2015年1月2日金曜日

『地方消滅』

人口動態から読める日本のありよう。課題について述べた本。
いわゆる経済見通しと違って、ほとんどぶれない人口動態という事実から導きだされるあまり知りたくない現実がここにはある。

◯日本は2008年をピークに人口減少に転じ、これから本格的な人口減少社会に突入する。
このまま何も手を打たなければ、2010年に1億2806万人であった日本の総人口は、2050年には9708万人となり、今世紀末の2100年には4959万人と、わずか100年足らずで現在の約40%、明治時代の水準まで急減すると推計されている。(日本の将来推計人口 平成24年1月の中位推計)
戦後1947〜49年の第一次ベビーブームのとき4.32だった日本の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数)は、低下傾向で推移し、2005年に過去最低の1.26を記録した。2013年には1.43まで回復しているものの、依然として低い水準に留まっている。
人口数を維持するのに必要な出生率を人口置換水準と言うが、2012年の日本の場合、これが2.07と言われている。1.43という数字は、将来、日本の人口が現在の約7割に減少することを意味している
◯単純に計算すると、出生率回復(約2.1になるまで)が5年遅れるごとに、将来の安定人口数は300万人程度減少する結果となる。
日本は、2040年までの「老年人口増加+生産・年少人口減少」の第1段階、2040年から2060年までの「老年人口維持・微減+生産・年少人口減少」の第2段階、2060年以降の「老年人口減少+生産・年少人口減少」の第3段階という三つのプロセスを経て、人口が減少していくことが予測されている。
この人口推計を見ると、人口減少が本格化するのは2040年以降ということになる。しかし、注意すべきは、この減少プロセスはあくまでも日本全体を示していることである。多くの地方にとっては第2段階、第3段階の人口減少は、正に「現在」のことなのである。

☞少子化高齢化の世界最先端をいっている課題先進国 日本。
実は地方ではその課題先進国 日本の将来が”今”起こっているということだ。


◯戦後、日本では3度にわたって地方圏から大都市圏に大量に人口が移動した。
第1期は、1960年〜1970年代前半までの高度成長期。その後1970年代になると、第一次石油危機の到来により、日本経済は高度成長期から安定成長期に移行した。一方で、向上が三大都市から地方に分散することで、経済力の地域間格差は縮小した。その結果、都市部からのUターンやJターンが起こる一方で、関西圏、名古屋圏から人口が流出するなど、人口移動は均衡した。
人口移動の第2期は1980年〜1993年で、バブル経済期を含む時期である。その後、1993年のバブル崩壊に伴い、東京圏や地方中核都市で景気低迷が続いた結果、経済力の地域間格差が縮小し、東京圏から地方への人口の回帰が起こった。
第3期は、2000年以降の時期である。円高による製造業への打撃、公共事業の減少、人口減少等により、地方の経済や雇用状況が悪化したことが要因であった。これに伴い若年層を中心に地方から東京圏への人口流入が再び生じ、現在に至っている。
注意すべきは、現在まで続く第3期は、第1期、第2期とは性格が異なるということだ。
第1期、第2期が大都市圏の「雇用吸収力の増大」に由来する「プル型」であったのに対して、第3期は、地方の経済、雇用力の低下が原因の「プッシュ型」となっている。
これは地方の経済雇用基盤そのものが崩壊しつつあることを意味しており、地方が「消滅プロセス」に入りつつあることを示しているといえよう。

2010年から40年までの間に「20〜39歳の女性人口」が5割以下に減少する市区町村数は896自治体、全体(1799自治体)の49.8%(消滅可能性都市)
さらにそのうち、2040年時点で人口が1万人を切る市町村は523自治体、全体の29.1%にのぼる。これら523自治体は「このままでは消滅可能性が高い」と言わざるをえない。


よく
「東京に人材含め資産を一極集中させて効率化を図って世界と対抗すべし」
という説を聞くが、実は人口動態からみるとそれは全くの愚作であるというのが著者の主張だ。

<極点社会の到来>
まるで東京圏をはじめとする大都市圏に日本全体の人口が吸い寄せられ、地方が消滅していくかのようである。その結果現れるのは、大都市圏という限られた地域に人々が凝集し、高密度の中で生活している社会、「極点社会」である。

<人口のブラックホール現象>
若年層を供給し続けて来た地方が消滅する一方で、人口稠密地域の大都市圏は一貫して低出生率である。特に東京都の出生率は2013年で1.13と際立って低い。
さらに今後は高齢者対策の費用が急増し、子育て支援など少子化対策に投入する財源にも限界があるため、出生率の大幅な向上は現実的には見込めないだろう。
人口稠密地域において出生率が低いという現象は、シンガポール(1.20)や香港(1.20)でも見られる。大都市圏への人口移動によって出生率が低下している現象は、日本に限らず多くの国において報告されている。
大都市圏のみが存在する「極点社会」の延長線上には、日本全体の人口減少がさらに加速化していく事態が想定される。「人口のブラックホール現象」と呼ぶことができよう。
日本全体の出生率を引き上げ、「人口減少」に歯止めをかけるためには、人口の大都市圏への集中という大きな流れを変えなければならない。 先進国の主張都市人口が各国の全人口に占める割合を見ると、東京だけが上がり続けている。(パリ、ロンドン、ニューヨーク、ローマ、ベルリンは横ばいもしくは微減)
「極点社会」は、経済変動への耐久力の面でも課題が多い。「極点社会」における大都市には、集積効果を追求する経済構造がつくり出される可能性が高いが、これは逆に大きな経済変動に弱い「単一的構造」ということができる。大震災などの大規模災害リスクに対する対応という点でも問題がある。
こうした観点から、我が国では、「極点社会」の到来を回避し、地方が自立した多様性のもとで持続可能性を有する社会の実現を目指すことが重要となるのである。

☞東京に人口(特に若年層)が集中しても、そこから人口を殖して再分配する機能が東京という都市にないということである。
本来、東京という都市で子育てしやすい環境を整えるというのが最善の解決策のように思えるが、あまりに一極集中し過ぎている首都圏においてそれが現実的でないというのが著者の主張であり、現実的にはその通りであろう。
そうなると、東京に若年層を呼び込むことは日本人口の急激な減少につながる、持続可能性のリスクヘッジの観点からも地方分散が急務であるというのが著者の主張だ。

では、どうしたらいいのかという具体策については、「人口ダム機能を備えた防衛・反転線」としての地方中枢拠点都市の創設など様々な提言がなされている。
(詳細は本書をお読み下さいませ。)

希望をつなぐデータとしては、若年層夫婦は「できれば子供はもっと欲しい」と思っているということ。

◯2010年出生動向基本調査結果における、夫婦の「理想子供数」は平均2.42人「予定子供数」は平均2.07人であること、独身女性の結婚希望率が89.4%、「(結婚した場合の)希望子供数」が2.12人であることを踏まえると、現時点での「希望出生率」としては1.8人という水準が想定される。


具体策について、本当に実行できるのだろうかということを考えながら読みすすめた。
具体策については、大半が著者がいうように「撤退戦」であり、耳障りのいい政策のみが遂行されていく現在の政治を振り返って、実行できる気がせず、ちょっと民主主義の限界みたいなものも感じてしまった。
「朝三暮四」という諺があるが、同じことはサルの世界だけでなく人間の民主政治においても起こっているのではないか。


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