2010年12月11日土曜日

『結果を出し続けるために』

19歳でタイトル獲得してから常に将棋界のトップに君臨し、既に40歳になった羽生善治名人が、勝ち続けるために「ツキや運」「プレッシャー」「ミス」とどう付き合うのかを綴った本。

将棋の手には著作権がないので、自分で一生懸命考えて、新しい手を編み出したとしても、良い手はすぐに真似されてしまう。
将棋の世界は、良ければ真似され,研究されたりし、ダメならすぐに廃れると言う、ある意味究極の市場原理の世界。
そんな中で既に20年以上も勝ち続けている羽生善治氏がどのような考え方でいるのかに非常に興味があって読んでみた。


<勝負で大切なこと>
①恐れないこと
 「必要以上の恐れ」を持たないようにすること。そのためには、自分にとって不必要なものを手放すこと。
 自分にとって必要でないものを見極めたうえで、決断しながら不要なものを捨てていくことが、恐れないことにつながる。
②客観的な視点を持つこと
 局面を自分の側、相手の側からではなく、審判のように中立的に見ること。
 言葉を変えると「他人事のように見る」ということ。
③相手の立場を考えること
 将棋の基本的な考え方に「三手の読み」という言葉がある。
 状況をよくしたい、好転させたい時に、自分に取って一番都合の悪い手を考えるのは辛いが、そこをシビアに見ていく。
『恐れず、客観的に、相手の立場になること。』
一般の会社でマーケティングの3Cになぞらえると、自社(Company)においては決断しながら不要なものを捨てていくこと、顧客(Customer)においては市場がどうであるかを中立的・客観的に捉えること、競合他社(Competitor)においては相手が自らが最も困る戦略をとると考えて行動する、といったところか。

<次の一手の決断プロセス>
①直感
 カメラのピントを合わせるように急所を瞬間的に選択し、2〜3の手に絞り込む。
②読み
 シミュレーションを行う。
③大局観
 「終わりの局面」をイメージする。
とのことだが、面白いのは結局「最後は主観」、つまり「好き嫌い」とのこと。
迷った末には自分の好きな手を選ぶというのは、非常に大切なことなのかも知れない。

羽生氏の提唱する成長モデルで高速道路理論がある。
今はどこにいても瞬時に最新の情報が手に入る環境が整っており、一定の所までは短期間でたどり着けるようになった。いわば、遠回りや迂回をしないで、最短距離を行ける高速道路が整備されたようなもの。しかし、高速道路が整備されていないエリアまで来ると大渋滞となり、後ろからもドンドン新しい車がやってくる。
こういった状況を抜け出すには、違ったアプローチをして差別化を図らなければならない。高速道路から降りて、自分で新しい道を切り拓いていく必要がある。
現代は統計学や確率計算の理論がすごく進んでいて、セオリーや定跡、常識が、確立・確定しやすい時代。しかし、セオリーや定跡に頼りすぎると、いったんそこから外れたり、自分で道を切り拓くことが必要な局面になったときに、自力で対応する力が弱くなってしまう。
ではどうしたら自分の状況や環境、時代の流れを読んで、未来を切り拓いていく力を身につけれるのか。
羽生氏は、羅針盤が効かないような状況に極力身を置くことではないか、と述べている。



○将棋は「結果が全てだ」という気持ちでは長く続けられない。
ずっと続いていく日々の中で、いかに今までになかったことをやっていくか、という対局のプロセスを大切にしている。結果よりも大事なのは、「自分にとっての価値」。
○一局の対局の本質は、勝つためではなく、価値を創るため。
価値を見出すことに非常に意味があり、さらにそれを見てくれた人が、感動した、面白かった、喜んでくれた、というところにまた意義がある。
○充実感は環境に左右される。

勝負の結果が明白な将棋の世界で20年以上も君臨する羽生氏が述べるにはちょっと意外な意見であり、またそれ故、非常に重みを感じる。

「才能とは、続けること」
プロとアマチュアの違いを定義するならば、「自分の指したい手を指すのがアマチュア」、「相手の指したい手を察知して、それを封じることができるのがプロ」
そして、一人前のプロと、一流のプロとの違いは、「継続してできるかどうか」。この一点のみ。
昔から「やりゃあ出来る」というのは嘘だと思っていて、「コツコツとやることができる」のは一つの才能であると思っていた。羽生氏はその「続けること」こそが才能であると言っている。これまた重みのある言葉である。

「幸せ」とは何か、「成功」とは何か、についても羽生氏はこの本の中で自分の意見を述べている。

羽生氏の意見はどれも非常に長期志向(ロングスパンでのものの考え方)であり、どの世界でも長期にわたってトップであり続けるような人の考え方は非常に似通っているのかもしれないと思った。

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