2011年3月26日土曜日

『ビジネスパーソンのための断捨離思考のすすめ』

今流行の「断捨離」(モノの片付けを通して自分を知り、心の混沌を整理して人生を快適にする行動技術)がビジネスにおいても非常に有効であることを示した本。

ビジネスにおける断捨離には「前向きな断捨離」と「残念な断捨離」がある。
本来、本当の断捨離は主体的・能動的なもの。

ビジネスにおいて、なぜ「捨てる」「断つ」が必要か
・経営資源は限られているから(限りある経営資源を、新しい事業、より強化していきたい事業にシフトするため)
・市場の環境変化が速いから(すべてを自社でつくると、変化に追いつけない)
・意識していなければ、ムダは自然と増えるものだから
・総花経営では、専業大手に勝てないから(多角化によるリスクヘッジの考え方は、得てして「競合」の概念が入っておらず、強い事業が弱くなり、弱い事業が必要以上に生き延びることにつながる)

企業のモデルには垂直統合型と水平協業型があるというのは村井勝と同じだが、村井氏が「一般的に事業モデルは垂直統合型→水平協業型となるケースが多いが、必ずしも水平協業型が優れているとは限らない」としてるのに対し、著者の田崎氏は水平協業型の方が優れていると考えているようだ(だから総花経営はダメよ、断捨離しなさいという整理)。

総合電気大手3社、日立、東芝、三菱電機や、ビール3社、キリン、アサヒ、サッポロの話が事例として挙げられている。

何を捨て、何を断ち、何を選ぶかを考える基準は
「その事業は顧客(ユーザー)に価値を提供できているのか?今後も価値を提供し続けられるのか?」
ということ。

一番難しいのが「成功体験の断捨離」。
自社の優位性がなくなるような消費者の嗜好変化は受け入れたくない。
確かに耳の痛い話である。
本質的な意味での成功体験は消費者の変化を読んで、それに素早く対応することにある。
守るべきは「消費者の変化を読んで、それに素早く対応する」といった本質的な精神であって、断捨離すべきは「本当の消費者とは関係なく、守ることが目的となっている体制や意識」。

個人的にはちっともモノが捨てられず、会社でも家庭でも非難囂々を受ける身ではあるが、せめて(?)仕事においては断捨離の精神を持って臨みたいものだ。

2011年3月20日日曜日

『会社の「強み」が企業を壊すとき』

以前、TEP(TXアントレプレナーパートナーズ)の会合に参加させてもらった話をこのブログに書いた。
その際にも参加されていた村井勝さんの著書。

垂直統合型企業と水平協業型企業という概念で企業を二分して考えていて、どちらが優れているということではないが、自社の立ち位置や、その特性を間違えると会社がおかしくなるとしている。

産業は成熟するにつれて、垂直統合型産業から水平協業型産業に変化する傾向にある。
水平協業産業では、他社との差別化が難しくなり、完成品はコモディティー(日用品)化する傾向にある。

垂直統合型企業では研究開発体制は原則として社内におかれるが、水平協業型企業では研究開発体制はオープン・イノベーション(開放的な技術革新)型を採用し、自社内の研究開発体制よりは、世界中の研究開発をフルに活用して、研究開発体制の経費を最小限にとどめるよう努力する。オープン・イノベーション型を採用することで、独自の先端技術の採用という差別化の手段を失う反面、世界的な市場を対象にして最も優れていると思われる先端技術の採用が可能となる。
オープンイノベーション型企業にとって最も大切なことは情報収集能力だ。先進的な自社技術をデファクト・スタンダードになるよう導くことが重要な戦略となる。
オープンイノベーション戦略では競合他社との違いを出すことは難しく、わずかな先行者利益を最大限活用できるかが成功のカギだ。


「知的資本経営」という概念についても紹介されていた。
知的資本経営の基本は「ナビゲーター・コンセプト」と呼ばれるもので、企業を家に喩えて説明される。
家(会社)の中心は人(=「人的資本」)であり、人を取り囲む家は企業が獲得している「顧客資本」や、作り上げた業務プロセスにあたる「組織資本」でできている。
これらを評価する仕組みは現在の会計システムには存在しない。
しかし、その結果として生まれたものが家の上の屋根(企業業績)の部分として表れ、会計システムで評価することが可能となる。
企業が現在直面している社内外の環境の変化に対応するには、「人的資本」「顧客資本」「組織資本」といった、企業が持つ「知的資本」に依存せざるを得ない。

