2011年12月12日月曜日

『「経験学習」入門』

会社で部門の研修担当者を集めた会合が人事部主催であり、OJTの重要性を改めて認識した。
そんな時に本屋で目にして購入したのだが、実に素晴らしい本。

多数の優れたマネージャーに対するインタビュー調査から見出した三つの要素とその原動力のオリジナル理論と、コルブによる経験学習サイクルを二つの柱として、非常にわかりやすい説明がなされている。

最後には実践的なOJTを効率的に行うよう使えるフォーマットについても記載されており、理論から実践までカバーしつつ、かつ分かりやすいという名著である。


自分の思い通りにコントロールしにくいという意味で、「経験から学ぶこと」は「波乗り」に似ている。
多数のマネージャーに対するインタービューから導き出された理論の骨子は、
適切な「思い」と「つながり」を大切にし、「挑戦し、振り返り、楽しみながら」仕事をするとき、経験から多くのことを学ぶことができる
というものである。
これを、ストレッチ(挑戦する力)、リフレクション(振り返る力)、エンジョイメント(楽しむ力)と言い換えている。
そして、三つの要素を高める原動力となるのが「思い」と「つながり」。

プロフェッショナリズム研究によると、普通の人には真似のできない高度な知識やスキルを持つと同時に、他者に奉仕することに意義を感じることが、プロフェッショナルの条件。
「自分への思い」と「他者への思い」を両方持っている人が真のプロフェッショナルなのだそうだ。

「方略」と称して、インタービューから得られた知見を演繹したものが紹介されている。
<ストレッチの方略>
方略1 挑戦するための土台を作る
方略2 周囲の信頼を得てストレッチ経験を呼び込む
方略3 できることをテコにして挑戦を拡げる

<リフレクションの方略>
方略1 行為の中で内省する
方略2 他者からフィードバックを求める
方略3 批判にオープンになり未来につなげる(未来志向のリフレクション)

<エンジョイメントの方略>
方略1 集中し、面白さの兆候を見逃さない
方略2 仕事の背景を考え、意味を見出す
方略3 達観して、後から来る喜びを待つ

感心したのが、deliberate practice(「よく考えられた実践」)という、個人を成長させる練習や仕事のやりかたの概念。
個人を成長させるpracticeには3つの条件がある。
①課題が適度に難しく、明確であること
②実行した結果についてフィードバックがあること
③誤りを修正する機会があること

次の柱がコルブによる経験学習サイクル。
①「具体的経験」をした後、
②その内容を「内省し(振り返り)」
③そこから「教訓」を引き出して
④その教訓を「新しい状況に適応する」こと
で学んでいる。
というものだが、これをPDCAサイクルにあてはめ、さらには指導者側の方略を述べている。

[育て上手な指導者の指導方法]
P(計画)新しい状況に適用する⇦目標のストレッチ
D(実行)具体的経験をする⇦進捗確認と相談
C(評価)内省する⇦内省の促進
A(改善)教訓を引き出す⇦ポジティブ・フィードバック
とこんな具合だ。

<目標のストレッチの方略>
・懸命に手を伸ばせば届く目標を立てさせる
・成長のイメージを持たせる
・成長を期待していることを伝える

<進捗確認と相談の方略>
・こちらから声をかける
・定期的に個別ミーティングを行いしっかりと聞く
・こまめに時間をとり、取り組みが見えるようにする

<内省を促す方略>
・成功失敗の原因を本人に語らせる
☞何故成功したのかを考えるのは非常に重要。不調時のリカバリー力が違ってくる。
・成功失敗のパターンを認識させる
・より良い方法を考えてもらう

<ポジティブ・フィードバックの方略>
・成功失敗にかかわらずまずは労をねぎらう
・まず良い点を伝えてから問題点を指摘する
・普段の仕事の中で成長したと感じた部分を伝える。

人材をつぶす傾向が高い指導者についても分析されている。
一年目の新人を指導するときに、「目標のストレッチ」と「ポジティブ・フィードバック」のいずれもが不足。放ったらかしの指導方法をとっている。
二年目以降の若手を指導するときには、「目標のストレッチ」が過剰になる傾向がある。
要するに「一年目の放置と二年目以降のスパルタ」の取り合わせが人材をつぶしてしまう指導者の特徴。

職人の育成について、
日本では、「背中を見て覚えろ」という教え方が主流。
ドイツでは、職業学校に通いながら、職場で働いて学ぶデュアルシステムによって職人が養成される。このシステムでは、標準化されたカリキュラムが整備され、教える側は「言葉で説明する」ことが求められるのが特徴。
ドイツのデュアルシステムは、一定水準の職人を大量に育成するのに適した制度であり、日本的な徒弟制は少数の超一流を育てるのに向いている、というのも会社の人材育成方針のヒントになる気がする。

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