本の本当のタイトルは『米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方』。
L・デヴィッド・マルケ艦長によるサンタフェ乗船時の試行錯誤の物語である。
以前まとめた『リーダーは最後に食べなさい!』(サイモン・シネック著)に、米海軍 デビッド・マルケ艦長による次の言葉が載っていた。
「委譲できない自分の権限は3つしかない。自分の法的責任、人間関係、知識を委譲することはできない。だが、他のことに関しては全て、部下に責任を持たせることができる。」
この考え方で素晴らしく、また重要なことは、責任の「委譲」はできなくても、「共有」はできるという点だ。
「リーダーの役割は、命令を下すことではない。リーダーは、方針と意図を示せばいい。目標を達成するには、何をどのようにすべきかを、当人に考えさせるのだ」
この引用があって、「委譲出来ない自分の権限」という考えについて深堀したくて読んでみた。(3つ目の「知識」は委譲できる気がする。委譲出来ないものがあるとすると「経験」なのではないかと思って読んでみた)
サンタフェの物語は、潜水艦版『頑張れベアーズ』だ。
ダメ艦との烙印を押されたサンタフェに艦長として乗り込んだマルケ艦長が、実は乗員個々人のやる気と能力がない訳ではない、と看破して、様々な取り組みにより部下に自主的に任務を遂行させるような仕組みを作っていく物語である。
リーダーシップは権限を付与する技術だ。
部下に委ねるリーダーシップの中核には、「誰もがリーダーになれる」という信念がある。
リーダーシップを、限られた人だけが持つ特殊な資質だと思うのは間違いだ。人間なら誰もが持ち合わせている。それを仕事のあらゆる面で発揮させるのだ。
マルケ艦長がサンタフェに乗艦して最初にヒアリングしたのが士官や上等兵曹。
会社で言うと、役員、部長ではなく、課長、係長レベルにヒアリングしたということだ。
彼らの部屋へ出向いていって、彼らの話しを聞いたのち、質問したのは次のような項目。
◯私に変えて欲しくないと思っていることは何か。
◯秘かに私に変えてもらいたいと思っていることは何か。
◯サンタフェの土台とすべき良さは何か。
◯もし私の立場だったら、何から手をつけるか。
◯この艦の業績が上がらない原因は何か。
◯この艦に配属中の個人的に成し遂げたいと思っている目標は何か。
◯職務まっとうの妨げとなっているものは何か。
◯この艦を配備に間に合わせる上で最大の難関となるのは何か。
◯この艦の現状で最も苛立ちを覚えていることは何か。
◯艦長として、私に一番やってもらいたいことはなにか。
新部署に異動した時には使える質問項目だ。
早めにチェックする
◯「岩から遠く離れた所で少し舵を切る方が、岩の近くで何度も舵をきるよりよほど良い」
艦長がチェック段階から関わることを快く思わない者もいた。チェック工程から関わってしまうと、艦長としての公正な判断ができずに、それをダメにして一からやり直すことに抵抗を感じるかもしれない。
◯「早めに短く言葉を交わす」というのは、部下に命令するという意味ではない。一足早く問題解決の進み具合を報告する機会をつくっているのだ。そうすることで、引き続き部下の責任で問題解決にあたってもらえる。それに、そういう機会を通じて、成し遂げたいことを部下にはっきりと理解させることも出来る。
言葉を交わすのは、たいてい30秒ほどで済む。それで何時間もの時間を無駄にせずに済むのだ。
◯委ねるリーダーシップを実現するためには、「〜だと思うのですが」「これは想像ですが〜」「〜の可能性があるかもしれません」、そういうことこそ口にしないといけない。要するに「思っていることを口に出す」ことが大切なのだ。思ったことを口に出すことで、より柔軟な対応ができるようにするのだ。
権限委譲に必要なこと
◯権限を下に委譲するにつれ、あらゆるレベルの乗員に技術的な知識があることが重要になる。技術的な知識がないのに主導権を与えては、混乱が生まれるだけだ。
◯「我々はいつどこでも学ぶ者である」
我々の行動はすべて、この「学ぶ」という基本的なことに一元化できるように思えた。
◯部下や社員が参加したくなる研修をしたいなら、次のことに意識するとよい。
・研修の目的を、研修を受ける者の専門的知識を高めることとする。
・専門的知識が高まった部下や社員に、決定権を委ねる。
・決定権を持つと、自然とその部下や社員の勤勉さ、やる気、自発性が増す。
これらを意識すれば、生産性も士気も効率も、大幅に改善する。
◯権限を下の立場の者に委譲するほど、組織にいる全員が組織の目標を正しく理解していることが重要になる。
この「正しい理解」が「優れた技能」と併せて支配からの開放を実現するのに必要となる2本目の柱である。
「説明」ではなく「確認」を
◯我々は事前の説明をやめた。これからは、説明ではなく「確認」を行う。
◯確認と説明は違う。確認は、責任者が関係者に質問をする。
確認の最後には、これから開始する任務を全うする準備ができているかどうかを判断する。確認中に必要な知識が十分に身に付いていないと分かれば、その任務は延期すべきだ。
◯「準備ができていない」と判断するのは高くつくが、失敗することに比べればマシだ。
◯確認という行為には、参加する者にも事前に準備をするという責任が発生する。つまり全員にとって能動的な行為というわけだ。
説明という受け身の行為から能動的な「確認」に変えたことで、乗員の態度が変わった。質問されると思うと、人は事前に自分が担う責任について勉強するようになるのだ。
(☞学習における「反転授業」の考え方に似ている)
幹部の責任
◯幹部の責任とは、部下に「当事者意識」を芽生えさせることだ。
ビジネスの世界の言葉で表すなら「エンプロイー・エンゲージメント(自分の仕事に熱心に取り組んで組織の利益に貢献する姿勢)の充実を図る」となる。
幹部は、近々完了させないといけない任務に加え、自分が受け持つ部下一人ひとりが担う役割まで把握していないといけない。
マルケ艦長がサンタフェで取り組んだことのまとめは以下の通り。
<艦全体を支える三つの理念>
【支配からの開放】
・支配構造の遺伝子コードを見つけ出して書き換える
・態度を変えることで新しい考え方をもたらす
・早めに短く言葉を交わし、仕事の効率を高める
・「これから〜をします」という言い方を導入し、命令に従うだけだったフォロワーを自発的に行動するリーダーに変える
・解決策を与えたい衝動を抑える
・部下を監視するシステムを排除する
・思っていることを口に出す
【優れた技能】
・直前に確認する
・いつどこでも学ぶ者でいる
・説明するな、確認せよ
・同じメッセージを絶えず繰り返し発信する
・手段ではなく、目標を伝える
【正しい理解】
・ミスをしないだけではダメだ。優れた成果をあげよ。
・信頼を構築し部下をおもいやる
・行動指針を判断の基準にする
・目標をもって始める
・盲目的に従うことなく疑問を持つ姿勢を奨励する
マルケ艦長の自著なので、「委譲出来ない3つの権限」についての記載があるかと思ったら、この本には記載が無かった。
でも「リーダーシップという権限委譲の技術」のノウハウ本としてだけでなく、読み物としても十分楽しめる本であった。
L・デヴィッド・マルケ艦長によるサンタフェ乗船時の試行錯誤の物語である。
以前まとめた『リーダーは最後に食べなさい!』(サイモン・シネック著)に、米海軍 デビッド・マルケ艦長による次の言葉が載っていた。
「委譲できない自分の権限は3つしかない。自分の法的責任、人間関係、知識を委譲することはできない。だが、他のことに関しては全て、部下に責任を持たせることができる。」
この考え方で素晴らしく、また重要なことは、責任の「委譲」はできなくても、「共有」はできるという点だ。
「リーダーの役割は、命令を下すことではない。リーダーは、方針と意図を示せばいい。目標を達成するには、何をどのようにすべきかを、当人に考えさせるのだ」
この引用があって、「委譲出来ない自分の権限」という考えについて深堀したくて読んでみた。(3つ目の「知識」は委譲できる気がする。委譲出来ないものがあるとすると「経験」なのではないかと思って読んでみた)
サンタフェの物語は、潜水艦版『頑張れベアーズ』だ。
ダメ艦との烙印を押されたサンタフェに艦長として乗り込んだマルケ艦長が、実は乗員個々人のやる気と能力がない訳ではない、と看破して、様々な取り組みにより部下に自主的に任務を遂行させるような仕組みを作っていく物語である。
リーダーシップは権限を付与する技術だ。
部下に委ねるリーダーシップの中核には、「誰もがリーダーになれる」という信念がある。
リーダーシップを、限られた人だけが持つ特殊な資質だと思うのは間違いだ。人間なら誰もが持ち合わせている。それを仕事のあらゆる面で発揮させるのだ。
マルケ艦長がサンタフェに乗艦して最初にヒアリングしたのが士官や上等兵曹。
会社で言うと、役員、部長ではなく、課長、係長レベルにヒアリングしたということだ。
彼らの部屋へ出向いていって、彼らの話しを聞いたのち、質問したのは次のような項目。
◯私に変えて欲しくないと思っていることは何か。
◯秘かに私に変えてもらいたいと思っていることは何か。
◯サンタフェの土台とすべき良さは何か。
◯もし私の立場だったら、何から手をつけるか。
◯この艦の業績が上がらない原因は何か。
◯この艦に配属中の個人的に成し遂げたいと思っている目標は何か。
◯職務まっとうの妨げとなっているものは何か。
◯この艦を配備に間に合わせる上で最大の難関となるのは何か。