村井氏が考える世界の大きな流れの中の一つにグローバリゼーションの更なる浸透というのがある。
グローバリゼーションの進んだ組織や集団では、人種の区別なく、個人の能力に応じて報酬が支払われる。企業の中で取り交わされるコミュニケーションの量や質が、組織や集団の力の差となって表れる。

コミュニケーションとは、
第一に相互に理解できる言葉で話すこと。
第二に相手の考え方も理解できること。
第三にこちらの考え方を相手の考え方に沿って理解させる能力をもつこと。
言葉の問題だけではなく、多民族や多文化によって構成されるグローバル化の社会では、多種多様な人種的、文化的な背景への理解も要求される。

先述のTEP会合での村井氏の言動を見ていると、日本IBMやコンパック日本法人社長の経歴にも関わらず、オープンで温和な雰囲気を持っていた。
(さすがにアントレプレナーに対する諸々の質問は鋭いものがあったが)
著作も読んでみて、村井氏は日本の将来について考えている(憂える?)一人であると感じた。

2011年3月19日土曜日

『日本人のためのフェイスブック入門』

仕事の関係でフェイスブックを紹介されて、まずは使ってみないとということでフェイスブックなるものを始めてみた。
というわけで入門書が欲しくて購入。

中国13億人、インド12億人、フェイスブック5億人ということで「中国、インド、フェイスブック」と言われていて、既に一つの国以上の参加者がいる。
全世界のネットのアクセス数で、フェイスブックがグーグルを抜いたらしいというあたりまでは理解できた。

が、”入門者”には、
・ワンクリックでリンクが貼れる
・ワンクリックで気軽にコミュニケーションがとれる
・外部サイトにもボタンを設置できる
という「いいね!」ボタンの潜在能力というのが何がすごいのか今ひとつピンとこない。

また、ソートリーダーシップ(thought leadership)戦略(企業は自社の宣伝ばかりをするのではなく、「新しい考え方のリーダー」になる必要があるという考え方に基づく戦略)こそ、実は、ソーシャルメディア上で、行うことの出来る「フリー戦略」である、というところまでは納得なのだが、なぜソートリーダーシップのための媒体としてフェイスブックが適しているのかがよく分からない。(企業の発信としてはブログの方が分かりやすく表現できるのでは?)


コミュニケーションを円滑にするための3つのルール
その1 決めつけない
その2 モラルを押し付けない
その3 批判しない
が大切というあたりしかピンときていないのはリテラシーの低さ故か。

「習うより慣れろ」で頑張ろう。

『国家の命運』

元外務事務次官、薮中三十二氏の著書。
外交の難しさというものが垣間みえて面白い。

交渉の場に臨む前に必要な研究項目として、
①相手の国が何をねらっているのか
②交渉と結論を急いでいるか
③相手国の力はどのぐらいか
④交渉担当者の人となり、国内における力量はどうか
を事前におさえておく必要があるのだそうだ。
この内容は相手側だけでなく、自分の側にも当てはまる。
「敵を知り、己を知ること」は言うは易しで存外に難しい。

また、交渉相手との信頼関係構築のツボとしては
①ウソをつかず、欺かない
②絶対に必要なことと、融通の利くことを分け、優先順位を相手に分かるように伝える
③ダメなこと、デリバー(実現)できないことは、はっきりと言う
ということらしい。
サンデル教授の授業にある、イマニエル・カントの主張を連想した。
カントの『道徳形而上学原論』では、嘘は不道徳な行為の最たる物である。
嘘はどんなものであっても、正しいことの根源を傷つける。従って常に真実を語ること(正直であること)は、いかなる都合も認めず、つねに例外無く適用される神聖な理性の法則なのだ。ただし「知っている全てを語る必要はない」とするあたりが外交っぽい。

そして、交渉の最終段階で忘れてはならないこと。
それは、交渉決裂を恐れないということだ。

外交では勝ち過ぎは愚策とされ、50:50が良いとされるらしいが、著者は最低限でも51:49程度には有利にしておくよう心がけていたとのこと。
やはりバランス感覚が大切のようだ。

