2010年5月8日土曜日

『ゴールは偶然の産物ではない』

2003年から2008年まで、サッカースペインリーグ・FCバルセロナの副会長を務めたフェラン・ソリアーノ氏の本。
サッカークラブ運営という一見特殊な業態においても、原則があり、それに則って運営を行い実績を上げることができるとしている。

どの業種の企業経営者たちも「自分の業界は他とは違う」と主張する。
ソリアーノ氏がサッカークラブ運営役員に選ばれた時にも「サッカーには立派な経営手法やら分別やらビジネス理論なんてものは通用しない。重要なのはボールがネットに入るかどうかということだ。全ては運だよ、運。」と前役員の一人からいわれたそうだ。
だが、どんな物事にも背後には共通の論理がある。その理論を理解し、再考し、それを現在の状況に適合させ、試す必要がある。
ボールがゴールに吸い込まれるか否かも、実はこの背後の理論による。
「ゴールは偶然の産物ではない」のだ。

最初に、
○クラブチームを地域やその住民と同一視する。
○2003年のサッカー市場は、それまでの25年間,前年比10〜25%の増加を記録し続けていた。
○クラブの3つの収益源が①スタジアム②テレビ放映権③マーケティング(スポンサー)
といったサッカークラブ特有の特徴が紹介される。

それから”背後にある”一般的な法則へとすすむ。
<勝利への法則>
選手の「(コミットメント×バランス)×才能」

<勝つチームに欠かせない3つのタイプ>
①先見者:チームの中で将来を見据え、他の誰よりも早くどこへ行くべきかを洞察し、そこへたどり着く能力を持った人物。積極的な姿勢を持っている。先見者は、熱意と勇気という2つの特性をもつ。
②ノー博士:先見者の計画に「ノー」といえる人。ノー博士は先見者とは対極にいて、冷静な分析、現実的な将来の見通しという点で貢献し、必要とされる。
③実行家:物事(計画)を実行に移す人を言い、チームにバランスをもたらす。先見者とノー博士が意見を戦わせた後、実行家はその決定を受けて、目標に到達するための最善の方法を探し、それを実現する。
面白いのは、ネガティブなイメージのノー博士の役割も非常に重要であり、ノー博士はしばしば先見者と意見を戦わせるため、両者は互いを尊重する必要があるということである。
3つのタイプのうち、ビジネスや組織の状況によって複数のタイプを使いこなす人物もでてくる。この3タイプの人間を如何に増やしていくかが組織の人材力を決める。

<チームの発展段階について>
チームの発展段階を説明するモデルとして、1965年にアメリカの心理学者ブルース・タックマンが提唱した「タックマン・モデル」が有名である。
チームが機能するまでには「形成(組織化、構成)」「混乱(争い、不和)」「統一(確立化)」「機能(実行、結束)」の4つの段階を経る。
チームの発展段階においては、”混乱”の段階が必ず発生するということだ。この混乱を避けていては強いチームはつくれない。

また、チームをコミットメントの高さ×才能の高さのクロスで4つに分け、どのチームにあてはまるかで、求められるリーダーのタイプも変わってくるとしている。

<交渉について>
交渉は準備段階が8割で、相手とのやり取りが2割。
交渉の準備を行うにあたって検討する事項は以下の4点。
(1)今が交渉に最も適したタイミングかどうか。
(2)上限はいくらか。何をどこまで譲歩できるか。その見返りに何を要求するか。相手側に取ってどれくらいの価値があるか。
(3)どちらが最初の数字を提示した方が有利か。また、どこまで譲歩できるか。
(4)適正価格はいくらか。
BATNA(Best Alternative to Negotiated Agreement)という、交渉相手から提示されたオプション以外で最も望ましい代替案がはっきりするまでは交渉の席につくべきではない、としている。

サッカークラブという、「名誉」が絡み、単純に利益だけで割り切れない組織を束ねた経験からソリアーノ氏は
<チームを取りまとめるために必要な3つのルール>を生み出している。
(1)「私」を「私たち」に、「私の」を「私たちの」に変えていく。
(2)成功するためには、チームのメンバー全員の努力が必要だと認識する。
(3)メンバーの貢献に対しては、それがどんなに小さなものであろうと、公の場で感謝の意を示す。

正統的周辺参加の考え方にも通ずるものである。

0 件のコメント: