どういう訳だか、休日都内に出るのに、電車が来るまでの間に本屋にちょっと寄って、パッと見て決めて購入した本。
なのにスゴい当たりの本で、自分の考え方に非常に近いことが脳科学に基づいて書かれている。
人生という冒険において英雄になるための心構えが書かれている。
In bocca al lupo!(インボッカアルルポ!)
狼の口の中へ、という意味である。
例えば、サッカーで1点先取していながら、1点を取り返された時。
イタリア人は「やっとゲームが始まった」と高揚し、「狼の口の中へ」飛び込んでいくのである。
ゲームもレースも、挑む本人が「失敗した」と感じた瞬間に終わってしまう。人生だって、同じだ。
日本人が「失敗」と呼ぶ事象のほとんどは、「人生をドラマティックにしてくれる、神様の演出」なのである。同じ事象を、「失敗」と呼ぶのと、「やっとドラマが始まった」と思うのでは、天と地ほども違う。
◯「失敗」は、脳の成長のメカニズムの一環で、必要不可欠な頻出イベント。
英雄を冒険に駆り立てるのは、好奇心しかない。
優先順位がしっかりついている脳は、つかみが良くて、勘がいい。だから運がいい。
では、どうしたらそんな脳になれるのだろうか。
実は、日々の暮らしの中で、失敗を繰り返すしかない。
無駄な回路を捨てる、成功への基本エクササイズこそが「失敗」なのだ。
◯脳を進化させるための3つの掟
1.「失敗」は誰のせいにもしない
他人の失敗さえも、自分の糧として脳に書き込めて、後にリスクヘッジに使えるだけでなく、他人の失敗をも、自分の責任の一端として受け止める言葉は、周囲の敬意を自然に集めることになる。
「正しく出力した」からと言って、「正しく伝わる」とは限らない。ベテランとはそれを知る人たちだ。
2.過去の「失敗」にくよくよしない
この行為は、せっかく切り離そうとした失敗回路を、もう一度つないでしまうからだ。
指導者は、ネガティブな若者を放っておいてはいけない。「失敗はたくさんしていい。失敗したら、潔く反省すること。ただし、くよくよと思い返してはいけない」と教えよう。
3.未来の「失敗」におどおどしない
失敗を想定しすぎると、必ず失敗する。
◯幼少時に、「失敗」を回避してもらって生きてきた若者たちは、「失敗」を恐れるから、「失敗」から要領よく逃げる。つまり、周囲の空気を読んで気を遣い、そつなく動く。
◯15歳から28歳までの脳は、世間を知り、生きるコツをつかみ、自分らしさを確立していく「社会的自我の確立期」にあたる。この時期に、どんな色合いの英雄になるかが決まるのである。
ヒトの脳は、生まれて最初の28年間は、著しい「入力装置」である。 特に15歳から28歳までの単純記憶力のピーク時には、脳自体が執拗に世の中のありようを知ろうとしており、勉強をしても、仕事をしても、恋をしても、趣味に没頭しても、なにをしてもがむしゃらになれる時。そうして、30歳の誕生日頃までに、自らの世界観を確立していく。
30歳は、世の中のありようの全てが見通せるようになり、「世の中、こんなもん」と見切ったような気持ちになるとき。確かにそうなのだが、安穏としていられる時間は意外に短い。人生は片時も止まらない。ここから、「自分にしかできない、新しい世界観を生み出す旅」が始まるのだ。
その旅の最初の10年間、すなわち30代は、「失敗」適齢期でもある。
ここからは、要らない回路への電気信号を減衰させ、重要な回路に何度も電気信号を流すことによって、脳の個性を創りあげていく28年間だ。その前半の10年間が30代にあたる。 洗練のための28年の果て、56歳からの28年間は、脳が最大の出力性能を示すようになる。本質を瞬時に見抜き、勝ち手しか見えない脳になる。なにせ、余分なものが見えないから、悩みが少なくて助かる。
◯失敗を怖れないことと、勝ちに行かないことは大きく違う。
「納得のいく仕上がりでないのに、勝負に挑まなければいけないこと」は、誰にでもやってくる。そんな時は、全体で勝たなくてもいい。自分の「今日の勝負どころ」を決めて、その勝負に挑むことだ。
