2009年3月10日火曜日

『日本経済を襲う二つの波』



バランスシート不況」という概念により、現在起こっている恐慌から脱却するには財政出動しかない、と説いたリチャード・クーの本。
前FRB議長グリーンスパンの誤算がどこにあったか、という類推などもあり、一定の説得力がある。

バブルが崩壊すると、企業はキャッシュフローを使ってバランスシートの修復に取りかかる。
一斉に通常の利益最大化モードからバランスシート修復モード(=債務最小化モード)に入る。当然、設備投資をする企業が激減するので経済はドンドン縮小する。
どの国の経済も、家計部門が貯金して、そのお金を企業部門が借りて使う。
企業が設備投資を止めて借金返済に移ると、家計部門の貯蓄は借りてがいなくなり、銀行部門で滞留する(死に金になる)こととなる。
そうなると経済は「バランスシート不況」という極めて特殊な不況に陥る。

2000年のITバブル時にグリーンスパンは二つの方策をとった。
①急激に金利を下げた。(6.5%→1%)
②ブッシュ大統領の減税に賛成した。(クリントン時代GDP2.4%の黒字→3.6%の赤字)
ITバブルが崩壊し、9・11テロでダメージを受けながらもアメリカのGDPはほとんど落ちなかった。
「住宅バブルに数年間の期限限定でアメリカ経済を支えてもらう。その間に景気は回復し、金利を上げることにより住宅バブルも解消していく」というグリーンスパンのマスタープランは当初非常にうまくいっていた。
しかし、結果ITバブルの崩壊→深刻なバランスシート不況の到来という最悪シナリオを回避できたものの、金利引き下げは『住宅バブル』という怪獣を生むこととなった。
何故か。
「1回バランスシートの修復に追われた企業経営者は2度と資金を借りたがらなくなるという『借金拒絶症』に陥る」
これがグリーンスパンの誤算であった。
短期金利は中央銀行がコントロールできる。
しかし、長期金利はそうはいかない。長期金利はマーケットが決めるものだからである。
お金を借りる人がいなければ長期金利は上がらない。
結局、短期金利が長期金利を上回る「逆イールド」が発生するに至った。

<ウォール街の誤算>
①短期金利はどんどん上がって行き、投資家からは短期金利以上のリターンを上げるようプレッシャーがかかる。
②通常の住宅ローンの借り手は一巡しており、彼らからの資金需要は飽和状態になっていた。
③「借金拒絶症」の企業は借りてくれない。
2004年頃のウォール街のファンドマネージャーは窮地に陥った。
そこで「サブプライムのマーケットがある」という悪魔の囁きに飛びついてしまった。
サブプライムローンという高金利をとることのできる未開拓の大きなマーケットに、「デフォルトリスクは住宅価格の急上昇により相殺される」と言い聞かせながら彼らは飛びついてしまったのである。
(住宅価格の上昇分を個人の資産(エクイティ)であると見なすことにより、サブプライムローンからプライムローンに借り換えることが可能になる。当初の2年間は優遇金利を適用することで、問題なく住宅を取得できるはずであった。住宅価格が上がり続ければ。)
2年間で1兆$の資金がこのサブプライムローンのマーケットに注ぎ込まれた。。

謎解き物語風に語られる一連の流れの解釈は非常に面白い。
続いて述べられる「財政出動は引退世代のお金の使い道によっては、必ずしも『孫のローンでの消費』にはあたらない」という詭弁とも思える論も妙な納得感を伴ってしまう。
「アジア諸国は「15%通貨切り上げ」を一斉かつ自主的に実施してはどうか」という提言や、「日本のマンションは15年経つと土地の価値しかなくなっており、これが年間20兆円にも及ぶ富をドブに捨てることとなっている」との厳しい指摘もされている。
一部から猛烈な批判を受けているクー氏であるが、素人には非常に分かり易い主張内容である。


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