2013年4月29日月曜日

『Repeatability 再現可能な不朽のビジネスモデル』

ベイン・アンド・カンパニーの戦略プラクティスグループが、様々な企業の業績を長年研究してきた結果として「再現可能な不朽のビジネスモデル」には3つの設計原則がある、ということを発見した、という内容。
Simplicity ではないが、「複雑化は成長戦略のサイレントキラー」ということで、この手のコンサル本の中では言っていることがシンプルで分かりやすい。



「再現可能な不朽のビジネルモデル」の設計原則
[原則その一]明確に差別化された強力なコア事業
差別化は戦略の要であり、競争優位性の根本原因であり、そして企業間の相対的な収益性格差の主要因である。企業は、競合と異なることによって収益を得る。
このような差別化を可能にし、社員の行動や製品特性につながっていく企業特有の資産やコンピテンシー、ケイパビリティといったものが、真のコア事業を定義づける。


[原則その二]絶対に譲れない一線の顕示
戦略を、ぶれない意思決定と行動へ移す際の原則を「譲れない一線」と呼んでいる。

[原則その三]循環型学習システム
「再現可能な不朽のビジネルモデル」は概して、競合企業に比べてより意識的に変化を察知し、それに適応する方法を実践していた。特に、事業全体の学習と継続的改善を促すためのシステムが充実している傾向が見られ、再現可能モデルの透明性と一貫性をうまく活用していた。


以前から個人的な考えとして、企業は社員に対して「管理」という「枠」をはめるべきではなく、「軸」を明確に提示して、その方向に社員が進んでいるかどうかを確認するべきだという考え方を持っていた。
その考えに照らし合わせると、コア事業を明確にするという第一原則は正に「軸」を明確にするということであるし、第二原則の「絶対に譲れない一線」の顕示というのは「枠」をはめるということであろう。
ただし、ここでいう「絶対に譲れない一線」というものは、「管理」という観点のものではなく、どちらかというと「行動様式」という意味での「枠」の概念に近い。
第三原則はまだまだ多くの企業で未開発ということで、第一原則、第二原則のこの2つが明確であることで実は大半の優良企業が説明できてしまうのだそうだ。



再現可能な不朽のビジネスモデルには興味深いパラドクスがある。一面においては、再現可能モデルの優位性は持続しそうもないように見える、という点である。差別化要因は明らかであるし、その価値や組織構造は書籍等で盛んに論じられている。成功の秘訣を誰もが知っているとすれば、IKEAなどの企業はどのようにして持続的な競争優位性を維持しているのだろうか?
楠木健氏はこの答えを『ストーリーとしての競争戦略』の中で、個々の部分戦略でみると一見おかしな戦略を全体戦略に組み込むことで、そもそも真似をしようと思われなく(うまくいくと思われなく)している、という説を展開しているが、ベイン・アンド・カンパニーの仮説は以下の3つである。

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再現可能な不朽のビジネスモデルが常に競争相手の一歩先を行ける理由を説明付ける3つの答えを探り当てた。
1.経営層と現場の距離短縮
逆説的に聞こえるかもしれないが、再現可能な不朽のビジネスモデルの単純さこそが、実は競合にとっての参入障壁となる。
企業が新しい事業や市場へ進出すると、事業の成長とともにリスクや不確定要素が倍増し、経営陣の理解や判断の必要性が増す。同時に、従来とは違った競合との競争激化にも対処しなければならない。こうした外部環境の変化によって組織の複雑性が増大し、余計なシステムや評価基準、条件などの増加の他、専門特化した製品、無駄なプロセス、調整役の多さなどにつながる。その結果、経営上層部とビジネスの現場との距離はこれまで以上に遠ざかる。

2.より適切かつ迅速な意思決定
変化のスピードが速まる一方の世界においては、競合企業よりも効果的に意思決定し行動に移す能力は圧倒的な優位性となる。
複雑化した市場や組織でさらに結果を出すためには、この適切かつ迅速な意思決定がもっとも重要である。

3.継続的な改善の極意の会得
ある企業が、継続的なフィードバックと改善を可能にする優れたシステムを通じて、間接費の年間0.15%減と変動費の年間0.3%減(ともに他社比)を実行できた場合、10年後にはその企業価値が50%も増大する(そのうち8割は収益改善によるもの、残りは収益1ドル当たりの市場価値増大によるもの)
「複利は人類史上最大の発明」byアインシュタイン

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1の経営層と現場の距離短縮、2の迅速な意思決定を実現するためには組織をシンプルにすることが大切という。
勝手に解釈すると、ベイン・アンド・カンパニーが考える競争優位性維持の秘訣は”Simplicity”ということだ。


企業の経営モデルというのは軍隊のモデルが参考になるケースが多々あるが、今回初めて知ったのはOODAループというもの。
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OODAループ
学習・意思決定システムの相対的競争力を考える上での最善のフレームワークは、米空軍の伝説的で型破りな戦闘機パイロット、ジョン・ボイド大佐によって、当初軍事目的として公安・体系化された、OODAループであろう。
適切に観察(Observe)
的確な情勢判断(Orient)
意思決定(Decide)
行動(Act)
OODAループの四段階はいずれも重要であるが、ボイドと彼の研究チームは、特に情勢判断の段階が競争優位の差別化要因であることに気づいた。
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よく見るとPDCAサイクルとよく似ている。OODAループにおけるAがPDCAサイクルのDoと一緒だとするとOODAループはPDCAサイクルにおける”Check”から回り始めている。観察(すなわちチェック)を余裕を持って出来ることで、競争優位の差別化要因である情勢判断(PDCAサイクル上は"Aciton")に注力できるということか。
PDCAサイクルの”Action"って"Do"とどう違うのかと思っていたのだが、OODAループのOrient(情勢判断)という風に理解すると非常に分かりやすい。


成長は必然的に複雑化を招き、最終的に成長を阻止するサイレントキラーとなる。ただし、厄介なことに、通常、成長は事業経営の「譲れない一線」なのだ。

動植物と異なり、企業が適応に失敗する理由は「適応できない」ためではなく「適応しない」ためである。企業衰退の根本原因は、環境にではなく、意思決定の中にある。


市場や顧客のニーズに関連した外部要因の複雑化は、組織の複雑化とは質的に異なるものだ。
前者は、安定したニッチの累増、顧客が他社に切り替える際のコスト、「継続」サービスによる収益源などを創出し、自社のコモディティ化回避に役立つ。
市場における技術面の複雑化もさまざまな成長機会をもたらす。
ビジネスモデルに内在する複雑性を制御できれば、外在する市場の複雑性を利用しやすくなる。
経営者にとって、こうした新たな機会をもたらす外的な複雑性と、企業を駄目にする内的な組織の複雑性とを区別することが重要。コレステロールに善玉と悪玉があるように、本質的には似通ったようにみえても、一方は健康促進・エネルギー生成の働きをし、他方は全く逆の動きをする。

複雑性とか多様化ってあまり意識せずに使っていたけれど、外部環境の多様化(複雑化)と自社の複雑化は別物だという指摘も初めて知ってなるほどと思った。

著者はまとめとして10項目のまとめを挙げているのだが、それはここでは割愛する。

優良だった企業が何故駄目になっていくのか。概念的ではあるが日本におけるその流れが指摘されている。
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創業者の想いや創業者目線を適応することで成長していった企業も、規模が大きくなり、事業が複雑になるにつれ、次第に創業者メンタリティは希薄化していく。
代わって、大きく複雑化した事業を管理するための仕組みやシステムが勝っていく。
日本企業が低迷するなか、経営の仕組みの欠如が叫ばれ、様々な経営指標や経営ツールが導入された。グローバルスタンダードが金科玉条のように言われたことも、グローバル出自のこれらの経営指標の導入を後押しした。
さらに、「説明責任」という言葉がどこからともなく表舞台に現れ、客観的な事実で対外的、対内的に説明できることが重要になった。
これに、コンプライアンスの仕組みが重層的に追加されてくる。これだけの経営管理の仕組みを動かすために、経営管理スタッフが増員され、次第に幅を利かせるようになる。
経営トップも、これらのスタッフに依存せずにはこの巨大な経営管理機構を回していけなくなる。
トップ自体の選出も、社内の利害調整とともにこの管理機構を回せる人物が優先されるとなると、これはもうリーダーが会社を動かしているのではなく、システムや仕組みが会社を動かしているのと同義である。
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振り返ると、そういう意味ではわが社も崖っぷちな気がする。
今ならまだ創業者メンタリティをもった会社に戻れるのではないか。
そう信じて業務にいそしみたい。

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