グーグルの組織のあり方の考え方について述べられた本。
流行の本ということでちょっと敬遠していたが、手に取ってしまった。
結論から言うと非常に、啓蒙的で参考になった。
グローバルな幹部要員は自由度の高い企業で働きたがるから、有能な人材はその手の企業に流れ込む。適切な環境を構築できるリーダーは、地上で最も有能な人材を惹き付ける磁石となるだろう。
だが、そうした職場をつくるのは難しい。経営の中枢における権力の力学が自由とは逆方向に働くからだ。
グーグルのアプローチはこの難局を打開する。我々は、権力と権威をマネジャーから社員へと譲り渡すよう意識している。
新たに雇われたマネジャーはこれを嫌がる。昔さながらのアメとムチを使えないとしたら、マネジャーはどうすればいいのだろうか? 残された道は一つしかない。グーグルのエリック・シュミット会長の言葉を借りれば「マネジャーはチームに奉仕する」のだ。
ご多分に漏れず、わが社にも例外や失敗はある。とはいえ、グーグルのリーダーシップの原則的なスタイルは、賞罰を与えることではなく、障害を取り除いてチームを鼓舞することにマネジャーが集中するというものだ。
>>>>>
グーグルの文化を定義する3つの要素、ミッション、透明性、発言権
グーグルの文化にとってミッションは一つ目の礎石である。
「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」
この種のミッションが個人の仕事に意味を与えるのは、それが事業目的ではなく道徳だからだ。
歴史上極めて大きな力を振るった運動は、そこで求められたものが独立であれ平等な権利であれ、道徳的な動機を持っていた。こうした考え方を拡張し過ぎたくはないが、革命を起こすのは利益や市場シェアではなく理念だと言っていいだろう。
重要なのは、我々がこのミッションを決して達成することができないことだ。これが、絶えずイノベーションを起こし、新たな分野に進出するモチベーションとなる。
「マーケットリーダーになろう」というミッションは、一旦達成されれば、さらにインスピレーションを生むことはほとんどない。
グーグルの文化の2つ目の礎石は透明性。
透明性の思いがけない利点の一つは、データを共有するだけで成績が向上することだ。
記録は、コミュニケーションの手段としてだけでなく学習ツールとしても利用される。
オープンを原則とすれば、社員はこう実感できる。自分達は信頼に値するし、優れた判断力を持っていると信じてもらっているのだと。何が、いかに、なぜ起こっているかについてさらに情報を与えれば、彼らは仕事をより効率的にこなせるし、トップダウン型のマネジャーには予想もできない仕方で会社に貢献してくれる。
グーグルの文化にとって発言権は3つ目の礎石だ。発言権とは、会社の経営方針について、社員に対して実際に発言の機会を与えることを意味している。
こうしてみると、何とも驚いたことに「文化が戦略を食う」というフレーズはまったく正しかった。
グーグルでは中国のケースがそうであったように、一貫して経済性ではなくわが社の価値観を支える文化に基づいて結論が下されていた。
ミッション、透明性、発言権というわが社の 文化的礎石が、我々を何度となく次のような課題に向き合わせた。
意見が別れる難題に取り組むこと、そうした難題について議論すること、そうした難題を明確な戦略に分解すること。つまり、わが社の文化がわが社の戦略を形成していたのであって、逆ではなかったのだ。
人の心をつかむミッションを見つけること、透明性を保つこと、社員に発言権を与えることの論拠は、いくぶんプラグマティックなものだ。世界中で増えている、有能で、機動力があり、やる気にあふれるプロフェッショナルや起業家の集団は、こうした環境を求めている。
これからの数十年間、地球上で最も才能があり、最も勤勉な人々を引き寄せるのは、社員が有意義な仕事に携わり、所属する組織の運命を左右できる職場だろう。もちろん、道徳的な論拠もある。