全体にあきらめたまま、漫然と負け試合をしてしまったら、脳は失敗だと自覚してくれない。
「失敗」を怖れない。そして勝負は投げない。
この二つを守れれば、驚くほど遠くへ、驚くほど高くへ行けることになる。
起きている間、脳は、認知や思考や、その結果の出力に忙しくて、新しい知識の整合性を確かめ、回路に定着させる暇などないからだ。しかし、脳の持ち主が眠ると、意識領域の信号が沈静化し、表立った仕事がなくなる。そうなると、やっと脳は手が空いて、新しい知へと触手を伸ばすのだ。
具体的には、起きている間の体験を何度も再生して、そこから知識や知恵を切り出す。過去の知識と引き比べて精査し、知識ベース全体の質も見直す。古い知識と統合して抽象化し、センスもつくり出す。
つまり、頭は眠っている間に進化するのである。
◯眠りの質をあげるためには、「闇の中で寝て、朝日と共に起きる」こと。
真夜中の電子画面の凝視は、脳と心と身体に大きなダメージを与える。
電子画面の光は、自然界にない特性を持っているため、視神経を通して脳を無駄に刺激する。本来なら闇の中にいるべき時刻に、網膜(目)が不自然な光にさらされると、自律神経が乱れ、眠りの質が劣化し、明日の記憶力や発想力が削がれ、男として(女として)の魅力も減衰する。
なぜなら、視神経の後ろには自律神経を司る視床下部があり、それに隣接して、さまざまなホルモンの分泌を担当している脳下垂体があるからだ。これらは、夜のうちに働いて、脳神経系の進化を促すと共に、皮膚や骨や筋肉の新陳代謝を促し、生殖ホルモンの分泌も促す。 男性ホルモン、テストステロン(女性ホルモンはエストロゲン)は、身体と生殖行為における男らしさをつくり出すホルモンだが、「闇の中で寝て、朝日とともに起き、一日の尾張に適度な肉体疲労がある」と、毎日明け方頃に自然に分泌すると言われている。
超一流の場所で成果を出すための、絶対条件である。
自分を信じるためには、「どのような窮地に立たされても、必ず打開策を見いだせる。その策にたとえ失敗しても、次への知恵に変える機知が自分にはある」と思える状況を、自らの脳につくり出すこと。
◯この境地に達するために必要なのは、基礎力と戦略力だ。 基礎力を淡々と鍛えることは、当然抜きにはできない。
そして、戦略力こそ、失敗なしには鍛えられないのである。失敗を乗り越えた数だけ、機知の回路ができあがる。
上手にエリートになってしまって、機知の回路が少ないまま人の上に立つものは脆弱だ。◯自分を信じろ。その言葉は、躍進が止まって頭打ち状態だった錦織圭に、新任コーチのマイケル・チャンが繰り返し言い続けた言葉でもある。
テニスでは、ピンチの時に前に出る勇気が、チャンスの時にあえて下がる度量が試されるという。
◯「反射神経上の予想外」こそがきみを英雄にする。
◯左脳は顕在意識と直結して、言葉や数字を操り、現実的な問題解決を行う領域。
右脳は潜在意識の領域を主に担当し、外界の様々な情報を、脳の持ち主も知らないうちに収集し、イメージを創生し、世界観を構築する場所。
この2つの半球をつなぐのが、脳梁と呼ばれる神経繊維の束だ。
脳梁は、右脳がつくり出すイメージを記号化して、顕在意識にあげる。「感じたことを顕在意識に知らせる通路」 女性脳は、脳梁を行き来する信号が豊富で、男性脳の数十倍から数百倍と言われる。女性脳は男性脳に対し、脳梁が20%ほども太く生まれついている。
◯一方で、脳内に豊かな世界観を創り上げるには、ある程度、右左脳連携を寸断して、右脳や左脳の隅々にまで信号を行き渡らせる必要がある。
右脳が、その豊かな世界観を創生するには、感じたことを言葉や記号にしないまま、ぼんやりとする時間が必要不可欠だ。
さらに、その裏側で、左脳の隅々にまで信号が行き渡ると、世界観が理念になっていく。このとき、脳梁を介する右左脳連携信号はほとんど起こらない。というか、そこに電気信号を使う余裕がない。
この状態のとき、すなわち、世界観を創生し、理念を創りあげている時間、脳の持ち主はただただぼんやりして見える。
