2011年3月6日日曜日

『ストーリーとしての競争戦略』

会社で提案書をつくった時に、日経新聞の春秋を引用した。
楠木建氏の意見を引用したかったのだが、『ストーリーとしての競争戦略』の著者として紹介されていて、読んでもいない本の著者の言を引用すると信憑性がないかと思い、急遽読んでみた。
500ページにもわたるこの本を読もうと言う動機はそんな感じであったが、予想した以上に良書であった。

まずは競争戦略の対象範囲。
戦略と言うと大きく以下の二つに分類されるが、この本で扱うのは競争戦略の方。
①競争戦略(competitive strategy)=事業戦略(business strategy):特定事業において他社とどう向き合うかという戦略
②全社戦略(corporate strategy):全社的に最適な事業ポートフォリオを目指す戦略

次に競争戦略における勝ち負けの基準。
一番大切なのは「長期にわたって持続可能な利益:SSP(Sustainable Superior Profit)」というのが競争戦略上の基準としている。

競争戦略上は大きく二つの方向性がある。
ポジショニングの戦略論(SP:Strategic Positioning):「他社と違ったことをする」
組織能力(OC:Organizational Capability):「他社と違ったものを持つ」
SPがトレードオフを強調するのに対して、OCのカギは「模倣の難しさ」にある。

マイケル・ポーターの「ファイブフォース」にもあるように、楽に利益の出る業界と、頑張っても利益の出ない業界がある。
しかし、競争とは企業間の「違い」をなくす方向に働く圧力であり、長期的にはSP(ポジショニングの戦略)だけではいずれ他社に模倣されることになる。

さて、では模倣されにくくすることで競争優位を持続するにはどうしたらよいのか。
ここで戦略のストーリー性がクローズアップされてくる。
個別に見ると不合理と思える要素をキラーパスとして、ストーリーの全体戦略の中に組み込むことで、参入障壁を設けて他社を排除する以上に強力な「模倣の忌避」が生まれ、競争優位を維持することができるというものだ。

簡単に言ってしまうと以上のことを、手を換え品を換え具体事例を盛り込み説明してくれる。
(著者は冒頭で、ちゃんと順番に最後まで読んで欲しいという依頼をしてくる。まさにストーリーで、ストーリーを語るには一定の時間は必要なのだ。)

最後に戦略ストーリーを構築するための骨法10ヶ条なるものが書かれているのだが、きちんと読んできた人間でないと10ヶ条を読むだけでは、本当に理解したことにはつながらないのだろう。

戦略ストーリーの本論とは離れるが元トリンプ・インターナショナル・ジャパン社長の吉越浩一郎さんの話が面白かった。
「事業においては「川に飛び込め」の精神が大切。でも、もし流れが急で泳ぎきれなかったらどうするか。これが怖いからなかなか飛び込めない。だから経営が「はい、ここまで」という撤退のラインを決めておく必要がある。店舗を新たに出す時に、まず考えなければならないのは閉店のルールだ。うちでは閉店資金が毎月積み立ててある。いつでも店を閉められる。ある意味で失敗を認めている。失敗がルール化されていれば、思い切って川に飛び込める。」

失敗は「避ける」のではなく、「早く」「小さく」「はっきり」と失敗することが大切、と著者は述べている。これは子育てにも通じるのではないかと思って興味深かった。

戦略ストーリー構築においては抽象化のチカラが大切になってくる。
三枝匡氏曰く、
「具体的な事象を「冷凍」(抽象化)して、ひとまず「冷凍庫」(知識ベース)にいれておき、必要な時に自分の文脈で「解凍」(具体化)して応用する」
具体的な事象は「生もの」なので、一度冷凍しないと、文脈を超えて持ち運ぶことができないのだ。

リーダーは戦略を構築する時以上に伝達時にパワーを必要とする。直接会って何度も話す必要があるのだ。
骨法の最後の10条では、どうしたらストーリーを話す努力を続けられるのかが焦点となった内容になっている。
リーダーはどうしたらストーリーを伝えるための努力を続けられるのか。
それは、自分で「面白い」と思えるストーリーをつくることに尽きる。
そして、その内容は「世のため人のため」につながっていなければならないのだ。

半ば義務的に読み始めた本であったが非常に良書で勉強になった。

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