その根底にはきわめて単純なこんな格言がある。「自分がしてもらいたいと思うことを、他人にしてあげなさい」
>>>>>
並外れた人材を選び出すには、採用についての考え方を2つの面で大きく変えなければならない。 一つ目の変化は、採用にもっと時間をかけることだ。
二つ目の大きな変化は、「自分より優秀な人物だけを雇え」というものだ。
傑出した人々を見つけるのにかかる時間は長いが、こうした時間はつねに待つだけの価値があった。
自分より優れている人を待つことにもっと時間をかける気になったら、次は採用に関する権限をマネジャーに手放してもらう必用がある。前もって言っておかねばならないが、グーグルが新たに雇うマネジャーはこれを嫌う!マネジャーは自分のチームを選抜したがるものだ。
ところが、意欲に満ちたマネジャーでさえ、人材発掘の作業が長引くと採用基準を緩めてしまう。さらに悪いことに、個々のマネジャーはえこひいきをする可能性がある。つまり、友人を雇いたがったり、取締役や大口顧客に好意を示すためにインターンを採用したりするのだ。 半年くらいすぎると、新任マネジャーは、自分が雇おうとしている人材の質は過去のどの社で経験したものよりも高いし、自分は同じ厳格なプロセスをくぐり抜けてきた並外れた人々に囲まれているのだと気付き、その価値を認める。
頭の良さを基準に盲目的に人を雇い、やりたいことは何でもできる際限のない自由を与えれば、突如として壊滅的な失敗を招くことになる。最高の人材を雇いたいと願うのは当然だが、「最高」とは知性や専門技術といった唯一の属性によって定義されるものではないのである。
ある環境でスターだからといって、新たな環境でもスターになれるとは限らない。だから、自社の環境で人を確実に成功に導くことが極めて重要になる。その方法は、幅広い属性を探すことであり、なかでも最も重要なのは謙虚さと誠実さである。
>>>>>
それにしても、Googleの採用に対するリソース(お金と時間)のかけ方は半端がない。
>>>>>
2013年4月、グーグルは過去2年間で1万人以上の社員を増やしてきた。
毎年のように約5000人ずつ社員を増やしてきた。そこまで絞る前に、まずは毎年100万人から300万人の求職者からの応募を受け付ける。つまり、ふるいにかける人々の約0.25%しか雇わないということだ。ちなみにハーバード大学は志願者の6.1%に入学許可を出した。(34,303人の志願者のうち、2,076人が入学を認められた)
ご想像の通り、採用マシーンは実にノロノロとしか動かなかった。グーグルに採用されるまでには6ヶ月以上かかることもあったし、求職者は採用通知を手にするまでに15〜25回もの面接に耐えねばならないこともあった。
一人のグーグラーが、たった一つの仕事に応募してきた数百人、数千人という人々のうち10人余りを面接した。面接を行い、最終的な採用者に関するフィードバックを書くのに10時間〜20時間を費やした。合格した受験者がそれぞれ受ける15〜25回の面接にこの時間をかけると、150時間から500時間の労働時間があらゆる採用プロセスに投じられる計算になる。しかも、新人採用担当者、採用委員会、そして創業者が費やす時間は考慮されていない時点での話しだ。
一人を雇うのに250時間かかるとすれば、年に1000人を雇うのに25万時間を費やす必用があるということになる。言い換えれば、1000人を雇うためには125人の社員がフルタイムで働く必用があるということだ。
だが、今にして思えば、当時はこれが理にかなったトレードオフだった。採用マシーンが過度に慎重に運用されていたのは、誤検出を避けることに主眼がおかれていたのだ。優秀な人材を2人雇い損ねたとしても、うんざりするような人物を一人避けることができるなら、わが社にとってはその方が良かった。
トッド・カーライルは、受験者ひとりにつき25回もの面接を行うことが本当に役立つかどうかを調べた。
カーライルは、受験者を採用すべきかどうかは、4回の面接によって86%の信頼性で予測できることを発見した。その後の面接では1回につき1%しか予測精度は向上しなかった。
そこで我々は「4回の法則」を実行に移し、受験者が実際に受けられる面接の回数を制限した。(ただし、一定の場合には例外を認めている)
この変更だけで、わが社が採用に費やす平均時間は従来の90〜180日から47日に減り、社員の労働時間は数十万時間も短縮した。
グーグルの社員数が約2万人に達するまでは、ほとんどの社員が週に4〜10時間を採用に費やし、最高幹部は丸一日を費やすことも多かった。
採用に年間8万〜20万時間が使われていたことになる。(しかもここには人材募集チームが費やす時間は含まれていない)
こうしたことは急成長のために必用だったが、人材の質に妥協しないためにも欠かせなかった。正直なところ、当時の我々にできる最善のやり方がそれだった。
>>>>>
ほとんどの社員調査は帰属意識に焦点を合わせている。帰属意識は人事関係者のお気に入りだが、実際には多くを語らない漠然とした概念である。
グーグルガイストは、その代わりに我々が手にしている最も重要な結果変数に焦点を合わせる。すなわち、イノベーション(既存の製品を絶え間なく改善することと、明確なビジョンのもとに思い切った賭けに出ることをともに重視し奨励する環境を維持する)、実行(品質の高い製品を迅速に発売する)、定着率(辞めないで欲しい人材を辞めさせない)だ。
業績評価の本質は評価の適切な調整(キャリブレーション)にある。他社の社員と比べグーグラーが会社の評価システムに対して2倍も好意的なのはキャリブレーションのおかげである。
では、キャリブレーションとは何だろうか?マネジャーがつけた評価案が最終評価になる前に、マネジャーのグループが集まって部下の評価案をともに検討することだ。我々はこの手続きをキャリブレーションと呼んでいる。
キャリブレーションによって評価の手続きがひとつ増えることになる。しかし、公正さを確保するには極めて大切な手続きだ。一人のマネジャーの評価は同様のチームを率いる複数のマネジャーの評価と比較され、マネジャー達は集団で社員を審査する。
昔ながらの業績管理システムは大きな誤りを犯している。完全に切り離すべき2つのこと、つまり業績評価と人材育成を結びつけてしまうのだ。
業績評価が必用なのは、昇給やボーナス向けの資金のような有限の資源を配分するため。人材育成が同じく必用なのは、社員を成長させ、向上させるため。
社員に成長して欲しいと願うなら、これら2つの議論を同時にしてはならない。人材育成については、マネジャーとチームメンバーの間で不断に議論を交わすようにすべきであり、年度末のサプライズにしてはいけない。
我々が発展させなければならなかった基本的な考え方は、ほぼあらゆる企業に応用できる一つの言語を形成している。
第1に、目標を正しく設定する。それを公にする。目標は野心的なものにする。
第2に、同僚のフィードバックを集める。人々はレッテルを貼られることが好きではないが、仕事の質を高めてくれる有益な情報なら大歓迎だ。
どの企業も何らかの評価システムを持ち、それを使って報酬を配分しているが、同じように規律のある人材育成のメカニズムを持つ企業はほとんどない。
第3に、評価のために、何らかのキャリブレーション・プロセスを導入する。我々が好むのは、マネジャーが一堂に会し、一つのグループとして社員について検討する会議だ。時間はかかるが、評価と意思決定のための信頼出来る公正なプロセスを実現できる。
同じ席につき、意見を交わし、価値あるものを確認することには、企業文化に好影響を与えるという副次効果もある。直接顔を合わせての会合は、社員数が1万人までの企業にとって最も有効だ。
第4に、報酬についての話し合いと人材育成についての話し合いを分ける。この2つを結びつけると学習が台無しになってしまう。企業の規模に関わらず、これは事実である。
「優れたマネジャーは、呼吸と同じで必用不可欠な存在。マネジャーを向上させるのは、新鮮な空気を吸うのと同じ」なのだ。
最高のマネジャーのチームと最低のマネジャーのチームが移り変わったら、マネジャーによって差がついた。定着率、業績管理への信頼度、キャリア開発度を測る質問に関するスコアが変動した。
プロジェクト・オキシジェンの8つの属性
1.良いコーチであること。
2.チームに権限を委譲し、マイクロマネジメントをしないこと。
3.チームのメンバーの成功や満足度に関心や気遣いを示すこと。
4.生産性/成果志向であること。
5.コミュニケーションは円滑に。話しを聞き、情報は共有すること。
6.チームのメンバーのキャリア開発を支援すること。
7.チームに対して明確な抗争/戦略を持つこと。
8.チームに助言できるだけの重要な技術スキルを持っていること。
意外にも、優れたマネジャーに必用な8つの属性のうち、技術的な専門知識の重要度は一番低いことが分かった。誤解のないように言っておくが、技術的な専門知識はもちろん必須である。プログラムを書けないエンジニアリング部門のマネジャーは(ノップ(NOOP)扱いされて)グーグルでチームを率いることはできない。だが、最高のマネジャーとその他のマネジャーの違いを生む行動のうち、技術的な貢献はチームにとって最も影響が小さかった。
マネジャーが実は必須なのだ、というのは今マネジャー職にある自分にとってモチベーションの高まる結論である。
①報酬は不公平に
②報酬ではなく成果を称える
③愛を伝え合う環境づくり
④思慮深い失敗に報いる
公平な報酬とは、報酬がその人の貢献と釣り合っているということだ。
報奨の内容も金銭的なものより経験を重視するようになった。
グーグルでは現在も、例外的に優秀な人には、例外的な額の現金や株式で報いる。ボーナスと株式報酬の金額は、以前よりベキ分布に近くなった。
ただし、我々はこの10年をかけて、報奨の内容と同じくらい、報奨の決め方が重要であることを学んできた。
現金だけでなく、経験の報奨を積み重ねていくことの大切さも重視している。
経験の報奨によって成果を公に称え、ボーナスや株式報奨の金額に大きな差を付けることによって個別に称える。その結果、社員も以前より満足している。
他にも諸々知見があって非常に参考になるのだが、
Googleのスゴさは長期的な視点にたった施策を実行し、それを測定することで説得力を持たせるという点だ。(だからこの本に載っている成功事例の他に失敗したトライアルもたくさんあるはずだ)
こう言ってしまうと、なんだそんなことか、という感じだが、測定するための結論が出るまでは”仮説”でしかない長期施策を「実行してみる」というのがGoogleの文化のスゴいところということだ。
そんな実行してみた長期施策の成功事例を教えてもらっているので、自分の会社でも色々採用できるポイントがありそうだ。
大分端折ったが、最後に、まとめて書かれているWORK RULESについては記載しておこう。
①仕事に意味をもたせる
②人を信用する
③自分より優秀な人だけを採用する
④発展的な対話とパフォーマンスのマネジメントを混同しない(人材育成と業績評価は分ける)
⑤「2本のテール」に注目する(上位10%と下位10%の違いを調べる)
⑥カネを使うべきときは惜しみなく使う
⑦報酬は不公平に払う
⑧ナッジ 〜きっかけづくり
⑨高まる期待をマネジメントする
⑩楽しもう!(そして①に戻って繰り返し)
ちなみに以下はちょっと刺さったフレーズ。
◯最高のグーグラーは、理にかなう場合には、自分の判断でルールを破る。
◯グーグルの昔から変わらない基本方針の一つ
「政治活動をするな。データを使え」
◯必死に働け、ただし見せびらかすな。それがシリコンバレーの精神だ。
流行の本ということでちょっと敬遠していたが、手に取ってしまった。
結論から言うと非常に、啓蒙的で参考になった。
<マネジャーの役割>
>>>>>グローバルな幹部要員は自由度の高い企業で働きたがるから、有能な人材はその手の企業に流れ込む。適切な環境を構築できるリーダーは、地上で最も有能な人材を惹き付ける磁石となるだろう。
だが、そうした職場をつくるのは難しい。経営の中枢における権力の力学が自由とは逆方向に働くからだ。
