2011年5月8日日曜日

『日本復興計画』

原子力発電推進派だった大前研一氏の緊急出版。

前著『お金の流れが変わった!』では、原子力発電について積極推進派だった大前氏がどのような日本復興計画を描くのかに興味があり購入した。

以下、『お金の流れが変わった!』の抜粋要約である。
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アメリカではGE(BWR:沸騰水型炉)とウェスティングハウス(PWR:加圧水型炉)がトップを走っていたが、1979年のスリーマイル島原発事故以来、新たな原子力発電所の建設はストップし、現在はメンテナンスしかしていない。

ドイツはシーメンスのクラフトベルクユニオン事業部(KWU)が強い力を持っていたが、国民投票で原子力エネルギー利用の廃止が決まり、事業ごとフランスのアレバに吸収されてしまった。

明らかになっているだけでも世界中で100基以上の原子炉が求められている。

現在原子炉建設の技術を持っている会社は、アメリカのGEをウェスティングハウス、フランスのアレバ、日本の東芝、三菱重工、日立製作所だけ。しかもウェスティングハウスは東芝の参加で、三菱重工はアレバ、日立はGEと組んでいる。

他国では原子力関係の技術者が減少しているのに、日本だけが組織の硬直化と意思決定の遅さが幸いして、技術者が多数いまだに社内に残っている。

原子炉建設は1基約5000億円の大型ビジネス。

旧ソ連のチェルノブイリ原発の事故では多数の犠牲者が出たが、あれはあくまで圧力容器がなく、爆発したら終わりの古いタイプの原子炉だったから。欧米や日本の原子炉は圧力容器があって、炉心溶融が万一起こっても、放射能は全て中に閉じ込められて、外部に漏れ出すことはない。(この圧力容器を現在製作できるのは世界でも日本製鋼所だけになっている)

実際、全電力の6割以上が原子力発電に頼っているフランスでも犠牲者が出るような大きな事故は一度も起きていない。

日本の原子炉メーカーは、海外からのオファーを受けるのに国内では危険だということで建設できないとなると世界中から非難されかねない。国民の理解と合意が得られたなら、ぜひ首都圏の近くに原子炉をつくって欲しい。

日本の炉の稼働率は60%を割り込んでいるが、韓国は90%以上だ、というのも小さなトラブル時やら報告、点検のため。
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大前さんは大学で原子力を専攻して、日立で実際に福島の立ち上げに携わったとか。
その専門家の大前さんがここまで太鼓判を押すレベルに日本の原子力技術は来ていたのかと思ったものです。

以下今回の『日本復興計画』より抜粋。
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今回はっきりしているのは、これで日本の原子力輸出政策は終わり、日立・東芝などの原子炉メーカーとしての未来もこの段階で終わったということである。
これまで、原子力技術者を多く擁する日本企業が非常に有利なポジションにいたことは間違いなく、私も、日本は原子力を「国技」として優秀な人材を投入し、 Co2削減を目指す世界に売り込みをかけるべきだと提言してきた。もちろん原子力推進論者である。民主党政権は、日本国内では2030年までに少なくとも 14基以上の原子炉の増設を行うことと、新興国を始めとする電力需要の多い国へ原子炉を輸出していくことを宣言していたが、この段階でそれは全て終わったということだ。

スリーマイルの事故の後現在に至るまで30年、アメリカは1基も原発を作れなかった。それでアメリカの原子力産業は終わった。各メーカーは、原子炉の製造と研究をやめ、技術者は失意のうちに転職し、ノウハウは雲散霧消した。私のいたMITの原子力工学も存在自体が難しくなった。それを横目に日本とフランスは原子炉を作り続け、技術を磨いてきたわけだが、それも今回の件で無駄になる。
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推進論者だった著者が、客観的な視点からもう推進はできないと”予測”しているのだが、ギブアップ宣言というような悲壮感はない。
むしろ原子力委員会、原子力安全・保安院や東京電力の今回の対応を非難してさえいる。
震災という大混乱期の巧みな立ち回りを見た感じである。
大前氏の緻密かつ大胆な「予測」については従前から素晴らしいと思っているが、リーダー(もしくはリーダーに仕える軍師)だと考えると些かガッカリである。

大前氏は以下の通り述べている。
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国民の家計所得をみると、日本は1991年に比べて、総額で12%も減っている。
こうした停滞は実は日本だけで、英・米・仏で同じく家計所得の総額をみてみると、それぞれ約2〜2.5倍になっている。
震災を経ても、平均年齢が51歳という類を見ない高齢化、この20年で全ての所得層が一律に年収ダウンしているという構造、これらのファンダメンタルズは全く変わっていない。
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全くその通りで、元々日本が抱えている構造的問題と今回の震災による対応を双方乗り越えていく方策が求められる中、どうしていけばいいのかが問われている。

大前氏の提言の一つに復興財源は赤字国債発行ではなく、消費税の期間限定アップ(2%程度)というのがあり、それは震災対応としてはうなづける提言である。

しかし大前氏にはその卓越な分析力を活かして、単なる震災対応でない骨太な日本復興計画案を示して欲しかった。
期待が大きすぎた分ちょっと辛口のコメントとなったが、大前氏には”緊急出版”ではないところで骨太の日本復興計画その2を出版してもらいたいと思う。
それが原子力推進論者だったことの立派な罪滅ぼしになるのではないか。

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