2011年5月3日火曜日

『日本人へ 国家と歴史篇』

以前読んだ塩野七生女史の『日本人へ リーダー篇』の姉妹編。
ローマ帝国の歴史観からの現実的な政治感覚はさすが。
民主党であっても、自民党であっても政策の継続性(特に対外政策)を守ることは大切であることを強く述べている。

ローマ帝国とは、所詮、ユリウス・カエサルとアウグストゥスとティベリウスの三人が創設した。
カエサルが青写真を描き、それをもとにしてアウグストゥスが建設し、ティベリウスが内装その他を整備し、以後もこの形で進んだのがローマ帝国。
五賢帝といえども、この三人の先輩の定めた国策を、百年も過ぎればほころびが出るので再構築しただけである。
カエサルは、ローマに征服された地方からも広く人材を登用するのを国策として確立。
アウグストゥスは、税金は広く浅くとるものとし、税率も変えない税制を確立する。「百分の一(チェンテージマ)」と言えば消費税のこと、「二十分の一(ヴェンテージマ)」と言えば相続税であることは子供でも知っていた。
ティベリウスが最も力を入れたのは、治安の確立と司法の公正。ローマ市民権(当時の国籍)さえ持っていれば控訴権が完全に保障されたのは、古代ではローマ帝国だけ。

ローマの歴代の皇帝は、前任者が行った政策でも、良しとしたことは、いかにそれが評判の悪かった皇帝の政策であっても、継続することに何のためらいも持たなかった。


「天国に行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである」
というマキアヴェッリの言葉がある。
庶民であれば、なるべき悪いことには近づかないようにして生涯を終える程度の理解で充分だが、指導者となるとそうはいかない。
たとえ自分は地獄に落ちようと国民は天国に行かせる、という覚悟が必要となる。
日本の政治家にはノブレス・オブリージはなくなってしまったのだろうか。

「改革は、いまだ余力のあるうちに成されない限り、絶対に成功しない。我らが日本にとっては最後のチャンスになるだろう。」
これは今回の震災前の塩野女史の弁である。震災により日本は更に待ったなしになっている。
政治機能不全を嘆いていても始まらないので、危機感をもって臨みたい。

0 件のコメント: