2008年10月26日日曜日

『すべての経済はバブルに通じる』 小幡績 


「ねずみ講」。これがお金の殖える理由であり、経済成長がプラスを維持するメカニズムであり、資本主義の本質である、という前書きから始まるバブル論です。

まず、「証券化の本質とは」が議論にあがります。

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証券化のプロセスは、単なる権利の移転にすぎず、経済的な実体としては、全体で何の変化を起こすものでもない。
証券化のメリットである
①リスクの小口化(投資金額の低額化)
②リスクを除去するプロセス(優良部分の抽出)
③リスクを純化するプロセス(統計的分散化メリットの追求)
といったことを組み合わせることで、資産に含まれるリスクを組み替えてリスクとリターンの”オーダーメイド化”をしたのが本質的な価値。

証券化の本質は「商品化」である。
標準化された投資商品は、その資産の特性の全てがリスクとリータンに反映されているので、複雑な個別の資産特性を考慮しなくても済むようになり、評価する手間暇が削減された。
商品化されることにより、投資家にとっての最大のリスクである流動性リスク(売りたい時に売れないリスク)が劇的に低減される。

ある資産を投資対象と考える投資家の裾野が広がっていて、有力な投資家が投資したり、価格に上昇傾向が生じているという事実に反応してこの資産に飛びついてくる投資家が幅広く存在している場合には、証券化というリスクのないビジネスモデルが完成する。
証券化とは素晴らしいマーケティング技術(一般商品のブランド化と一緒)であり、証券化ビジネスとはこの技術を使って、確実に構造的に儲かる仕組みを作り出すビジネスなのである。
それゆえ、証券化はストラクチャードファイナンスと呼ばれる。
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証券化することにより流動性リスクを低減し、「資本」を呼び込みやすくすることができるメリットがあるのですが、今回のサブプライムローンバブルにおいては、それを「リスクのない」(ネズミ講のような)ビジネスモデルにまで昇華(?)してしまったのが原因ということです。

冷静に考えるとありえないようなスキームを、どうして世界中の優秀な知性が集まっている金融業界がはまり込んでしまったのか。これについて著者は面白い見解を述べています。

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「資本と頭脳の分離」
資本(投資家)と頭脳(運用者)が分離すると、頭脳たるプロの運用者は、頭では分かっていても、顧客である投資家の将来行動に制約され、取るべきでないリスクをとってしまうという罠に陥る。
資産を預けた運用者(頭脳)の本当の能力を見分けられないために、投資家サイドでは結局パフォーマンスという結果でしかファンド運用者を判断できなくなっている。
投資家と運用者の間の情報ギャップと潜在的な総合不信という構造のもとで、運用者(ファンドマネジャー)同士が資本の受託をめぐって争うというメカニズムからきており、まさに、現代金融市場に特徴的な現象である。
「資本と頭脳の分離」が起きている現代の金融市場は、金融恐慌が簡単に起き得る構造となっているのだ。

プロの投資家はファンドに投資してもらうためにも、ライバルより高いリターンを上げる必要がある。
悪貨が良貨を駆逐するように、愚かで向こう見ずなファンドマネージャーが、賢明で慎重なファンドマネージャーを駆逐する。
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要は、ライバルよりも高効率で資金を運用できなければ資金(資本)を移動されてしまうという恐怖心から、分かっていてもリスクをとる。さらにいうと金融工学を駆使して「リスクのない金融商品」をつくっていった(「ねずみ講」のようなものとは知りながら。。)ということのようです。

バブルが何故おこるのかについては著者は「理由はない」と述べています。
しかし、今回のサブプライムローンバブルは通常のバブルとは違った意味合いをもっており、著者はそれを『キャンサーキャピタリズム』の発現による『リスクテイクバブル』であるとしています。

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何がバブルを膨張させるのか。それは「バブルであること」自体である。
バブルにおいては価格の上昇が需要を呼び、さらに価格の高騰をもたらすという循環が本質の全てであって、バブルに理由はいらない。(東京大学の岩井克人教授の「貨幣は貨幣であるから貨幣である」というのと同じで論理的には説明できない)

新しい投資家が、買い手として次から次へと現れる仕組み、すなわち流動性をシステマティックにつくり、リスクがリスクでなくなることが構造的かつ確実におこるようにするシステム、それがサブプライムローン債券の証券化スキームであった。

これはねずみ講のスキームと同じ構造であり、バブルの膨張・崩壊プロセスは、ねずみ講の生成、破綻のプロセスと同様の形態をとるのである。

本来はリスクを取ったものだけがリターンを得ることができるが、皆がリスクを取るようになればリスクがリスクでなくなり確実に利益を上げることができるようになる。このため、投資家たちはリスクに殺到し、リスクテイクを行うという行為が、得られるリターンに対して割高になってしまう。これが『リスクテイクバブル』である。
皆がリスクテイクに殺到している限り、それはリスクではなくなる。これがリスクがリスクでなくなるプロセスだ。
『リスクテイクバブル』は、通常のバブルを超えた21世紀型バブルである。

そしてこの『リスクテイクバブル』とは、『キャンサーキャピタリズム(癌化した資本主義)』の発現なのだ。

金融資本はあたかも意志を持つかのように自己増殖し、当初は経済を活性化するように見える。しかし、一旦増えすぎると、それはさらに増殖し、増殖した金融資本は投資機会を求めて世界中をさまよう。そして発見した投資機会を見つけてそれを食い尽くす。
自己増殖を止めない金融資本は投資機会を自ら作り出すことを求める。その成功により、金融資本はさらに増殖するが、実体経済に過度の負担がかかり金融資本に振り回されることになる。
ここに、本来は実体経済を支える存在であった金融資本が、自己増殖のために実体経済を利用するという主客逆転が起きる。
そして、これが最終的には実体経済を破壊し金融資本自身をも破滅させる結果をもたらす。
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本来、実体経済を支えるべき存在が、その自己増殖ゆえ実体経済を破壊し、自らをも破壊する様を「キャンサーキャピタリズム」と名付けたのはいいえて妙と思います。
金融資本が、「債券、株が危ない」となれば原油や金などの”現物”にとりつき、暴騰・暴落をさせる様は本当に癌が転移していくかのうような錯覚を覚えます。
また、癌細胞は健常な細胞と見分けがつきづらいので対処が困難な点も似ている気がします。
資本主義を「今のところ最善と思われているイデオロギー」と言っていた人がいました。
金融資本の動きが完全に実体経済を振り回している。ここのところの動きをみると、資本主義も次のステージへ昇華する必要があるような気がしてきます。

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