けを行う
④”戦略的”投資家としてのインキュベーション機能:新規事業や事業の入れ替え、撤退を支援する
3 「束ねる力」:本社のグループ代表機能
⑤外部に向けてグループを代表し経営資源を獲得する機能:経営資源を外部市場から効率的・効果的に調達する
⑥内部に向けてグループを一つにしていく統括機能:強固なアイデンティティをグループ内に示す
<投資家の機能>
投資家の機能①事業化が行おうとしている事業が本当に確からしい事業なのか(運用方針)
②事業化はこれまできちんとした実績を上げているのか(運用実績)
③事業を行うにふさわしい体制を整えているのか(運用基盤)
を確認する。要は「情報開示」を求める。
そして事業家に対して規律付けを求める(企業統治)
これに対し、企業(資金運用者)は、
①戦略構築:活用と還元に関する将来仮説作り(運用方針)
②過去実績:仮説の正しさを証明する成果(運用実績)
③基盤整備:将来仮説を実行できるインフラ整備(運用基盤) を行う。
「先立つもの」、すなわち財務について考えることを安定化装置付き経営によって免除されてきた日本企業は、この「投資家」的機能にいまだ慣れていない。
<本社が果たすべき3つの機能 その2>
1 「見極める」力
まずは個別事業の見極め。
次に、②投資家機能を発揮するためのインフラ整備機能。投資方針を決定して、計画策定から実行、評価、フィードバックに至る一連のサイクルを回していくには、リアルタイムで様々な状況がわかるようにしておかなければならない。
インフラとして欠くことのできないのは、「アナリスト・ストラテジスト・エコノミスト」としての機能。
部門最適を追求する事業部門に対して、全体最適の観点からツッコミを入れるこうした機能は、グループ経営を進めていく上で不可欠なもの。
2 「連ねる」力
①と②は極めて一般的な投資家的機能だったが、③と④は「戦略的」という要素が付け加わる。単にファイナンシャルインベスターとして「安く買って、高く売って終わり」というのではなく、中長期の時間をかけて本質的な事業価値向上を追求するということ。
事業の組み合わせにより、単純な足し算以上のもになっていくようにすること。この価値は一般的にはシナジーと呼ばれている。
④についても、黙っていては新しい”起業家”は出てこない。新規事業を立ち上げる、その支援をする、あるいはM&Aを行う。新規事業創造機能ということで言えば、研究開発(R&D)機能も含まれる。
3 「束ねる」力
これは、グループ内に向けて投資家として発揮する機能とは異なるもう一つの顔。
グループ外に向けて、グループの代表者として振る舞う機能。「経営資源の調達」に際し、情報開示や企業統治について考えるのもこの機能。
また、外部にアピールできるような企業グループのあり方を確立して、利害関係者に理解を求めるには、グループ内部を一つにしていくことも大切。
これらはあくまでも本社部門の「機能」であって、「組織」ではない。
機能がしっかり定義できてさえいれば、経営企画部も財務部も人事部も一つ屋根の下でも全く構わない。
逆に、機能が定義できておらず、本社の仕事を理解していない人が本社で多く働いていると、その企業は間違いなく縦割りや官僚化が進み元気が無くなってくる。こうしたサイロのような組織の中で、受身的な規制対応だけに専念して仕事をした気になっている高圧的な本社パーソンなどが跋扈していたらもう最悪。
<新規事業について>
「何か新しいもの」「何か大きなもの」を探し続けるのは、まさに青い鳥を追い求めるのと同じ。まず成功しない。得てして新規事業探索の責任者は、保守本流の事業を丸ごと代替できるような、有望で、規模も大きく、まったく新しい成長が約束された分野はないだろうか、と日々悩むことになる。
ちょっと考えればすぐにわかるのだが、そんな分野は「あるはずはない」。
まずは、青い鳥はいない、ということをしっかり認識すること。
寓話の結末を思い出すと、青い鳥が最後にいたのは自分の家。新規事業探索もこれと同じ。
本当は、自社が強みとするところを改めてじっくりと考え直し、本質的な強みから生まれる小さな事業の種を大事に育てていくことにしか解はない。
新規事業の重要度や、既存事業とのリンクの程度によっても変わってくるが、独り立ちできるようになるまでは、本社部門がきちんとバックアップできるような組織体制にしておくこと。