天才と呼ばれる人たちは、家庭の中で使い物にならず、ただの愚図だと思われていることが多いのである。男女関係では、相手のことをあまり見ていないので、愛情や誠意を疑われるタイプだ。
脳梁が細い男性脳は、基本、この天才脳型なのである。
◯おしゃべりをしながら、周りの変化を察して動く現実対応型の脳と、現実世界とはまた別の世界観を作り出す未来創生型の脳。この2つがなければこの世は動かない。 現実対応脳と未来創生脳のハイブリッドこそが、英雄脳なのである。
それは、右脳のイメージにあるものを、左脳の顕在意識に持って来て恣意的な出力に変えること。その最たる訓練が、ダンスやスポーツ、芸術や「術」「道」と呼ばれるものを嗜むこと。
もう一つ、徹底した「他人思い」の癖をつけることだ。
◯ヒトは、自らを滅して、徹底して他人を思うとき、右左脳連携が激しくなる。他人の思いや事情をイメージ化し、顕在意識につなげるからだ。
◯徹底した他人思いと、他人の思惑を気にすることは180度違う。「他人の思惑を気にする人」は、結局の所、ただの「自分思い」なのだ。
◯人に嫌われても、信じることを言い切る力。それは、他人思いの者しか持ち得ない。
◯徹底した他人思いが、直観を鋭くする。孤高の時間を持ち、右左脳連携エクササイズの趣味を持ち、徹底した他人思いになり、好きでたまらないものを見つける。
◯誰かを案じる時、ヒトは免疫力が高くなる。
2010年、チリで起きた落盤事故。33人の作業員が地下600mに69日間も閉じ込められ、全員が生還した。地下の狭く暗い空間で、いつつぶれるかも分からない恐怖心と共に、33人が引きめき合って過ごすストレスは半端じゃない。心疾患で死ぬものがあってもおかしくないし、重篤な神経症が発生してもおかしくない事態だった。
注目すべきは、33人がお互いを見守りながら過ごしていたことだ。
33人は、11人ごとに3グループに分けられた。グループは3つの仕事を交代で順繰りにこなしていった。
「休憩(睡眠)」「活動(身体を動かしたり、食べたりする)」「見守り(他者を見守り、変化があれば声をかけ、話しを聞いてやる)」の3つである。
この3つめの「見守り」が秀逸であったと、NASAの危機管理の専門家は言う。
人は自分の不安と向き合うと耐えられない事態でも、他者を案じていれば強くなれる。免疫力が上がる。危機にある時ほど、他者を思うべきなのだと。
◯世の母が強いのは、自分より子供のことを案じて生きているからだ。 大切な誰かを守ること。それ以上の使命感はない。
そもそも使命とは、自分のためじゃなく、誰かのために何かを成し得る覚悟。自己犠牲をも厭わない気持ちのことだ。英雄達に不可欠のセンスである。
面白かったのが、写真家の白川由紀さんのいう「リーダーの条件」。
彼女は若き日にアフリカ大陸で各地を放浪し、様々な集落で晩餐に招かれたのだと言う。
「どの集落にもリーダーがいる。ある集落では長老だったり、別の集落では若かったり。身体が大きかったり、いっそ小さかったり。着飾っていたり、いっそ質素だったり。
一見なんの類型もないように思えるのに、不思議と私は、紹介される前にリーダーがわかった。そしてそれは外れることはなかった。
それは、その人が入ってくると、その場の人が嬉しそうな笑顔になるから。
人を笑顔にする力。
それがリーダーの条件じゃないかと思う。」
幸せだから笑顔になるのだろうが、笑顔でいるから、さらなる幸運も呼ぶ。
使命をもって、道をゆく人は、自然に人の先頭に立つことになる。
リーダーとして最も楽な手段は、常に嬉しげな表情でいることだ。
語りかけるような文調で書かれている、子供達にも読ませたい本だ。
なのにスゴい当たりの本で、自分の考え方に非常に近いことが脳科学に基づいて書かれている。
人生という冒険において英雄になるための心構えが書かれている。
失敗
◯イタリア人は、試合や試験に挑む人へ、こう声をかけるのだそうだ。In bocca al lupo!(インボッカアルルポ!)
