2015年11月1日日曜日

『パナソニック人事抗争史』

「読み物として面白い」と勧められて読んでみた本。

「ポケットマネーで50億円用意するから、(女婿の)松下正治(二代目社長。当時会長)に渡し、引退させた上、以後、経営には一切口出ししないよう約束させてくれ」
創業者の松下幸之助は三代目社長山下俊彦にそう言い渡した…

自らの手で引導を渡しきれなかった名経営者、松下幸之助の逡巡がその後の松下電器にどう悪影響を与えてきたかを書いたドキュメント。

所感をいくつか述べる。

①社長が現役でいたくて、院政を敷くための後継を選びはじめると、合コンにおける「幹事MAXの法則」と同じことになる。

合コンにおける「幹事MAXの法則」とは、幹事が合コン時に主導権を握られる(自分以上にチヤホヤされる)リスクをおかしてまで幹事以上に可愛い(格好いい)人間を連れてくることは望めないため、声をかけるのは幹事の主導権を脅かすことのない(自分以上にチヤホヤされることのない)メンバーを選定するため、幹事がMAX(一番可愛い)となるという法則を言う。(←多少違うかも)
合コンにおけるメンバー選定権が幹事にあると同様、「人事」という権力は会社組織においては社長にあるのが一般的。
社長が会長になっても権力を振りかざしたい(社長に自分の権限を脅かされたくない)と思うと、優秀な後継よりも従順な後継を選ぶようになり、会社にとって必要な「優秀なリーダー」が社長になるとは限らない、ということが頻繁にあるということだ。
これが数代続くと、どんどん器の小さな社長へのバトンタッチとなってしまうということだ。

②人事権(権力)は人を変える。

この本の中だけでも色々なケースが出てくる。
真面目で人当たりの良かった人間が、社長になった途端、人が変わったように周囲に厳しくなる。
今までは人事権に怯えていたのが、そのたがが外れることで人が変わってしまうケース。
また、失脚し人事権を失ったものは見向きもされなくなるというケース。
人事権が誰にあるかで、あからさまに乗り換えられてしまう…こういうのを、身近で見れば見るほど「権力を失いたくない」という恐怖に囚われ、必ずしも「会社のため」にならない人事が横行することになる。

③中途半端な反逆は命取り。

冒頭の遺言とも言える内容を松下幸之助は3代目社長山下俊彦に言い渡すのだが、山下は正治に引退の引導を渡すことをせず、4代目社長の谷井昭雄への引き継ぎ事項とした。
4代目社長に就任した谷井はその大役を果たそうとしたが、創業家の反発(松下家は女性が強い)や正治の執拗な反撃、不祥事の発覚等が重なって、逆に谷井が社長の座を追われることとなった。
その際、引退の引導を渡しにいったメンバーは全員松下正治から引導を渡されることとなっている。
戦国時代に、敗者の大名を一族根絶やしにした、というのは非常に残酷ではあるが、なまなかな措置のままであると、後に禍根を残す。
それがまだ権力を保有している過去の権力者であれば尚更である。


それにしても、色んな関係者の知っているちょっとした情報を集約してみると、ここまで全体像が明らかになるものか、とビックリする。
過去の話しだから言えるのだろうが、今現在でも似たようなことが起こっていると思った方が正しい認識だろう。
クワバラクワバラ。

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