2010年11月28日日曜日

『デフレの正体』

現在「デフレ」と言われているものは、景気の波ではなく、生産年齢人口の減少という根源的なことが原因である、ということを分かりやすく、一般に入手できる数字にて説明している本。

国際収支でいうと、日本はこの不況下においても貿易黒字を出しており、輸出が減れば原料の輸入も減るという形で大半は変動費であるため、今後も大幅な貿易赤字になる可能性は低い。

国際収支的にいうと、中国の台頭は消費マーケットの拡大につながるので中国(香港含む)への貿易黒字2.6兆円(08年)が拡大する方向であり、中国が繁栄すればするほど日本製品が売れて貿易黒字額は大きくなる。
仮に中国がうまく発展できれば、先に産業を発展させてきた韓国や台湾の状況(いずれも日本は3兆円前後の貿易黒字)に近づいていく。そのおかげで日本は益々儲かる。

何が起きても儲けの減らない世界の工業国兼金貸し”日本”から黒字を稼いでいる国はどこか。
資源国、中東産油国やインドネシア、オーストラリアなどは別とすると、フランス、イタリア、スイスが近年一貫して対日貿易黒字となっている。「自国製」の「高級ブランド品」である。ハイテク製品ではなく、食品、繊維、皮革工芸品、家具などの「軽工業」製品が日本で売れている。
今の不景気を克服してもう一度アジアが伸びて来た時、今の日本人並みに豊かな階層が大量に出現して来た時に、彼らがフランス、イタリア、スイスの製品を買うのか、日本製品を買うのか、日本のおかれている国際競争とはそういう競争である。
故に、工業製品を人件費を下げて効率的につくることよりも、各種日本製品のブランド化が大切である。

生産年齢人口は即ち消費者人口であり、生産年齢へ回ったお金は消費に向けられるが、高齢者に回ったお金は貯蓄に回るだけで消費には回らない。
高齢者の貯蓄の多くはマクロ経済学上の貯蓄とは言えず、「将来の医療福祉関連支出(医療福祉サービス)の先買い」、すなわちコールオプション(デリバティブの一種)の購入なのである。
先買い支出であるから、通常の貯金と違って流動性はなし。他の消費には回らない。

今の日本で起こっていることは、生産年齢人口=消費者人口の減少→供給能力過剰→在庫積み上がりと価格競争激化→在庫の時価の低下(在庫が腐る)である。
この結果発生した消費者余剰は、高齢者が老後に備えて確保する極めて固定性の高い貯蓄という形で「埋蔵金」化して、経済社会に循環していない。

こうした原因が見えてくると、今の日本が目指すべきは生産性の向上ではなく、
①生産年齢人口が減るペースを少しでも弱める。
②生産年齢人口に該当する世代の個人所得の総額を維持し増やす。
③(生産年齢人口+高齢者による)個人消費の総額を維持し増やす。
ということである。
「戦後最長の好景気」の下で、輸出の活況で数字上の「経済成長」と個人所得総額の増加(高齢富裕層への金利配当所得の還元)は起きたが、①の生産年齢人口減少は全く止まらず、②の生産年齢人口に該当する世代の所得増加は生じず、③の個人消費総額も(高齢富裕層が金融投資に傾斜したためと推測されるが)実際には増えなかった。

「モノづくりの技術革新」は重要ではあるが、今日本が患っている病の薬ではない。
モノづくりの技術は、資源のない日本が外貨を獲得して生き残っていくための必要条件であるが、今の日本の問題は、獲得した外貨を国内で回すことである。
日本は、技術開発と内需振興とを同時に行わなければならない。

そのための必要な対策は
第1:高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進
第2:女性就労の促進と女性経営者の増加
第3:訪日外国人観光客・短期定住客の増加
の3つである。

実は、共働きの多い都道府県の方が子供の数が多い、であるとか意表をつく内容が多く、数字も分かりやすく記載されていて大変勉強になった。

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