石川幹人 明治大学教授が書いた、進化心理学の入門書。
「進化」とは、長い時間をかけて生物が生き残りをかけて周囲の環境と戦ってきた歴史の積み重ねだと思っているので、その歴史に学ぶのは非常に重要であると思っている。
入門書というだけあって、浅く広くの感はあるが、進化のネタ本としては文句なしに面白い。
○何故車酔いがおこるのか
昔の生活で平衡感覚が乱される事態は、神経毒を含む食べ物(毒キノコなど)を食べたときに限られていた。
我々の祖先は、毒物を摂取してフラフラになると、反射的に胃の内容物を吐き出して毒物が身体に蔓延しないよう対策を講じた。
現代の車酔いによる吐き気は昔の食中毒の防衛装置の名残である。
大人になると経験によって、車による平衡感覚の混乱が生命の危機とは結びつかないと学習し、車酔いをしなくなる。
○カバンにおける男女性差
取っ手部に腕を通して肘を曲げたまま保持する「買い物かご」と、取っ手を握る「ビジネスバッグ」。
女性は買い物かごを使い、男性はビジネスバッグを使う。お互い逆を使うと違和感がある。
これは、昔の狩猟採集生活時代の名残であり、買い物かごを持つ時の姿勢は赤ん坊を抱き続ける姿勢に相当し、アタッシュケースを握って運ぶのは、遠方から獲物を握って変える体制に相当するからである。
狩猟採集生活時代の男女性差の名残は身体的能力だけでなく知的能力にも存在する。
おしなべて男性は、物理的推定能力や空間把握能力が高く、女性は、位置記憶能力や言語共感能力が高いのも狩猟採集時代の役割分担が現れているといえる。
○太り過ぎの悩み
常に飢餓との背中合わせだった狩猟採集時代の遺伝情報に組み込まれた戦略として、目の前に食物があったら食べておけという「古い脳」から欲求がこみ上げてくる。
アメリカにおいては白人よりも、より狩猟採集に近い生活を送っていた原住民族(ネイティヴ・アメリカン)の方がメタボは深刻。
このような古い脳からこみ上げる欲求を新しい脳によってコントロールするほど人間はまだ進化できていない。
残された方法は、”社会的状況下で認知される”といった「古い脳」の別の欲求を利用すること。
上記のような進化ネタが理論とともに書かれている。
その中でも極めつけなのが、「水生類人猿仮説」。
作家のエレイン・モーガン女史が1970年代に広めた、人類の遠い祖先にあたる類人猿が、500万年ほど前に水辺や水中に暮らしていたとする説。
温暖化で陸地が乾燥し食料不足になったため、樹上に生活していた類人猿が、捕食者を避けて水中に、同時に水産物を食するようになった。
その結果、次のような身体的変化が起きた。
頭部をだしたまま、なるべく深くまで水中を歩く必要性から、直立歩行するようになったこと。
水にぬれても水辺に上がればすぐに乾くように体毛を減少させたこと。
水中では子育てに難点がある。抱いていては子供は溺れてしまうし、陸地に残せば捕食者の餌食になる。そこで、水生類人猿のメスは、子供を髪の毛につかまらせて泳がせた。水面にぱっと広がる長い髪の毛をもったメスほど子育てに有利だった、ということ。
これは、ひげや胸毛、すね毛などは男性ホルモンによって生長が促進されるのに対し、頭頂部の髪は女性ホルモンによって促進される理由を考えてだされた仮説だが、人間でも水中出産の新生児が難なく水中を泳ぐ事実が判明し、近年では有力視されているとのこと。
その他、何故女性は男性に比べ色白小柄なのか、何故反社会的な行動に対して怒りの感情が湧き出るのか、何故最近草食系男子が多数でているのか、などなどに関する進化論的考察が述べられている。
進化に興味のない人にもお勧めの一冊。
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