グーグルのアプローチはこの難局を打開する。我々は、権力と権威をマネジャーから社員へと譲り渡すよう意識している。
新たに雇われたマネジャーはこれを嫌がる。昔さながらのアメとムチを使えないとしたら、マネジャーはどうすればいいのだろうか? 残された道は一つしかない。グーグルのエリック・シュミット会長の言葉を借りれば「マネジャーはチームに奉仕する」のだ。
ご多分に漏れず、わが社にも例外や失敗はある。とはいえ、グーグルのリーダーシップの原則的なスタイルは、賞罰を与えることではなく、障害を取り除いてチームを鼓舞することにマネジャーが集中するというものだ。
>>>>>
<「文化が戦略を食う」>
社風(文化)は戦略に勝る、という趣旨。グーグルの文化を定義する3つの要素、ミッション、透明性、発言権
グーグルの文化にとってミッションは一つ目の礎石である。
「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」
この種のミッションが個人の仕事に意味を与えるのは、それが事業目的ではなく道徳だからだ。
歴史上極めて大きな力を振るった運動は、そこで求められたものが独立であれ平等な権利であれ、道徳的な動機を持っていた。こうした考え方を拡張し過ぎたくはないが、革命を起こすのは利益や市場シェアではなく理念だと言っていいだろう。
重要なのは、我々がこのミッションを決して達成することができないことだ。これが、絶えずイノベーションを起こし、新たな分野に進出するモチベーションとなる。
「マーケットリーダーになろう」というミッションは、一旦達成されれば、さらにインスピレーションを生むことはほとんどない。
グーグルの文化の2つ目の礎石は透明性。
透明性の思いがけない利点の一つは、データを共有するだけで成績が向上することだ。
記録は、コミュニケーションの手段としてだけでなく学習ツールとしても利用される。
オープンを原則とすれば、社員はこう実感できる。自分達は信頼に値するし、優れた判断力を持っていると信じてもらっているのだと。何が、いかに、なぜ起こっているかについてさらに情報を与えれば、彼らは仕事をより効率的にこなせるし、トップダウン型のマネジャーには予想もできない仕方で会社に貢献してくれる。
グーグルの文化にとって発言権は3つ目の礎石だ。発言権とは、会社の経営方針について、社員に対して実際に発言の機会を与えることを意味している。
こうしてみると、何とも驚いたことに「文化が戦略を食う」というフレーズはまったく正しかった。
グーグルでは中国のケースがそうであったように、一貫して経済性ではなくわが社の価値観を支える文化に基づいて結論が下されていた。
ミッション、透明性、発言権というわが社の 文化的礎石が、我々を何度となく次のような課題に向き合わせた。
意見が別れる難題に取り組むこと、そうした難題について議論すること、そうした難題を明確な戦略に分解すること。つまり、わが社の文化がわが社の戦略を形成していたのであって、逆ではなかったのだ。
人の心をつかむミッションを見つけること、透明性を保つこと、社員に発言権を与えることの論拠は、いくぶんプラグマティックなものだ。世界中で増えている、有能で、機動力があり、やる気にあふれるプロフェッショナルや起業家の集団は、こうした環境を求めている。
これからの数十年間、地球上で最も才能があり、最も勤勉な人々を引き寄せるのは、社員が有意義な仕事に携わり、所属する組織の運命を左右できる職場だろう。もちろん、道徳的な論拠もある。
その根底にはきわめて単純なこんな格言がある。「自分がしてもらいたいと思うことを、他人にしてあげなさい」
<Googleの採用>
グーグルは採用に時間・お金をかけて(何でも普通の企業の2倍はコストをかけるらしい)、人数が必要だからと妥協して採用することはないという。>>>>>
並外れた人材を選び出すには、採用についての考え方を2つの面で大きく変えなければならない。 一つ目の変化は、採用にもっと時間をかけることだ。
二つ目の大きな変化は、「自分より優秀な人物だけを雇え」というものだ。
傑出した人々を見つけるのにかかる時間は長いが、こうした時間はつねに待つだけの価値があった。
自分より優れている人を待つことにもっと時間をかける気になったら、次は採用に関する権限をマネジャーに手放してもらう必用がある。前もって言っておかねばならないが、グーグルが新たに雇うマネジャーはこれを嫌う!マネジャーは自分のチームを選抜したがるものだ。
ところが、意欲に満ちたマネジャーでさえ、人材発掘の作業が長引くと採用基準を緩めてしまう。さらに悪いことに、個々のマネジャーはえこひいきをする可能性がある。つまり、友人を雇いたがったり、取締役や大口顧客に好意を示すためにインターンを採用したりするのだ。 半年くらいすぎると、新任マネジャーは、自分が雇おうとしている人材の質は過去のどの社で経験したものよりも高いし、自分は同じ厳格なプロセスをくぐり抜けてきた並外れた人々に囲まれているのだと気付き、その価値を認める。
頭の良さを基準に盲目的に人を雇い、やりたいことは何でもできる際限のない自由を与えれば、突如として壊滅的な失敗を招くことになる。最高の人材を雇いたいと願うのは当然だが、「最高」とは知性や専門技術といった唯一の属性によって定義されるものではないのである。
ある環境でスターだからといって、新たな環境でもスターになれるとは限らない。だから、自社の環境で人を確実に成功に導くことが極めて重要になる。その方法は、幅広い属性を探すことであり、なかでも最も重要なのは謙虚さと誠実さである。
>>>>>
それにしても、Googleの採用に対するリソース(お金と時間)のかけ方は半端がない。
>>>>>
2013年4月、グーグルは過去2年間で1万人以上の社員を増やしてきた。
毎年のように約5000人ずつ社員を増やしてきた。そこまで絞る前に、まずは毎年100万人から300万人の求職者からの応募を受け付ける。つまり、ふるいにかける人々の約0.25%しか雇わないということだ。ちなみにハーバード大学は志願者の6.1%に入学許可を出した。(34,303人の志願者のうち、2,076人が入学を認められた)
ご想像の通り、採用マシーンは実にノロノロとしか動かなかった。グーグルに採用されるまでには6ヶ月以上かかることもあったし、求職者は採用通知を手にするまでに15〜25回もの面接に耐えねばならないこともあった。
一人のグーグラーが、たった一つの仕事に応募してきた数百人、数千人という人々のうち10人余りを面接した。面接を行い、最終的な採用者に関するフィードバックを書くのに10時間〜20時間を費やした。合格した受験者がそれぞれ受ける15〜25回の面接にこの時間をかけると、150時間から500時間の労働時間があらゆる採用プロセスに投じられる計算になる。しかも、新人採用担当者、採用委員会、そして創業者が費やす時間は考慮されていない時点での話しだ。
一人を雇うのに250時間かかるとすれば、年に1000人を雇うのに25万時間を費やす必用があるということになる。言い換えれば、1000人を雇うためには125人の社員がフルタイムで働く必用があるということだ。
だが、今にして思えば、当時はこれが理にかなったトレードオフだった。採用マシーンが過度に慎重に運用されていたのは、誤検出を避けることに主眼がおかれていたのだ。優秀な人材を2人雇い損ねたとしても、うんざりするような人物を一人避けることができるなら、わが社にとってはその方が良かった。
トッド・カーライルは、受験者ひとりにつき25回もの面接を行うことが本当に役立つかどうかを調べた。
カーライルは、受験者を採用すべきかどうかは、4回の面接によって86%の信頼性で予測できることを発見した。その後の面接では1回につき1%しか予測精度は向上しなかった。
そこで我々は「4回の法則」を実行に移し、受験者が実際に受けられる面接の回数を制限した。(ただし、一定の場合には例外を認めている)
この変更だけで、わが社が採用に費やす平均時間は従来の90〜180日から47日に減り、社員の労働時間は数十万時間も短縮した。
