2010年6月22日火曜日

『タートル流投資の黄金律』

「投資の黄金律」といいながらも、この不確実性の高い時代にどうリスクと向き合うのかを、投資というジャンルに限らず述べた本。

不確実性には2つのタイプがある。
①情報の不確実性・・ある状況で想定される全ての成り行きについて、不確実性を除去できる程度まで調べるのに必要な時間や十分な資金が無いために生じる、情報が不足していることによる不確実性。
②無秩序の不確実性・・不明事項や相互作用やどの集団にも属さない参加者が多すぎてシステムが複雑になることから生じる不確実性。

無秩序の不確実性を前にして重要な判断を迫られたとき、たいていの人は反射的に、専門家に相談しようと考える。しかし、実情をいえば、専門家だって推測しているだけなのだ。訳知りな振る舞いの割には、本当は何も分からない。分かる人間など一人もいない。

無秩序の不確実性がほぼ制御不能である一方、情報の不確実性を含むリスクに対しては、”正しい”もしくは”理にかなった”決断の余地が十分にある。しかし、多くの場合、そこへ到達するために過分の時間と資金を費やさねばならず、情報の不確実性の方が、無秩序の不確実性より対処しやすいとは言い切れない。
どちらにしても、不確実性を受け入れながら判断をしていかなければならないということだ。

対処法として著者は<トレーダーの7つのルール>を挙げている。
優秀なトレーダーがリスクと不確実性を管理するために使うものだが、仕事や日常生活のどんな領域にも応用できるものとなっている。
ルール1:恐怖を克服せよ。
ルール2:柔軟であり続けよ。
ルール3:筋の通ったリスクをとれ。
ルール4:はずれに備えよ。
ルール5:積極的に現実を求めよ。
ルール6:変化に素早く対応せよ。
ルール7:結果ではなく決断に集中せよ。

この中で秀逸なのが、「結果ではなく、決断に集中せよ」。
これは、制御不能なものから、規律と厳密な事前の思考によって制御可能なものへ、本質的な観点を移行させることだ。他のルールは全て、このルールに含まれる。
不確実性の高い時代では、いい決断をしてもいい結果が得られるとは限らないし、悪い決断をしてもいい結果がでたりする。
著者はこれをERのDR.の処置における決断と似たものであるとしている。


ルール2「柔軟性」の4原則配下の通り。GMのアルフレッド・スローンもGMの立て直しの時に実践したものらしい。
○実験せよ・・多くの切り口を試みるべし
○差を際立たせよ・・大きく異なる多くの切り口を試みるべし
○順応せよ・・好結果に学び、小さな成功を積み重ねつつ、戦略を変化順応させていくべし。(順応するには予測など必要ない)
○有機的に組み立てよ・・予期し得ないことが将来起こるという事実に対応できるような計画を練るべし。(重要なのは、未来に起こることを予測せず、今起こっていることや既に起こったことをよりどころにすること)

この教えも通常のビジネスで十分通用する教えである。


投資に関してのみの教えはあまりでてこない一方で、教育に関する話(学ぶためには失敗する必要がある。ときどき間違ったことをする必要がある。進んでしくじる必要がある。子供はそのことを本能的に知っている。)から組織の話(人間部門(People Department)の創設提案)まで、およそ投資の黄金律とは思えない話が随所にでてくる。

間違えて"一目均衡表"のような投資の黄金律を期待した人には残念だが、ビジネスから日々の生活まで通用する黄金律が紹介されている良書。

0 件のコメント: