2018年4月22日日曜日

第9回子供学カフェ

同志社女子大 教育学の上田信行先生が、建築家の小堀哲夫さんと一緒に講演会をやるというので行ってきた。


講演会といっても、トーク、アクト、リフレクトの三部の構成。
一方的な講演会ではないあたりが上田先生っぽい。

<トーク>

まずは上田先生のトークということで始まる。
実は用意していたスライドのファイルが消えてしまったという大ハプニングがあったのだが、焦りながらも(とおっしゃりながらも余裕に見えたが)必要なスライドを出しながら、まさにトークでカバー。
上田先生が50年近くも前から携わっているセサミストリートのformative researchについてお話を聞く。

その頃はまだ「TVで教育?」てな感じで、映像による教育は「視聴覚教育」が認知され始めたくらいだったとのこと。
その時代の教育番組の評価・分析は「番組を見た後にどれだけ成果(子どもの学力の伸び)があったか」をいうことを確認する調査だったのだが、セサミストリートでやっていたのは、プログラムそのものを評価したという点が新しかった。
プロダクションはもちろん、コンテンツ、そしてリサーチの専門家が集まり、三位一体となって番組を作り上げていった。
具体的には7.5秒ずつ区切って、子供の"attention"を評価基準にして、プログラム(コンテンツ)を評価した。
(この7.5秒というのは、昔あったカルーセルという機械の映写のタイミングが7.5秒おきだったことによるらしい)
そしてそのコンテンツを『マガジンフォーマット』(要は雑誌を作るのと同じように、色々なテーマを組み合わせていく手法)で、様々なコンテンツを編集することで番組を作っていった。

その頃のアメリカは貧困が学力低下を呼び、その低学力がまた貧困を呼ぶという負のスパイラルに入っていて、テレビ(しかも白黒)というものを使って、小学校に上がる前にいかに子供達の学力の底上げを図るかということが社会の大きな課題であった。
そのためには、(視聴覚教育コンテンツのように見てもらえる前提で番組を作るのではなく)まず子供達に興味を持って見てもらうためにはどうしたら良いのか、というところから入っていく必要があったのだという。

<アクト>

その次にアクトということで、チームに分かれてレゴを使ったタワーチャレンジ。
その前に、二人組で ”I'm on you!!” と叫び合ったり、手を叩いた後、「クリス、クロス、ハッ!!」と謎の掛け声で気合を入れたりするパフォーマンスを全員でやってアイスブレイク。
いい歳とった人たちが上田先生の”指導”のもと、ノリノリでパフォームしているのは端で見たらきっと狂信的な新興宗教のようであったろう。

続いてタワーチャレンジ本番。
まずはチームで何の事前相談もなく、積み上げる。
どのチームもせいぜい人の背の高さくらいまで。それでもチームごとにはちょっとずつ工夫が見られる。
上田先生はそれらを見ながら、「もっと天井まで目指してくださいね〜」なんて言っている。
次は、チームで戦略を練って、役割分担をする時間を取って行う。
上田先生はまた「土台をしっかりするのと、上に積み上げるのと、相反するものをどうバランスさせるか、その辺もポイントです。よく話しあってくださいね〜」
などといって再チャレンジ。
すると今回はなんと天井まで届くチームが出た!

このチャレンジ、ミハイ・チクセントミハイの”フロー”の状態を実感するのには非常にいいプログラムだと思っていたが、戦略の共有(チームで協働する)とビジョンの共有(天井まで届かせる)ということの重要性にも気がつくプログラムである。

その後の理論編の話によると、このタワーチャレンジはレゴでやることに意義があって、このタワー、必ずどこかで何回も倒れる。
その際にも、落ち込んでいる時間はなく、すぐに倒れたタワーを修復し始め上を目指す。
この行為は"resilience"を学ぶことにもつながるのだそうだ。

天井まで届いたレゴタワー!
戦略の共有と、天井まで届かせようというビジョンの力。


その後小堀哲夫先生の学びの環境に関する講義があった。
「空間、道具、人、活動」のデザインが重要という話を聞きつつ、柏の葉のプロジェクトを懐かしく思い出した。
小堀先生は梅光学院大学のユニークな建物を設計、建築中とのこと。
・廊下のない校舎
・個室のない校舎
・シラバスと空間の関係について、関係者を集めてワークショップを行いながら設計
など、ユニークな手法での設計を行ったとのこと。
空間とその中で行われる活動について、行ったり来たりして設計していく手法を”Tinkering"と述べておられた。

上田先生とのやりとりでは、上田先生は上記のうち「空間」が非常に重要だとおっしゃるのに対し、小堀先生は「人」(上田先生のような”変態”が重要、という言い方でもあったが(笑い))が重要だという意見。
お互いにないものを重要だと思っているという点が面白い。

学びには「ワクワクとドキドキが両方(両立)が必要」とのこと。
本来、ドキドキ(risky:不安と恐怖)とワクワク(playful:期待と喜び)は相反するものだが、どちらかだけでは”学び”につながらない、ということをおっしゃっていた。
その際、自分は設計者で、ちゃんとした建物を色々な事業の制約の中で建てなければならないので不安やプレッシャーがある。その不安の中でワクワクすることで学びにつながっていく、という内容を話をしていて、事業をする身としては非常に共感を覚えた。
上田先生がよく
「playfulは真剣でなければならない」「engagementが必要」
とおっしゃるのは、その不安、恐怖、制約の中で真剣に関わり、楽しむことを両立させる、ということなのだと理解している。

また小堀先生がおっしゃっていて面白かったのは、
「今は”時短”が叫ばれているが、本来はcreativityを上げるため、speed up のための時短時間の制約が生まれることで、よりcriativeになる。そこが勘違いされていて、ただ時間が短ければ良い、という風に間違って解釈されている」
という話をされていたのが印象的だった。

これにかぶせて上田先生が「criation していなければ creative ではない」
とおっしゃっていて、これがMITの「demonstrate or die」の発想につながるのだと思った。


梅光学院大学の校舎の模型を見ながら説明する小堀先生
来年3月には竣工予定らしい。


最後の振り返りの部分も上田先生の話が多かったが、もっと話を聞きたかった位だったので非常に勉強になった。

キャロル・ドゥエックの”The Spirit of Yet"の話が面白かった。
今、mindsetの話が話題となることが多いが、これはコンピューターでいうとOSの部分、人が行動するにあたり基本となる姿勢(attitude)のこと。
”The Spirit of Yet"では、できない(can not)のではなく、まだできていない(not yet)ということで、「できない」という思考停止となるような発想に立たない、ということ。
まだできていない、だったらどうしていけばいいのか、という発想につながる。
"playful"というのはこの"attitude"なんです、という上田先生。

自らのポートレイトをジョン・レノンと重ねて"yet"という姿は、刺激に満ちている。
相変わらず、登場して話をするだけで場の雰囲気を一変させるパワーをお持ちだった。


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