グーグルの社員数が約2万人に達するまでは、ほとんどの社員が週に4〜10時間を採用に費やし、最高幹部は丸一日を費やすことも多かった。
採用に年間8万〜20万時間が使われていたことになる。(しかもここには人材募集チームが費やす時間は含まれていない)
こうしたことは急成長のために必用だったが、人材の質に妥協しないためにも欠かせなかった。正直なところ、当時の我々にできる最善のやり方がそれだった。
>>>>>
<業績評価と人材育成>
[グーグルガイスト]ほとんどの社員調査は帰属意識に焦点を合わせている。帰属意識は人事関係者のお気に入りだが、実際には多くを語らない漠然とした概念である。
グーグルガイストは、その代わりに我々が手にしている最も重要な結果変数に焦点を合わせる。すなわち、イノベーション(既存の製品を絶え間なく改善することと、明確なビジョンのもとに思い切った賭けに出ることをともに重視し奨励する環境を維持する)、実行(品質の高い製品を迅速に発売する)、定着率(辞めないで欲しい人材を辞めさせない)だ。
業績評価の本質は評価の適切な調整(キャリブレーション)にある。他社の社員と比べグーグラーが会社の評価システムに対して2倍も好意的なのはキャリブレーションのおかげである。
では、キャリブレーションとは何だろうか?マネジャーがつけた評価案が最終評価になる前に、マネジャーのグループが集まって部下の評価案をともに検討することだ。我々はこの手続きをキャリブレーションと呼んでいる。
キャリブレーションによって評価の手続きがひとつ増えることになる。しかし、公正さを確保するには極めて大切な手続きだ。一人のマネジャーの評価は同様のチームを率いる複数のマネジャーの評価と比較され、マネジャー達は集団で社員を審査する。
昔ながらの業績管理システムは大きな誤りを犯している。完全に切り離すべき2つのこと、つまり業績評価と人材育成を結びつけてしまうのだ。
業績評価が必用なのは、昇給やボーナス向けの資金のような有限の資源を配分するため。人材育成が同じく必用なのは、社員を成長させ、向上させるため。
社員に成長して欲しいと願うなら、これら2つの議論を同時にしてはならない。人材育成については、マネジャーとチームメンバーの間で不断に議論を交わすようにすべきであり、年度末のサプライズにしてはいけない。
我々が発展させなければならなかった基本的な考え方は、ほぼあらゆる企業に応用できる一つの言語を形成している。
第1に、目標を正しく設定する。それを公にする。目標は野心的なものにする。
第2に、同僚のフィードバックを集める。人々はレッテルを貼られることが好きではないが、仕事の質を高めてくれる有益な情報なら大歓迎だ。
どの企業も何らかの評価システムを持ち、それを使って報酬を配分しているが、同じように規律のある人材育成のメカニズムを持つ企業はほとんどない。
第3に、評価のために、何らかのキャリブレーション・プロセスを導入する。我々が好むのは、マネジャーが一堂に会し、一つのグループとして社員について検討する会議だ。時間はかかるが、評価と意思決定のための信頼出来る公正なプロセスを実現できる。
同じ席につき、意見を交わし、価値あるものを確認することには、企業文化に好影響を与えるという副次効果もある。直接顔を合わせての会合は、社員数が1万人までの企業にとって最も有効だ。
第4に、報酬についての話し合いと人材育成についての話し合いを分ける。この2つを結びつけると学習が台無しになってしまう。企業の規模に関わらず、これは事実である。
<プロジェクト・オキシジェン>
プロジェクト・オキシジェンは当初、マネジャーは重要ではないと証明しようとしたが、最終的には良いマネジャーが必須という結論になった。「優れたマネジャーは、呼吸と同じで必用不可欠な存在。マネジャーを向上させるのは、新鮮な空気を吸うのと同じ」なのだ。
最高のマネジャーのチームと最低のマネジャーのチームが移り変わったら、マネジャーによって差がついた。定着率、業績管理への信頼度、キャリア開発度を測る質問に関するスコアが変動した。