既存事業の傘下にぶら下げておくと、経営資源配分移管する意思決定権限を持つのが既存事業の責任者になってしまう。既存事業を代替するかもしれない事業となってくると、既存事業部門側が「継子いじめ」をすることもある。こうなると新規事業担当チームは孤立する。
一方、本社直属のチームにすればいいかというとそれも必ずしもうまくいくとは限らない。ただトップの実態ある庇護を受けていることが重要。
新規事業開発を考えていく際に最も重要な機能の一つは研究開発機能。
今の時代は、どちらかといえば本社部門の下に付けて、どこかの事業部門の占有になることを避け、次世代の成長に資するような経営資源配分を行いやすいようにしておくことの方が優先順位が高い。その方が、様々な事業部門が柔軟に活用しやすい。
企業における新しい事業は、企業側が持つ宝であるところの事業の種、すなわちシーズと、顧客が持つ事業の種、すなわちニーズとがうまくすり合ったところにチャンスが生じる。
研究開発部門と、事業部門との交流や、経営トップとの意見交換などを頻繁に行わせるような仕掛けが必要。
こうした「業際を刺激する仕組み」を作るのは本社の仕事。
研究開発部門と事業部オンとの交流を増やしても、研究開発部門が一体何をやっているのか、それがどう使えるのか、などがきちんと伝わらないことが多い。伝わらない原因はいろいろあるが、最もよくあるのは「言語が通じない」ということ。
研究開発ポートフォリオマネジメントをやることで、研究開発部門以外の人たちにとっても、自社の「タネ」の何が使えるか、に関して飛躍的に理解度が向上する。
「タネ」となる新技術と、それを使った製品やサービスとは分けて管理すべし。そうしないと、製品が技術以外の別の理由で終売となったりした時に、せっかくの「タネ」も一緒にお蔵入りになってしまう。
<子会社ガバナンス>
「任せるけど見ている」関係と仕組みづくり1 「左脳的」企業価値向上のプラットフォーム作り=経営管理
2 「右脳的」企業価値向上のプラットフォーム作り=経営理念
3 「脳梁」の働きを活性化=ガバナンス
左脳型プラットフォーム構築について。これには親会社自身の経営管理の充実が不可欠。それと同時にCFOポジションを押さえる。
日本では経理に毛が生えた程度にしか思われないポジションだが、多くの海外企業では経営管理の心臓部であり、ほとんどすべての情報はここに集まってくる。
子会社にガバナンスを効かせる3つのポイント
まずは、監査機能の充実。重要なのは、親会社から子会社を見るための監査。内部監査もそうだが、親会社の監査役には海外も含めた子会社をどんどん回ってもらう。
日本では従来よりあまり重視されていなかった機能だが、グローバルにグループ経営が進展するにつれ、この機能はそれがうまく回るかどうかの「キモ」となってくる。
2つ目は、取締役会など、ガバナンスを担う機能が本当に働いているかどうか、という点。親会社の役員が子会社の取締役を兼務している場合には、必ず出席を。
3つ目は、指名と報酬の仕組みの明確化。これには、相互の信頼とコミュニケーションの確立も必要。円滑な関係を築くためには、トップ同士が嫌という程濃いコミュニケーションを確立している必要がある。
<その他>
○「利益は意見、キャッシュは事実」などという言葉もあるくらい、実は会社側の操作によって会計的な利益の額は変えられる。
○オペレーションとマネージメント(経営)は異なる。
ピラミッドをある時点まで登ったら、逆にそこからピラミッドの全貌を見渡して、何が必要なのか、何が不要なのか、常にリスクを取りながら判断をしなければならない。そうした手腕は、専門分野を極めるのとは別の次元にある。
○企業統治の「キモ」は指名と報酬。
指名委員会等設置会社においては、「監査」「指名」「報酬」の3つの委員会が立てられる。
「(悪いことをしたら)暴くぞ」「選ばないぞ」「お金やらないぞ」というプレッシャーをかけている。
人間心理を考えれば、経営者にとって嫌なのは特に後ろの2つ。「指名と報酬の意思決定の明確化」がなされているということは大切。
分かりやすく「陥りやすいパターン」についても記載されている。
先人の二の轍を踏まないように仕事を進めるためにバイブルとして身近に置いておきたい。
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