2009年6月20日土曜日

『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』

神永正博さんという東北学院大学準教授の書いたわかりやすい統計の本。
人の解釈を鵜呑みにするのではなく、生データにあたる重要性を示しています。

「若者の読書離れは本当か」「小泉改革は格差を拡大したのか」など、世に言われている仮説が本当かどうかをデータで検証しつつ、データを読み解く方法を示していきます。

面白かったのは、LTCM(Long Term Capital Management)の破綻の原因となった理論の話。
LTCMはショールズとマートンという二人のノーベル経済学賞受賞者だけでなく、200人近い社員のほとんどが博士号をもち、天才トレーダー、ローレンス・ヒリブランド、元FRB副議長のデビット・マリンズも在籍するというドリームチームの天才集団でしたが、たった1回の失敗で1998年に破綻してしまいました。
この破綻の原因となったのが、「株価の動きが、正規分布を使って書ける」という仮定。
実際には株価の動きは”正規分布”よりも”べき分布”に近く、”稀にしか起きない現象”が結構大きな確率であるいわゆる”fat tail”であったために、天才集団が”何万年に1回も起きないと考えていた大変動”がおきてしまい、その資産のほとんどすべてを失ってしまいました。

この「べき分布」(またの名を『パレート分布』)とは、株価だけでなく、自然界のさまざまな現象を支配する確率法則で、正規分布とはまったく違う性質をもっています。
正規分布との最大の違いは、平均や分散が存在しない場合があること。
モデルで平均や分散の存在が仮定されているのであれば、たくさんデータをとっていったとき、そのデータの平均(標本平均)や分散がだんだん一定の値(真の値)に近づいていいかなければなりませんが、株価のように、ときおりものすごく大きく変動するものに対しては、平均や分散が存在しないことがあります。
株価の場合で言うと、平均が一定の値に近づいても、分散がそうならないことがあるとのことです。

分散投資(ポートフォリオを組む)という方法がリスクヘッジ策としてとられることが多いですが、この理論も「ポートフォリオに組み入れる株や債券の価格分布が、それぞれ平均、分散をもつ」ということが前提となっているので、”極めて稀に起こる極端な現象”が私たちの想像以上に頻繁に起きる経済現象においては必ずしも必勝法ではないとのことです。

①人が解釈を加える前の生データをみて自分で考える。
②自分の仮説に反するデータも集める。
③重要な数値は頭にいれておく。
という教えはとても大切だと思いました。

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