2012年4月22日日曜日

『2022ーこれから10年、活躍できる人の条件』

神田昌典先生の新刊。
神田さん、最近本を書かないと思っていたら、実は癌を克服するという偉業を成し遂げていた。
内容は癌の克服の話しが本論ではなく、これから明治維新、太平洋戦争敗戦並みのパラダイムシフトが起こり、今までの常識が全く役に立たなくなる世の中がやってくる、という啓発本。
普通の人が書いたら「またまた、そんなこと言っちゃって」となるところ、神田さんが書くと信憑性があるから不思議だ。
神田さんの根拠は70年周期説なのだが、これは神田さんが自ら種明かしをしているように60年でも84年でもそれらしき周期になるらしい。
でも、それは何年であっても大差はない。ここ数年でパラダイムシフトが起こり、価値観の180度転換が行われるということだ。
何となく「あるかも」と思わせる点は、昨今の世の中の閉塞感であろう。このまま更に圧迫されるとどこかで弾けるような気がする。その「弾け」がパラダイムシフトにつながるのではないか。

ジャレド・ダイアモンド教授が『文明崩壊』という著書で「存続した文明」と「崩壊した文明」の違いは何かを著している。
それは、歴史が大きなターニングポイントに差し掛かったときに、「引き継ぐべき価値観」と「捨てるべき価値観」を見極められたかどうか、らしい。
パラダイムシフトが迫っているとすると、我々日本人は「引き継ぐべき価値観」と「捨てるべき価値観」を見極められるのだろうか。


過去に日本人は、どう時代の転換期を乗り越えたのか。
一つ目の方法は、戦争。太平洋戦争の時には人口7200万人中、300万人が犠牲となった。
このように「強制的リセット」がかけられるまで暴走を続けるのが、組織寿命の末期の典型的な症状だ。
旧来の価値観によって築かれたシステムを,新しい価値観に基づくシステムに切り替えることは、そもそも組織が成立している収益基盤(=権益)を失うことである。つまり組織にとっては自殺行為となるから、旧来の価値観と食い違う分子を徹底的に退ける。
ど ちらも国や組織のことを真剣に思い、使命感をもっているからこそ、足を引っ張り合い、全ての変化を先延ばしにしていく。そのプロセスでは、最も能力があり 献身的な変革者が、最も批判され軽蔑された挙げ句、首をすげ替えられる。その繰り返しを、組織は財政的に破綻するまで続ける。その結果外部にコントロール を奪われ、強制的にリセットされる。

もうひとつの方法。
明治維新では戊辰戦争のとき総死者約1万3千人。西南戦争のとき1万2千人。
フランス革命、ロシア革命がそれぞれ死者200万人以上、アメリカ・南北戦争の死者62万人ということを考えると比較にならないほど静かな革命だった。
これは「おかげまいり」という祭りを利用すればいいと考えた黒幕がいたのではないか。(神田さんによる推測)
「おかげまいり」は60年毎に行われた、伊勢神宮へ参拝しにいく風習。
1830年、文政の「おかげまいり」では当時の人口3200万人のうち、500万人が参拝した。
なんと6人に1人が日本国中から伊勢神宮に終結。江戸から片道15日かかることを考えると、まさに60年毎の民族大移動。
「ええじゃないか」この大狂乱は1867年8月から始まり、12月に王政復古がなされると急速に収束した。本来60年毎に行われていた「おかげまいり」が37年しか経たずに始まったので「ええじゃないか」は作為的であったといわれている。
破壊がないと創造なされないと考えてしまうが、実際には破壊は必要ない。
破壊は、古い価値観に基づくシステムや習慣を手放さないから必然となる。
変化のタイミングが来たことに気づいて、自ら手放せば、破壊は必要ない。
破壊は必然ではなく、選択である。


「祭り」に関しては神田さんは具体的なアイデアを出している。防災に関する転換の仕方である。
一般的に、防災は資金がかかり、利益を生まない。
「祭り」は、「資金がかかり、利益を生まない防災」を「資金がかからず、利益を生む活動」に変えることができるのではないか、というもの。