プロジェクト・オキシジェンの8つの属性
1.良いコーチであること。
2.チームに権限を委譲し、マイクロマネジメントをしないこと。
3.チームのメンバーの成功や満足度に関心や気遣いを示すこと。
4.生産性/成果志向であること。
5.コミュニケーションは円滑に。話しを聞き、情報は共有すること。
6.チームのメンバーのキャリア開発を支援すること。
7.チームに対して明確な抗争/戦略を持つこと。
8.チームに助言できるだけの重要な技術スキルを持っていること。
意外にも、優れたマネジャーに必用な8つの属性のうち、技術的な専門知識の重要度は一番低いことが分かった。誤解のないように言っておくが、技術的な専門知識はもちろん必須である。プログラムを書けないエンジニアリング部門のマネジャーは(ノップ(NOOP)扱いされて)グーグルでチームを率いることはできない。だが、最高のマネジャーとその他のマネジャーの違いを生む行動のうち、技術的な貢献はチームにとって最も影響が小さかった。
マネジャーが実は必須なのだ、というのは今マネジャー職にある自分にとってモチベーションの高まる結論である。
<報酬について>
我々は約10年をかけて、適切な環境要因と内発的な動機づけ(会社のミッション、透明性の確保、組織運営に対する社員の強い発言権、物事を追求して失敗して学習する自由、協力体制をつくりやすい物理的空間)を整え、外発的な動機づけとしての報酬体系を洗練させた。そして次の4つの原則が生まれた。①報酬は不公平に
②報酬ではなく成果を称える
③愛を伝え合う環境づくり
④思慮深い失敗に報いる
公平な報酬とは、報酬がその人の貢献と釣り合っているということだ。
報奨の内容も金銭的なものより経験を重視するようになった。
グーグルでは現在も、例外的に優秀な人には、例外的な額の現金や株式で報いる。ボーナスと株式報酬の金額は、以前よりベキ分布に近くなった。
ただし、我々はこの10年をかけて、報奨の内容と同じくらい、報奨の決め方が重要であることを学んできた。
現金だけでなく、経験の報奨を積み重ねていくことの大切さも重視している。
経験の報奨によって成果を公に称え、ボーナスや株式報奨の金額に大きな差を付けることによって個別に称える。その結果、社員も以前より満足している。
他にも諸々知見があって非常に参考になるのだが、
Googleのスゴさは長期的な視点にたった施策を実行し、それを測定することで説得力を持たせるという点だ。(だからこの本に載っている成功事例の他に失敗したトライアルもたくさんあるはずだ)
こう言ってしまうと、なんだそんなことか、という感じだが、測定するための結論が出るまでは”仮説”でしかない長期施策を「実行してみる」というのがGoogleの文化のスゴいところということだ。
そんな実行してみた長期施策の成功事例を教えてもらっているので、自分の会社でも色々採用できるポイントがありそうだ。
大分端折ったが、最後に、まとめて書かれているWORK RULESについては記載しておこう。
<WORK RULES>
自由度の高い環境を手に入れたい人のため、チームや職場を変える10のステップ①仕事に意味をもたせる
②人を信用する
③自分より優秀な人だけを採用する
④発展的な対話とパフォーマンスのマネジメントを混同しない(人材育成と業績評価は分ける)
⑤「2本のテール」に注目する(上位10%と下位10%の違いを調べる)
⑥カネを使うべきときは惜しみなく使う
⑦報酬は不公平に払う
⑧ナッジ 〜きっかけづくり
⑨高まる期待をマネジメントする
⑩楽しもう!(そして①に戻って繰り返し)
ちなみに以下はちょっと刺さったフレーズ。
◯最高のグーグラーは、理にかなう場合には、自分の判断でルールを破る。
◯グーグルの昔から変わらない基本方針の一つ
「政治活動をするな。データを使え」
◯必死に働け、ただし見せびらかすな。それがシリコンバレーの精神だ。
0 件のコメント:
コメントを投稿