2009年4月11日土曜日
『交渉術』
佐藤優氏によるインテリジェンスにおける交渉術の本。
経験談とそこから演繹され導き出された諸々の原則論が、佐藤氏の知識と相まって面白く読める本である。
同志社大学で神学を学んでいた佐藤氏によると、交渉術はユダヤ・キリスト教文化圏の思考様式と表裏一体の関係にあるそうだ。
「インテリジェンスの上で宗教経典や神話は非常に重要な研究対象である。それらの物語を共有する民族や国家の、いわば通奏低音として流れる論理を示しているからだ。交渉術においても、相手の内在的論理を捉える研究は不可欠である。」
その他にも「神」というものについての洞察が深いと思えるのは佐藤氏が神学を学んでいたことと無関係ではあるまい。
「人間は何かに酔うものである。酒を飲まないものは麻薬、あるいは神に酔っていた。この三者は相互に代替可能なのである。」
佐藤氏の罪の文化と恥の文化に関する考察も面白い。
「「欧米は罪の文化、日本は恥の文化」と言われるが、恥も罪も普遍的概念で、世界中のどこにでも罪の文化と恥の文化の双方がある。
恥は、中流層の価値観で、市民社会において世間体を気にする人々が「他者との関係でどう見られるか」という恥の感覚を強くもつ。
これに対して、中流より下の庶民とトップエリートは、罪の観念を強く持つ。
日本の庶民層において「お天道様が見ている」というのが罪の意識であり、「世間様に顔向けができない」というのが恥の意識だ。
一旦恥を棄てると、その後、自分の姿がみえなくなる。そして残りの人生はずっと阿修羅道をさまようことになる。。」
経験則から滅私奉公はやってはいけないと述べる。
理由は公私混同につながりがちだからだ。
伏魔殿と言われた外務省にあって「ラスプーチン」と呼ばれた佐藤氏ならではの説得力をもつ。
「滅私奉公型でも公私の線を一旦越えると、権限をもって組織の金を自由に使えるようになったとき、過去に組織のために持ち出した分を取り返してもいいという気持ちになる。しかし、人間の認識は非対称なので、持ち出した額よりも遥かに大きな公金を流用しても何とも思わなくなる。」
その他インテリジェンスにおける基本原則も面白い。
「情報は金で買ってはいけない。インテリジェンス工作は人間の欲望につけこむことが多い。女、酒には限界があるが、金には限界効用がない。どこかで必ず事故を起こす。」
「インテリジェンス交渉術の観点からは、情報提供者や工作対象者との関係において、こちら側と相手が友人であるという表象を維持する。相手が金で雇われているいう認識を持つと、情報提供における積極性が失われるからだ。」
経験談は物語としても楽しく読めるし、
・ハニートラップのかけ方
・相手を酔いつぶす飲み方
・賄賂の受け取らせ方
などのノウハウ系や、ロシアのことわざ系もトピックとして述べられていてこれまた興味深い。
<ロシアのことわざ>
『この世に醜い女は一人もいない。ただ飲むウォッカの量が足りないだけだ』
『男は、頭は銀(ロマンスグレー)、胸は金(金持ち)、股ぐらは鋼鉄』
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