神田さんはこの本で色々なことを予言しているのだが、その一つに2024年頃に「会社」というものがなくなる、というものがある。
何故か。すでに「会社」に壁があるからだそうだ。その3つの壁とは
①会社では社員が育たない。
社員が育つ前に、事業が歳をとってしまう。(今や事業の寿命は6年とさえいわれている)
6 年で導入期→成長期→成熟期と分けるとそれぞれ2年。人を多く採用し始める成長期が2年間しか続かないとすると、人を育てている時間がない。結局、事業を 立ち上げた人が全部仕事をして、あとの人は手足のように振り回されておしまい。中間管理職は必要なく、ブレーン(頭脳)+オペレーター(手足)の集団に会 社はなりがち。
優秀な社員は、人が育つ必要のない仕組みをITを使って作り上げる。
②会社では、無から有を生み出す経験が積めない
事業のライフサイクルが短くなってくると、長期にわたるライフサイクルの長い事業を優先する、大企業にいるビジネスパーソンは事業立ち上げの経験が積みにくくなる。
大事業になる見込みがなければ参入しないというのは賢く聞こえる。しかし現実には、ライフサイクルが短い事業に参入することにより、初めて大きな事業の糸口を見つけることが出来る。
③一部の仕事をしている社員が抜けると、会社には何も残らない
事業立ち上げ経験を通じて、手足ではなく、頭として活躍できるようになった社員は、その気になれば、いつでもフリーエージェントとして働くことができる。
以前であれば、会社に属すことで影響力を持てた。有能な人材と仕事ができた。給与が増えた。会社に行かなければ仕事にならなかった。
今、唯一、会社が提供できることは経験となった。いまや、経験は有能なビジネスパーソンにとって、お金よりも価値をもつ。

実は、神田さんだけでなく、ピーター・ドラッカーも、2002年『ネクスト・ソサエティ』で、「NPOが社会の中核的組織になっていく」と予言していたらしい。
自らを成長させる手法として、神田さんは「読書会」を勧めている。
<読書会がもたらす4つの成長ステージ
Information:個人にフォーカス。個人能力、スキルアップ

Interformation:身近なチーム、自分で自分を知る

Exformation:自分の世界を外に創り始める

Transformation:それぞれが世界観を持っている人とつながる

江戸時代末期、松下村塾、適塾以外にも名前を挙げられるだけで70を超える私塾が全国で開催されていた。その私塾で何が行われていたかというと、まさに読書会だ。
松蔭曰く、「顧ふ(おもふ)に人読まず。即し(もし)読むとも行わず」
松陰先生は幕末に「本を読まない奴が多いし、読んでも実行しやしない」 とぼやきながら私塾で教えていたということだ。


神田さんは、現在の組織が硬直する理由についても分かりやすく理論化している。
<組織が硬直する理由>
Efficiency:経営の効率性
Hospitality/Intimacy:顧客との親近感
Innovation:商品/サービスの革新性
会社の競争力を作る文化は大きく分けて3つある。そしてこの3つの文化は互いに衝突することが多い。
いままでの経営の常識では、全て強化しなければならないと考えられていた。
これが辛うじて可能だったのは、衝突し合う文化を背景に持った人々が、お互い調和するための十分な時間があったから。
現 在は、終身雇用が崩れ、共同体意識が薄れた。対面ではなくネット上での文面でのコミュニケーションが多くなったために、異なる価値観を持った人同士は、何 度メールをやり取りしても理解できない。それぞれ自分の価値観に基づき、会社のために頑張ろうとすればするほど感情がもつれ、爆発するのは時間の問題。

実は、この3つの文化。まさに我が社のインナースローガンに重なるので、ちょっとびっくり。
クロネコヤマトの小倉昌男さんが、「経営とは優先順位付け。利益も安全もなどと言っているうちは経営者としては二流である」 と喝破していた。
確かに3つとも目指すのかも知れないが、いずれ相反する場面が出てくる。その時に現在は「これを優先しろ」ということが明確だと、社員は3つの歯車のうち、会社としてどこから回し始めるのか悩むことなく実践することができる。
神田さん曰く、2012年よりはっきり時流が変わり、「経営の効率性」から「顧客との親近感」が求められる市場に変わってくる、とのこと。


「デフレの正体」で藻谷浩介さんも述べているように、これからの日本は労働者人口が減り、国内の産業衰退は避けられない、というのが通常の見立てである。
神田さんはその人口論信奉者でありながら、日本は10年後アジアの盟主としてアジアを引っ張っているはずだ、と明るい予言もしてくれている。
それが贔屓目ならぬ祈りの要素が入っているとしても、それを信じて自分のできることを最大限実践していきたいと思わせる良書であった。

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