2009年7月4日土曜日

『天才!成功する人々の法則』 マルコム・グラッドウェル

死因が老衰だけというアメリカ ペンシルバニア州の町「ロゼト」
1880年代にイタリアからの移民で造られたこの街の住民の死因は”老衰”のみで病気による死因がない。
これは医療統計的には全くのoutlier(外れ値)である。
イタリアからの移民による「健康すぎる」町の理由を、食生活、運動、遺伝子、土地のなりたち・・今まで考えられたあらゆる視点から理由付けしようとしたが全てがうまくいかなかった。
結局、”コミュニティ(社会や共同体)”という全く新しい視点から、健康を理解するよう医学界に発信していかなければならなくなった。ロゼトの住民が健康なのは、彼らの暮らす町、彼らが山のふもとの小さな町につくりあげた世界そのものにあったのである。。


この発想を取り入れ、成功者、天才の成功を「社会やコミュニティ(共同体)」の視点からとらえ直した本です。
これまで天才や偉人に関する分析は、その本人個人に対する分析に偏りすぎていた感がありましたが、その個人がどのような時代背景の中に生まれ、どのような教育を受け、どのような経験を積んだ結果、成功したのかが実は重要な要素である、という考え方です。

その事例として挙っているのがカナダのアイスホッケーのプロ選手。
明らかに1〜3月生まれの選手が多いのです。
カナダでは年齢を区切る期日を1月1日に設定しています。
小学校低学年前の年齢では12ヶ月の差は身体の発達に大きな違いを生みます。
そのため、小さい頃から選抜されることを繰り返し、選ばれることで練習量・経験を増やすことができるアイスホッケーという競技においては、最初の段階で選ばれるかどうかは上達するために非常におおきなポイントとなり、年齢を区切る期日に近い生まれであるかどうかと非常に高い相関を示します。
同様の傾向はアメリカの野球、ヨーロッパのサッカーにはあって、アメリカでは年齢を区切る期日が7月31日なので、結果8月生まれの大リーグ選手は多く、ヨーロッパでは年齢を区切る期日は9月1日なのでやはり9月〜11月生まれのプロ選手は多いそうです。


コンピューター関係でカリスマと呼ばれる人が何人かいますが、その生年月日を見てみると面白いことがわかります。

ビル・ゲイツ 1955年10月28日生まれ
スティーブ・バルマー 1956年3月24日生まれ
スティーブ・ジョブズ 1955年2月24日生まれ
エリック・シュミット 1955年4月27日生まれ。。

パソコン革命にとって史上最も重要な日は1975年1月で、『ポピュラー・エレクトロニクス』紙が世界初となる一般向けパーソナルコンピューターAltair8800の特集記事を組んだときだそうです。これから個人が利用できるパソコン時代の幕開けとなったとされています。
この時点でかなりの年齢に達して企業に就職していれば、きっと古いパラダイムからぬけれなかったし、若すぎても駄目。
理想的には20〜21歳。つまり1954年か1955年生まれ。上記のメンバーの生年月日の不思議な符合はそういう社会的な理由によるものも多いという分析です。

日本の歴史を見ても、戦国時代や明治維新期にはキラ星のごとくに歴史上の著名人を輩出していますが、江戸250年間には数としては有名な人物は減ってしまいます。
生物学的には同じ確率で有能な人間が生まれてくるであろうことを考えると、その時代での社会情勢というものが人の才能・潜在能力の開花に大きく働きかけるであろうことは論を待たないと思っていましたので、個人的には非常に納得感のある分析です。
藤原正彦さんが『国家の品格』で「一流の数学者は皆不思議と、美しい風光明媚な土地の出身」という風に述べていたのも、数学の法則というのは美しい自然のように調和するもので、幼い頃からそれに慣れ親しむというのは数学者としてはアドバンテージになっているのかも知れません。


著者は逆のパターンとしてIQはすこぶる高いのに社会的には成功したといえない人物に関しても分析をしています。
一般的知能(IQに近しい概念)と実践的知能という概念があり、その二つは直角の関係で直接の関連性はありません。
実践的知能には、誰に何を言うかを理解し、どのタイミングで言うか、そして、どのように言えば最大の効果があるかを理解していることも含まれます。
実践的知能には”その場を支配する権利意識”のようなもの(勝間和代さんのいう”アサーティブ”と近しい概念と思われます)が必要であり、それはどのような文化の中、どのように育ってきたのかが非常に重要なファクターであるとしています。

一時期大韓航空機で事故が多発したのは、韓国においては”権力格差”に重きをおく志向が高いので、危機発生時に副操縦士が年長の機長に対して諫言できなかった(アサーティブになりきれなかった)というのが大きな要素だっという分析もあります。
実際大韓航空では事故防止のために韓国の”権力格差を大きく捉える”という文化的な遺産の束縛をパイロットからなくすことにも力をいれたようです。

複雑な仕事をうまくこなすためには最低限の練習量が必要で、世界に通用するレベルとなるためには1万時間という”魔法の数字(マジックナンバー)”があるという意見で一致しているそうです。
「まるで脳がそれだけの時間を必要としているかのようだ。専門的な技能を極めるために必要なすべてのことを脳が取り込むためには、1万時間という時間が必要だというふうに思える」(神経学者のダニエル・レヴィンティン)
昔から一声10年やらないと物にならないというのもあながち外れていないのかも知れません。

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