大前研一氏の新書。
新書版なのに内容が相当濃いのはさすが、大前氏。
テーマは人類がかつて経験したことのない過剰流動性、約4000兆円の「ホームレス・マネー」。
とはいえ、テーマはアメリカから中国、そしてアジアの国々まで方々にわたる。
大前氏の著述には数値が沢山でてきて非常に勉強になる。
先日視察に行って来たこともあり、面白かった中国編を例に挙げる。
中国は「保八」という、毎年8%の成長を続けないと大量の失業者が出て暴動が起こるという強迫観念がある。今は労働者の給料を毎年15%ずつ上げる政策をとっている。
2008年12月にアメリカから内需振興を求められると、2年半かけて約52兆円(4兆元)を投入し、公共事業などの内需促進を行うと約束。
外需がダメなら、今度は内需でということで2009年から中国の変わり身は早かった。
輸出は前期比で3割減っている。中国の輸出産業はGDPの35%を占めていたから、3割減ならGDPは10%のマイナスになるはず。それがプラス7.9%になったのは、内需振興を行い、財政出動と銀行からの融資で公共工事や住宅、自動車などの民需を押し上げたから。
半年でGDPの20%も内需にシフトさせるというのは、おそらく世界史を見ても類例がないのではないか。
それにしても中国人の消費意欲は計り知れない。
日本が戦後建設して来た高速道路を予定部分も含めて足すと1万3000km。これとほぼおなじ距離を中国は毎年作っている。新幹線網もすでに3500km。
鉄鋼の消費量、日本が世界一のピーク時(1980年代)に年間1億5000万t。中国は現在約6億t。
今の中国は年俸の20~30倍の借金をさせてマンションを買わせている。日本の場合、バブルの時でも年俸の8~10倍だった。
既に中国では新築物件の空室が7000万戸もあると言われている。アメリカでもサブプライム危機の後遺症で競売に出されると予想されているのは最大でも1000万戸(そして進捗スピードは毎月6万件程度。)
しかも中国のマンションは内装無し。物件の価格か上がってから内装を行おうと考えていた段階で、政府の不動産投資抑制策で値上がりが止まってしまった。
2010年4月、国務院が投機的な不動産購入を抑えようと通達を出した。
①一軒目の住宅購入時の頭金比率を30%以上とする。
②二軒目の購入時の頭金比率は50%以上、貸出金利は基準金利の1.1倍以上とする。
③三軒目以上の住宅購入時の頭金比率と貸出金利を大幅に引き上げる。
そもそも三軒目の購入を前提として通達が出ていることがすごい。
中国人は無宗教と思われ勝ちだが、「共産主義」という宗教を強烈に信奉している。
共産主義は皆で富を分かち合う思想のはずなのに、「ある人が金持ちになったら、それをうらやんだり妬んだりしてはいけません。あの人が金持ちになれたのだから、あなたがなれない理由はない。そう思って努力すれば、いつか全員が金持ちになれるのです」と国民に吹き込んだ。
共産主義の指導者が金儲けを素晴らしいことだと認めたときから、中国は拝金主義の国になってしまった。
資本主義は富を生み出すが、その富が人々に一様に行き渡ることはない。富は偏在するというのが、産業革命以来変わらぬ資本主義の姿である。
その他のアジアの国々の特徴やら、日本国内の問題点やらを数字を根拠に述べてくれるので非常に説得力がある。
非常に説得力があるのだが、どういう訳か、個人的には大前氏の思想はちょっと強烈すぎてついていけない気がするのは、まだまだ意識不足ということか。
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