狼の口の中へ、という意味である。
例えば、サッカーで1点先取していながら、1点を取り返された時。
イタリア人は「やっとゲームが始まった」と高揚し、「狼の口の中へ」飛び込んでいくのである。
ゲームもレースも、挑む本人が「失敗した」と感じた瞬間に終わってしまう。人生だって、同じだ。
日本人が「失敗」と呼ぶ事象のほとんどは、「人生をドラマティックにしてくれる、神様の演出」なのである。同じ事象を、「失敗」と呼ぶのと、「やっとドラマが始まった」と思うのでは、天と地ほども違う。
◯「失敗」は、脳の成長のメカニズムの一環で、必要不可欠な頻出イベント。
英雄を冒険に駆り立てるのは、好奇心しかない。
優先順位がしっかりついている脳は、つかみが良くて、勘がいい。だから運がいい。
では、どうしたらそんな脳になれるのだろうか。
実は、日々の暮らしの中で、失敗を繰り返すしかない。
無駄な回路を捨てる、成功への基本エクササイズこそが「失敗」なのだ。
◯脳を進化させるための3つの掟
1.「失敗」は誰のせいにもしない
他人の失敗さえも、自分の糧として脳に書き込めて、後にリスクヘッジに使えるだけでなく、他人の失敗をも、自分の責任の一端として受け止める言葉は、周囲の敬意を自然に集めることになる。
「正しく出力した」からと言って、「正しく伝わる」とは限らない。ベテランとはそれを知る人たちだ。
2.過去の「失敗」にくよくよしない
この行為は、せっかく切り離そうとした失敗回路を、もう一度つないでしまうからだ。
指導者は、ネガティブな若者を放っておいてはいけない。「失敗はたくさんしていい。失敗したら、潔く反省すること。ただし、くよくよと思い返してはいけない」と教えよう。
3.未来の「失敗」におどおどしない
失敗を想定しすぎると、必ず失敗する。
◯幼少時に、「失敗」を回避してもらって生きてきた若者たちは、「失敗」を恐れるから、「失敗」から要領よく逃げる。つまり、周囲の空気を読んで気を遣い、そつなく動く。
◯15歳から28歳までの脳は、世間を知り、生きるコツをつかみ、自分らしさを確立していく「社会的自我の確立期」にあたる。この時期に、どんな色合いの英雄になるかが決まるのである。
ヒトの脳は、生まれて最初の28年間は、著しい「入力装置」である。 特に15歳から28歳までの単純記憶力のピーク時には、脳自体が執拗に世の中のありようを知ろうとしており、勉強をしても、仕事をしても、恋をしても、趣味に没頭しても、なにをしてもがむしゃらになれる時。そうして、30歳の誕生日頃までに、自らの世界観を確立していく。
30歳は、世の中のありようの全てが見通せるようになり、「世の中、こんなもん」と見切ったような気持ちになるとき。確かにそうなのだが、安穏としていられる時間は意外に短い。人生は片時も止まらない。ここから、「自分にしかできない、新しい世界観を生み出す旅」が始まるのだ。
その旅の最初の10年間、すなわち30代は、「失敗」適齢期でもある。
ここからは、要らない回路への電気信号を減衰させ、重要な回路に何度も電気信号を流すことによって、脳の個性を創りあげていく28年間だ。その前半の10年間が30代にあたる。 洗練のための28年の果て、56歳からの28年間は、脳が最大の出力性能を示すようになる。本質を瞬時に見抜き、勝ち手しか見えない脳になる。なにせ、余分なものが見えないから、悩みが少なくて助かる。
◯失敗を怖れないことと、勝ちに行かないことは大きく違う。
「納得のいく仕上がりでないのに、勝負に挑まなければいけないこと」は、誰にでもやってくる。そんな時は、全体で勝たなくてもいい。自分の「今日の勝負どころ」を決めて、その勝負に挑むことだ。
全体にあきらめたまま、漫然と負け試合をしてしまったら、脳は失敗だと自覚してくれない。
「失敗」を怖れない。そして勝負は投げない。
この二つを守れれば、驚くほど遠くへ、驚くほど高くへ行けることになる。
眠り