◯この艦の現状で最も苛立ちを覚えていることは何か。
◯艦長として、私に一番やってもらいたいことはなにか。
新部署に異動した時には使える質問項目だ。
早めにチェックする
◯「岩から遠く離れた所で少し舵を切る方が、岩の近くで何度も舵をきるよりよほど良い」
艦長がチェック段階から関わることを快く思わない者もいた。チェック工程から関わってしまうと、艦長としての公正な判断ができずに、それをダメにして一からやり直すことに抵抗を感じるかもしれない。
◯「早めに短く言葉を交わす」というのは、部下に命令するという意味ではない。一足早く問題解決の進み具合を報告する機会をつくっているのだ。そうすることで、引き続き部下の責任で問題解決にあたってもらえる。それに、そういう機会を通じて、成し遂げたいことを部下にはっきりと理解させることも出来る。
言葉を交わすのは、たいてい30秒ほどで済む。それで何時間もの時間を無駄にせずに済むのだ。
◯委ねるリーダーシップを実現するためには、「〜だと思うのですが」「これは想像ですが〜」「〜の可能性があるかもしれません」、そういうことこそ口にしないといけない。要するに「思っていることを口に出す」ことが大切なのだ。思ったことを口に出すことで、より柔軟な対応ができるようにするのだ。
権限委譲に必要なこと
◯権限を下に委譲するにつれ、あらゆるレベルの乗員に技術的な知識があることが重要になる。技術的な知識がないのに主導権を与えては、混乱が生まれるだけだ。
◯「我々はいつどこでも学ぶ者である」
我々の行動はすべて、この「学ぶ」という基本的なことに一元化できるように思えた。
◯部下や社員が参加したくなる研修をしたいなら、次のことに意識するとよい。
・研修の目的を、研修を受ける者の専門的知識を高めることとする。
・専門的知識が高まった部下や社員に、決定権を委ねる。
・決定権を持つと、自然とその部下や社員の勤勉さ、やる気、自発性が増す。
これらを意識すれば、生産性も士気も効率も、大幅に改善する。
◯権限を下の立場の者に委譲するほど、組織にいる全員が組織の目標を正しく理解していることが重要になる。
この「正しい理解」が「優れた技能」と併せて支配からの開放を実現するのに必要となる2本目の柱である。
「説明」ではなく「確認」を
◯我々は事前の説明をやめた。これからは、説明ではなく「確認」を行う。
◯確認と説明は違う。確認は、責任者が関係者に質問をする。
確認の最後には、これから開始する任務を全うする準備ができているかどうかを判断する。確認中に必要な知識が十分に身に付いていないと分かれば、その任務は延期すべきだ。
◯「準備ができていない」と判断するのは高くつくが、失敗することに比べればマシだ。
◯確認という行為には、参加する者にも事前に準備をするという責任が発生する。つまり全員にとって能動的な行為というわけだ。
説明という受け身の行為から能動的な「確認」に変えたことで、乗員の態度が変わった。質問されると思うと、人は事前に自分が担う責任について勉強するようになるのだ。
(☞学習における「反転授業」の考え方に似ている)
幹部の責任
◯幹部の責任とは、部下に「当事者意識」を芽生えさせることだ。
ビジネスの世界の言葉で表すなら「エンプロイー・エンゲージメント(自分の仕事に熱心に取り組んで組織の利益に貢献する姿勢)の充実を図る」となる。
幹部は、近々完了させないといけない任務に加え、自分が受け持つ部下一人ひとりが担う役割まで把握していないといけない。
マルケ艦長がサンタフェで取り組んだことのまとめは以下の通り。
<艦全体を支える三つの理念>
【支配からの開放】
・支配構造の遺伝子コードを見つけ出して書き換える
・態度を変えることで新しい考え方をもたらす
・早めに短く言葉を交わし、仕事の効率を高める
・「これから〜をします」という言い方を導入し、命令に従うだけだったフォロワーを自発的に行動するリーダーに変える
・解決策を与えたい衝動を抑える
・部下を監視するシステムを排除する
・思っていることを口に出す
【優れた技能】
・直前に確認する
・いつどこでも学ぶ者でいる
・説明するな、確認せよ
・同じメッセージを絶えず繰り返し発信する
・手段ではなく、目標を伝える
【正しい理解】
・ミスをしないだけではダメだ。優れた成果をあげよ。
・信頼を構築し部下をおもいやる
・行動指針を判断の基準にする
・目標をもって始める
・盲目的に従うことなく疑問を持つ姿勢を奨励する
マルケ艦長の自著なので、「委譲出来ない3つの権限」についての記載があるかと思ったら、この本には記載が無かった。
でも「リーダーシップという権限委譲の技術」のノウハウ本としてだけでなく、読み物としても十分楽しめる本であった。
0 件のコメント:
コメントを投稿