2011年11月5日土曜日

『スマート革命』

会社で「スマートシティ」を勉強するように仰せつかった。
柏の葉でも色々勉強したつもりではあったが、詳しい人達に話しを聞いてみると色々見えてくることがあった。
そんな中で、分かりやすく「スマート○○」がわかるということで紹介されたので読んでみた。

経済産業省はスマートシティの実証実験を5年計画で、横浜、北九州、豊田、けいはんなの4都市で実施している。各都市の特徴については勉強していたつもりであったが、この本では
「各都市からの提案は、総じて単一の配電用変電所の範囲内でのエネルギーマネジメントの実証にとどまっている。
複数の配電用変電所の潮流を見える化し、それらの間でエネルギーを面的に融通するマネジメントにまで、さらに踏み込んだ形での実証に取り組むことが要望される。」
というのが次なるステップであることが明記されていた。

将来に向けては
「電柱にICT(情報通信技術)や蓄電のシステムが装着され太陽電池からの逆潮流を双方向で管理・制御するスマートグリッドをはじめ、各地にクラスター状に存在する知能を備えた各種分散型エネルギーシステム群とメガインフラとが、相互にエネルギーを融通しながら全体最適を図るスマートエネルギーネットワークを目指していくことになる。
最終的には基幹系統との調和を図りつつ、既存のインフラを高度に活用し、電力のみならず熱や水素などの物質までも併給する統合型インフラ構造を適切に整備するのである。
これにより、省エネルギーと再生可能エネルギーの活用は最大化され、低炭素社会の公共インフラを構築する早道となる。加えて、従来システムのように、需要のピークに合わせて基幹のメガインフラを設計する必要がないことから、結果として公共インフラへの投資を最小限に抑えることができる。」
とある。
電気というエネルギー媒体のみならず、将来的には熱や水素も融通の対象となってくるということだ。

再生エネルギー普及のための手法についても記載されていた。
主にRPS制度と呼ばれるものと、FIT制度と呼ばれるもの2種類があるようだ。

RPS制度:
電気事業者に対し、販売する総電力量の一定割合について、太陽光を含む、バイオマス、風力など再生可能な新エネルギーからの電力を利用することを義務づけた量による規制制度。
コストの低い再生可能エネルギーから順に導入でき、数値目標すなわち総導入量を設定できるのが特徴。

FIT(フィード・イン・タリフ)制度
一定価格での再生可能エネルギーの買い取りを義務づけ、価格によって規制する制度。
将来の数値目標を設定することは難しいが、高い買い取り価格によって、再生可能エネルギーの導入量を一気に加速させることが可能。

ドイツでは、太陽光で発電した電力を、電力会社が一般電力価格の3倍で20年間買い取る、全量買い取り(FIT)制度を採用している。このFIT制度には功罪あるようだ。
ドイツにおいては、旧東ドイツ側の農家に風力発電システムの設置を勧めると同時に、FIT制度を導入。旧東ドイツにおいて風力発電システム導入が進み、その全量を電力会社が売電価格の3倍で買い上げ、この割高な価格負担は電力消費の多い旧西ドイツが主に負担することになり、マクロ的にみると資金が西から東へのうまく流れ込み、旧東ドイツ側の富を生み出した。
さらに、旧東ドイツ側に太陽電池メーカーQセルズを設立して新産業を育成。
FIT制度を起爆剤にして、環境と経済活性化の両立を国内で実現させた好例。
しかしながら、気がつけば、2009年度は導入量の国内シェアの約5割を安価な中国製品が占めていた。Qセルズも赤字転落へ。

FIT制度において、個人で利益を享受できるのは、屋根の広い一軒家に住み、初期の導入コストを負担できる資金力の有る富裕層。一方、電力会社が買い取り費用を補うために家庭用などの電力料金を値上げすれば、それを負担するのは一般家庭。太陽光発電システムを持つ富裕層を、持たざる一般家庭が支えるという、歪んだ市場構造を生んでしまう恐れがある。
よって、日本における買い取り制度においては、太陽光発電の買い取り対象は余剰電力のみに限定すべきであるというのが著者の考え。
IEA(国際エネルギー機関)の見解によると
「陸上風力発電やバイオマス焼却といった既存電源との価格差が少ない技術については、RPS制度などが適しており、太陽光発電などの既存電源との価格差が大きい技術は補助金、固定買い取り制度が適する」とされている。

これから普及が見込まれる、太陽電池、燃料電池、蓄電池の三電池。単に普及させればよいというものでもないというのが著者の考え方だ。
三電池の開発メーカーなどは、設計段階からリサイクルもしくはリユースを容易にする構造や部品の選定を考慮して商品化を進めていくことが肝要。同時に「逆工場(インバース・マニュファクチャリング)」を機能させるシステムも構築しなければならない。
知的財産権は尊重しながらも、再生品の提供、および部品等の再生利用を円滑に行うための法的整備や、ビジネスモデルの開発が不可欠である。

インフラの普及速度の関する考察も面白い。
インフラの置換えについては、大規模集中型と分散型では時間軸に差がある。
原子力発電を見ても分かるように、大規模集中型は安全性や安定性を確保するための高い条件をクリアしていくことが求められるため、なかなか大きく前進することができない。
これまでの経験則では、大規模集中型のメガインフラの転換については、思ったより速く進むことはない。
一方、分散型システムについては、パソコンや携帯電話の進化がそうであったように、生活者は利便性や経済性の高いものの動きやすい。家庭あるいは地域コミュニティに配備される太陽光発電システムや燃料電池なども、自家発電による家計へのメリットから、その普及は思ったよりも遅く進むことはないと思われる。
定量的な考察ではないものの、定性的な考察としては目から鱗である。
インターネットの普及に照らし合わせて考えると、エネルギーインフラの普及速度(時期)も想定できるのはなかろうか。

日本は国土面積は小さいものの、領海と200海里の排他的経済水域とを合わせれば、世界第6位の”国土”面積を有するとも言える。
この海洋資源を最大限に活用しながら安全保障を確立することが、日本の経済発展には不可欠。
海洋バイオマスの原料には藻類を用い、その生産には海洋を利用する。
海洋バイオマスを発展させた「海洋都市構想」は、境一郎博士のコンブ海中林造成計画の発展形ではなかろうか。

著者の柏木孝夫東京工業大学大学院教授の、スマート○○にとどまらない日本の将来ビジョンも書かれていて面白かった。




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