◯脳は持ち主が眠っている間に進化する。起きている間、脳は、認知や思考や、その結果の出力に忙しくて、新しい知識の整合性を確かめ、回路に定着させる暇などないからだ。しかし、脳の持ち主が眠ると、意識領域の信号が沈静化し、表立った仕事がなくなる。そうなると、やっと脳は手が空いて、新しい知へと触手を伸ばすのだ。
具体的には、起きている間の体験を何度も再生して、そこから知識や知恵を切り出す。過去の知識と引き比べて精査し、知識ベース全体の質も見直す。古い知識と統合して抽象化し、センスもつくり出す。
つまり、頭は眠っている間に進化するのである。
◯眠りの質をあげるためには、「闇の中で寝て、朝日と共に起きる」こと。
真夜中の電子画面の凝視は、脳と心と身体に大きなダメージを与える。
電子画面の光は、自然界にない特性を持っているため、視神経を通して脳を無駄に刺激する。本来なら闇の中にいるべき時刻に、網膜(目)が不自然な光にさらされると、自律神経が乱れ、眠りの質が劣化し、明日の記憶力や発想力が削がれ、男として(女として)の魅力も減衰する。
なぜなら、視神経の後ろには自律神経を司る視床下部があり、それに隣接して、さまざまなホルモンの分泌を担当している脳下垂体があるからだ。これらは、夜のうちに働いて、脳神経系の進化を促すと共に、皮膚や骨や筋肉の新陳代謝を促し、生殖ホルモンの分泌も促す。 男性ホルモン、テストステロン(女性ホルモンはエストロゲン)は、身体と生殖行為における男らしさをつくり出すホルモンだが、「闇の中で寝て、朝日とともに起き、一日の尾張に適度な肉体疲労がある」と、毎日明け方頃に自然に分泌すると言われている。
自分を信じる
◯自分を信じること。超一流の場所で成果を出すための、絶対条件である。
自分を信じるためには、「どのような窮地に立たされても、必ず打開策を見いだせる。その策にたとえ失敗しても、次への知恵に変える機知が自分にはある」と思える状況を、自らの脳につくり出すこと。
◯この境地に達するために必要なのは、基礎力と戦略力だ。 基礎力を淡々と鍛えることは、当然抜きにはできない。
そして、戦略力こそ、失敗なしには鍛えられないのである。失敗を乗り越えた数だけ、機知の回路ができあがる。
上手にエリートになってしまって、機知の回路が少ないまま人の上に立つものは脆弱だ。◯自分を信じろ。その言葉は、躍進が止まって頭打ち状態だった錦織圭に、新任コーチのマイケル・チャンが繰り返し言い続けた言葉でもある。
テニスでは、ピンチの時に前に出る勇気が、チャンスの時にあえて下がる度量が試されるという。
◯「反射神経上の予想外」こそがきみを英雄にする。
孤高
◯人は社会的動物で、厳密には他人と連携しなければ生きていけない。しかし、一方で、脳は「孤」の時間を持たないと、世界観がつくれない。◯左脳は顕在意識と直結して、言葉や数字を操り、現実的な問題解決を行う領域。
右脳は潜在意識の領域を主に担当し、外界の様々な情報を、脳の持ち主も知らないうちに収集し、イメージを創生し、世界観を構築する場所。
この2つの半球をつなぐのが、脳梁と呼ばれる神経繊維の束だ。
脳梁は、右脳がつくり出すイメージを記号化して、顕在意識にあげる。「感じたことを顕在意識に知らせる通路」 女性脳は、脳梁を行き来する信号が豊富で、男性脳の数十倍から数百倍と言われる。女性脳は男性脳に対し、脳梁が20%ほども太く生まれついている。
◯一方で、脳内に豊かな世界観を創り上げるには、ある程度、右左脳連携を寸断して、右脳や左脳の隅々にまで信号を行き渡らせる必要がある。
右脳が、その豊かな世界観を創生するには、感じたことを言葉や記号にしないまま、ぼんやりとする時間が必要不可欠だ。
さらに、その裏側で、左脳の隅々にまで信号が行き渡ると、世界観が理念になっていく。このとき、脳梁を介する右左脳連携信号はほとんど起こらない。というか、そこに電気信号を使う余裕がない。
この状態のとき、すなわち、世界観を創生し、理念を創りあげている時間、脳の持ち主はただただぼんやりして見える。
天才と呼ばれる人たちは、家庭の中で使い物にならず、ただの愚図だと思われていることが多いのである。男女関係では、相手のことをあまり見ていないので、愛情や誠意を疑われるタイプだ。
脳梁が細い男性脳は、基本、この天才脳型なのである。
◯おしゃべりをしながら、周りの変化を察して動く現実対応型の脳と、現実世界とはまた別の世界観を作り出す未来創生型の脳。この2つがなければこの世は動かない。 現実対応脳と未来創生脳のハイブリッドこそが、英雄脳なのである。
他人思い
◯孤高の時間をもち、独自の世界観を創る脳に変えたら、次は直感力。直感力を鍛えるためには、右左脳連携信号をとっさに強く行うエクササイズが大事だ。それは、右脳のイメージにあるものを、左脳の顕在意識に持って来て恣意的な出力に変えること。その最たる訓練が、ダンスやスポーツ、芸術や「術」「道」と呼ばれるものを嗜むこと。
もう一つ、徹底した「他人思い」の癖をつけることだ。
◯ヒトは、自らを滅して、徹底して他人を思うとき、右左脳連携が激しくなる。他人の思いや事情をイメージ化し、顕在意識につなげるからだ。
◯徹底した他人思いと、他人の思惑を気にすることは180度違う。「他人の思惑を気にする人」は、結局の所、ただの「自分思い」なのだ。
◯人に嫌われても、信じることを言い切る力。それは、他人思いの者しか持ち得ない。
◯徹底した他人思いが、直観を鋭くする。孤高の時間を持ち、右左脳連携エクササイズの趣味を持ち、徹底した他人思いになり、好きでたまらないものを見つける。
◯誰かを案じる時、ヒトは免疫力が高くなる。
2010年、チリで起きた落盤事故。33人の作業員が地下600mに69日間も閉じ込められ、全員が生還した。地下の狭く暗い空間で、いつつぶれるかも分からない恐怖心と共に、33人が引きめき合って過ごすストレスは半端じゃない。心疾患で死ぬものがあってもおかしくないし、重篤な神経症が発生してもおかしくない事態だった。
注目すべきは、33人がお互いを見守りながら過ごしていたことだ。
33人は、11人ごとに3グループに分けられた。グループは3つの仕事を交代で順繰りにこなしていった。
「休憩(睡眠)」「活動(身体を動かしたり、食べたりする)」「見守り(他者を見守り、変化があれば声をかけ、話しを聞いてやる)」の3つである。
この3つめの「見守り」が秀逸であったと、NASAの危機管理の専門家は言う。
人は自分の不安と向き合うと耐えられない事態でも、他者を案じていれば強くなれる。免疫力が上がる。危機にある時ほど、他者を思うべきなのだと。
◯世の母が強いのは、自分より子供のことを案じて生きているからだ。 大切な誰かを守ること。それ以上の使命感はない。
そもそも使命とは、自分のためじゃなく、誰かのために何かを成し得る覚悟。自己犠牲をも厭わない気持ちのことだ。英雄達に不可欠のセンスである。
面白かったのが、写真家の白川由紀さんのいう「リーダーの条件」。
彼女は若き日にアフリカ大陸で各地を放浪し、様々な集落で晩餐に招かれたのだと言う。
「どの集落にもリーダーがいる。ある集落では長老だったり、別の集落では若かったり。身体が大きかったり、いっそ小さかったり。着飾っていたり、いっそ質素だったり。
一見なんの類型もないように思えるのに、不思議と私は、紹介される前にリーダーがわかった。そしてそれは外れることはなかった。
それは、その人が入ってくると、その場の人が嬉しそうな笑顔になるから。
人を笑顔にする力。
それがリーダーの条件じゃないかと思う。」
幸せだから笑顔になるのだろうが、笑顔でいるから、さらなる幸運も呼ぶ。
使命をもって、道をゆく人は、自然に人の先頭に立つことになる。
リーダーとして最も楽な手段は、常に嬉しげな表情でいることだ。
語りかけるような文調で書かれている、子供達にも読ませたい本だ。
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