2011年11月24日木曜日

『僕は君たちに武器を配りたい』

ちょっと過激なタイトルだが、学生向けに生き抜いていくための武器(知識)を伝えようという、京大で「企業論」を教える瀧本哲史氏の本。

一言で言うと「投資家的な生き方」のすすめ、ということなのだが、投資家になれ、ということではない。
あくまで発想を投資家的に変えよ、ということが書かれている。

まずは資本主義というものを理解する。
かつて資本主義には3つのモデルチェンジがあった。
富を得る方法で、いちばん古くからあるのは「略奪モデル」
次いで富を生み出す仕組みとして「交易モデル」が生まれた。
「交易モデル」の後に出てきて、大きく社会を変えたのが「生産性革命」
ここまで来て、あらゆる商品、サービス、そして人材までもが「コモディティ化」してしまったことを著者は指摘する。
そして、全産業の「コモディティ化」が進む世の中で、唯一の富を生み出す次の時代のキーワードは「差異」。この「差異」はデザインやブランドや会社や商品が持つ「ストーリー」と言い換えてもいい。

次に<資本主義社会の中で主体的に稼ぐ人間6タイプ>
1.トレーダー
2.エキスパート
3.マーケター
4.イノベーター
5.リーダー
6.インベスター(投資家)
ただし、トレーダーとエキスパートについては今後段々稼ぐことができなくなるであろうと著者は予測している。

その中でも著者のお勧めは投資家。
ただし、色々注意点がある。
ひとつは「投機」と「投資」の違い。
「投機」とは、利殖のみを目的に、一攫千金を狙って行う賭け事。得する人間が一人いれば、損する人間がその何倍もいるゼロサムゲーム。
「投資」は、畑に種をまいて芽が出て、やがては収穫をもたらしてくれるようにゼロからプラスを生み出す行為。投資がうまくいった場合、誰かが損をするということもなく、関係した皆にとってプラスとなる点が投機とは本質的に異なる。
また、投機が非常に短期的なリターンを求めるのに対して、投資は本質的に長期的なリターンを求める。

シリコンバレーの投資家達はリスクを回避することよりも、リスクを見込んでも投資機会を増やすことを重視する。投資と言う行為は何よりも「分母」が大切だからだ。重要なのは、できるだけたくさん「張る」ことなのである。
トータルで成績をよくしたいと思うならば、リスクを恐れず積極的に投資機会を持たねばならない。
失敗を恐れて確実に儲かる案件だけに投資することは、結果的に自分が得られたかも知れない大きな利益を逸失することにつながる。
投資家として生きるのならば、人生のあらゆる局面において、「ハイリスク・ハイリターン」の投資機会をなるべくたくさん持つことが重要となる。

ただし、ここでも注意すべき点がある。
それは、「自分で管理できる範囲でリスクをとる」ということ。
投資の世界に「計算管理可能なリスク」(calculated manageable risk)という言葉があるが、リスクを人任せにしてしまうのは投資としてやってはいけないこと。

そう考えると、サラリーマンは実はハイリスク・ローリターン
大学を出て新卒で会社に入り、定年の60歳まで働いたとすると、38年間を会社で過ごすことになる。しかし、近年会社の「寿命」はどんどん短くなっている。平均すると30年ぐらいで「会社の一生」は終わるようになっている。
管理できない、ひとつの会社に自分の人生をすべて委託するのは非常に高リスクなのである。

前段で、現在の勉強ブーム、資格ブームの裏には、「不安解消マーケティング」があって、勉強しただけじゃダメなのよ、という論調から始まる。
「それこそ不安をあおるだけでは?」と思ったが、「英語・IT・会計知識」の勉強というのは、あくまで人に使われるための知識であり、きつい言葉でいえば、「奴隷の学問」、勉強するならリベラル・アーツ(教養)を学べ、というのが著者の言いたいことらしい。
人材もコモディティ化するこの時代故、「Boys Be Special!」ということなのだが、どうスペシャルになるのかは各人各様自ら編み出さねばならない。

その他にも
○専業主婦というリスク
○入ってはいけない会社の見分け方
○4大監査法人の話
○名伯楽の教え方
など面白いネタも多々あった。

入ってはいけない会社の見分け方でいうと、従業員を大切にする会社は、顧客を大切にする。逆を言えば顧客を大切にしない会社は、従業員も大切にしない。
会社のビジネスモデル自体がお客様を小馬鹿にしている、もしくは馬鹿な顧客をターゲットにしている会社には、長期的には未来がないといえるとのこと。
そういった点でも顧客志向というのは大切ということだ。

それにしても、今更サラリーマンはハイリスク・ローリターンといわれてもね・・・
こまっちゃうな。

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