2008年10月21日火曜日

『21世紀の国富論』 原丈人


天才プロデューサーと言われている某氏から「最近読んだ中で一番のヒット本」ということで、お勧めがあった本です。

アメリカ流のコーポレートガバナンス(企業統治)が正であるとすると
「企業は株主のもの」⇒「株価をあげること」が企業の目的⇒ROE至上主義⇒
①ROEを高めるためには、資産売却、リストラ(縮小均衡による利益の創出)
②ROEの低い製造業には手を出さない
③短期的利益のみを追求し中長期的視野での投資がなくなる
ということで中長期的なモノづくりができなくなってしまう。
すなわち「企業は株主のもの」というのは間違いである、というところに論を発しています。

中長期的なモノづくりの観点からすると、自社工場を売却することで資産を軽減しこれによってROEをあげるようなことをするのはもってのほかであるとしています。モノづくりにあたって、R&D(研究開発)部門と生産部門を切り離せば、二つの間のフィードバックループは切り離されてメーカーとしての強みは失われてしまうからです。
中長期的な投資のためには企業の内部留保は必要不可欠で、”にわか株主”に配当で還元してしまうのは、モノづくりの力を弱めるとしています。

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「もの言う株主」の大半はヘッジファンド(もしくはのようなもの)で、企業が持つ資産に目をつけ、それを「有効活用」して企業を「活性化」すべしとうたっていますが、狙っているのは資産売却およびそれに伴う現金の配分、そしてそれにともなう株価アップです。「企業価値の最大化」という主張は隠れ蓑にすぎず、実際は短期の売り抜けが最大の目的です。

アメリカは多民族国家で多くの異なる文化的背景をもった人たちが一緒に働いているので、経営の判断を定性分析的なものから定量分析的なものへ変えていくために、様々な数字指標が採用されていきました。ROEもそのひとつです。
企業の目的自体が数字となってしまうと、経済全体がマネーゲームの様相を呈してきます。
「手段は目的たりえない」はずなのにそれが認識されないままに経営が行われているのです。
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最後は、
会社の存在価値は、まず事業を通じて社会に貢献することが第一、その結果として株主にも利益をもたらすというのが本来の姿。
手段と目的の取り違えが、現在の資本主義における最大の欠点。
仕事を通じて生き甲斐をつくり、その結果として個人も金銭的な富や社会的充実感を得る。その実現のために会社がある
」と結んでいます。


中長期的観点からすると根本的には新しい産業が必要、ということで著者は
PCU(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ)・・・人間が機械に合わせるのではなく、機械が人間に合わせるIT製品。コミュニケーションに基づいた次世代のアーキテクチャ。
というのを有望な産業として挙げています。
これがイメージしにくかったのがちょっと残念だったものの、アメリカ流のコーポレートガバナンスをベースとするのは中長期的にはモノづくりの力を弱めるという主張は、サブプライムに端を発した金融不況のまっただ中にいると非常に説得力のある内容です。

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