大地震と人事異動

3月11日に異動の辞令をもらった。現在いる部署は長くなってしまい、気がつけば9年もいたことになる。
午後1時頃に辞令口達があり、会社に移動しようと思った時に地震があった。
結局その日は会社に行くことができず仕舞い。その後普通なら毎日のように行われるはずの歓送会関係は一切中止。
個人的には9年ぶりの異動ということなのだが、そんな個人の感傷などはいっぺんでふっとんでしまった。
幸いにも、家族、親族みな無事であったが、被災地の様子をテレビでみるたびに胸が締め付けられるように感じる。

今も計画停電で、我が家はマンションで電気が止まると水も停まる。
普段何気に利用していた水やら電気やらの何とありがたいことか。

日本人として、できることを最大限やっていくことが結局被災地の方のためにもなり、早期の復興につながると信じて頑張っていくしかない。

2011年3月9日水曜日

『お金の流れが変わった!』

大前研一氏の新書。
新書版なのに内容が相当濃いのはさすが、大前氏。

テーマは人類がかつて経験したことのない過剰流動性、約4000兆円の「ホームレス・マネー」。
とはいえ、テーマはアメリカから中国、そしてアジアの国々まで方々にわたる。
大前氏の著述には数値が沢山でてきて非常に勉強になる。
先日視察に行って来たこともあり、面白かった中国編を例に挙げる。


中国は「保八」という、毎年8%の成長を続けないと大量の失業者が出て暴動が起こるという強迫観念がある。今は労働者の給料を毎年15%ずつ上げる政策をとっている。

2008年12月にアメリカから内需振興を求められると、2年半かけて約52兆円(4兆元)を投入し、公共事業などの内需促進を行うと約束。
外需がダメなら、今度は内需でということで2009年から中国の変わり身は早かった。
輸出は前期比で3割減っている。中国の輸出産業はGDPの35%を占めていたから、3割減ならGDPは10%のマイナスになるはず。それがプラス7.9%になったのは、内需振興を行い、財政出動と銀行からの融資で公共工事や住宅、自動車などの民需を押し上げたから。
半年でGDPの20%も内需にシフトさせるというのは、おそらく世界史を見ても類例がないのではないか。

それにしても中国人の消費意欲は計り知れない。
日本が戦後建設して来た高速道路を予定部分も含めて足すと1万3000km。これとほぼおなじ距離を中国は毎年作っている。新幹線網もすでに3500km。
鉄鋼の消費量、日本が世界一のピーク時(1980年代)に年間1億5000万t。中国は現在約6億t。

今の中国は年俸の20~30倍の借金をさせてマンションを買わせている。日本の場合、バブルの時でも年俸の8~10倍だった。
既に中国では新築物件の空室が7000万戸もあると言われている。アメリカでもサブプライム危機の後遺症で競売に出されると予想されているのは最大でも1000万戸(そして進捗スピードは毎月6万件程度。)
しかも中国のマンションは内装無し。物件の価格か上がってから内装を行おうと考えていた段階で、政府の不動産投資抑制策で値上がりが止まってしまった。

2010年4月、国務院が投機的な不動産購入を抑えようと通達を出した。
①一軒目の住宅購入時の頭金比率を30%以上とする。
②二軒目の購入時の頭金比率は50%以上、貸出金利は基準金利の1.1倍以上とする。
③三軒目以上の住宅購入時の頭金比率と貸出金利を大幅に引き上げる。
そもそも三軒目の購入を前提として通達が出ていることがすごい。

中国人は無宗教と思われ勝ちだが、「共産主義」という宗教を強烈に信奉している。
共産主義は皆で富を分かち合う思想のはずなのに、「ある人が金持ちになったら、それをうらやんだり妬んだりしてはいけません。あの人が金持ちになれたのだから、あなたがなれない理由はない。そう思って努力すれば、いつか全員が金持ちになれるのです」と国民に吹き込んだ。
共産主義の指導者が金儲けを素晴らしいことだと認めたときから、中国は拝金主義の国になってしまった。
資本主義は富を生み出すが、その富が人々に一様に行き渡ることはない。富は偏在するというのが、産業革命以来変わらぬ資本主義の姿である。


その他のアジアの国々の特徴やら、日本国内の問題点やらを数字を根拠に述べてくれるので非常に説得力がある。

非常に説得力があるのだが、どういう訳か、個人的には大前氏の思想はちょっと強烈すぎてついていけない気がするのは、まだまだ意識不足ということか。

2011年3月6日日曜日

『ストーリーとしての競争戦略』

会社で提案書をつくった時に、日経新聞の春秋を引用した。
楠木建氏の意見を引用したかったのだが、『ストーリーとしての競争戦略』の著者として紹介されていて、読んでもいない本の著者の言を引用すると信憑性がないかと思い、急遽読んでみた。
500ページにもわたるこの本を読もうと言う動機はそんな感じであったが、予想した以上に良書であった。

まずは競争戦略の対象範囲。
戦略と言うと大きく以下の二つに分類されるが、この本で扱うのは競争戦略の方。
①競争戦略(competitive strategy)=事業戦略(business strategy):特定事業において他社とどう向き合うかという戦略
②全社戦略(corporate strategy):全社的に最適な事業ポートフォリオを目指す戦略

次に競争戦略における勝ち負けの基準。
一番大切なのは「長期にわたって持続可能な利益:SSP(Sustainable Superior Profit)」というのが競争戦略上の基準としている。

競争戦略上は大きく二つの方向性がある。
ポジショニングの戦略論(SP:Strategic Positioning):「他社と違ったことをする」
組織能力(OC:Organizational Capability):「他社と違ったものを持つ」
SPがトレードオフを強調するのに対して、OCのカギは「模倣の難しさ」にある。

マイケル・ポーターの「ファイブフォース」にもあるように、楽に利益の出る業界と、頑張っても利益の出ない業界がある。
しかし、競争とは企業間の「違い」をなくす方向に働く圧力であり、長期的にはSP(ポジショニングの戦略)だけではいずれ他社に模倣されることになる。

さて、では模倣されにくくすることで競争優位を持続するにはどうしたらよいのか。
ここで戦略のストーリー性がクローズアップされてくる。
個別に見ると不合理と思える要素をキラーパスとして、ストーリーの全体戦略の中に組み込むことで、参入障壁を設けて他社を排除する以上に強力な「模倣の忌避」が生まれ、競争優位を維持することができるというものだ。

簡単に言ってしまうと以上のことを、手を換え品を換え具体事例を盛り込み説明してくれる。
(著者は冒頭で、ちゃんと順番に最後まで読んで欲しいという依頼をしてくる。まさにストーリーで、ストーリーを語るには一定の時間は必要なのだ。)

最後に戦略ストーリーを構築するための骨法10ヶ条なるものが書かれているのだが、きちんと読んできた人間でないと10ヶ条を読むだけでは、本当に理解したことにはつながらないのだろう。

戦略ストーリーの本論とは離れるが元トリンプ・インターナショナル・ジャパン社長の吉越浩一郎さんの話が面白かった。
「事業においては「川に飛び込め」の精神が大切。でも、もし流れが急で泳ぎきれなかったらどうするか。これが怖いからなかなか飛び込めない。だから経営が「はい、ここまで」という撤退のラインを決めておく必要がある。店舗を新たに出す時に、まず考えなければならないのは閉店のルールだ。うちでは閉店資金が毎月積み立ててある。いつでも店を閉められる。ある意味で失敗を認めている。失敗がルール化されていれば、思い切って川に飛び込める。」

失敗は「避ける」のではなく、「早く」「小さく」「はっきり」と失敗することが大切、と著者は述べている。これは子育てにも通じるのではないかと思って興味深かった。

戦略ストーリー構築においては抽象化のチカラが大切になってくる。
三枝匡氏曰く、
「具体的な事象を「冷凍」(抽象化)して、ひとまず「冷凍庫」(知識ベース)にいれておき、必要な時に自分の文脈で「解凍」(具体化)して応用する」
具体的な事象は「生もの」なので、一度冷凍しないと、文脈を超えて持ち運ぶことができないのだ。

リーダーは戦略を構築する時以上に伝達時にパワーを必要とする。直接会って何度も話す必要があるのだ。
骨法の最後の10条では、どうしたらストーリーを話す努力を続けられるのかが焦点となった内容になっている。
リーダーはどうしたらストーリーを伝えるための努力を続けられるのか。
それは、自分で「面白い」と思えるストーリーをつくることに尽きる。
そして、その内容は「世のため人のため」につながっていなければならないのだ。

半ば義務的に読み始めた本であったが非常に良書で勉強になった。